師匠シリーズ

【師匠シリーズ】麻雀2

【師匠の】師匠シリーズを語るスレ第六夜【行方】

師匠シリーズセルフパロディ

507 :麻雀2:2008/05/30(金) 22:52:53 ID:NKB/e3ng0
「師匠、師匠」
僕の声に師匠がビクリと反応して、うっそりと顔を上げる。
「ん? 大根は? ここにあった大根は?」
「寝ぼけてんですか。次、師匠のツモですよ」
師匠は半分寝てるような細い目で、なおかつ疑り深そうな目つきで雀卓の上をじっと見ている。
「まあ、いいか」
ようやくツモってくれた。
さっきからこんな調子なので半チャンのペースがめっきり落ちてしまっている。
無理もない。かれこれ30時間近くぶっ続けで4人打ち麻雀を打っているのだから。かく言う僕もかなり限界が近い。
長島茂雄風に言うならば「疲れからくる疲労」で今にも意識が途切れそうになっている。
残りの二人を見ると、それぞれにやはり顔色が悪い。
「そこ、私の河だ。自分のトコに捨てろ」
京介さんが目をショボショボさせながら師匠を睨む。
「ん?」と呟きながら師匠は、今度は歩くさんの河に捨てようとする。
「あら。あたしにくれるの? ありがとう」
ぽや~っとした表情で歩くさんは師匠の捨て牌を拾いあげ、自分の手元にもってくる。
おいおい、もうなんでもありかよ。
そう思った瞬間、歩くさんが手牌を倒し、可愛らしい声で「ろぉん」と言う。
師匠の捨牌の2ワンが当たり牌だったらしい。
ピンフイーペーコー。親の2900点は7本場で5000点。
気がつけば歩くさんの東場の親がやたら続いている。しかもすべてアガリでだ。

508 :麻雀2  2/15:2008/05/30(金) 22:54:20 ID:NKB/e3ng0
え? じゃあ8連荘したってことなわけで。『八連荘』の権利が発生したってことか。次から何でアガっても役満じゃないか。
しかしこんな状況では誰も気づくまい……
「ゴミ拾いでぱーれんちゃん~」
って、本人気づいてんじゃん。やべー。
歩くさんはゴミ拾いの歌を歌いながらふらふらと頭を揺らして師匠から点棒を受け取っている。
「大根は?」
師匠はまだ僕らの目には見えないなにかにこだわっているようだ。正気と狂気の境にあるような目つきだ。
牌がはじけてコタツの上からこぼれるようなグダグダなシーパイの後、東1局8本場が始まった。
点数は
東家 歩くさん 75000以上
南家 師匠   14000ちょい
西家 京介さん  8000くらいかな
北家 僕      100

ううむ。序盤に何をアガッたのかすでに忘れたが、歩くさんはけっしてゴミ手ばかりじゃなかったようだ。大トップじゃないか。
僕は自分の点棒箱を見つめる。
何度数えても100点棒が一本だけ。

509 :麻雀2 3/15:2008/05/30(金) 22:56:00 ID:NKB/e3ng0
徹マン特有の変なテンションで、
『頭に浮かんだことはとりあえずなんでも口にしちゃう』状態の僕は「一本でーも、ニンジン」と歌いながらリーパイをする。
それを受けた師匠が「一発で~も、ニンシン」と死にそうな声で、それでもまるで義務的に口ずさみながら、
カチャリとドラ表示牌をめくる。
「死ね」
と言いながら京介さんが手元で牌を整える。
「じゃあ切りまぁす」
歩くさんがいきなり、ドラの5ピンを河に捨てた。
誰も無反応だ。
淡々と場は進む。
やがて沈滞した空気の中で、ポッと誰かがつぶやく。
「あ。今、妖精さんが見えた」
歩くさんだ。
目の前に透明な泡がぽこぽこと出ているような顔をしている。
「私なんかさっきから死んだお祖母ちゃんが見えてるんだけど」
京介さんが対抗する。
何の意地だよ。
「……俺なんかロビンマスクが……見えてるよ」
一番ヤバイ目つきの師匠がプルプル震える手つきで牌を捨てながらボソリと言う。
「あれ? 妖精さんが増えたよ」
「私もお祖母ちゃんが増えた。生きてる方の」
「ロビン……でも……だ……大根が……」
意味のわからないものをみんな見ているらしい。それぞれ大変だ。

510 :麻雀2 4/15:2008/05/30(金) 22:58:02 ID:NKB/e3ng0
かくいう僕も朦朧とする意識の狭間で、妙な捨て牌傾向に気づきはじめた。
歩くさんの5ピン切りに始まり、6ワン、5ソー、4ピンなど中チャン牌ばかりが場に捨てられている。
僕の手牌も1・9がらみばかりのチャンタ系の牌姿だ。
嫌な感じがする。
みんな大物狙いなのか。
タン、タン、と牌の音だけが響く師匠の部屋で僕はおもむろに口を開いた。
「あれ? あそこに見える、あれはなんですかね?」
ワンテンポ遅れてほかの3人の視線がそちらに向く。
部屋の隅にある師匠の洋服ダンスのカゲに隠れるように白いものが落ちている。
ここからではよくわからないが、あれは女性用の下着、つまりパンティではないかと僕は薄々気づいていた。
しかしこれはいずれ武器になると考えた僕はあえて今まで黙っていたのだ。
そして今こそ、その武器を発動する時が来たのだと思ったのだ。
つまり師匠と歩くさんを動揺させようという計略だ。
全員手を止めて、その白いものの方に注視している。
緊張感のある刹那の時。
やがてスッと立ち上がった人がいた。
京介さんだ。
エッ? と驚く僕を尻目に京介さんは洋服ダンスに近づいたかと思うと、シンプルな動きでその白いものを拾い上げ、
そのまま自分の席まで戻ってから手元の小さなハンドバックにそれを軽く丸めながら押し込んだ。
「さ、次は誰のツモだ?」

511 :麻雀2 5/15:2008/05/30(金) 23:00:30 ID:NKB/e3ng0
ワケのわからないまま固まる僕を置いて、場は何事もなく再開された。
師匠も歩くさんもぼーっとした顔で、さっきのやりとりの意味が分かっているのかも不明だ。
京介さんの横顔を覗き見たが依然として眠そうな目をパチパチさせながらもクールな表情を崩していない。
ただ僕だけが、目の前で起こった出来事の意味を考えて激しく混乱し、河も見えていなければ牌も手につかない有様だった。
どういうこと? どういうこと? 師匠の部屋なのに?
そんな言葉がぐるぐると頭の中で回り続ける僕は、気がつくとラス牌のペン7ピンをノータイムでチーしていた。
(しまった)
気がついても後の祭り。リャンハン縛りが発生している状況で鳴きを入れてしまった。
これではぼんやり見えていたチャンタやイッツー、それにピンフやイーペーコーをからめてのアガリができない。
慌てて場を見回すと、いつのまにか8ソーが暗カンされている。京介さんだ。これではチャンタ3色も無理だ。
役牌が一枚もない現状、これでは鳴きジュンチャンの2ハンに飛び込むしかないではないか。

512 :麻雀2 6/15:2008/05/30(金) 23:05:48 ID:NKB/e3ng0
なんとしても歩くさんの八連荘だけは阻止しなくてはならない。
だが、場にヤオチュー牌が高いこの状況では、鳴いて鳴いての早アガリもなかなか厳しそうだ。
京介さんのパンティなの? どうして? 
とりあえず2枚ずつある1ソーと9ワンは一鳴きしないといけない。
白いパンティ。浮いていたドラの5ピンも次の打牌で捨てないと。師匠の部屋で? パンティが?
「パンチィーッ!!」
頭がテンパッた僕は、奇声を上げながら京介さんの2ピンをチーした。123の順子完成。
一瞬びくりとした京介さんは「あ、ああ、チーか」とどもりながら2ピンから指を離す。
その顔にほんのりと朱が差したように見えたのは気のせいだろうか。
もう後には引けない。
絶対アガる。
霧が晴れるように眠気が徐々に揮発していく。
その後、あっさりと場に捨てられた9ワンをポンすることができた。
残る手牌はソーズの1・1・3と3ピン。
さすがに1ソー・ポンとカン2ソー・チーなどは最後が辛い。理想は1ピン・ツモで打3ゾーのカン2ピン・テンパイか。
そんなことを考えていると、いきなり目の前に1ソーが捨てられる。
「ポォーン!」
我ながらやたら良い声が出た。
ハイ、待ってられませーん。

513 :麻雀2 7/15:2008/05/30(金) 23:08:41 ID:NKB/e3ng0
とりあえず打3ゾーで裸の3ピン単騎待ちの形式テンパイとした後、すぐに1ピンをツモってくる。
一手遅いが、まあ良い。これで鳴きジュンチャン2ハンのテンパイだ。打3ピンで1ピン単騎。
ゾクゾクするぜ。この不気味な場で裸単騎というのは。
その時、嫌な視線を全身の細胞が感知した。
全員が見てる!
さっきまでぼんやりしてた3人組が急に目を輝かせてまじまじと僕を見ている。
あれ? 妖精は? お祖母ちゃんは? ロビンマスクはもういいの?
親の歩くさんがニマニマと笑いながら鼻歌でも歌う調子で、
「うふ。やってみたかったの~。オープンリーチって、振り込んだら役満だよね?」
師匠がおもむろに『レギュレーション』と表紙に書かれたノートを広げ、ペラペラとめくった後で、
「うむ」
と厳かに告げた。
「じゃあ、オープーン!」
パタリと歩くさんの手牌から一枚が倒される。
『発』
緑色の悪魔が卓の上でテカテカと光っている。
思わず嫌な汗がワキから流れる。
ああ。八連荘のかかった局なのにそんな軽いノリでオープンリーチかよ。

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514 :麻雀2 8/15:2008/05/30(金) 23:10:23 ID:NKB/e3ng0
あらためて河を見渡すと、発は1枚も切れていない。ていうか、字牌も全然見あたらない。
そうか。もう僕以外からは出ないし、待ち換えも危険と践んでのオープンか。アリだな。ダブルになるもんな。
(親のダブル?!)
残り100点の僕にそんなイカツイ手を食らわせる気か、この少女体型が!
ハァハァ。
息が荒くなる。
その緊張もつかの間、「しかたない」という声とともに京介さんがパタリと牌を一枚だけ倒す。
牌は『発』
「リーチだ。オープンで」
チャリンと千点棒が卓に転がる。
なるほど。これもアリだな。
歩くさんのオープンの時点で、単騎ならばもう待ち換えは不可能だし、
アガリ目はツモか僕からの出アガリのみだが、
オープンをかけておかないと自分だけオープン振り込みの役満が付かないからだ。
ガタガタ震える僕とは別に、深層意識の中の僕が冷静に思考している。
「じゃあ、俺も」
師匠がパタパタと手牌を倒していく。一枚ではない。すべてだ。

515 :麻雀2 9/15:2008/05/30(金) 23:11:46 ID:NKB/e3ng0
東南西北白中1萬9萬1索9索9索1筒9筒

国士無双『発』待ちテンパイ。
ふざけんな!
あんな眠りながら打って、なんでこんな手が入ってんだ!
西家の京介さんが4ワンをツモ切る。
次は北家の僕のツモ。
発は残り二枚。両方ともヤマの中だ。
ドキドキしながらモーパイをする。
ツモっちまえ! 1ピン!
ザラリ。
嫌な感触。
手元に置いて、薄目で覗く。
『発』
やってもーた!!
もうダメだ。僕のアガリ目はなくなった。
ポンした9ワンや1ソーに加カンしてのリンシャンツモならばチャンタと合わせて2ハンだが、
4枚目の9ワンも1ソーも師匠の手の中だ。
血の気の引く思いで、1ピンを切る。
これで発単騎。

516 :麻雀2 10/15:2008/05/30(金) 23:14:19 ID:NKB/e3ng0
三人が僕の待ち換えを意味深な目で見ている。
平常心平常心。悟られるな。呑まれたら終わりだ。
「お?」
歩くさん、師匠と無駄ヅモのあと、京介さんがモーパイする手を止めた。
(よし! 歩くさんにツモられるよりましだ)
しかし京介さんは、
「カンだ」と威勢良く言うと、ツモった牌と手牌を合わせて2ソーを四枚倒した。
そしてリンシャンに手を伸ばしつつカンドラをめくる。
新ドラ表示牌は8ワン。
あ、僕にドラ3乗った。
いやいやいや。僕アガリ目ないし。
そして京介さんはまたしてもリンシャン牌をモーパイしながら「お?」と言う。
「カン」
今度は6ソー・カン。
新ドラ表示はまたも8ワン。
うひょ。ドラ6。関係ないけど。
「カン」
うそお、という叫びが喉からほとばしる。

517 :麻雀2 11/15:2008/05/30(金) 23:16:37 ID:NKB/e3ng0
なんとリンシャン牌でまたもカンが成立し、序盤にカンしていた8ソーと合わせてこれで4回目のカンとなった。
それも暗カンばかり。しかも晒された牌は4ソーだった。
オープンの発単騎と合わせ、ソーズの

2222 4444 6666 8888 発

四暗刻、四槓子、緑一色
ありえない。
ありえない役だ。こんな役、イカサマせずにアガった人が有史以来存在するのか?
「四暗刻の単騎待ちはダブルだったな」
京介さんの目が光る。
師匠が再び『レギュレーション』ノートを開き、
「うむ」
と告げる。
四倍役満かよ! しかも僕が振り込めばオープン振り込みもついて五倍役満である。
(死んでも振れねえ)
心臓が痛いくらい脈打つ。
新ドラ表示は8ワン。ドラ表示は4ピン、5ピン、8ワン、8ワン、8ワンの5枚だ。
なにげに僕はドラ9である。アガリさえすれば3倍満か。まったくの無駄だが。
それにしてもドラ表示が五枚もめくれてるトコはじめて見るよ。

518 :麻雀2 12/15:2008/05/30(金) 23:19:30 ID:NKB/e3ng0
「チッ」
京介さんが最後のリンシャン牌をツモ切る。3ピン。
次は僕のツモだ。
嫌な流れだ。嫌過ぎる。
頼む! 安全パイ!
祈りながらツモッた牌は、1ピン。
ホッとしつつも、来るの遅ぇよ! という、どこにぶつけていのか分からない怒りが湧いてくる。
発とツモる順番が逆ならアガッていたのに。
ため息をついてツモ切る。
「じゃんじゃーん」
と言いながら次のツモに歩くさんが手を伸ばす。
「およ?」
牌を自分に向けてマジマジと見ている。
ツモッたか?
どんな手だろうがオープンリーチのリャンハンでリャン縛を突破している以上、八連荘で親の役満だが、
16000点オールならまだマシだ。僕が振り込むことに比べたら。
しかし歩くさんはツモった牌を卓の端に置いて、「秋~」と言った。いつになく子供っぽい言動だ。まだ眠気は残っているのか。
秋?
そうか。花牌のことをすっかり忘れていた。そういえばこの局はまだ1枚も場に出ていない。

519 :麻雀2 13/15:2008/05/30(金) 23:21:31 ID:NKB/e3ng0
歩くさんはリンシャン牌をツモる。
「またまた花。こんどは夏。およよ? またまたまた花で、こんどは春。うひゃあ、またまたまたまた花牌。最後の冬も来ちゃった」
一人芝居ではない。すべて現実の花牌をともなっている。
僕は指を咥えて、親の花役満確定を見ていることしかできなかった。
4枚の花のうち3枚が王牌に固まっていた。それも2トン(上下2列で4枚の塊)に。師匠の山だ。偶然とは思えない。
カンが4回あったために掘り起こされることになったが、あるいはすり替え用だったのかも知れない。
師匠を睨んだが、急に視線を逸らして口笛を吹き始めた。
このオッサン、人外の幻だかなんだかと戯れながら、なんてモノ仕込んでんだ。
僕はこの酷い、酷すぎる状況に我が目を信じることが出来なかった。
しかし場は進む。
歩くさんの最後のリンシャンは6ワン。ツモ切り。
南家の師匠のツモは7ワン。ツモ切り。
西家の京介さんのツモは5ワン。ツモ切り。
北家の僕のツモは発。ツモ……切り?
(発ゥ~っ?!)
思わず「アッー!」という声が出た。

520 :麻雀2 14/15:2008/05/30(金) 23:23:30 ID:NKB/e3ng0
ダクダクと汗が全身を流れ落ちる。落ち着け。まず状況を確認だ。
ちらりと山を見てもラスヅモではないので海底(ハイテイ)ではない。卓にはリャンハン縛りを表す5枚以上の芝棒。
僕の手は、

発発  鳴きでマンズの999、ソーズの111、ピンズの123と789

どっからどう数えても鳴きチャンタの1ハンです。ほんとうにありがとうございました。
「うふふ」
と笑いながら二枚ある発のうち、『どちらにしようかな』で決定された右の方の発を河にそっと置いてみた。
「ローン!」
という声が立体的に響き、僕という獲物の屍骸をどう分けるかという肉食獣の晩餐が始まった。
「えー、まず確認だけど、ハウスルールでトリプルロンは有効だったよね」
京介さんの言葉に師匠がノートを見てから「うむ」と頷く。
「で、まず私からいくと、四暗刻、四槓子、緑一色、単騎にオープン振り込みがついて、子の5倍役満の8本場だから、
 えーと162400点」
京介さんが指を折りながらそう言った。

521 :麻雀2 15/15:2008/05/30(金) 23:24:34 ID:NKB/e3ng0
「俺は安いぞ。国士無双、オープン振り込みでロクヨンは66400点」
と師匠。
最後に歩くさんがパタパタと発以外の見えていなかった手牌を倒していった。

東東東南南南西西西北北北発 発

「えーと、えーと、大四喜に字一色に四暗刻の単騎に、あと花役満でしょ。それからオープンリーチ振り込みに八連荘。
 あ、大四喜ってダブル役満?」
「うむ」
「じゃあ8倍役満~。親だからえーと、384000点。8本場足して386400点かな」
ニコニコしている。
3人の悪魔たちが電卓を叩く手を止めた。
「全部で、615200点だね。払える?」
箱の中の100点棒に訊いてくれ。僕は知らない。
ぐらりと天地がひっくり返り、後頭部と背中に衝撃が走った。
明かりが眩しい。それに天井がやけに高く感じる。ああ、あの染み、人の顔に見えるな。
師匠の声がどこか遠くで聞こえる。
「しっかしおまえ、ツイてないな。デカリャンピンの日にこんな手をくらうなんて」

ああ、それにしてもあのパンティはなんだったんだろう。
世界は僕の知らない謎に満ちている!

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