ホラー

【洒落怖】雷鳥一号さんシリーズ

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山肌

137 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ :2010/07/14(水) 19:40:04 ID:p8hM9b+60
昔馴染みの話。

子供の頃、山中の実家に帰省している時のこと。
早朝に外の手洗いで顔を洗っていると、裏山の方で何か大きな影が動いた。
動きを追って山を見上げると、途轍もないモノが山肌に巻き付いていた。
深緑色をした大きな蛇。
それが山を抱くようにして、とぐろを巻いていた。
ゆらゆらと揺れる頭は、彼の方でなく余所を向いていたという。

ポカンとして見上げていると、スーッと蛇の姿は薄れていき、そのまますぐに消えてしまったそうだ。

ぺたん

138 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ :2010/07/14(水) 19:41:03 ID:p8hM9b+60
友人の話。

近場の神社で夏祭りが開かれたので出掛けた。
社は小さな山の中腹にあって、涼しくて過ごし易かったそうだ。
外れの縁石に腰掛けてイカ焼きを頬張っていると、すぐ背後で物音がした。
 ぺたん ぺたん ぺたん
振り向いてみたが、何処を見ても誰の姿も見えない。
柔らかい物が地面を叩くような音は、そのまま境内を渡っていき聞こえなくなった。

後日、神主の家の息子にこの話をしたところ、
「うちの氏神さんは大足だって伝わるけど、それ本当だったんだな」
と妙な感心をしていたという。

トビコンマ

139 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ :2010/07/14(水) 19:42:17 ID:p8hM9b+60
友人の話。

彼は幼年期を山中の実家で過ごしたのだが、時々不思議な体験をしたのだという。
夜寝ていると、屋敷の外より動物の鳴き声が聞こえてくることが時々あった。
ヒヒーンという馬の嘶き。天空を飛んでいるかのように、遙か高みで馬が鳴いている。

 トビコンマの鳴く夜にゃ出歩くな。お空の上へ攫われんゾ。

彼を寝かし付けていた祖母は、子守歌代わりにそう話してくれたという。
今はもう、天から馬の声が聞こえることはなくなった。
空を飛びながら嘶いていたモノが、どこへ去ったのか誰にもわからない。

一人で夏山を縦走していた

418 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2010/08/02(月) 18:45:06 ID:lS27VaVR0
友人の話。

一人で夏山を縦走していた時のこと。
真夜中、何かの物音に目を覚まされた。
 ぽちゃん ぽちゃん
水音のようだ。
深そうな水溜りに、小石が落ちているような、そんな音。
「水場はかなり離れているのに、ここまで音が聞こえるものかな?」
寝惚けながら考えていると、音はいきなりガサッという乾いたものに変わった。
膝まである草を掻き分けているかのような、そんな音。
・・・何かがガサガサと草を踏みながら、このテントの周りを巡っている・・・
息を殺して様子を伺っている内、やがて音は遠ざかって行った。
そしてまた、ぽちゃんと水が跳ねる音に変化する。
唐突に音は聞こえなくなった。
夜が明けるまで、それ以上とても眠れなかったという。

明るくなってから、辺りを散策してみた。
テントから少し離れた窪みで、古い石組みの筒が見つかった。
「井戸? こんな山の中に?」

419 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2010/08/02(月) 18:45:58 ID:lS27VaVR0
ふと嫌な想像が頭を過ぎる。
・・・昨晩、何かがここから這い上がって来、彼のテント周りをうろついた。
そして又この中に戻って、水の中に沈んでいった・・・
恐る恐る中を覗いてみた。
赤茶けた地肌が底の方に見える。
どう見ても、ずっと昔に枯れた井戸だった。
「俺があの夜聞いたのは、一体何の音だったんだろう?」
今でもそれが不思議なのだという。

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人が寄りつかない沢

87 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2010/10/01(金) 20:51:47 ID:PlJ4YC6p0
知り合いの話。

彼の住む町の外れに、人が寄りつかない沢があるのだという。
山を少し入った所にあるその沢は、底の方に分厚い粘土が溜まっているらしい。

この沢辺を歩いていると、足元に何かがベシャリと投げ付けられるそうだ。
まだ水を滴らせた、濡れた粘土の塊が。
誰かが握ったかのように、表面には指の痕らしき太い筋が四本浮いている。
間違いなく水底から掬われたものだが、沢の面はどこも乱れなく静かなまま。
辺りには自分たち以外誰の姿も見えない。
大抵の人はその時点で逃げ出す。
だから一体誰が土塊を投げているのかはわからない。

「昔からあそこには鬼が棲んでいるって言われてるんだ。
 だから誰も寄りつかないんだよね」
さらりと彼はそう言った。

山中の村

88 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2010/10/01(金) 20:53:02 ID:PlJ4YC6p0
友人の話。

彼の実家は山中の村なのだが、そこに里帰りすると、必ず奇妙な体験をするらしい。
帰郷した翌日に目を覚ましてみると、起き上がることが出来ないというのだ。
腰が抜けたかのようにまったく力が入らない。
前日は大した運動もしていない筈なのに、至る部位に筋肉痛も感じる。

実家の人間に言わせると、夜中に河童と相撲を取ったのだろうという。
河童は眠り込んだ人を操れるそうで、
意識のなくなった人を寝床から外に誘い出して、一晩中相撲を取って楽しむのだと。

友人は偶にしか帰ってこないので、河童たちも懐かしくて嬉しくて、ついつい相撲を取りまくってしまうのだろう。
家人はそう笑っていた。
「河童に知り合いはいないんだけど、
 家の者が言うには、この辺の河童は村の住民一人一人を皆覚えてるっていうんだ。
 別に眠るの待たなくても、相撲くらい付き合ってやるのになぁ。
 ・・・あーでも、やっぱり一晩ぶっ続けってのは、勘弁して欲しいかなぁ」
友人はどこかしら困った顔でそう言っていた。

石神様

89 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2010/10/01(金) 20:54:51 ID:PlJ4YC6p0
幼馴染みの話。

彼が昔住んでいた団地は、山を切り開いて造られていた。
その山から切り出したのだろうか、団地の外れに、大きな石が置いてあった。
綺麗にされてはいたが、石碑のように字が彫られている訳でもなく、ただ単純に置かれているだけだったという。
子供たちはその石を『石神様』と呼んでいた。

この石神様、夜になると時折、低い声で笑っていたらしい。
彼もそれを聞いたことがあるという。
熟帰りに自転車を押して横を過ぎると、間違いなく石の方から「フフフ」と含み笑いするような声がしたのだと。
「おー本当だったんだ」と子供心に感心し、一つ手を合わせて拝んでから、その場を後にしたそうだ。
「怖くなかったの?」という私の問いに、
「何が?」と彼は不思議そうな顔で問い返した。

その団地も再開発が進んでいる。石神様は今も笑っているのだろうか。

棚田

190 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2010/10/06(水) 20:00:34 ID:w7PXzX4g0
知り合いの話。

彼の実家のある山には、一風変わった物の怪が出ていたのだという。
「あの辺り山の斜面なんて、どこもかしこも棚田になっているんだけどな。
 そこに馬が出るっていうんだ。
 夕暮れ時、畦道をぽつねん歩いていると、いきなり後ろから馬の嘶きが聞こえる。
 振り返ると水を張った田圃の中から、馬の首だけが伸び上がってるんだと。
 胴体は泥の下・・・と言っても、でかい馬が潜れるだけの深さなんて無いんだけど。
 馬ってのは笑うと妙に人間臭い顔になるんだけど、こいつもそうらしい。
 人を小馬鹿にしたような表情で、ブルルルル・・・って笑うんだとさ」

「デンバとか呼ばれてた。田の馬とでも書くんだろうな。
 こいつに出くわすと、しばらく水に近よるなって言われてた。
 引き摺り込まれるとかどうとか。
 面は馬なのに、やるこたぁ河童と似たようなモンだね」

「芸が無いよなぁ」
彼は最後にそう付け加えた。

紅葉谷

191 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2010/10/06(水) 20:02:03 ID:w7PXzX4g0
友人の話。

ある秋の日、思い立って山奥の紅葉谷へ一人出掛けた。
平日だったこともあってか人っ子一人いない。
足を止め秋の風情を満喫していると、紅く染まった葉が一枚、カサリと頭の上に落ちてきた。

その後も彼が足を止める度に、決まって紅葉が一枚だけ、頭の上に落ちてくる。
まるで誰かが彼を狙っているかの如く、正確に。
何度も頭上を確認したが、紅い葉以外何も見えない。

気味が悪くなったので、早々に退散したのだという。

竹薮

192 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2010/10/06(水) 20:03:37 ID:w7PXzX4g0
知り合いの話。

彼の親戚の山には深い竹薮があって、毎年かなりの量を切り出して処分している。
刈るのを手伝っていたある日のこと。
お昼に弁当を食べた後、気持ち良くなって昼寝をしてしまった。

どれくらい寝たのだろうか、誰かの声で目を覚まされた。
「うおーぃ。ここで寝ちゃいかんぞぅ」
その日山に入っていたのは彼一人だけの筈。
驚いて身を起こしたが、周りの青竹の中には、誰の姿も確認できなかった。

山を下りて親戚にこの話をしたところ、次のように言われた。
「家じゃ昔から“竹の翁”とか“竹爺”って呼んでる。
 あそこで転寝すると、必ず起こしに来るんだって。
 いやそれ以外何もしないんだけど、絶対に熟睡はさせてくれないんだ」

彼はその後も、二回ほど声に起こされているのだそうだ。

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山の動物

279 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2010/10/12(火) 19:17:43 ID:5lGlhe130
知り合いの話。

彼女の家は街外れにある。
山からはかなり離れているのに、何故か山の動物がよく現れるのだという。
それも決まって、死体で。
状況からするとどう考えても、動物が庭に自分から入り込み、そしてそこで息絶えたとしか思えないのだそうだ。

彼女は一度だけ、その現場を直接見たことがあるという。
痩せた狐が垣根の間から入り込んできて、庭で腰を下ろした。
そこは彼女の部屋の真前で、机に座っていた彼女と窓越しに目が合った。
次の瞬間、パタリと倒れて動かなくなる。
庭に出てみると、狐は既に死んでいた。

「何でみんな、わざわざうちに死にに来るのよ!?」
悲しそうな顔で彼女は嘆いていた。

古い山寺

280 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2010/10/12(火) 19:19:22 ID:5lGlhe130
友人の話。

単独登山中、古い山寺に泊めてもらったのだという。
夜中、何かに顔を撫でられて目が覚めた。
彼曰く“柔らかい筆で頬を撫でられたみたいな”、そんな感触だった。
寝袋の周りには誰もいなかった。
顔に手をやると、しなやかな感触が触れる。
慌てて明かりを点けて確認した。
髪の毛の束だった。
長さは小一メートルほどもある。
部屋を隅々まで見て回ったが、間違いなく自分一人しかいない。
流石に気味が悪く、別の場所に寝床を移し、再度寝ることにした。

しばらくして、また何かに顔を撫でられた。
やはり髪の毛だった。

その後も彼が寝入ると、天井からパサリと髪が降ってきた。
お陰でろくに寝られなかったらしい。
翌朝、住職に大量の髪の毛を見せてみたが、不思議そうに首を捻るばかり。
礼の言葉もそこそこに、その寺を後にしたそうだ。

木に古タイヤ

281 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2010/10/12(火) 19:20:49 ID:5lGlhe130
友人の話。

幼い頃、祖父に頼み込んで、実家の裏山の木に古タイヤを吊して貰ったという。
「俺ってあの頃、パンダ大好きでさ。
 ある本で“パンダは木に吊したタイヤで遊ぶのが好き”ってのを読んでから、
 そうかそうすれば裏山にもパンダが遊びに来るかもしれない!って思いついたんだ。
 パンダが中国にしかいないと知ったのは、小学校に上がってからだったわ」
お前さんの遊具くらいにはなったろう。それとも熊でも戯れに来たかい?
からかってそう言うと、微妙に表情が変わる。
「いやそれが、確かに何かが山から下りてきて、あのタイヤにぶら下がってたんだ。
 でもソレって、どこをどう見てもパンダとか熊とかじゃなかった。
 全身が黒かったし、それに加えて首だけが異様に長かったから。
 うん、怖くて気持ち悪くてとても近よれなかったから、隠れて遠くから見てた。
 まぁ結局、見るのにも飽きて帰っちゃったんだけど。
 あんな変なモノを見たのは、後にも先にもあの時だけだったなぁ」

その後すぐまた祖父に頼んで、タイヤを撤去して貰ったそうだ。

緑色の物

376 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2010/10/20(水) 18:33:17 ID:WAVoq6M80
知り合いの話。

子供の頃、山裾に開けた原で遊んでいると、不気味な物を見つけた。
川の中程に緑色の物が引っ掛かっていたのだ。
一番の怖い物知らずが水に踏み込み、それを手にして帰ってきた。

間近で見た皆が皆、「何だこれ?」と考え込んでしまった。
大きさは自分たちの二の腕くらい。緑色でブヨブヨと柔らかい。
中程が肘みたく曲るようになっており、端には指にも見える突起が三本。
間の膜は水掻きにも見える。そして何より、えらく生臭い。

知り合いのお爺さんが通り掛かったので、呼び止めて聞いてみた。
「こりゃカワッパの腕だ。
 腕抜けといってな、あいつらの腕を引っ張るとポンって抜けるんだ。
 時々そそっかしい奴腹がいて、こうやって下流に流しちまう。
 さぁ川に返しておやり。そのうち拾いに来るからな。
 うっかり持って帰ったりすると、家まで取りに来るぞ」

そんな気味の悪い代物を、持って帰ろうとする子はいなかった。
言われた通り、元の川に流してやったという。

「あれ、持って帰ってたらどうなってただろうな。
 河童が見られたのかな? 今考えると惜しいことしたかも」
彼はそう言って苦笑した。

軽めのハイキング

377 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2010/10/20(水) 18:39:21 ID:WAVoq6M80
友人の話。

浅い山で軽めのハイキングを楽しんでいた。
午後の中半、道脇の石に腰を下ろし、軽く食べて休憩しようとザックを開けた。
菓子パンを取り出していると、視界の隅に何か蠢く物がある。
顔を上げると、少し離れた道上に見慣れた形が落ちていた。
自分のものと同じくらいの大きさの、人の右手。
丁度手首から上の部分が、地面の上で指をゆっくりと開いたり閉じたりしている。
白い肌に浮いた青い静脈がいやに目に付く。
何を見ているのか理解するより早く、手はスススッと滑るようにこちらに向かってきた。
「うわぁ!」思わず声を上げ、後ろに仰け反り石から転げ落ちた。
慌てて起き上がり辺りを見回すと、もう右手はどこにも見えない。
そしてまだ一口も食べていない菓子パンも、綺麗さっぱり無くなっていた。

足代

378 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2010/10/20(水) 18:40:53 ID:WAVoq6M80
知り合いの話。

山道を歩いていると、頭上から「おーい」と誰かが呼んできた。
見上げても誰もいない。
首を傾げていると、すぐ背後から言葉がかけられた。
「どこに行くのだ?」
つい反射的に「近くの里の親戚だ」と答えてしまう。
すると見えない誰かはこう宣った。
「腰の酒をくれるなら運んでやろう」
確かに酒をぶら下げてはいたが、これはその親戚への手土産だ。
「いやそりゃダメだ・・・」と返す間もなく、いきなり背中から抱き上げられる。
目の前の風景がグニャリと溶けたかと思うと、次の瞬間、見覚えある屋敷の前に立っている自分に気がついたという。
慌てて腰をまさぐったが、酒瓶は綺麗に空となっていた。
しかもそこは、確かに親戚の屋敷ではあったけれど、その日彼が訪れる予定の家ではなかった。親戚違いだ。

「間違えて配達された上に、足代までしっかり取られちまった。
 まったく、この山の天狗様はそそっかしくて困るよなぁ」
彼は頻りにそうぼやいていたという。

416 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ :2012/11/23(金) 17:30:52.21 ID:4MUbGXz30
山仲間の話。

単独で入山中に、不思議な光景に出会した。
行く手の繁みの中で男性が二人、藪漕ぎしながら歩いているのだが、
ある程度進むとくるりと踵を返してから、元来た藪中を戻っていく。
そのまま50メートルほど戻ると、そこでまた180度回転し、再びこちらへ向かって進んでくる。
その二人組はそんなことを何度も繰り返していたのだ。
顰め面が見て取れるほどに近よってみたが、向こう側は彼のことが目に入らないようで、気が付きもしない様子。
「あのー、何をしているんですか?」
流石に気になってそう声を掛けると、吃驚した顔で立ち止まった。
二人して安堵の息を吐きながら、こんなことを口に出す。
「あぁ良かった、人に逢えた。
 僕ら、実は昨日からずっと道に迷ってて・・・。
 ここがどこかわかりますか?」
「いや、あなた方、ずっとそこでグルグル行ったり来たりを繰り返していたんですけど?」
そう指摘された二人は、彼にからかわれたものと思ったらしく、
「何を言ってるんですかぁ」と苦笑しながらこちらに向かってきた。

川猿・淵猿

468 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ :2012/11/28(水) 19:24:21.57 ID:5cxupuHR0
知り合いの話。

彼の祖父はかつて猟師をしていたという。
遊びに行った折に、色々と興味深い話を聞かせてくれた。

「ある淵近くの河原で、連れと二人休んでた時の話だ。
 真夜中、その連れがいきなり暴れ始めよった。
 どうした!?って駆けよったら、身体の横に小柄な猿のようなモノが取り憑いてる。
 黒い手を伸ばして、連れの手首を握ってた。
 大慌てて突き飛ばしたんだが、そいつ今度は儂の腕を握ってきやがった。
 握られた途端、視界が霞んで息が詰まってよ、もうパニック起こしまくったわ。
 目鼻口が、一気に水で溢れたんだな」

「後で考えると、大方儂自身の涙や鼻水だったんだろうが、そん時は必死でそんなこと考えるどころじゃなかった。
 儂にしてみりゃ、水の中に顔沈められたようなモンで、あん時はそのまま溺れ死ぬかと本気でビビッたわい」

「幸い、復活した連れが儂からそいつを引っぺがしてくれて、何とか息が吐けた。
 二人がかりで焚き付けや棒ッキレを持って、死に物狂いで追いかけ回したよ。
 猿ほどの大きさしかなかったんじゃが、これがまたすばしっこくて、おまけに触られるとこっちはたちまち溺れちまうときた。
 立ち向かうのにえらく苦労したよ」

469 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ :2012/11/28(水) 19:26:24.93 ID:5cxupuHR0
「それでも何とか散々叩きまくって、ようやくそいつが逃げ出したんだ。
 暗い河原をタタタッて走り去ってから、ドポーンと淵に飛び込む音がした。
 それっきり静かになったんだが・・・とても淵を覗き込む気力が沸いてこなくてよ。
 二人揃って寝ずに朝まで過ごすことにした。
 火を起こすと、お互いあまりにも情けない顔してたんで、それでまた疲れたな。
 儂も連れの奴も、涙と鼻水と涎を垂れ流しまくりのこぼしまくりだったから。
 それからはもう朝まで何も出て来んかった。
 日が昇ると、直ぐにそこを引き払ったわい」

「話に聞くところの“川猿”とか“淵猿”って奴だったかもしれねえな。
 何でも毛の生えた河童みたいなモンらしいが、あんな化け物に水ン中で捕まえられたら、
 そりゃ何も抵抗できずに引き摺り込まれるだろうと思ったよ」

「河童の類ってのは怖えぞ」
祖父さんはそう痛感して、
それ以降家族が水遊びに出掛ける時には、くどいほどに注意するようになったのだそうだ。

藪の中

417 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ :2012/11/23(金) 17:32:24.29 ID:4MUbGXz30
いきなり前を歩いていた方が立ち止まった。
ギョッとした顔で足下を見つめている。
「ここ・・・昨晩僕らがテントを張った場所だ。
 このペグの痕、見覚えがある。
 ・・・嘘だろ、ここから半日以上は歩いている筈だぞ」
そう呟くと顔を上げ、あれ?っという表情になる。
「何だ、ここ、○○峠に下りる途中道じゃないか!!」
「・・・本当だ。今まで嫌と言うほど通っているのに。
 どうして気が付かなかったんだろう?」
どうやら後ろの男性も、現在地の特定が出来たらしい。
二人して顔を見合わせて、頻りに首を傾げている。

丁度、下りる先が同じだったので、彼も二人に同行することにした。
問題なく下山出来て、礼を言ってくる二人に別れを告げたのだという。
「あの二人組、揃って狐にでも騙されたのかね?」
そんなことを考えたそうだ。

しかしその三年後、彼もその藪で道に迷い、別の登山者に助けられた。
道を失ったのは、正にあの藪の中であったという。

「・・・あそこの藪って、何かヤバいモノでも潜んでいるのかな・・・」
以来、彼はそこの道を利用しないようにしているそうだ。]

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山中の寂れた無人駅

720 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ :2012/12/11(火) 19:35:10.11 ID:G+3GUFky0
友人の話。

彼は中学生の頃、電車で通学していたという。
夏のある日、うっかり寝過ごしてしまい、目が覚めて大慌てで車両から下りる。
そこは山中の寂れた無人駅だった。
時刻表を確認してみると、後一時間近くは上りの電車は来ない。
「早まったなぁ。売店のある駅で下りれば、パンとかジュースとか買えたのに」
ボヤきながらホームの奥にあるベンチに向かったが、既に先客が何人か座っていた。
こんな僻地にこれだけ大勢の人がいるとは珍しいね。
そんなことを考えながら近寄っていったが、ピタリと足が止まる。
そこに座っていたのは、すべてマネキンだった。
一体誰が置いたものか。
慌てて踵を返し、ホームの反対側へ向かう。
近よるのが気持ち悪かったし、マネキンを置いた人物にも決して逢いたくなどない。
次の上り列車が来るまで、酷く落ち着かない気持ちだったという。

寒い夜

721 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ :2012/12/11(火) 19:35:45.31 ID:G+3GUFky0
山仲間の話。

冬山に単独で入っていた時のことだ。
夜中、酷い寒さのため、どうにも深く眠れないでいた。
震えながらうつらうつらしていると、するりと後ろから抱き締められた。
一瞬「あっ」と驚いたが、その抱擁があまりにも暖かく心地良かったので、ついついそのまま熟睡してしまったらしい。

気が付けば朝になっていた。
一人用テントの中には自分以外誰もいない。
閉ざされた入り口にも、誰かが出入りした痕跡は残されていなかった。
ただ、非常食用のカロリーメイトが二箱、空になっていたという。

見えない何か

722 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ :2012/12/11(火) 19:36:43.82 ID:G+3GUFky0
友人の話。

山中の獣道を一人辿っていると、見えない何かに顔をぶつけ、転けてしまった。
幸いにも硬い物ではなかったようで、怪我は負っていない。
身を起こして確認してみたが、目の前の空間にはやはり何も認められなかった。
「一体何にぶつかったんだ?」と不審に思いながら、手を前方に伸ばしてみた。
すると、そこには何もない筈なのに、暖かくて柔らかい感触が返ってきた。
驚きながら撫で回したところ、目には見えないが、透明な人型の何かがそこにある。
背丈は彼と同じくらい。
まるで空気が人の形に固まっているみたいで、何も動かず、何の反応も示さない。
尚もそれを触っていると、いきなり背後から何かが「ドンッ」とぶつかってきた。
思わずよろめいて前方に踏み出すと、すっぽりと件の人型空間に嵌まり込んでしまう。
その途端、全身が硬直した。
金縛りに遭ったかのように、身動ぎ一つ出来なくなる。
悲鳴を上げることも叶わずに突っ立っていると、後ろから何かが触れてきた。
何者かが彼の身体を、恐る恐る撫で回していた。

やがて金縛りは解け、身体が自由に動かせるようになった。
慌てて背後に目をやったが、やはり誰の姿も見えない。
足早にそこから逃げだし、麓に着くまで足を休めなかったという。

クチタヤマ

779 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ :2012/12/15(土) 18:42:41.36 ID:ovODbRbZ0
後輩の話。

彼は高校生の頃、自転車で通学していたのだが、ある時この自転車が盗まれてしまった。
まだ新しい物だったので、大変に悔しく残念に思ったそうだ。

その内新しい車両を買い直すつもりで、しばらくは母君の自転車で通っていたのだが、
一週間もしないで警察から連絡があった。
彼の自転車が放置してあるのが見つかったという。
「新車を慌てて買わなくて良かった」と喜びながら、電車で一駅離れた町の交番まで引き取りに行くことにした。

翌日、交番を訪れ名前を告げると、初老の警官が自転車を持って来てくれた。
目を疑った。
記憶にある姿と異なり、自転車は酷く傷んでいたのだ。
色々な所が真っ赤に錆び付いていて、スポークも何本か朽ちて折れている。
ブレーキは何年も油を差していないかのように、ガチガチに固くなって動かない。
ゴムタイヤは前輪、後輪とも、カラカラにひび割れて裂けている。
「これ僕のチャリンコじゃないですよ」と文句を言おうとしたが、よくよく見るとそこここに見覚えのある特徴が発見できた。
唖然としながら尚も詳しく見てみると、
錆びた防犯登録証の下に、間違いなく自分の名前が書いてあるのが確認できたという。
「……何でたった数日でこんなにボロボロに……」
彼が呆れてそう言うと、警察官は残念そうな顔で教えてくれた。
「見つかったのがクチタヤマだからなぁ、運が悪かった」

780 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ :2012/12/15(土) 18:43:53.91 ID:ovODbRbZ0
引き取り書にサインした後、お茶を出してくれた警官は詳しい話をしてくれた。
「こいつが乗り捨ててあったのは、地元じゃクチタヤマって呼ばれてる山の麓でね。
 その山に捨て置かれた物はどうしてか、凄い早さで古くなってしまうんだ。
 物が朽ちるからクチタヤマ。名前の由来はそんなところだろう。
 年に一回は山の清掃作業があるんだが、
 出てくるゴミが決まってもう、何というかボロボロになり過ぎていてね、元の姿さえ想像できないよ」
「迷惑な場所ですね、それじゃ何にも利用できない」と彼が感想を漏らすと、
「過去には、美術品の偽物造りに利用されたことがあるらしいよ。
 古物専門の贋作師だったらしいんだが、新しい茶器なんかをあの山に埋めておくと、短期で良い感じに古びるんだとさ。
 まぁこれも犯罪に利用されたんだから、迷惑なことに代わりはないけどね」
苦笑しながらそう教えてくれたそうだ。
結局、直せる所は直してから、その自転車に乗り続けたという。

「僕が高校を卒業して、自転車に乗らなくなった頃、前輪の車軸が折れましてね。
 そこでやっと廃棄にしました。
 何と言いますか、僕が乗る間だけ必死に耐えてくれたような感じがしまして。
 愛着がかなり湧いてましたし、処分する時はちょっと寂しかったですよ」

現在、彼の机には、ピカピカに磨かれた自転車のベルが置かれている。
あの自転車に付いていた品なのだそうだ。

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