418 :◆TRhdaykzHI 2013/09/25(水) 02:48:31.07 ID:zv5hQHZY0
神官「あれ?そういえば竜人さんと魔女さんは?」
仮面「さあな。先々週くらいから別行動とってる」
勇者「うーん、星の王のときみたいに竜人が一緒に説得してくれればと思ったんだが」
勇者「時間も惜しい。仕方ない……このままのメンバーで向かうか」
神官「来ましたね。宮殿。さてどうなるでしょうか」
戦士「もうここまで来たら勢いだ。勢いだけで乗り切ろう」
勇者「そうだな、そもそも俺たちのパーティに勢い以外の何かがあったか?」
神官「そう考えればそうでしたね!もともと勢いしかなかった!」
仮面「不安しかねぇ。帰りたいんだが」
419 :◆TRhdaykzHI 2013/09/25(水) 02:50:52.71 ID:zv5hQHZY0
ギィィィ……バタン
騎士「陛下、勇者殿御一行が謁見に参られました」
雪の女王「ふふ、久しぶりじゃのう。元気にしておったか神官、戦士、そして勇者。
……はて、端の男は初めて見る顔だが。面をとらずにこの謁見の間にいるとは……レディの前で失礼だとは思わなかったのか?」
仮面「……」
戦士「おいっ」
女王「ふん……? ……まあよい。話を進めるか」
勇者「お久しぶりでございます、陛下。さっそく本題に入らせて頂きたいのですが、実は――」
女王「ああ、そなたらがこの国に参った理由は察しがついておる。――認定書じゃろう?」
神官「え!どうして……」
女王「星の国の王から先日文を受け取ってのう。事情は大体聞いておる。
我ら三国が神より賜った聖なる法――という名分のあの法律に、馬鹿正直に挑む奴がまだいるとはなぁ」
女王「くくく……最初会ったときから変わった勇者だと思っておったが、まさかそこまでとは。魔族に肩入れする勇者など、変わり者どころではないわ」
勇者「変わり者でもなんでもいいです。事情をご存知でしたら話が早い。どうか、認定書を我らに」
女王「よいぞ」
勇者「えっ?」
420 :◆TRhdaykzHI 2013/09/25(水) 02:53:00.19 ID:zv5hQHZY0
勇者「今、なんと?」
女王「よいぞと言ったのじゃ。二度も言わすでない」
神官「(あ、あれ……すんなりOKでましたね)」
戦士「(不気味だが僥倖だったな)」
仮面「(俺きた意味あったのか、これ?)」
勇者「……あ、ありがとうございます!!」
女王「なにをそんなに驚いた顔をしているのやら」
女王「私はそなたらの国も魔族も、どうでもよい。そなたらの計画が成功しようが失敗しようが、国のトップが誰だろうがどうでもよい。
私は私の国だけが大切なのだから。国境の外でなにが起きようが、私にとっては瑣末なことじゃ」
勇者「はい。あなたがそのような考え方をする方だと知っていたからこそ、先ほどの返事に驚いているのですが」
女王「なに、ただ単にそちらの方がおもしろそうじゃったからの」
女王「本来、剣と魔法を武器に戦うそなたらが、そのままでは立ち向かえないモノに対してどのような戦い方をするのか、と。
私は高みの見物がこの世で五番目に好きなのじゃ。はっはっは」
勇者「……ご期待に添えるよう頑張ります。ではさっそく、認定書を、」
女王「しかし」
勇者「?」
女王「取引はギブ&テイクが基本ということはそなたも知っておろうな?」
勇者「…………(そうだ、こういう人だった)」
勇者「えーと。何かお困りのことがあれば、どうぞ我らにお任せ下さい」
女王「そうこなくては」ニッコリ
421 :◆TRhdaykzHI 2013/09/25(水) 02:56:23.36 ID:zv5hQHZY0
女王「最近、森の動物たちの様子がどうにもおかしい。ふらりと人里に下りてきては人に襲いかかろうとしたり、畑を荒らしたり。
これまでそのようなことはなかったのだが、最近になって急に凶暴になってまるで別種の動物かと疑うほどじゃ」
女王「彼らを森に住むよき隣人、神聖な獣として崇めていた国民たちも、立て続けに起こる人や畑の被害で気が立っておってのう。
このままでは討伐隊を組んで森を焼き払うとまで言いだしかねん」
勇者「分かりました。森に入って、何故動物たちの様子が急変したのか、その原因を突き止めればいいのですね」
女王「頼むぞ。報酬はそなたらの望む認定書じゃ。……ふっ、その顔だと、もっと無理難題を言い渡されると思っておったようじゃの」
勇者「いっ、いえ」
女王「なにやら急いでおったようだが……私から認定書を受け取ったら、そのまますぐに太陽の国でクーデターを起こすのか?」
勇者「いや……それが、まだ、王位継承者を見つけ出せていなくてですね。今目下捜索中です」
女王「なんと……。……ふふふ」
女王「のう勇者。幸せの青い鳥の話を知っておるか?」
勇者「? はい。有名な話ですよね」
女王「探しているものは、意外とすぐ近くにあるかもしれぬぞ」
勇者「すぐ、近く……ですか」
422 :◆TRhdaykzHI 2013/09/25(水) 03:00:52.79 ID:zv5hQHZY0
城下町
勇者「意外となんとかなったな。じゃあ薬草とか防寒具とかもろもろ準備して、1時間後にまたここに集合しよう」
神官「暗くなる前に帰ってこれるといいですね……」
戦士「俺たちは宿をとっておこう。荷物あれば預かるが」
神官「あぁ、はあこれお願いします」
仮面「ちょっと待て。おっさん、俺“たち”ってなんだよ。まさか俺も、このクソ寒い中森に入らなくちゃならねぇのか!?」
勇者「当たり前だろ。ほっておいたらまた人の金盗もうとするだろうが」
仮面「現金は盗まない。あくまでモノを盗るのが俺流だ」
勇者「知らないよ。とにかくいまは少しでも腕の立つ奴がほしいんだ、協力してくれよ」
仮面「なんで俺が……チッ……しょうがねぇな。その代わり、報酬はたんまりもらうぜ」
神官「あ、はい。飴ちゃんでいいですか?」ゴソゴソ
仮面「むしろなんで飴ちゃんでいいと思った? ん?」
423 :◆TRhdaykzHI 2013/09/25(水) 03:02:24.16 ID:zv5hQHZY0
森
ザックザックザクザック……ドテッ
神官「ひゃっ!」
勇者「大丈夫か?」
神官「ええ……。もう、これだけ雪が積もってると歩きにくいですね」
戦士「人里に下りてくる動物たちか。ふむ……足跡の一つでも、ここらへんにあっていいと思うのだが、見当たらんな」
仮面「そりゃーこんだけ雪が毎日降ってれば、足跡も消えちまうだろ」
勇者「動物たちが来たのは一番最近で一週間前だそうだ。余裕で消えてるだろうな」
神官「闇雲に探しても時間と体力の無駄です。どうしますか?」
勇者「話を聞く限り、凶暴化した動物は人間に対して敵意を抱いているみたいだから、大声で話して俺たちの居場所を知らせるとかどうかな」
神官「それって私たち自身が囮役するってことですか」
勇者「まあ、そうとも言うな」
神官「ええええぇ~!?」
戦士「いいぞ神官、その調子だ」
神官「いや今のはわざとではないですよ!」
424 :◆TRhdaykzHI 2013/09/25(水) 03:07:31.37 ID:zv5hQHZY0
ビュォォオオオオオオ
神官「いつの間にか森を抜けて、木に囲まれただだっぴろい雪原にでちゃいましたね。本当に囮作戦やるんですかぁ……?」
神官「森ってどこでもそうですけど、囲まれたらかなり不利な状況になりますよ」
勇者「大丈夫、お前がそのロッドで会心の一撃を繰り出したあのときのこと、忘れちゃいないぜ」
神官「そこは嘘でも俺たちが守るから大丈夫だ的なことを言ってほしかったですね!!お忘れなら言っておきますが、私非戦闘員ですからね!?
とにかくもう少し場所を変えましょう……!!もうちょっとマシな場を選んで……」
仮面「いや、その必要はないみたいだ」
神官「え?」
仮面「後ろ」
神官「……」クルッ
熊1「グルルルルル……」
熊2「ガァァァァッ!」
鳶「キィーッ!」
鷹「……」バッサバッサ
狼「ガウゥッ!!」
神官「……わ、わあ」
425 :◆TRhdaykzHI 2013/09/25(水) 03:09:20.55 ID:zv5hQHZY0
勇者「なんだ、意外にあっさり遭遇できたな」
戦士「俺が熊をやるか」
仮面「おいおい、こんなの俺たちで相手できる数じゃねぇだろ。後ろにまだまだ控えてら。ざっと20くらいか?
勘弁してくれよ。手がかじかんでうまく剣が扱えねえし」
勇者「俺が雷魔法でこいつらを麻痺させるよ」
バチバチバチバチッ!!
勇者「さて、どうしてこいつらが急に凶暴になったのか、その理由を探らないとな」
神官「あっ、勇者様!近づいちゃだめです!」
熊「ガァァァァァァッ!!」
勇者「うおっと!」
戦士「前列にでてきているその熊と、空の鷹、そしてそちらのひと際でかい狼は動きは鈍っているものの、気絶とまではいかなかったみたいだな」
勇者「やるしかないか。一人一匹だな。神官は後ろに下がっててくれ」
神官「はい!」
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426 :◆TRhdaykzHI 2013/09/25(水) 03:11:05.47 ID:zv5hQHZY0
熊「ガルルルルルル……!!」ブンッ
戦士「フンッ……!!」ガシッ
仮面「熊と一騎打ちってまじかよ、あのオッサン。体張ってんなぁ」
勇者「おい、下りてくるぞ」
鷹「キィーーーッ!」
ビュッ!
仮面「うぉ! ッハハハ!鷹の剥製とか高く売れっかなー……」
神官「だめですよ!?できるだけ動物たちを殺さないでって女王様にも言われたじゃないですか!」
仮面「冗談冗談。真面目だねぇお譲ちゃん」
神官「目が本気でしたよ」
狼「ガウッ!!」
ザザッ
勇者「何か変わったところ……変なところ……」
勇者(外傷も特にないしな。人間が動物の怒り恨みを買ったという線はなさそうだ。
魔法で何者かに操られているのかとも思ったが、そうだとしたらこの滑らかな動きはできないだろうし)
勇者(でも確かに様子が変だ。……毒キノコでも食べたとか?いやまさかな)
427 :◆TRhdaykzHI 2013/09/25(水) 03:12:32.76 ID:zv5hQHZY0
戦士「ぬぅぅぅ……はああ!!」ドスッ
熊「ぐえっ!?」
神官「戦士さん……熊相手に拳で勝っちゃうなんて……相変わらず出鱈目な人ですね」
戦士「まだまだ若いもんには負けぬぞ。 む?なんだこれは」
神官「え?」
戦士「熊が今しがた吐き出したものだ。これはネックレスか?」
神官「なんだかそれ、邪悪な感じがしますよ。もしかしてこれが騒動の原因かもしれません……!」
神官「勇者様、仮面さん!動物のお腹を殴って、これを吐き出させてあげてください!」
仮面「あぁ?」
勇者「それって……あっ!待てこら!!」
勇者「俺は逃げた狼を追う!そっちはまかせたぞ!」
戦士「あぁ。大丈夫か?」
勇者「おう!」
428 :◆TRhdaykzHI 2013/09/25(水) 03:16:12.80 ID:zv5hQHZY0
戦士「……ふう。これで全部か?」
神官「やっぱりこのネックレスが原因だったみたいですね。これを吐き出した動物たちはもう私たちを襲ってきませんし」
神官「これ、おそらく呪いがかかってます。それほど悪質なものじゃないですけど、動物たちには効き目が大きかったのかもしれません。
でも一体どうしてこんなものが彼らの口に入ったのでしょう……やはり恣意的なものでしょうか?」
仮面「あー……」
戦士「なんだ、何か言いたそうな様子だな?」
仮面「確証はないが、盗賊ギルドの奴が言ってたことを思い出してね。
ちょいと呪いのかかった品々を闇市で売ろうとしてたんだが、旅の道中丸ごと落としちまった、みたいなことを言ってたぜ」
戦士「その落とした場所が雪の国だとしたら、つじつまが合うな」
神官「呪いのかかった金品の売買は、どこの国でも禁止されていますけど。闇市って、そんなのも売ってるんですか?」
仮面「もっとすごいやつもあるぜ」
神官「……はぁぁー。私、魔族の方たちのこととか、王子探しのこととか全部落ち着いたら、闇市を解体することに全力を注ごうと思います」
仮面「そいつは困る。まああんたにそんなことできるとは思えねぇが」
神官「ムキー!」
戦士「そのへんにしておけ、二人とも。勇者を追うぞ」
429 :◆TRhdaykzHI 2013/09/25(水) 03:21:28.98 ID:zv5hQHZY0
ザックザックザック……
戦士「足跡は、向こうに続いておるな」
神官「そのまま遺跡に続いてますね」
仮面「なんで遺跡がこんな山奥にあるんだよ?」
戦士「む、勇者が出てきよった」
勇者「悪い、なかなか追いつけなくてさ。狼は遺跡の中に入りこんじまった。入り口はここひとつだから取り逃すことはないと思う」
勇者「遺跡の中で入れ違いになったら厄介だからここでお前らを待ってたんだ」
神官「よかったぁ、松明セットとか持ってきて。備えあれば憂いなしですね」
仮面「おいおい、犬っころ一匹すら取り逃がすとは、呆れた勇者様だなァ?」
勇者「すばしっこいんだよ、あいつ」
仮面「へっ」
戦士「もう日も傾く。あとはあの狼一匹だけ追えば、あとは問題なかろう」
仮面「だな。さっき話した盗賊の男も、仕入れた品の数は20くらいだっつってた。さっさと終わらせて帰ろうぜ」
430 :◆TRhdaykzHI 2013/09/25(水) 03:22:41.99 ID:zv5hQHZY0
* * *
勇者「……なんだ。盗賊ギルドの奴が原因を作ったんだな。人騒がせな……」
戦士「全くだ」
仮面「暗いし寒いし狭いし最悪だな、遺跡の中ってやつぁよ。遺跡につきもののお宝も全然ねぇし」
神官「ここの遺跡はとっくの昔に女王様が調査隊を派遣してますよ」
神官「以前はトラップも多かったり、頑強なゴーレムがいたりと結構厄介な遺跡だったみたいです。
ほら、この通路なんかも、床が重量を感じると同時に天井が押し迫ってくるベタな仕掛けがあったところですよ」
神官「古代の方たちもいろいろ考えますよね~、あははは」
仮面「へえ。詳しい……、ん?なんだ、この音?」
ズズズズズズ……
戦士「……」
勇者「うーん、おかしいな。……俺も神官と同じことを聞いてたんだが」
神官「ええと……ま、まさか」
431 :◆TRhdaykzHI 2013/09/25(水) 03:23:44.20 ID:zv5hQHZY0
ゴゴゴゴゴゴゴ……
勇者「とりあえず、走れ!!!」
神官「いやーーーーっ!」
仮面「ハァ!?トラップは昔の話じゃなかったのかよ!?」
戦士「圧死したくなければお前も走れ!!」
ダダダダダッ!
勇者「……ぐううう!まずいまずい!!天井がガンガン迫ってきてるぞ!」
神官「こっ、このままじゃ4人とも間に合いませんよー!」
戦士「ぬ!あれを見ろ!!」
狼「グッヘッヘヘ」ポチポチ
勇者「あいつ! なんか仕掛けをいじってやがるな!?やたらと天井のスピードが速いのもそのせいか!?」
戦士「あの狼、知性があるんじゃないか!?」
仮面「ぐっ…………おおおおおおお!!」
ガッ!
432 :◆TRhdaykzHI 2013/09/25(水) 03:25:31.62 ID:zv5hQHZY0
神官「仮面さん!? そ、そんな、天井を腕で支えるとか無茶ですよっ」
仮面「今のうちに、さっさと……!!行け……!! ……ぐっ!!」
戦士「仮面!恩に着るぞ!」
勇者「ありがとう!」
狼「ガウッ」ダッ
勇者「右の通路に逃げた!追うぞ!!」ダッ
戦士「待て狼!!大人しくお縄につかんか!!」ダッ
神官「狼さん、怖くないので逃げないでくださーい!」ダッ
仮面「おいっ!!待てお前ら!!先にトラップ解除しろや!!!」
仮面「このアホパーティがっ!!おーーーーい!!!」
440 :◆TRhdaykzHI 2013/10/08(火) 04:00:08.90 ID:qnK+Ur7do
仮面「はぁっ、はぁっ! てめぇらまじふざけるなよ!? そろそろ本気で怒るぞ!」
勇者「だからごめんって」
神官「狼さーん!……だめです、見失っちゃいました」
戦士「少し開けた場に出たな。ここらで一旦休憩するか? 昼から動きっぱなしでくたびれたろう」
神官「もう夜ごはんの時間ですものね。簡易食しか持ってきてませんけど、よろしければいかがですか?」
勇者「準備がいいな、神官。いつも助かるよ」
勇者「戦士の言う通り、ここで少し休憩しよう」
仮面「はあ……ったく疲れたぜ。 なあ、お前、火を起こせる魔法も使えたりするのか?」
勇者「一応な。ほら」ボッ
仮面「おお。それずっと続けてくれや。 あーあったかい。この国はどうも寒すぎていけねぇな」
神官「相変わらず便利ですね、勇者様の魔法。あったかーい」
勇者「俺を焚き木代わりにしないでくれよ。もういいか?」ボォォッ
戦士「ここが少し広いとはいえ、本格的に焚き木をしたら空気が淀んでしまうからなぁ……。あったかいな」
勇者「俺も休みたいんだが」ボォォッ
441 :◆TRhdaykzHI 2013/10/08(火) 04:00:48.95 ID:qnK+Ur7do
仮面「これが勇者だけに使えるっていう五大魔法……か」
神官「火、水、風、土、雷。 自然界の五大属性を司る魔法ですね。最も勇者様があまり使わない属性の魔法もありますが」
勇者「一応得手不得手があるんだよ。使おうとすれば、まあ、使えるが、不得意な属性はそんなに威力も出せない」
仮面「ふうん。そういうもんか」
仮面「……なぁ、お前はなんで勇者になろうと思ったんだ?」
勇者「なんでって……教会から預言が為されたんだよ。俺の村の何月何日に生まれた男児が勇者ですってさ」
勇者「お前がさっき言ったように、小さい頃から神父が使う治癒魔法とは違う魔法も扱えたし。
そりゃああんまり俺は勇者っぽくないとは自分でも思ってるさ。でも預言と魔法、二つも揃ってれば認めざるを得ないだろ」
仮面「俺が言いたいのはそういうことじゃない。確かにお前はこの時代に一人だけ、勇者の資格を持って生まれた」
仮面「だが、勇者以外の生き方を選ぼうとは思わなかったのか? 勇者として生きることに何の抵抗もなかったのか?
それとも、何か確固たる理由があって、勇者になったのか。俺はそう聞いてるんだ」
勇者「勇者以外の生き方?」
勇者「……。そんなの、考えたことなかったな。生まれたときから、お前は勇者だって告げられて。
剣の修行も、魔法の修行も大して苦じゃなかったし。俺だけが魔王を討ち滅べせて、それで世界が平和になるなら……」
勇者「そうだとしたら、俺がなるべきだって思ったんだ」
勇者「だから勇者になるかならないかなんて、迷ったことなんてなかったよ」
仮面「………………そうか」
仮面「ならお前は、俺が思ってたよりずっとつまらない人間だな。勇者」
442 :◆TRhdaykzHI 2013/10/08(火) 04:02:10.61 ID:qnK+Ur7do
勇者「……」
神官「…………あ、あの。仮面さん!お水飲みますか!? 勇者様も、や、薬草食べますか薬草。滋養強壮にいいですよ薬草!」
仮面「いらねぇ」
勇者「俺も、いいや」
神官「そっそうですよねぇ~!」
仮面「……」
勇者「……」
シーン
神官「(戦士さん……! これどうしたらいいんでしょうか、この空気。私窒息しそうですよぉ)」
戦士「(仮面は仮面なりに考えていることがあるのだろう。放っておくのが吉だ)」
神官「(ええぇ?)」
戦士「さて、そろそろ休憩も終わりにするか。ここから先は道が二手に分かれているが、どうする勇者?」
勇者「定石どおりにこっちも二手に分かれて進もうか」
勇者「多分トラップはこの先もあると思うから、気をつけて行こう。じゃ組み分けするぞ」
443 :◆TRhdaykzHI 2013/10/08(火) 04:02:37.24 ID:qnK+Ur7do
右通路
勇者「意外と広いな、この遺跡。どちらかが行き止まりじゃなくて、両方とも奥に続いていれば合流がスムーズに行くんだがな」
神官「でも前者の方が可能性が高い気がしますよ……」
勇者「だろうな。 くそ、狼一匹にここまで時間を食うことになるとは」
神官「……」
神官「あの、さっきの仮面さんの言葉は気にしない方がいいですよ」
勇者「ん?」
神官「仮面さんは……多分その、かなり自由な生き方をしてらっしゃるので、あんなことを言ったのだと思いますが、
私は勇者様の生き方は正しいと思います。あなたが、勇者として神に選ばれたのは何かしらの理由があるはずです」
勇者「はは。神官らしい言い方だな」
神官「まあ腐っても神官ですから……。じゃなくて、真剣に言ってるんですよ」
勇者「仮面は、俺が何も悩まず、苦しまずに勇者になると選択したことが気に食わないと思ってるんだろうな」
勇者「確かにあいつのように生きている奴からしたら、異常に思えるのかもしれないな。
実際俺も、今までそのことを考えなかったことに驚いたくらいだ」
神官「それは悩むこともないほど、天性があるということだと思います」
神官「私は勇者様が勇者様でよかったと思ってますよ。多少破天荒で向こう見ずなところは直してほしいですけどね。
これまで一緒に旅してきた戦士さんだって、きっとそう思ってます」
444 :◆TRhdaykzHI 2013/10/08(火) 04:03:14.95 ID:qnK+Ur7do
勇者「……もしかして俺、慰められてる?」
神官「少ししょげてた様子でしたので」
勇者「別にしょげてねぇよ。ただ、いろいろ考えてただけで」
神官「珍しいですね、勇者様が」
勇者「別にいいだろ、たまには。ない頭しぼってもさ。 じゃあ逆に聞くけど、お前はなんで神官になることを選んだんだ?」
神官「えっ……私、ですか」
神官「私は、最初は学校の先生になりたかったんです」
勇者「へえ、初耳だな」
神官「でも子どもとはいえ大勢の前で話すのが苦手で……それから、植物学者になろうとしましたけど、高等教育を受けられるお金がなくって、
結局神学校に進んで神官になることに決めたんですよ。そのまま神官になれば学費も大幅免除されますから」
神官「とまあ、私なんてかなり優柔不断な人生設計立てたものです」
勇者「そうだったのか。……金があったら自分は他の道を歩んでいたと思うか?」
神官「そうかもしれませんし、そうじゃないかもしれません。今では神官になってよかったと思ってますし。
でも、本当に神官が私の生きる道なのか、悩んだことはありました。そんなとき、勇者様がとってもうらやましかったです」
勇者「なんで俺がそこででてくる」
神官「だってこの世で一人だけ、勇者として選ばれて。勇者に絶対ならなくてはならない。
そんな風に世界から言われたら、悩むこともないじゃないですか。それが私の天職だって、生まれたときから思えるじゃないですか」
神官「私のこの考え方も、勇者様にとっては失礼で、癪に障るかもしれません……でもこんな風に考える人もいるんですよってことで」
445 :◆TRhdaykzHI 2013/10/08(火) 04:04:12.29 ID:qnK+Ur7do
勇者「なるほどな……。そういう考え方もしたことがなかった。ありがとな」
神官「いえいえ」
勇者「ここが雪山の中の遺跡なんかじゃなければ、もっとじっくり話を聞きたいところだが、そうもいかないみたいだな」
コツコツ
勇者「行き止まりだ。あっちが正解ルートだったみたいだな。この壁も壊せそうにない。戻るか」
神官「い、いや、壊せそうでも遺跡を無断でやっちゃうのはまずいかと。
しかし……ここまでこっちのルートにトラップがゼロというのは不気味ですね」
勇者「そんなことを言うと、今までの展開から見るにそろそろ一つ来るんじゃないか? ハハハ」
神官「あはは、止めてくださいよ、洒落になりませんって。さあ、戦士さんと仮面さんたちに合流するために戻りましょうか」
ガコッ
勇者「あ、おい、何かのスイッチを踏まなかったか今……」
神官「……」
勇者「な、なんかこっちに転がってくるような轟音がするが大丈夫か!? これ大丈夫!?」
神官「多分だめなパターンです!! うわーん!!」
勇者「逃げろ!!」
神官「私たちこんなのばっかー!! わぁぁぁん!!」
446 :◆TRhdaykzHI 2013/10/08(火) 04:05:04.62 ID:qnK+Ur7do
左通路
仮面「あぁクソったれ。もう外は真っ暗な時間だぜ。暗闇の中で下山するつもりか?」
戦士「いや、勇者の転移魔法で帰れるから心配はいらぬ」
仮面「あーそういやそんな魔法もあったか。それで星の国で俺はあいつに負けたんだよな。思い出すだけでムカついてくる」
戦士「……勇者の奴もな、神によって選ばれたからと言ってただ漫然とその資格に胡坐をかいておったわけではない。
それは対峙したお前も重々分かっていることだとは思うがな」
仮面「なんだよオッサン、説教か?今時そういうのって、若者には引かれるぜ」
戦士「オッサンオッサンと言うが、俺はまだ……、 む。扉が見えてきたぞ」
仮面「さっさと狼に吐かせて帰ろうぜ。おらよっと」
ギィィィィ……
狼「ガルルルル…」
仮面「いたぜ、犬っころ。どうやらここで行き止まりみてぇだな。観念しやがれ」
戦士「二人で挟みうちするぞ。俺が右から行く、お前は左からだ」
仮面「へいへい、っと!」ザッ
戦士「……!? 待て、何か来るぞ」
ゴゴゴゴゴゴゴ……
447 :◆TRhdaykzHI 2013/10/08(火) 04:06:04.17 ID:qnK+Ur7do
ゴーレム「……」
戦士「ゴーレム!? まさか、まだ稼働しておるとは……厄介だな」
仮面「面倒くさそうなのがまたでてきたな、おい。でもこいつ、動きが鈍いぜ」
戦士「鈍いのはいいが、問題は硬さだ。よっぽど力を込めんと決定打は与えられんぞ」
仮面「ハッ!」
戦士「フンッ」
ガキンッ
仮面「……確かにかてぇな」
仮面「じゃああの狼の野郎を先に……ってあいつ!ゴーレムの裏に隠れやがって!腹立つ野郎だなぁ」
戦士「地道にダメージを与えていくしかないみたいだな……仕方ない」
ゴーレム「……」ブンッ
ズドドドドドッ
仮面「うおっ!? 一撃で地面を揺るがすたぁ、やるな」
戦士「気をつけろよ。一発でも食らったら即お陀仏だ」
448 :◆TRhdaykzHI 2013/10/08(火) 04:07:56.83 ID:qnK+Ur7do
戦士「しかし、攻撃モーションに入った後の隙が肝だな」
戦士「様子を見つつ、攻撃をした後の隙をついてこちらから打撃を加えていくぞ」
仮面「は? んなまどろっこしいやり方してられっかよ。あいつの攻撃なんてそんな用心してなくても避けられる。
様子なんて見る必要ねえ、行くぞ」
戦士「あいつの攻撃を見たろう、用心しすぎて困ることはないぞ」
仮面「ビビってんならオッサンはそこで見てろ。俺がやってやるよ」
戦士「…………だからオッサンと呼ぶのはやめろ!!!まだそう呼ばれるだけの年は重ねとらんわ!!!」
戦士「ここは素直に年長者の言うことを聞いておけ!!お前のためを思って言ってるんだ!!」
仮面「うっるせぇな、叫ぶんじゃねーよ。だったらこうしようぜ」
ゴーレム「……シンニュウシャ……」ブンッ
仮面「俺は俺のやり方で、あんたはあんたのやり方で戦う。これで文句はねぇだろ?」ヒョイ
仮面「っこの!」ガッ
戦士「おい! 考えなしに突っ込むな……! 大体、勇者と神官ももうそろそろ追いつくだろう」
戦士「そんなに急がなくても、あいつらが来るのを待つのも手だぞ」
仮面「どいつもこいつも勇者勇者って……気にいらねえな」ガキンッ
仮面「神託だの運命だの、胡散臭いと思ったことはないのか?」
戦士「……?」
449 :◆TRhdaykzHI 2013/10/08(火) 04:08:40.26 ID:qnK+Ur7do
戦士「……くそっ」ザッ
仮面「なんだオッサン、無理すんなよ」
戦士「ぬかせ」
ゴーレム「……」ブンッブンッ
仮面(しかし、これだけ攻撃を加えてるのに全然堪えた様子がねえな……いつまでこうやってりゃいいんだ?)
仮面「なぁオッサン、ゴーレムって、人形に魔法がかけられたもんだよな?なんか急所とかねえの?」
戦士「そういうのは神官の方が詳しいんだが、俺にはさっぱりだ」
仮面「役に立たねぇな」
戦士「黙れ……、! おい、来るぞ!」
ズドドドドドドドッ
仮面「わっと……!」ヨロッ
ゴーレム「……」ブン
仮面「!」
戦士「仮面!」
450 :◆TRhdaykzHI 2013/10/08(火) 04:09:34.86 ID:qnK+Ur7do
ドゴッ!
仮面「……!?」
戦士「ぐっ……」
仮面「オッサン! なにしてんだてめぇ……馬鹿か!?」
戦士「……一旦……退け……勇者たちと合流しろ……」
仮面「分かったよ、じゃあ掴まれ。チッ、重いんだよクソが!」
戦士「俺はいい……先に行け……」
仮面「んなこと言ってる暇あったらさっさと立てや!」
仮面「ん……!?」
ヒュ……
仮面「!」
仮面(避けたらオッサンが…… 俺に受け止められるか!?)
仮面(やるしか……!)
バターンッ
451 :◆TRhdaykzHI 2013/10/08(火) 04:11:06.32 ID:qnK+Ur7do
勇者「戦士!仮面!無事か!?無事じゃないな!」
勇者「おらぁぁぁ!!」ゴッ
ゴーレム「!?」グラッ
仮面「お……お前!今のどうやって!?」
勇者「え?」
神官「戦士さん!しっかりしてください!今、治癒魔法かけますので……!」
戦士「助……かる……。死んだ……祖父が……手を振って……」
神官「戦士さーん!こっちに帰ってきてください!!」
ゴーレム「ガガッ……ガッ……」
勇者「神官、ゴーレムの弱点ってなんだと思う?」
神官「ええと、確かゴーレムの動力源は体の中心部に嵌めこまれてることが多いです」
神官「体は岩よりも硬いですが、関節部分はほかよりダメージが与えやすいと思います!」
勇者「そっか」
勇者「仮面、お前はまだ戦えるのか?」
仮面「ああ……俺は無傷だ」
勇者「じゃ、手伝ってくれ。隙を見て二人で両足の関節を狙って、転倒させるんだ。
片足だけじゃあ、さっきみたいにぐらつくだけで終わってしまう」
勇者「転がせたら後は俺がゴーレムの胸を割って、動力源を取り出すから。行くぞ!」
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452 :◆TRhdaykzHI 2013/10/08(火) 04:12:39.64 ID:qnK+Ur7do
仮面「後は俺が……って、お前あんなのぶった斬れんのかよ!?」
勇者「うおおおぉおぉ!!」
仮面「聞けよ!」
ゴーレム「……」ブンッ!
勇者「おっと」ヒョイ
勇者「今だ!足を狙うぞ!」
仮面「……っああ!」
ズドーンッ
ゴーレム「ッガガガ……ガガ……」
勇者「……っせぇい!!」ズバッ
ゴーレム「ッガ……――――」
453 :◆TRhdaykzHI 2013/10/08(火) 04:15:18.63 ID:qnK+Ur7do
仮面「あ、あいつ。本当に一発で斬りやがった……化けもんか」
神官「よかった……。扉開けて血まみれの戦士さんを見たときにはどうなることかと」
勇者「さて、もう観念しろよ?手こずらせやがってよぉ……」
狼「」ガクガク
勇者「おらぁ、吐いちまいな!!」
狼「クゥーン……!」
神官「勇者様、勇者にあるまじき言動は謹んで頂けますか」
460 :◆TRhdaykzHI 2013/10/09(水) 18:48:45.17 ID:4Avc9FH/o
* * *
女王「……ふぅむ。なるほどな、呪いの品のせいであったか」
女王「よもや盗賊どもがそのような品を私の国に持ち込んでおろうとはな。あやつらやってくれる」
女王「関所の警備を強化することにしよう。 ご苦労だったな」
勇者「いえ、お役に立てて光栄です」
女王「それにしてもできるだけ急いで解決してほしいとは思っておったものの、まさか一日足らずで帰ってくるとは。
しかし今日はこの国に留まるのであろう?」
勇者「はい。そのつもりです」
女王「ちょうどよい」
神官「?」
女王「今夜はこの城で舞踏会が行われる予定でのう。そなたらも参加するとよい、皆喜ぶ」
戦士(……)ギク
女王「そなたらの国の王子を探しておるのであろう?今夜出席する貴族たちに話を聞いてみたらどうじゃ?顔見知りの者もおるかもしれんぞ」
勇者「確かに、そうですね。参加させて頂きます。でもよろしいのですか?」
女王「よいよい。着替えはこちらで用意しよう。ついでにその後城に泊まってゆけ」
勇者「どうも有難うございます。お心遣い感謝いたします」
461 :◆TRhdaykzHI 2013/10/09(水) 18:52:17.55 ID:4Avc9FH/o
使用人「勇者様、とてもお似合いですよ。後は髪型ですね。あらあらこんなに癖っ毛で……毎日とかしていらっしゃいます?」
勇者「え?ああ、いえ。ありがとう」
勇者(……うーん。動きにくい。戦士と仮面の奴はどんな様子だろう)カチャ
使用人「え!? ちょ、ちょっと勇者様。剣をかついで舞踏会に参加なさるおつもりですか!?」
勇者「あ……。つい」
勇者「戦士、どうだ? ってめちゃくちゃ暗いな!どうした!?」
戦士「俺は昔から社交界とかああいうのが大の苦手なんだ……はぁ。憂鬱だ……」
勇者「俺も好きではないけどな」
戦士「大体、あの時、参加すると即答しておったが、お前踊れるのか?」
勇者「………………いっけね!!」
戦士「そんなこったろうと思ったわ」
勇者「まあいいや。どうせ情報収集が目的だし。で、仮面の奴は?」
戦士「さあな。そろそろ出てくるんじゃないのか」
仮面「あ~~雪山で獣とゴーレムと戦って、休む暇なくダンスとか……だるすぎ」ガチャ
462 :◆TRhdaykzHI 2013/10/09(水) 18:55:07.59 ID:4Avc9FH/o
勇者「……ブッ!ッハハハハ!!」
仮面「んだよ、人の顔見るなり笑いだすんじゃねぇクソガキ」
勇者「いやおま……その仮面に燕尾服ってもろ仮面舞踏会で、似合いすぎてて笑うわ」
仮面「うっせぇバーカ死ね。おいオッサン、あんたもう怪我は平気なのか」
戦士「ん? おう。神官の魔法のおかげでな」
仮面「そーかよ。あんときゃ悪かったな」
戦士「なんだ、いきなり随分殊勝になりおって」
仮面「俺はいつも殊勝で素直だよ」
勇者「どの口が言って……って、もう時間か。神官はもうホールにいるそうだから、そのまま行こう」
戦士「はぁ……帰りたい。娘に会いたい」
神官「あ!遅いですよ、皆さん。女性より身支度に時間かかるってなんなんですか」
勇者「おお、神官の神官服以外の姿って、そういやレアだな。似合ってるじゃん」
戦士「うむ、なかなかだぞ」
神官「褒めても毒消し草くらいしかだせませんよ、アハハ」
神官「……って、ちょッ!? 仮面さん……いい出オチですね!」ニコ
仮面「黙れ」
463 :◆TRhdaykzHI 2013/10/09(水) 18:59:10.26 ID:4Avc9FH/o
~~♪ ~~~♪
女性「太陽の国の? うーん、ごめんなさいね。私社交界に出たの最近だから……母なら知ってるかもしれないわ」
勇者「そうですか……どうもありがとう」
勇者(王子のことを知ってる人がそもそも少ないな。次は年配の人に聞いてみるか)
勇者(って言ってもほとんどみんなダンスに夢中でなぁ。俺と戦士浮きまくり。
まさか自分が貴族に混じって舞踏会に出席する日が来るとは思わなんだ)
勇者(というより、神官はいいとして、なんで仮面の野郎が完璧にステップ踏んでるんだよ!あいつ盗賊じゃなかったのかよ!)
仮面 女性「」クルクル
勇者(あいつ何者だ? 今時の盗賊は社交ダンスも踊れるのか……盗賊に負けた俺って……)
勇者(まだ曲は終わらないか。曲が終わって話聞けそうな人を捕まえられるようになるまで、のんびりしてよう)
勇者(……。遺跡の中での会話といい、今のダンスといい、あいつって何か事情があって盗賊になったのかもしれないな)
464 :◆TRhdaykzHI 2013/10/09(水) 19:00:03.34 ID:4Avc9FH/o
勇者(四六時中仮面をつけてるのも何か理由があるのかもしれないな。人には一つや二つ、誰にも知られたくない秘密ってものがあるはずだ)
勇者(誰にも知られたくない……隠したい秘密……が)
勇者(……なんだ? やけに頭にひっかかる。仮面……あいつ)
~~♪
勇者(金髪。男。顔の上半分を覆った仮面。常に身につけてる、首元をかくす布――今はしてないな)
勇者(しかし襟とタイで首はほとんど隠れてるし……身につける必要はないか)
女性「あの仮面つけてる方、なんか不思議な雰囲気よね」ヒソヒソ
女性「仮面から覗くアッシュブルーの瞳がミステリアスで素敵」ヒソヒソ
勇者(アッシュブルー?青い瞳。王子の妹である姫様の瞳の色も……青だ)
勇者(金髪に青い目?)
勇者(いや…………いやいやいやいや。まさかな)
465 :◆TRhdaykzHI 2013/10/09(水) 19:02:06.81 ID:4Avc9FH/o
勇者(仮面が泣きぼくろを隠すためで?マフラーが首の傷を隠すためで?おまけに金髪碧眼?社交ダンスも完璧?)
勇者(…………いくらなんでもできすぎだ。そうだ!戦士!)
勇者「戦士!ちょっといいか!?訊きたいことがあるんだが」
戦士「ぬ?なんだ?」
勇者「こっちに」
勇者「今日の遺跡で、俺と神官が来る前に、仮面と一緒に戦ったよな?あいつの戦闘スタイルを見てどう思った?」
戦士「スタイル……?素早さ重視でトリッキーな動きを得意としているように感じたが。勇者の方がよく分かっているのでは?」
勇者「戦士は王子がやってたっていう、太陽の国の貴族剣術の型、知ってるんだよな?あいつの戦い方にどこか類似点はなかったか?」
戦士「見たところあまり……むしろ正反対のような気さえする」
戦士「……いや!待て。俺がゴーレムの一撃を食らった後で、勇者が来る前だ。
振りかぶったゴーレムを前にして、自分が避ければ俺にあたると考えた仮面が、一瞬防御の姿勢をとった」
戦士「それが、以前見た貴族が使う剣術に似てなくも、なかったな」
勇者「そ、そうか。ありがとう」
戦士「勇者?」
勇者「ちょっとテラス出て考えてくる」フラフラ
戦士「外は雪だが……」
466 :◆TRhdaykzHI 2013/10/09(水) 19:04:00.19 ID:4Avc9FH/o
ガチャン
勇者「……………………」
勇者「ええええええええええええーーーーー!? まじでッッ!?!?」
勇者「うそだろ!?あり得ないだろ!?ないよな!?ありかなしかで言ったら完全にないよな!?」
勇者「だって……あんな……柄の悪い王子って大丈夫なのか?いいのか?」
勇者「うっそ……」
勇者「つーかもし俺の考えていることが本当だとしたら、これまでの無礼の数々が思い起こされる」
勇者「……いや、もしそうだとしたら。もうすでに仲間にしてるし、認証書も2枚揃ってるし、万々歳なんだが」
勇者「ちょっと衝撃すぎて脳の処理追いついてないよ……」
――のう勇者。幸せの青い鳥の話を知っておるか?
――探しているものは、意外とすぐ近くにあるかもしれぬぞ
勇者「近すぎだよ!!!」
467 :◆TRhdaykzHI 2013/10/09(水) 19:05:04.14 ID:4Avc9FH/o
そのころ
魔女「はっ―――」
魔女「っくしゅっ!!」
竜人「大丈夫ですか?もうそろそろ休みますか。宿に向かいましょう」
魔女「火ぃ吹いてよー」
竜人「馬鹿言わないでください。変温動物の私のことも慮ってくださいよ」
魔女「いま人の姿じゃん……てか竜ってそうなんだ」
魔女「……うわあ!ね、見て見て。雪国名酒『雪おんな』あります、だって!
どうせ今日はもうやることないし、ちょっとだけお酒飲もうよ!ね!」
竜人「なに言ってんですか、いやですよ。何も今日飲まなくても」
魔女「だってこんな寒いんだし、今日はずっと外で王子の手がかり探してたし、少しお酒飲めば体もあったまるじゃん」
竜人「……飲みすぎないって約束できますか」
魔女「できますできます」
竜人「じゃあ―――」
「食い逃げだーー!!誰か捕まえてくれーー!!」
468 :◆TRhdaykzHI 2013/10/09(水) 19:05:39.35 ID:4Avc9FH/o
バタンッ!!
竜人「?」
魔女「っわ!! ちょっとー、ぶつかりそうになったじゃん、あの食い逃げヤローとっつかまえようよ」
竜人「いや、ここは下手に目立ちたくない。見なかったフリしましょう」
魔女「えー?」
旅人「いやぁね……だめよ。食った分だけの代金はきっちり払う。それが世の中のルールってもんよ……」
食い逃げ「どけっ!!!」バッ
竜人「!! あ、あの人……!?」
魔女「え?知り合い?」
食い逃げ「どけぇぇぇえぇえぇカマ野郎がぁぁぁ!!!」
旅人「そんな基本的なことさえ分からないチ○カス野郎は……カマ以下ね!!!」
旅人「滅しなさい!!! 破ァ――――――!!!!!」
食い逃げ「ちょ」ジュワッ
竜人「……」
魔女「……」
オカマってすごい。二人はそう思った。
469 :◆TRhdaykzHI 2013/10/09(水) 19:06:52.00 ID:4Avc9FH/o
店主「おや旅人さん!いらっしゃってたんですか!お久しぶりです」
旅人「はい食い逃げ犯。煮るなり焼くなり掘るなり好きにしてちょうだい」
竜人「やっぱり!星の国で会った人だ。魔女、やっぱりこの店は諦めてください。宿に帰りますよ」
魔女「えー!?なんで!?さっき好きなだけ飲んでいいよって言ったじゃん!?」
竜人「そこまで言ったっけ!? あと声大きいです、気づかれる前に……」
旅人「……ん?」
旅人「あら」
竜人「ほらこうなる……助けて魔王様……」
470 :◆TRhdaykzHI 2013/10/09(水) 19:13:40.23 ID:4Avc9FH/o
旅人「やーっぱり、あのとき勇者ボーイと一緒にいた子よね!隣の女の子はなに? コレ?」
竜人「小指立てないでください。違いますよ」
魔女「ねーあなたって、女?男?どっ ムグ。ひゃにしゅんのー」
竜人「すいませんね躾がなってないもんでアハハハハ気にしないでくださいね本当申し訳ない」
旅人「なにこの子、おもしろいわ。今日会ったのも何かの縁ね、ここはあたしが奢るから好きなだけ飲んで食べなさい」
竜人「い、いえ。もうそろそろ帰らないと……明日も早いので」
魔女「ねー、旅人は勇者に会ってない?あたしたちこの国で落ち合うことになってるんだけど、全然来ないの」
旅人「勇者ちゃんねー、結構な頻度で巡り合うんだけど、この国ではまだ会ってないわ。神様の意地悪かしら」
魔女「そっか。なにやってんだろーね今頃」グビグビ
魔女「プハー。うまい!もう一本!」
竜人「青汁じゃないんですから」
旅人「ふ~~~~~~~~~んむ」
竜人「な、なんですか?」
旅人「この間も言ったと思うんだけど、やっぱどっかで見たことあるような気がするのよね、二人とも」
竜人「初対面ですよ。やだなあ、あはは」ギク
471 :◆TRhdaykzHI 2013/10/09(水) 19:16:02.42 ID:4Avc9FH/o
旅人「本当にそうかしら。ん~~~。……ハッ!!!」
旅人「そうだわ思い出した!! あなたたち、魔族ね!?」
竜人「!?」
魔女「!」
シーン……ざわざわ……
「魔族?いま、魔族って?」 「言い間違いか?」
「いや、ここに魔族がいるわけないだろ」 「あそこのテーブルから」
魔女「ま……ま……」
魔女「これで『満足』したでしょー!?私オリジナル配合のカクテル!!舌の肥えた旅人も満足するよねきっと!!」
旅人「ンゴッ」
魔女「はい、ちゃーんと飲み込んでね!!おいしいでしょ!?あっははは!」
旅人「ゴゴゴゴゴ」ガクガク
「なーんだやっぱり聞き間違いだったよ」 「ちょっとびびったぜ」
472 :◆TRhdaykzHI 2013/10/09(水) 19:17:57.52 ID:4Avc9FH/o
魔女「はあ……はあ……」
旅人「」
店主「おやぁ、旅人さんが潰れるなんて珍しいこともあるもんだ。ハッハッハ」
竜人「ほんとですね!ちょっと休ませときましょうかアッハハハハ!!」
竜人「(よくやった。ですが、あなた飲ませた酒の中に何か混ぜてましたよね?一体何を?)」
魔女「(ただの忘却の水薬と眠り薬だよ。これで魔族のこととかは忘れたはず。でもさっきのどういうこと?)」
竜人「(ほら、よく魔王城に漂流してくる人間に、魔王様が忘却呪文かけて帰してやってるでしょう。
そのうちの一人です。見覚えがありませんか?)」
魔女「(あるような、ないような)」
竜人「(何故か呪文が解けかかってるみたいです。もともと効きにくいのかもしれません。
とりあえずここはすぐに逃げますよ!お代はここに置いとけばいいでしょう)」
魔女「ちょっ、ちょっと待ってよ。外套忘れてるって。これないと死ぬよ?」
473 :◆TRhdaykzHI 2013/10/09(水) 19:18:29.07 ID:4Avc9FH/o
翌朝
竜人「……」
魔女「おはよー」
竜人「勇者様はまだですかね?」
魔女「っぽいね。今日魔王城に行く?」
竜人「せっかくなら勇者様方と会ってからにしたかったんですけどね。もうこれ以上先延ばしにしても時間の浪費か」
魔女「王子の持ち物っぽいの手に入れちゃったもんねー。早く魔王城で調べなくっちゃ。これでうまくいけば一発だし!」
竜人「一応勇者様に鳥を飛ばしておきましょう。さて……じゃあ行きますか」
竜人「ん……? 私の外套、こんなに肩幅余ってましたっけ」
魔女「竜人の肩幅が縮んだんじゃね?」
竜人「なんか内側の手触りも違うような」
魔女「………………あ」
竜人「え」
474 :◆TRhdaykzHI 2013/10/09(水) 19:20:41.81 ID:4Avc9FH/o
竜人「えっ!?旅人さんの外套と間違って持ってきたかもしれないって!?」
魔女「だって竜人がさっさと行っちゃうから焦ったんだもん」
竜人「どうすんですか、これ……」
魔女「別に外套なんてそのまんまでいいんじゃないの?」
竜人「いや、私が肩幅余ってるってことは、あっちはかなり窮屈な思いをしてるってことになります。
ましてやここは外套必須の雪の国ですし……、くっ……返しに行かなくてはならないのか」
魔女「そっかー……じゃあ先に魔王様のところ、行ってるね?」シュッ
竜人「いやいやいやいや!?」ガシッ
魔女「ちょ、離してよ」
竜人「なに一人で帰ろうとしてるんですか。信じられない」
魔女「いやいやいや」
竜人「いやいやいや」
旅人が泊まってるはずの宿
魔女「旅人さーん。いるんでしょー?開けてくださーい」ガンガンガン
竜人「借金取りみたいな挨拶やめなさい! ええと、旅人さん。いらっしゃいますか?」
魔女「返事がないけど、部屋に気配あるよね?」
竜人「もしかして、やっぱり魔女の昨日の薬が原因で倒れてるとか……!?」
魔女「あたしが薬で間違うはずないない。開けちゃえ」ガチャ
竜人「え!?」
475 :◆TRhdaykzHI 2013/10/09(水) 19:21:46.57 ID:4Avc9FH/o
魔女「急病だったら大変じゃん?」
竜人「……まあ、確かに」
竜人「……おかしいな。中にもいない。そんなに広い部屋ではないんだが」
魔女「あ、このドア開けてなくない?」ガチャ
竜人「そッ!? それはまさか浴室のドアでッ……」
旅人「……あらぁ?やだ!ちょっとなに覗き見してんの!魔族のエッチ!」
竜人「バカーーー!!すいませんでしたーー!!」スパーン
魔女「いったぁぁぁぁ!?」
竜人「何故か魔族って既にばれてるし、男の裸見ちゃうし、覗き魔の称号を得てしまうし!!!どうなってんですかーー!!」
魔女「そんなのこっちが聞きたいんだけど」
旅人「いま上がるからちょっと待っててね~」
魔女「はーい」
竜人「私が変なのか、彼らが変なのか……」
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476 :◆TRhdaykzHI 2013/10/09(水) 19:22:27.50 ID:4Avc9FH/o
旅人「お待たせ。こんな姿でごめんなさいね」
魔女「うわ!?化け物!?」
旅人「やぁねー。顔パックよ、パック。あなたもやった方がいいわよ。この国空気が乾燥してるから」
魔女「へー」
旅人「ほしければ一つあげるわ」
魔女「まじで!?やったぁ」
竜人「いやあの、順応性高すぎですから」
竜人「旅人さん……私たちのこと、さっき魔族って仰ってましたよね」
旅人「ええ。全部思い出したわ。あなたたちが、海で漂流しちゃった私を助けてくれたのよね。
お礼が遅れちゃったってごめんなさいね。あのときはどうもありがとう」
魔女「恐くないの?あたしたちのこと」
旅人「命の恩人だもの」
竜人「……」
魔女「よかったー。まあ結果オーライだけどさ、なんで思い出せたのかな?あたしの薬は完璧のはずなのに」
旅人「薬?よくわかんないけど、あたし胃は丈夫な方だから」
魔女「えー。そういう問題なのかな。すごい敗北感なんだけど」
477 :◆TRhdaykzHI 2013/10/09(水) 19:23:24.73 ID:4Avc9FH/o
旅人「あのとき、あたしを助けてくれたのはあなたたち二人のほかにもう一人いなかった?赤い目をした女の子」
竜人「いましたよ。彼女が魔王です」
旅人「へえ~魔王って……そうだったの。じゃああたしが勇者ちゃんに言ったことは間違いじゃなかったのね」
竜人「あらためて自己紹介しますね。私は竜人、竜の血族です」
魔女「あたしは魔女。よろしくね」
旅人「魔王ちゃんの側近ってわけ?でも今あなたたち大変なんじゃないの?戦争だのなんだので」
魔女「うん。ちょー大変」
旅人「ん?ていうか竜人ちゃんは勇者ちゃんと一緒にいたわよね?」
旅人「ははーん、もしかして何か企んでるの?どれ、言ってみなさいよ」
竜人「……あなたを信じていいですか?旅人さん」
旅人「いいわよ。あたしに全てまかせて身を委ねなさい、二人とも。カムカム」
竜人「いやそういう意味でなく。魔女もひょいひょい行かないで」
478 :◆TRhdaykzHI 2013/10/09(水) 19:23:55.89 ID:4Avc9FH/o
旅人「冗談よ~~。もらった恩は三倍返し!それがカマ道ってもんよ。
あなたたちがいなかったら今あたしも生きてなかった。恩返しさせてちょうだい」
魔女「竜人、あたしは旅人を信じるよ。悪い人には見えないもん」
竜人「そうですね。では旅人さん、お話します。実は……」
旅人「………………マジ?」
魔女「マジ」
竜人「マジです」
旅人「なにそれ~~情報通を名乗るあたしが全然知らなかったなんてあり得ないわ。本当の本当にマジなの?」
魔女「マジ」
竜人「マジです」
旅人「うっそぉ~~!?えーこわい!!こわいわ!!」
魔女「あたしも……こわいよ」
竜人「魔女?」
479 :◆TRhdaykzHI 2013/10/09(水) 19:24:47.94 ID:4Avc9FH/o
魔女「本当はね、ちょっと怖いんだ。うまくいかなかったらどうしようって考えちゃうと、怖くて仕方ないよ」
魔女「もう友だちや家族が、大切な人たちが傷つけられるのなんていや。あたしだって誰かに否定されたりしたくない。
魔族の血が流れるあたしを、皆を、誰にも否定されたくない。胸を張って生きていきたいの」
魔女「あたし、魔王様とか竜人みたいに器大きくないからさ、実を言うとまだちょっと人間が憎いよ」
竜人「魔女……」
旅人「……」
魔女「でも、その憎しみのまま行動したらこの先ずっとそれが続いちゃうって分かってる。
憎しみが憎しみを生んでいつまでもそのまま。何も新しいの生まれないよね」
魔女「それに人間の中でも勇者や神官、戦士とか、旅人とか、あたしたちを助けてくれる人もいるって知ったから。
あたしは魔族だけの世界じゃなくて、魔族と人間の世界で生きていきたい」
魔女「怖いけど、がんばるよ。……って、話が脱線しちゃったね」
旅人「魔女ちゃん……。そうよね。怖がってちゃ何もできないわ」
旅人「……。あたしにも手伝わせてくれないかしら?あなたたちの力になりたいわ」
竜人「いいのですか?」
旅人「ええ」
480 :◆TRhdaykzHI 2013/10/09(水) 19:25:25.75 ID:4Avc9FH/o
旅人「命を救ってくれた恩……ここで返さなきゃカマが廃るってもんよ!!!!ねえ!?」
魔女「わーい!旅人が仲間になったぜ!」
竜人「ありがとうございます」
旅人「で?認定書は勇者ちゃんたちがとってきてくれるのね?後は王子様だけってこと?」
魔女「うん。あ、でも一応手がかりはあるよ。これからあたしたちは魔王城に行くつもり」
旅人「そう。あたしはあたしでツテを伝って探してあげるわ。そうねぇ……一週間よ」
竜人「?」
旅人「一週間で見つけ出してみせる。太陽の国の、広場の前の宿屋は知ってる?」
旅人「一週間後、そこで落ち合いましょう。それくらいの時間があれば、勇者ちゃんたちも仕事が終わってるはずよね?」
魔女「だといいけどね」
旅人「じゃあそういうことでいいわね。勇者ちゃんによろちくび。あたしもすぐにここを発つわ」
竜人「あ、あの?本当に一週間で見つけられるんですか!?」
旅人「だって顔見知りだもん」
481 :◆TRhdaykzHI 2013/10/09(水) 19:26:29.60 ID:4Avc9FH/o
竜人「えっ?」
旅人「小さい頃からの知り合いよ?あいつって臆病で無責任でホントろくでもない奴なんだから」
旅人「すぐ捕まえてあげるわ。まかせて」バチコン
竜人「え……本当に?」
外
竜人「強烈な人間もいるもんですね……」
魔女「あたしたちはどうする?」
竜人「私たちは私たちにできることをしましょう。とりあえず魔王様に……」
勇者「あれ?」
竜人「あ」
魔女「あーーー!」
482 :◆TRhdaykzHI 2013/10/09(水) 19:27:01.84 ID:4Avc9FH/o
魔女「遅いよ!なにしてたの皆。てかいつこっち来てたの?」
竜人「入れ違いにならなくてよかったです」
神官「すいません。ちょっと太陽の国で足止め食らっちゃってまして」
盗賊1「久しぶりっす魔女の姉貴に竜人の旦那」
盗賊2「どーもー」
魔女「って、君、なにちゃっかりそっち加わってんの」
仮面「無理やり加えさせられたんだよ!」
戦士「二人とも、久しぶりだな」
勇者「朗報だぜ。認定書は二つとも手に入れた」
竜人「え!?は、早いですね」
魔女「すごいね!やるじゃん!」
戦士「あとは放浪王子の行方だけだ」
竜人「あ、そのことなんですけど、さっき……」
483 :◆TRhdaykzHI 2013/10/09(水) 19:29:34.71 ID:4Avc9FH/o
勇者「えっ……あの旅人が協力してくれるって!?あ、あいつが?」
魔女「一週間で王子様を見つけ出すって言ってたよ」
竜人「一週間後、太陽の国の広場前の宿屋で落ち合おうと仰ってましたよ」
勇者「王子を見つけるったって……」チラ
仮面「? なんだよ」
勇者「いや……何も」
勇者(表情が読めない……やっぱり見当違いだったか?でもなぁ……偶然にしちゃ出来すぎだ……)
竜人「とは言っても、私たちは私たちなりにできるだけ王子を探してみます。
手がかりを手に入れたので、これから魔王様のところに行きますがあなた方はどうしますか?」
勇者「俺たちは……一度王国に帰るよ。待ってる仲間たちにも報告したいし」
勇者「あ、そうだ。王国に来るときはくれぐれも気をつけてくれ。国王に反する者たちが同盟を組んでるってのも、もうばれてる。
魔族に対しての警備もきつくなってるはずだ……できればもう王国には来ない方がいいかもしれないな」
竜人「ついに露呈してしまいましたか。……分かりました。気をつけます。あなたたちこそ気をつけてくださいね」
勇者「ああ」
神官「あともう少しです。お互い頑張りましょう」
戦士「ここが正念場だな」
竜人「ええ。なにもかも、本当にありがとうございます。では何かあったら鳥を飛ばすので」ニコッ
魔女「またねー!」
勇者「おう!」
484 :◆TRhdaykzHI 2013/10/09(水) 19:30:01.28 ID:4Avc9FH/o
太陽の国
シュンッ
勇者「……っと。よし」
神官「ふぅ。帰ってきましたね」
勇者「とりあえず女主人のいる店に歩いていこう。認定書のことは彼女に伝えておけば大体みんなに伝わると思うし。
俺たちが発ってからの国王の動向も訊いておきたい」
戦士「ここからならすぐだ。行こう」
仮面「……」
仮面「この国に入るのも久しぶりだ……」
盗賊1「兄貴?」
仮面「……いや、なんでもねぇよ」
勇者「あ、あれ?今日は閉店か?珍しいな」
神官「お店の中、誰もいませんね。もしかして女主人さん、体調が悪いんでしょうか?」
勇者「じゃあ冒険者ギルドか本屋のじいさんのところに行くか……ここへは明日また来てみよう」
仮面「俺たちはここらへんで分かれていいよな?あとは一週間後、広場の前の宿屋に行きゃあいいだろ?」
仮面「じゃあな」
勇者「……待て」
485 :◆TRhdaykzHI 2013/10/09(水) 19:30:29.22 ID:4Avc9FH/o
仮面「あ?」
勇者「少し……話がある」
仮面「なんだよ」
神官「勇者様……?」
勇者「…………」
勇者「間違ってたら謝るよ。……あのさ」
勇者「その仮面、とってみてくれないか?」
仮面「……何故だ?」
勇者「もしかして、お前は――」
兵士「勇者殿!勇者殿ではありませんか。お帰りになっていたのですね」
勇者「!」
仮面「!」
勇者「あ……ああ」
兵士「このような細道で何をしていらっしゃってたんですか?」
兵士「街で勇者殿をお見かけ次第、宮廷にお連れするようにと国王様から言付かっております。一緒に来て頂けますか?」
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486 :◆TRhdaykzHI 2013/10/09(水) 19:31:43.15 ID:4Avc9FH/o
戦士「国王様が……?」
神官「(また全体訓練ですかね?憂鬱……)」
勇者「分かった。仮面、話はまた後でにしよう」
兵士「そちらの方々は勇者様のお仲間ですか?でしたらご一緒に宮廷までお越しいただきたいのですが」
仮面「俺たちがこいつらの仲間?そんなわけねぇだろ」
仮面「この勇者様とやらは正義感だけはご立派のようで。俺たちが怪しい商売をしてるだかなんだかでイチャモンつけられてたところだ。
助かったぜ兵士さん。な、勇者さん、もう見逃してくれたっていいだろ?国王様がお呼びだぜ」
盗賊2(?? 兄貴?)
仮面「そら行くぞ、てめーら。さっさとトンズラだ」
盗賊1「??へ、へい」
兵士「……あのような者はいかに法を厳しくしても、警備を強化しても、一向に減りませんなぁ。
魔族のこと以外にも、問題は山積みです」
兵士「盗賊風情なんぞをお仲間と勘違いしてしまい、大変失礼しました。では行きましょう」
勇者「……ああ」
487 :◆TRhdaykzHI 2013/10/09(水) 19:32:09.52 ID:4Avc9FH/o
宮廷内
コツ、コツ、コツ……
兵士「国王様はもうお待ちになっておられるはずです」
神官「(さっきの、仮面さんにする予定の話って、なんなんですか?)」ヒソヒソ
戦士「(俺も気になるな)」
勇者「(ああ。そうだな、二人には話しておいた方がいいか。……これは俺の憶測でしかないんだが)」
勇者「(仮面が……俺たちが探し求めてる人物なんじゃないかって)」
神官「(へっ!?)」
戦士「(ハハ……あんな王位継承者がいてたまるか)」
勇者「(いや、冗談じゃないって。俺もまさかとは思ったけどさ。でも考えてみてくれよ、いろいろ辻褄が合うんだ)」
神官「(しかしですね。じゃあなんでずっと今まで一緒にいたのに、名乗りでてくれなかったんです?)」
勇者「(そりゃあ……まあ。事情があるんだろ、あいつにも)」
勇者「(とにかく、今日帰ったら確認してみるぞ。違ったら違ったで、また探せばいい。旅人の言う一週間後ってのも気になるしな)」
兵士「殿下、勇者様がいらっしゃいました」
勇者「(おしゃべりはここまでだ。また後でな)」ヒソ
神官「(はい)」
488 :◆TRhdaykzHI 2013/10/09(水) 19:32:57.68 ID:4Avc9FH/o
謁見の間
国王「来たか、勇者よ。いきなり呼びつけてすまなかったな」
勇者「いえ、滅相もありません。お待たせしました」
国王「……今日お主を呼んだのはほかでもない」
勇者「…………?」
国王「ひとつ……お主に訊きたいことが」
国王「あってな」
489 :◆TRhdaykzHI 2013/10/09(水) 19:35:04.61 ID:4Avc9FH/o
今日はここまで
しか
499 :◆TRhdaykzHI 2013/10/11(金) 18:28:33.85 ID:o74a0MbXo
* * *
昨晩
タッタッタッタ…
コンコン
魔王「グリフォン。いるか?」
グリフォン「君か。いらっしゃい」
魔王「いま、いい?」
グリフォン「いいよ。お茶淹れるから適当にその辺座って」
魔王「ありがとう」
魔王「いつも以上に書が散乱してるな。いい加減片付けたらどうだ」
グリフォン「片づけてるよ。はい紅茶」
魔王「……?この手紙の山積みは一体?」
グリフォン「あぁ。人間からの手紙さ。この間勇者くんが持ってきてくれてねぇ」
魔王「人間から……」
グリフォン「僕の本を読んでくれた人間からの手紙。軽い気持ちで書いたものだったけど……なかなかに嬉しいものだね」
魔王「そうか。よかったな」
500 :◆TRhdaykzHI 2013/10/11(金) 18:32:33.83 ID:o74a0MbXo
魔王「……ふふ」
グリフォン「どうして笑ってるんだい?」
魔王「グリフォンのそんなに穏やかな笑み、はじめて見たと思ってな」
グリフォン「失礼だなぁ。もうこの話はいいよ」
魔王「そんなに照れなくてもいいのに」ブラブラ
グリフォン「足をぶらぶらしない。 で?君の用事は?」
魔王「うん、貿易論についての本を持ってるか?持ってたら貸してほしい」
グリフォン「貿易論?人間社会のでいいんだよね?一応一昔前のならあるけど。君が魔法書以外の本を読むなんて珍しいね」
グリフォン「はい、これ」
魔王「ありがとう。ふむ。なるほど」パラパラ
魔王「…………単語の意味が全然分からないのだが」
グリフォン「だろうね。何故それを?」
魔王「いずれ、必要になってくるだろう。魔族と人間の関係が改善された後に」
魔王「それに勇者くんが星の王に約束してしまったらしいんだ。認定書の礼に、いずれ魔族との交易において優遇すると」
グリフォン「あらら」
魔王「今のうちに勉強しておかないとな……しかし、なかなか難航しそうだ」
501 :◆TRhdaykzHI 2013/10/11(金) 18:34:30.93 ID:o74a0MbXo
グリフォン「前向きだね」
魔王「当たり前だ。私が前向きじゃなくてどうする。一応これでも魔王なのだぞ」
グリフォン「分かってるよ、マオウサマ」
魔王「ふふん」
魔王「それから、城にいるときは勇者くんたちが使えるようなアイテム合成とかしてみた」
グリフォン「へえ、どんな?」
魔王「例えばこれだ。この青い粉末はただの粉ではない。ものすごい辛さの青とうがらしを粉にして呪いをかけた。
これを敵に振りまけば、相手はあまりの刺激に発狂して『ウニョラー』『トッピロキー』しか喋らなくなる」
グリフォン「どっかで聴いたことあるようなアイテムだね」
魔王「あとはこれ。魔法陣が描いてあるこの紙に、魔力をこめると……腰みのをつけた中年男性がでてきて、
敵を魅了するダンスを目の前で踊ってくれるのだ。その隙に使用者は逃げることができる」
グリフォン「それもどっかで聴いたことがある話だね」
魔王「そうだったか」
グリフォン「うん」
魔王「とまあこれは全部冗談だが」
グリフォン「君の冗談は分かりにくいね」
502 :◆TRhdaykzHI 2013/10/11(金) 18:37:21.30 ID:o74a0MbXo
魔王「いつか魔族と人が住む街をつくろうと思うんだ」
グリフォン「どうしたの突然」
魔王「城でやることがないので、これからのことやこれまでのことについて考える時間が多いんだ。
グリフォンは100年前の戦争以前、本当に人と魔族は完全な対立関係にあったと思っているか?」
グリフォン「思ってないよ」
魔王「……理由は?」
グリフォン「そうじゃないと半魔半人の僕たちのルーツがどこにあるのか分からなくなってしまう」
魔王「そうか……。私も同じ意見なんだ」
魔王「魔族の住む大陸と人の住む大陸は大河で隔てられていたけれど、本当に全く交流がなかったのか疑問が残る。
証拠はないから完全に推測だけど、川沿いの村にでも魔族と人が共存している、なんてことがあったのかもしれない」
グリフォン「そこで僕たちの先祖が生まれてたのかもね」
魔王「勿論大っぴらに交流が行われていたとは思えないけど。
だから私たちが、魔族と人が堂々と交流できるような街をつくるんだ」
魔王「港と、学校と、教会と、図書館と、店と、広場と、川と、橋と、畑と、家をつくって」
魔王「活気のある街にしたいんだ」
503 :◆TRhdaykzHI 2013/10/11(金) 18:42:56.46 ID:o74a0MbXo
グリフォン「名前は?」
魔王「ん?」
グリフォン「街の名前」
魔王「それはまだ決めてない。私はそういったセンスがないから」
グリフォン「君の名前をつければいいんじゃないかい?」
魔王「魔王村って? 嫌だ。そんなんじゃ人が寄りつかないだろう」
グリフォン「いや、そっちじゃなくて。君の本当の名前だよ」
魔王「……その方がもっと恥ずかしくて嫌だ」
グリフォン「街に人の名前つけるのって結構あると思うけどなぁ」
魔王「どうせ先の話だ、それまでじっくり考える」
グリフォン「僕が老衰で死ぬ前につくっておいてね」
魔王「まだ若いくせに、何を言う」
魔王「……じゃあ、邪魔したな。本は借りてくぞ。多分また分からないところを質問に来る」
グリフォン「僕もあんまり詳しくないけど……まあ、待ってるよ」
ガチャ
グリフォン「魔王様」
魔王「ん?」
グリフォン「『魔王』は楽しい?」
504 :◆TRhdaykzHI 2013/10/11(金) 18:48:36.72 ID:o74a0MbXo
魔王「……」
魔王「楽しいよ」
魔王「なってよかった」
グリフォン「そう」
魔王「魔王と言ったって……ただ今の魔族の中で最も魔力が強かったことだけが理由だったけど」
グリフォン「まぁ、10年前は今よりいろいろひどかった状態だしねぇ」
魔王「だから勇者と魔王の伝説なんて、今は効力を失っているだろうな。なにせこっち側の選別が適当だ。
『魔王は勇者にしか討ち滅ぼせない、勇者は魔王にしか討ち滅ぼせない』っていうアレだ」
グリフォン「あ~……」
魔王「勇者くんじゃなくても私は殺せるし、私以外の者でも勇者くんは殺せるだろう」
魔王「神の啓示も先代からの指名も何もない魔王だけど……楽しいよ。だから心配しないでくれ」
グリフォン「心配は別にしてないけどね。君がそう思うのならよかった」
魔王「全部うまくいくよ」
魔王「おやすみ、グリフォン」
グリフォン「……おやすみ、魔王様」
505 :◆TRhdaykzHI 2013/10/11(金) 18:51:33.66 ID:o74a0MbXo
魔王(本当に、伝説の通りだったらいいのに)
魔王(そうだったらこの世界の誰からにだって勇者くんは殺されたりしない)
魔王(伝説も神も運命も、きっと存在しないと思うけど……)
魔王(……あ。勇者くんたちは時の女神に会ったことがあるのだったか)
魔王(神が実在しているのなら……ほかだって、存在しているのかもしれない)
魔王(……)
魔王(そうだといいな)
506 :◆TRhdaykzHI 2013/10/11(金) 18:56:37.33 ID:o74a0MbXo
朝
魔王「……ふーむ」
魔王「やっぱり貿易というものは私にはよくわからないな。商人とやらを尊敬する」パラパラ
シュッ
魔女「まおうさまーーーっ!!」ガバッ
魔王「まっ……!?」
魔女「元気だった!?久しぶり!ほんと久しぶり!さびしくて泣いてなかった!?大丈夫!?」
魔王「泣いてないし大丈夫だ」
竜人「お久しぶりです。ほら魔女、魔王様が苦しさからの涙を浮かべてますから、離しなさい」
魔女「ごめんごめん」
魔王「二人とも、元気だったか?」
魔女「元気元気!」
507 :◆TRhdaykzHI 2013/10/11(金) 18:58:56.18 ID:o74a0MbXo
魔女「てかねー、いい知らせと超いい知らせがあるけど、どっちから先に訊きたい?」
魔王「じゃあいい知らせから」
魔女「はい、これ。雪の国で王子様の手がかり入手しましたー!魔術で居所調べて!」
魔王「耳飾りか」
竜人「最近の落し物だそうです。金髪碧眼、やけに羽振りがいい、首元を隠した男の」
魔王「羽振りがいい……か。王子のように身分が高ければそれも頷けるな。首のことも条件と一致する」
魔女「で、次の超いい知らせっていうのが、認定書二つ揃いました!あとは王子を見つけるだけ!イエーイ!」
魔王「本当か。すごいぞ」ナデナデ
魔女「えへへへ」
竜人「認定書の件は完全に勇者様たちの成果ですからね」
魔王「よし。後は王子の居所だけなら私の腕の見せ所だな……!さっそく魔術の準備をするぞ」
魔女「魔王様がんばれー!」
508 :◆TRhdaykzHI 2013/10/11(金) 19:01:59.08 ID:o74a0MbXo
魔王「あと一回分くらいの魔術の用意をしといてよかった。あとは……また血の採取だけだ」
魔女「ああ、女の子の血だっけ?いいよ、あたしやる」
魔王「何を言う、それくらい私にもできる。この間もできたんだ」
竜人「えっ……いや。私がやりますよ。はいどうぞ」
魔女「どうぞって、あんた男だろーが。なに言ってんの?大体なにその、性別がまぎらわしい一人称」
竜人「丁寧な口調を心掛ける私の意気込みを見習え」
魔王「……」スパッ
竜人「ってちょっと!!魔王様は魔王様で何無言でリストカットしてんですか!!」
魔王「大丈夫だ、二度目だしもう慣れた。じゃあ魔法陣発動させるから離れてくれ」
竜人「いやめちゃくちゃ涙目じゃないですか!?全然大丈夫じゃないように見えるんですが!」
魔王「うるさい、そこは見ないふりをしろ」
509 :◆TRhdaykzHI 2013/10/11(金) 19:08:13.56 ID:o74a0MbXo
魔王「……この耳飾りにはちゃんと魔法陣が作動したが……おかしいな」
魔女「なにが?」
魔王「これによると、耳飾りの持ち主、王子は太陽の国にいるらしい」
竜人「え?久しぶりに里帰りでしょうかね。でも居所が分かってよかった。
今は太陽の国は少し混乱している状況ですが、行くしかないでしょう」
魔女「だよねー、あたしまだ今日転移魔法使ってないし、さっさと行っちゃお」
魔王「魔力回復する薬草、そっちの棚にストックが、ある―― え?」
パキッ
魔王「……」
竜人「どうかしましたか?」
魔王「勇者くんからもらったブローチが」
魔女「あれ?ヒビがはいってるね。急にどうしたんだろ?魔王様握りしめすぎたんじゃないのー?」
魔王「そんなわけあるか。一体どうして……」
魔王「…………」ギュッ
510 :◆TRhdaykzHI 2013/10/11(金) 19:14:55.94 ID:o74a0MbXo
勇者「訊きたいこととは何でしょうか」
国王「……」
勇者(……なんだ?何故俺は汗をかいている?)
勇者(嫌な予感がする……まさか?)
国王「今日までどこに行っておった?」
勇者「……雪の国です。雪山に住む動物が凶暴化して困ってると人づてに聴いたので」
国王「ほう、では……その前はどこへ?」
勇者「どこへ、と言われましても……この国に、いました」
国王「嘘をつくな。本当のことを申せ」
国王「魔王城に行っておったな?」
神官「えっ……」
戦士「何……?」
勇者「……!」
511 :◆TRhdaykzHI 2013/10/11(金) 19:16:35.85 ID:o74a0MbXo
国王「お主がどうも魔族のことを気にかけすぎておるように思えてな。悪いが魔術師に動向を探らせてもらった」
神官「……大陸全土に渡って対象者の位置を把握できる魔法なんて」
国王「そんなに高度な魔術ではない。勇者に『魔除けの札』と言って渡したあれのおかげだ」
勇者「……」
国王「魔除けの効果など、あの札にはない。宮廷魔術師が現在研究中の魔術アイテムだが、どうやら成功のようだな。誤作動などではなくてよかった」
国王「さて……お主が我らの宿敵たる魔王の根城に、何故行っていたのか……。
それを何故先ほど私に告げなかったのか……」
国王「何か申し開きがあるのなら言ってみるがよい」
国王「勇者……いや。国に仇なす反逆者よ」
騎士「……」チャキ
騎士「……」スッ
勇者「くそっ!」
512 :◆TRhdaykzHI 2013/10/11(金) 19:18:48.06 ID:o74a0MbXo
神官「わわ……!」
戦士「チッ……」
勇者(王の周りに10人、扉の前に10人)
勇者(腕が立ちそうな奴もチラホラいるが、俺と戦士ならゴリ押しでいけるな)チャキ
国王「この場で剣を抜いたということは、認めたと考えていいのだろうな?」
勇者「その通りですよ。俺たちはあなたについていけません。悪いが反旗を翻させてもらう」
国王「愚かな真似を……貴様には悉く失望させられたわ」
勇者「愚かなのは――あんただ」
勇者「戦士!」
戦士「ああ!」
騎士「ウオォォォォォォ!!!」
騎士「覚悟っ!!」
勇者「はあぁぁッ!」
戦士「――フンッ!!」
513 :◆TRhdaykzHI 2013/10/11(金) 19:21:38.47 ID:o74a0MbXo
――ドサッ……ドサドサッ
騎士「ぐ……」
騎士「がっ」
国王「……腐っても元勇者か」
騎士「扉の前の騎士が一瞬で……!?」
勇者「退くぞ!」
神官「は、はい……っ!」
戦士「どけっ!」ガィン
騎士「ぐあ……ッ」
国王「待て。この者たちを見殺しにするつもりか?」
勇者「!?」