師匠シリーズ

【師匠シリーズ】『毒 中編 2/3』ケーティではなくてよろしいのね

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『毒 中編』1/3の続き

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2 ケーティではなくてよろしいのね

 夜の7時半。私は、駅の西口にやってきた。地下の東西連絡通路の入り口のそばに、街路樹があり、その周りを囲むように設置されている石のベンチに、京子が座っていた。
 京子はスリムな体のラインがわかるような、薄手のチェスターコートを着ていた。丸いサングラスをしていて、まるでお忍びの芸能人のようだ。
 私は、と言えば、スカジャン姿というあまりに不釣合いだった前回の反省を踏まえ、当たり障りのないダッフルコートを着てきた。去年、背が伸びるのが止まったところで、親に買ってもらったものだ。
 京子に手招きされて、隣に座った。石の冷たさが、デニム生地越しに、お尻に伝わる……。かと、思ったが、妙に暖かかった。
 見ると、京子の横には缶コーヒーが2つ置いてあった。どうやら、直前までそれで暖めていたらしい。まるで戦国武将の小姓のような気配りだ。
「取ってくださる?」
 京子が缶を見ながらそう言った。同じ銘柄だったので、私は、片方を手に取った。ちょうどいい暖かさが、じわりと手に移ってくる。
すると京子は、「ありがとう」と言って、手を差し出した。私は思わず、その缶を渡した。
「あなたもどうぞ」
 そう言われて、残ったもう片方を手に取った。冷たい。コールドドリンクだ。そう気づいたとき、京子は、自分の缶を私のものに軽くぶつけ、「乾杯」と言った。
「おい」
 なんだ、この子どもじみた嫌がらせは。
 私の睨む目を、京子はサングラスで防ぎながら、「いま、あなたは死んだわ」と言った。
「どういう意味だ」
「毒杯パズルよ」
「毒杯?」
「あなたは毒の入った杯を自分で選んだの。2人とも同時に飲み干して、あなただけが死ぬ」
 どうやら、冷たい缶コーヒーのほうを毒に見たてているようだ。だが、見た目は同じ缶だ。ハズレを手に取ったのは、完全に偶然だった。
「偶然だ」
 そう言ったが、京子は小さく笑う。
「いいえ。もう一度置いてみて」
 そう言われて、元の場所に置いた。京子も同じように置く。
「取ってくださる?」
 今度は、さっき自分の置いた、冷たいほうを取った。そして京子に渡そうとしたが、その前に、彼女は暖かいほうを手に取り、私の手のなかの缶にぶつけた。
「乾杯」
 自然な動きだった。これが最初だったなら、まったく違和感なく、私は缶の蓋を開けただろう。もちろん、冷たくなければだが。そして、本物の毒には温度なんていう、わかりやすい違いはない。
 私はあっけに取られて、缶コーヒーを飲みはじめる京子を見ていた。
「毒杯パズルか」
「ええ。どういう集まりなのかわからないから、用心しないとね。毒を飲む会……。こういうこともありうるってこと。気をつけましょうね」
 暖かい缶コーヒーと、冷たい缶コーヒーを飲み終わって、私たちは目的地に向かった。並んで歩いて行き、西口から近い、宝冠町というところのアーケード街に入る。
 栄えている東口と比べ、こちら側は古い町、という風情だった。年の瀬だというのに、人通りは多くない。前回のように酔っ払いに絡まれることもなく、私たちは、じきに目的のバーの看板を見つけた。
 看板は、電飾が切れているらしく、暗いままだ。その看板を回り込んだところに、地下へ降りる階段があった。
 顔を見合わせてから、私を先頭に、降りはじめる。暗がりの先に、小さな電灯が灯っていて、扉が見えた。
『売り店舗』という、煤けた張り紙がしてあった。かなり前からこの状態らしい。
 本当にここで合っているのだろうか。不安になりながら、ドンドン、と扉を叩くと、なかから、ガチャリと鍵が開いたような音が聞こえた。
 向こうに人がいる。
 恐る恐る取っ手を捻ると、扉は手前に開いた。薄暗い店内の入り口に、あの仮面の人物が立っていた。白い顔を縁取るように、黒い模様が波打っている。前回見たときとは、微妙に模様が違うようだ。
《ようこそいらっしゃいました》
 ボイスチェンジャーを通した声が、仮面の下から聞こえてきた。仮面の下は、厚手のマントだ。体型などはよくわからない。
《これをどうぞ》
 スッと、仮面が両手を前に出した。マントの下がちらりと見えたが、黒いスーツのようだった。金色と、銀色をした2つのマスクが、手のひらのうえに乗せられていた。顔の上半分だけを覆うような、マスクだ。目のところは開いていて、その周りに花をモチーフにしたような飾りがついている。映画かなにかでこういうものを見たことがあるような気がする。貴族趣味的だ。
《参加者は、みなさんこのマスクをつけていただくルールになっています。なにぶん、集まりの趣旨が、趣旨なので、お互いが、どこのだれなのかは、詮索しないようにお願いします》
 私は京子と視線を交わしてから、金色のマスクを手に取った。京子は銀色のマスクだ。ゴムではなく、紐がついていて、後頭部で括って固定するようになっていた。
「これでいいかしら」
 京子がサングラスを外して、マスクをつけた顔を上げる。
《結構です》
「でもあなたは私の素顔を知っているのに、私があなたの素顔を知らないのは、不公平ではなくて」
 京子の言葉に、仮面は動揺した様子も見せず、首を振った。
《私の顔には、あまり意味がありません》
 仮面の目の部分に開いた穴の奥に、光のない黒目が覗いている。
「どういう意味?」
 それには答えず、仮面は、《どうぞこちらへ。みなさんお揃いです》と店の奥へ入っていってしまった。仕方なく、私たちもそれに続く。仮面のうしろ姿を見たが、後頭部は黒い布で覆われていて、髪型もわからなかった。
 店内は思ったより広かった。右手側にカウンターがあり、左手側のスペースに、黒いクロスのかかった、大きなテーブルがあった。4人がけのテーブルを、いくつかくっつけてあるようだ、
 カウンターにはだれもいなかったが、テーブルには6人の男女が座っていた。
 全員がマスクをつけている。私たちのものと似たようなマスクだ。色がそれぞれ違っている。そのマスク越しの視線が私たちに集まっていた。
 軽く頭を下げると、仮面が、《コートクロークはそちらに》と、店の奥を示した。店内は暖房が効いている。私と京子は、言われるままに、上着をハンガーに掛けた。
 テーブルを振り返ると、仮面が、カウンター側の席の前に立って、《そちらの席に》と言った。テーブルのうち、カウンター側から見て、左手側の奥に、2人分の席が空いていた。
 私と京子は椅子を引いて、席についた。テーブルには、それぞれの目の前に、白いコースターだけが置かれている。
《時間ですので、今宵も、毒を飲む会をはじめさせていただきます》
 仮面の言葉に、パラパラと拍手が起こる。
《いつもはあまり堅苦しいことは抜きに、ざっくばらんにはじめるのですが、今夜は新しいかたが4人もいらっしゃいますので、簡単に趣旨説明をさせていだきます》
 仮面が、コンコン、とテーブルを拳で叩いた。手には白い手袋をしている。その音で、拍手が止んだ。
《ルール1。この会のことを、趣味を同じくしないものに、話してならない》
《ルール2。この会の参加者は、提供されたものを摂取するかどうか、自由意志により判断するものとする》
《ルール3。この会の参加者は、提供されたものにより、どんな状況に陥ろうとも、自己の責に帰することを、あらかじめ承諾する》
《ルール4。主催の正体を勘ぐってはならない》
 最後のルールは、定番の笑いどころらしい。常連らしい数人が肩を揺らしている。
《そして、もちろん、お掛けいただいたマスクが示すとおり、参加者の皆様におかれましても、お互いがだれなのか、詮索しないようにお願いいたします》
 そして仮面は、私たちと、私たちの向かいの席に座っている2人を、両手で示した。
《さて、参加者からのご紹介により、参加された4人のかた。あ、ここでもどなたからのご紹介かは、伏せさせていただきます。この会では、全員がナナシでは、ご歓談もできませんので、それぞれこちらでお名前をつけさせていただいております。この会だけの呼び名ですので、お気に召さない名前でも、どうかご容赦ください。では、そちらのかた》
 仮面は、右手で男性を指した。
《あなたは、キャプリコーナス様。そしてお隣のかたは、パイシーズ様です》
 パイシーズと呼ばれた女性が、仮面の下の口元をニヤニヤさせ、キャプリコーナスとパイシーズだとよ、と隣に笑いかける。2人は連れらしい。
《そして、あなたは》
 仮面は左を向いて、京子に話しかけた。
《タウルス様。お隣のあなたは、ジェミニ様です》
 私がジェミニで、京子がタウルス。ふたご座とおうし座。どちらも星占いの誕生星座ではなかった。
《お気づきのとおり、黄道12星座を順番につけております。退会なさるかたがでますと、その空き番号に新しいかたを入れています。本日の参加者はそのほか4名。全員を含めてご紹介しましょう》
 仮面は、自分の右手側から順に名前を呼んでいった。
《まず私の右から、アーズ様》
 緑色の仮面をつけた大柄な青年が軽く頭を下げる。彼はおひつじ座だ。
《そして、キャプリコーナス様、パイシーズ様》
 キャプリコーナスと呼ばれた男は、まだ若そうだ。大学生くらいかも知れない。緊張している様子で、落ち着きがない。パイシーズと呼ばれた女のほうは、ふてぶてしく手をひらひらさせて、笑っている。それぞれ、やぎ座とうお座だ。
《私の向かいのお2人は、ヴァーゴ様と、この会の最古参のスコーピアス様です》
 カウンター側の向かいの席に座っているのは、ヴァーゴと呼ばれた、妖艶な雰囲気を漂わせている赤い服の中年女性と、スコーピアスと呼ばれた、恰幅のいいスーツ姿の初老の男性だった。それぞれ、おとめ座と、さそり座。
《そして、左手側に来まして、奥からジェミニ様、タウルス様、最後に私のお隣、こちらも古くからの参加者、リブラ様です》
 私はふたご座、京子はおうし座、そしてリブラと呼ばれた男は、てんびん座だ。彼は痩せぎすで、頭が禿げ上がっている。その貧相な見た目には、貴族趣味的な仮面が似合っていなかった。しかし、ベテランらしく落ち着いた様子で、ゆっくりと会釈をした。
《今夜は以上8名様での開会となります。本日ご欠席の会員様は4名ですので、新しいかたを含めまして、ひとまずのところ、欠番なしとあいなりました》

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 黄道12星座にちなんだ呼び名のとおり、12人が定員ということらしい。
「あんたは、なんて名前なんだ?」
 仮面に向けて、無遠慮な声がかかる。パイシーズとつけられた女だった。
 新人の無礼な態度に反応したのか、最古参と呼ばれたスコーピアスがゴホン、と咳払いをする。
 急に隣の京子が顔を寄せてきて、耳打ちした。
(あのパイシーズという女性。見たことある気がするわ)
 そう言われて、向かいのその顔を見たが、顔の半分を覆うマスクで印象が変わっているせいか、よくわからなかった。ただ、私にもなにか声に聞き覚えがある気がして、記憶をたどろうとしたが、どうにもはっきりとしなかった。
《皆様私のことは主催とお呼びくださいますが、皆様の呼び名に合わせて、ゾディアックとお呼びいただいても結構です》
 ゾディアックとは、黄道12星座の黄道のことだ。なるほど、そのままだな。そう思ったが、そこに不吉な響きも感じた。たしか、アメリカの実在のシリアルキラーの呼び名だ。再現ドラマで見たことがある。
「では、ケーティではなくてよろしいのね、ゾディアックさん」

 京子が口を開いた。くじら座の英語読みだ。私は、仮面がどんな反応をするのかじっと見ていたが、《ええ》と言って、かるく頷いただけだった。
 自分以外に不敵な態度を取っている者が、気に食わないのか、パイシーズがこちらを睨んでいた。
《いま飲み物をお持ちしますので、少々お待ちください》
 ゾディアックが、カウンターのほうへ行った。
 京子がまた顔を寄せてきて、ささやく。
(ねえ、あの紳士とマダムと、あちらの涼しげなかたの3人は、常連みたいね)
 涼しげなかたというのは、リブラと呼ばれたハゲのことらしい。ちらりと横目で見ると、マダムは、隣の紳士と顔を寄せてなにごとか話している。
(そうだな)
(あの3人、名前が並びになってるわよね)
(ええと、マダムがヴァーゴで、ハゲがリブラで、紳士がスコーピアスだっけ。おとめ座、てんびん座、さそり座。12星座の順番だな。初期メンバーなんじゃないか)
(あの紳士は、最古参なのに、第8宮のさそり座よ。名前をつけるのに、途中からはじめたりするかしら)
 そういわれてみればそうだ。その意味を考えて、少しゾクリとした。
(それよりも順番の若い人たちは、いなくなったってことか)
(一見、常連の3人が並んでるようだけど、おそらく第6宮のおとめ座のマダムと、第7宮のてんびん座の涼しいかたは、第8宮の紳士とのあいだが、1周あいているのよ)
(そうか。そのあいだも全員、一度欠番になっているんだな)
(いったい、何周目なんでしょうね。私たちは)
 京子はおかしそうに笑ったが、笑える気分じゃない。そんなに入れ替わりが激しいということが、どういうことを意味するのか……。
《新しい4人のかたにおたずねします》
 ゾディアックがカウンターに、グラスを並べながら言った。
《毒とはいったいなんでしょうか》
「人体に有害なものだよ」
 パイシーズが言った。
《そうですね。いい答えです。人体に、というところがポイントです。たとえば、殺菌に使うアルコールは、人体に影響がなくても、細菌や虫などにとっては有害です。さかのぼれば、太古の昔、地球に存在した生命は本来、酸素のない環境で生きる嫌気性生物でした。それが、海中の酸素濃度の上昇にともない、多くの種が絶滅しました。彼らにとって、酸素は毒だったのです。やがて、その大量絶滅のなかから、酸素という毒に耐性をもった生命が誕生し、エネルギー源として使用するようになります。いまでは人間にとって、酸素はなくてはならないものです。私たちにとっては、なんでもないものでも、ほかの生物にとっては、有害かも知れません。どこかに主体を置かないと、定義できないのです。つまり、人体にとって、という定義があって、はじめて私たちは、毒を語ることができるのです。もちろん、ネズミにとって、猫にとって、とそのつど、主体を変えることもできますけどね》
 私は、なるほど、と思って聞いていたが、隣の京子は頬に手を当てて、なにげないふうを装いながら、ゾディアックの手元をじっと見ているようだった。
《では、人間にとって、酸素は毒ではないと言えるでしょうか》
 ゾディアックは自問するように言った。
《いいえ。純粋な酸素は、人体にとっても有害です。高濃度の酸素を吸引すると、酸素中毒を起こし、意識障害や困窮困難を引き起こすことがあります。大気中においては、21%という濃度でこそ、人体に影響がないだけです。水はどうでしょう。水なんか無害だとお思いかも知れませんが、これも大量に摂取すると、中毒症状を起こします。血のなかのナトリウムイオン濃度を低下させ、頭痛や嘔吐、痙攣、そして呼吸困難を引きこし、死にいたらしめることがあります。つまり、基本的に人体に入る、あらゆる物質は、生物活性を持ち、毒となりうるということです。重要なのは、量なのです。これは、薬においても同じです。皆様は、毒と薬をまったく逆のものだとお考えかも知れません。しかし本来、毒と薬には明確な違いはありません。どちらも人体に入ると、生物活性に影響を与える物質です。人体に有用な効能を持つ薬でも、副作用として害をもたらすものもあります。また、薬として処方されるものは、必ず用量が定められていますが、これを超えて摂取すると、中毒や副作用の危険性が増してしまいます。逆に、毒として、日本でよく知られているトリカブトですが……》
 ゾディアックは、そこでカウンターから皿を持ってきた。テーブルに置かれた皿のなかには、乾燥した赤黒い植物片のようなものがいくつか入っている。
《これは毒草として知られ、毒殺事件などを扱ったドラマなどでおなじみですね。トリカブトはアコニチンという物質を含み、摂取すると神経細胞のナトリウムチャンネルを開き、アセチルコリンという神経伝達物質の活動を阻害します。これにより、神経回路の信号が弱まり、呼吸困難や臓器不全などを引き起こして、死に至る、という仕組です。しかし、トリカブトは、附子(ぶし)とも呼ばれ、漢方の生薬としても知られています。成分のアコニチンは加水分解されることで、弱毒化します。昔の人間は、このことを経験で学び、塩水などに漬けて、加熱処理をするなどして食用にしたのです。アコニチンの働きによる、神経伝達物質の抑制は、たとえば、危険な興奮状態にある人を、鎮静化させることもできます。漢方で、この附子(ぶし)は、強心剤としても使われています。このように、毒と薬は表裏一体なのです》
 ゾディアックは、《どうぞ、試してみてください》と言って、みんなにすすめた。
《これは、食用の塩附子(しおぶし)です》
 シオブシなら昔、田舎の祖父の家で食べたことがある。でも、呼吸困難だの臓器不全だのと聞かされたあとでは、どうも……。
 私が躊躇していると、紳士やマダムら常連たちがひょいひょい、と手を伸ばして摘んでいった。そして、匂いをかいだあと、パクリと口に入れた。
「なるほど」
 とハゲが咀嚼しながら言った。
 紳士は、「私は生姜とまぜた、乾姜附子湯(かんきょうぶしとう)が好きだな」などと言っている。
 パイシーズと連れのキャプリコーナスも、恐々としながら、食べたようだ。残された私と京子も、顔を見合わせたあとで、塩附子を手に取った。
 口に入れると、辛味が広がり、舌が軽く痺れた。それほど嫌なものではなかった。ああ、こんな味だっけ、と思い出していた。京子は顔をしかめて、小さな舌を出している。普段見られない、かわいらしい仕草だった。
《ちなみに、世のなかには毒島(どくしま)と書いて、ぶすじま、と読む、お名前のかたがいらっしゃいますが、毒をぶす、と読むのはトリカブトの附子(ぶし)からきています。日本において、それだけ代表的な毒物だった、ということですね》
 ゾディアックがカウンターから、トレーを持ってきた。トレーには、液体が入ったグラスが8つあった。そのトレーのまま、テーブルの上に置かれる。
《コカインという麻薬を、聞いたことがおありでしょう。あれは、南米原産のコカという木の葉から抽出した成分を使用しています。南米のインディオたちは、古くからこのコカの葉を、疲労回復などの作用があるとして、噛んでいたそうです。やがてインカ帝国を征服したスペイン人が、ヨーロッパにコカの葉を持ち帰り、ワインとまぜた、ビン・マリアーニという飲み物を考案します。これがアメリカにも輸入されてブームを起こしますが、19世紀末の禁酒法の時代になり、流通が困難になります。そこで、ジョン・ペンバートンという薬剤師が、ノンアルコール飲料として、コカの葉の成分を使用したものを開発しました。コーラの木のナッツのエキスと混ぜたそれは、『コカ・コーラ』と名づけられ、販売されるようになります。当初のコカ・コーラは100ミリリットルあたり、2.5ミリグラムのコカインを含み、鎮痛作用や覚醒作用を持つ薬用飲料として扱われていました。しかし、コカインの中毒や禁断症状が、よく知られるようになると、コカ・コーラも規制の対象となり、20世紀初頭には、コカインの成分は取り除かれるようになりました。皆様もコーラはお好きでしょう。コカ・コーラにもそんな歴史があったのです》
「今も、コカインの成分が入ってるっていう、都市伝説がありますけどね」
 アーズ、おひつじ座と呼ばれた大柄な青年が、ボソリと言う。陰気そうな声だった。
「私はペプシのほうが好きだけど」
 私もためしに発言してみた。するとゾディアックは笑いながら言った。
《ペプシ・コーラも、もとは消化を助けるペプシンという薬用成分の入った薬用飲料ですよ。……さて、コカ・コーラのように、麻薬という人の害になるものも、用法用量次第では、薬にもなる、という好例ですね。本日は、そんなアメリカの歴史に思いをはせていただきながら、当時のコカ・コーラを再現したものを、飲んでいただきましょう》
 私たちは、あらためてテーブルの中央に置かれたトレーのグラスを見つめる。黒い液体が、プツプツと泡を浮かべていた。
「コカインが入ってるってことか?」
 パイシーズが言った。
《ええ。でもごく少量ですよ。当時は薬用飲料という名目で、実際は清涼飲料として、広く飲まれていたものです。毒を飲む会という、アンダーグラウンドなこの場に、麻薬取締法が気になるかたは、いらっしゃらないかと思いますが》
 挑発された形になったパイシーズは、ムッとした様子で、グラスに手を伸ばした。
 それを見た京子が、私に素早く耳打ちする。
(どれでもいいから、早く手に取って)
 せかされて、私は身を乗り出し、手前のグラスを取ろうとして、やっぱりやめて、もうひと伸びして反対側のグラスを掴んだ。京子も同じようにした。
 そして、ゆっくりと、残りのグラスを常連たちが手に取る。全員にいきわたってから、京子がまた私に耳打ちする。
(まだ飲まないで)
 京子は、紳士たちの動きをじっと見ている。やがて彼らが、グラスをかたむけ、それぞれ感想を口にするのを見計らってから、(大丈夫のようね)と言った。
 OKが出たので、私も飲んでみる。最初のコカ・コーラといわれると、ちょっと興味もあった。
 普通のコーラのつもりで口に含むと、思わずむせてしまった。なんというか、いつもよりもクスリ臭い。なるほど、薬用飲料というだけある。だが、コカインの成分とやらはよくわからなかった。体にも特に異常はないようだ。
 口のなかで、当時のコーラを味わいながら、私は京子の言葉の意味を考えていた。
わかるよ、京子。毒杯パズルだろ。
もし飲み物に、なにか危険な毒物が入れられているとしたら、私たちが狙い撃ちされる可能性がある。たとえば、常連にだけわかる目印や、置きかたがあって、先に安全なものを取られてしまうと、私たちが残った毒杯を取らされることになるのだ。そこで、常連よりも先に取ることで、それを防ぎ、さらに全部のグラスに毒物が混入されているようなことがあっても、先に飲ませることで、様子を見ることができる。
さっきのシオブシのように皿に盛られて出てきたものと違って、グラスの飲み物なら、内輪の決まりごとを設定しやすい。
私は、周囲の参加者たちを順番に見回して、気を引き締めた。
《さて、常連のかたは、そろそろ退屈してくるころかも知れませんが、もう少しだけ初心者向けのご説明にお付き合いください。最初に私は、あらゆる物は毒になりうる、重要なのは量だ、と申し上げました。これも真実なのですが、もちろん、量だけではなく、毒性の強さも重要な要素です。量次第だとはいっても、水とトリカブトが同じ毒だという括りは一般的ではありません。常識的には、毒とは、『少量で健康を害する物』という定義がしっくりくるのではないでしょうか。つまり、毒性の強さですね。この毒性の強さを表すものとして、致死量という言葉があります。ただ、これはあまり正確な言葉ではありません。なぜなら、人には個体差があるからです。数人が同時に、同じ毒を同じ量摂取しても、死ぬ人と死なずに済む人が現れます。遺伝的体質や体重などによって、影響が異なるからです。なので、我々はよく、LD50という基準を使います。これは特定の生物の集団に投与して、おおよそ半数が死亡する量、という意味です。半数致死量とも言います。ほかにもLD0(ゼロ)は最小致死量で、もっとも弱い個体が死ぬ量。LD100は絶対致死量で、もっとも強い個体でも死ぬ量です。これらは特定の集団内で、飛びぬけた耐性の強弱があった場合、あまり意味のない数値になることがあるので、LD50、半数致死量が、毒性の強さの表現として、より信用度が高い基準と言えます》

 ゾディアックはそう言いながら、テーブルのグラスを片付けていった。
《この世に存在する毒のなかで、人間に対し、最も強い毒性を持つものとは、いったいなにか。ご存知ですか》
 その問いかけに、私は考えた。一番強い毒か。
「青酸カリなんて、殺人事件でよく聞くけど」
 こないだ見たサスペンスドラマでも使っていたので、そう言ってみた。すると、紳士やマダムら常連が、小さく笑った。なんだ、バカにしやがって。
《そうですね。とても有名な毒です。化合物ですので、植物毒や動物毒と比べて歴史はありませんが、近年では毒物を使った事件などで、知られるようになりました。青酸というのが、シアン化水素のことで、カリウムと反応させたものが、青酸カリ、ナトリウムに加えたものが、青酸ソーダ、という具合です。青酸ソーダは、グリコ森永事件でも使われましたね。青酸カリは、11人が殺された帝銀事件が有名ですね。医者だと偽った銀行強盗が、赤痢の防止薬だといって行員に飲ませました。恐ろしい事件です。人間にとって毒性があるのは、この青酸カリという固体、もしくは液体自体ではなく、それがなんらかの物質と反応して発生する、青酸ガスなのです。ラスプーチンという帝政ロシア末期の怪人物の名前を、お聞きになったことがあると思います。彼は暗殺の対象となり、この青酸カリを混ぜた料理を食べさせられました。しかし、青酸カリは効かず、結局銃で撃たれ、最後は溺死させられました。これは、ラスプーチンが無酸症という特異体質で、胃に酸がなく、体内で胃酸と反応して青酸ガスが発生することがなかったためだ、とも言われています。ただ、この青酸ガスは、たしかに発生すれば猛毒ですが、それを発生させるための青酸カリの量は、かなり必要です》
 ゾディアックが、口直しのミネラルウォーターだと言って、市販のペットボトルと、換えのグラスをテーブルに置いた。一応、常連たちが飲むのを見てから、私たちもグラスに注ぐ。
《青酸カリの毒性は、先ほどのLD50、半数致死量の基準で言うと、おおよそ体重1キログラムあたり、10ミリグラムほどです。体重が60キロの成人男性なら、600ミリグラム、つまり、0.6グラムになります。小さじ1杯の10分の1の量ですね。それを飲んだ人の半数が死ぬ程度、ということです。これを聞くと、少ない、少量でも効く毒だ、と感じるかも知れません。しかし、並みいる猛毒のなかに入ると、毒性は弱いと言わざるを得ません。たとえば、タバコに含まれるニコチンは、キログラムあたり7ミリグラムで半数致死量です。ニコチンのほうが、青酸カリよりも毒性が強いのですよ》
 それを聞いて、飲みかけた水を、むせてしまいそうになった。ニコチンは友だちだ。あいつ、そんなに悪いやつだったのか。
 私をチラリと見て、京子が笑っている。
「リシンじゃないか」
 パイシーズが言った。「一番強いのは」
《素晴らしい。よくご存知ですね。リシンはトウゴマという草の種子に含まれるタンパク質です。トウゴマは観葉植物としても育てられていますが、山のほうに行けば自生しているものもよく見られます。このトウゴマの種からとれる油は、ヒマシ油と呼ばれ、下剤として使われることもあります。リシンは、ヒマシ油精製時の副産物として生まれます。大変強い毒で、このトウゴマの種を数個食べただけでも、含まれるリシンの作用で嘔吐や痙攣を起こし、死亡することがあります。経口摂取よりも、血中に直接流し込んだほうが、より強い作用を及ぼします。その毒性の強さは、先ほどの青酸カリとは比較になりません。リシンのLD50は、キログラムあたり、0.1マイクログラム。青酸カリのおよそ10万倍の毒性ということになります。これは、耳かき一杯の量で3千人を殺せる毒性です》
 なんだそりゃ、と思って、私はツッコミを入れた。
「そんな毒を持った草が、そのへんに生えていていいのか。危なすぎるだろう」
 これには、マダムが答えた。
「口にすれば危ないものなんて、世のなかにあふれてるわ。もっと簡単に手に入る、身の回りのものでもね」
「毒キノコも、毎年のように人を殺している」
 と、ハゲ。
「モチなんて、毎年千人単位で殺してますよ」
 これはアーズという青年。
 定番のジョークだったらしく、常連たちが笑っている。
《そうですね。モチはともかくとして、身近なものでも、非常に強い毒性を持ったものがあります。フグ毒などもよく知られていますね。フグの毒はテトロドトキシンといい、LD50はキログラムあたり10マイクログラムほどです。青酸カリの1000倍ですね。毒物のなかでも、10指に入る強さです》
「前にやった、サバフグとドクサバフグの見分けかたゲームでは、死にかけましたよ」
 ハゲが笑っている。紳士も頷いていた。
「笑えないな」
 とパイシーズが言った。
《フグの毒は、体内で生成しているわけではありません。フグが食べる海草に付着したプランクトンなどがその起源です。フグがその毒を体内に溜め込み、生物濃縮によって強い毒性を獲得しているのです。このメカニズムは、シガテラという食魚介類の中毒でも同様です。シガテラを引き起こすシガトキシンという毒は、テトロドトキシンとは作用は異なりますが、とても強い毒です。下痢や血圧降下などの症状のほかに、ドライアイスセンセーションと呼ばれる知覚異常を引き起こすことで知られています》
 ゾディアックが紳士のほうを、チラリと見た。紳士は頷くと、両手を広げて、ダンディな声で言った。
「私は、現在そのシガテラ中毒からの回復期でね。おおむね良くはなったのだが、水などが非常に冷たく感じられる、知覚異常の症状がなかなか治らないのだ」
 両手には手袋がはめられている。そういえば、さっき冷えたグラスを手にするときも、やけに慎重に、全員の最後に取っていた。
「グラスを素手で持ったら、飛び上がってしまうよ」
 当人はハハハ、と笑っている。しかし、私は、その姿に不気味なものを見た気がした。この毒を飲む会の異常性が、少し見えてきた気がしたのだ。
 常連たちを改めて観察してみると、マスクの下の顔に、ある共通点が見出せた。肌が荒れているのだ。いやに黒ずんでいたり、カサカサとした見た目だったり。これは、毒を体内に取り込み過ぎて、血管やら内蔵やらがやられているのではないだろうか。
 毒を飲む会、と聞いたときに連想した、自殺願望の変態集団というイメージが、再度湧いて出てくる。
 京子は、いったいこんな危ない集まりの、どこに興味を引かれたのだろう。
 無理やり誘われたが、やっぱり断るべきだったんじゃないか、という気持ちになってきた。向かいに座っている、新人の2人のうち、パイシーズに引っ張られているらしい連れの男も、終始オドオドとした様子だ。
《さて、先ほどの、最も強い毒はなにか? という問いの答えはまだ出ていません》
 ゾディアックが、左側の席のハゲに問いかけた。
《リブラ様、お願いできますか》
 ハゲは頷いた。
「ボツリヌス菌だね」
《そのとおりです。現在はダイオキシンやVXガスなど、大変な猛毒が化学合成で生み出されていますが、人間に対する毒性では、自然界に存在する最強の毒にはいまだ及びません。ボツリヌス菌は土のなかに、芽胞(がほう)の形で広く存在する細菌です。ボツリヌス菌を含む食物を摂取した人間の腸管内で発芽して、ボツリヌストキシンという毒を出します。乳児に蜂蜜を与えてはいけない、ということを聞いたことがありますでしょうか。それは、乳児の腸内細菌が未発達であるため、蜂蜜に含まれていたボツリヌス菌の発芽が起こりやすく、乳児ボツリヌス症を起こす可能があるためです。ボツリヌストキシンの毒性は、先ほどのパイシーズ様がおっしゃったリシンの、数百倍から数千倍。生物兵器としても研究されており、たった500グラムで世界人口の半数を死に至らしめることができる、とも言われる、最強の毒物です》
 ゾディアックが、裏から取り出したトレーをカウンターの上に置いた。そのカンッ、という音にビクリとする。
 おい。ウソだろ。
 全身に緊張が走り、思わず立ち上がりそうになった。
 しかし、ゾディアックは仮面の下の変声機越しに、クスクスと笑う。
《失礼。さすがに、ボツリヌス菌はお出しできません。とはいえ、そろそろ常連のかたは初心者向けの説明にも飽きてきたでしょうから、次のものをお出ししますね》
 ふたたび、グラスがトレーに乗せられて運ばれてきた。今度は赤黒い液体が入っている。
《こちらはコブラ毒のワイン割りです。かのプトレマイオス朝最後の女王、クレオパトラ7世が自害に使ったという伝説が残っているのが、この毒蛇、コブラの毒です。彼女は蛇に乳房を噛ませて自殺したと伝えられていますが、使ったのはコブラではなく、クサリヘビだという説もあります。ただ、神経毒のコブラに対し、クサリヘビは出血毒です。その毒は血管や内臓を破壊し、皮膚はただれ、傷口からも多くの出血を伴います。絶世の美女と呼ばれたクレオパトラの散りざまとしては、似つかわしくないでしょう。そこで、今回はエジプトコブラの毒を使用させていただくことにしました》
「マムシ酒みたいなものかしら」
 とマダム。
《蛇の毒はタンパク質なので、熱やアルコールなどで簡単に変質します。毒蛇のマムシを漬け込んだ酒を飲んでも平気なのは、度数の高いアルコールによって毒性が変質し、弱まっているからです。コブラ毒のLD50は青酸カリのおよそ20倍と、かなり強力な毒ですが、今回のものは、毒性を調整してあります。もっとも、安全なマムシ酒とは違い、会員のかたに楽しんでいただけるようにはなっていますが》
 ここからが本番だ、という言葉に聞こえた。会員たちが手を伸ばすなか、隣の京子は動かなかった。さっきは真っ先に取れと言ったのに。そして、ゆっくりと動く紳士の手が届く前に、ようやくグラスを持った。私もそれに続く。
 澄ました顔で、液体の匂いをかいでいるその姿を横目で見ながら、私はその意思を受け取っていた。
 グラスを傾ける常連たちに続いて、私もグラスを口に持っていく。だけど、飲むフリだけだ。京子も同じだった。
 口元をぬぐって、グラスを置いた。
「グッフ」
 という、むせるような声がした。アーズという青年がうめいている。しばらくしてから顔をあげ、「アルコールは苦手なんですよ」という、言い訳めいたことを言った。
 ほかの常連たちは平然としている。そして、体の変調をたしかめるように、目を閉じて深く息をしていた。
「なるほど」
 しばらくして、紳士が静かに頷いた。
 なにがなるほどなのかわからないが、わかりたくもなかった。
 パイシーズと、連れのキャプリコーナスは神妙な様子であたりを伺っている。グラスのなかの飲みものは、ほとんど減っていないようだ。彼女たちも飲まなかったのかも知れない。
 そのあと、主催のゾディアックの毒に関する薀蓄を聞かされながら、数品の飲み物と食べ物が提供された。
 秦の始皇帝が求めた不老不死の妙薬とされる『丹薬』の伝説や、ルネッサンス期のメディチ家やボルジア家の繁栄の陰で暗躍した、『貴婦人の毒』と呼ばれるトファーナ水の逸話など、オカルト好きとしては心ひかれるものもあったが、それにちなんだ提供物は、口にする気にはなれなかった。
 飲んだフリ、食べたフリばかりしていて、感想を聞かれたらどうしようと思っていたが、主催者だけでなく、他人に興味がないのか、常連たちもこちらに話しかけてこなかった。
 そうして、いままで私が経験したことのない、異様な空間で時間は刻々と過ぎていき、やがて、毒を飲んでいないはずの私の頭がじんわりとぼやけてきたころ。
 パンッ、という音がして顔を上げた。
 ゾディアックが両手を叩いたのだ。みんなの視線が集中する。
《さて、皆様。本日の催しは、残すところ最後の1つとなりました。ここまで、お楽しみいただけておりますでしょうか。はじめて参加されたかたは、戸惑いもあったかも知れません。いたらない点につきまして、主催者として申し訳なく思います》
 慇懃に頭を下げたその姿には、なにか意味ありげなものがあった。
 私は、飲んだフリが気づかれているのだと思った。私たちに向いた常連たちの視線も、それを物語っている。
 まあいい。これでこの変態たちの宴ともおさらばだ。あとは、好き勝手にやって、中毒で死ぬなりなんなりしてくれ。
 そんな開き直った気持ちで、私は椅子にふんぞり返った。
 京子もこれで満足だろう。世のなかには、自分以外にもアングラな趣味を持つやつがいっぱいいて、体を張ってその世界にどっぷり漬かっていやがるんだ。ここは、高校生の出入りするような場所じゃなかった。背伸びもここまでだ。
 な? という意思を込めて、私は京子を見た。この1歳年上の同級生は、なにを考えているのか、かすかに微笑み返した。
《最後は、常連のかたがたにも馴染みのない、一風変わった種類の毒をお目にかけようと思います。毒物を口に入れることが、なかなか躊躇われる初心者のかたにもご参加いただけるものです》
 黒い敷物で覆われたテーブルのうえは、すべて片付けられている。
「末端の枝葉の違いはともかく、たいていの種類の毒は、経験してきたつもりだがね」
 常連たちを代表して、紳士、スコーピアスが言った。
《もちろん、皆様の毒物への好奇心や興味、そして愛情からくるこれまでの経験は、並々ならぬものであると承知しております。それでも、これは恐らくご覧になったことがないものでしょう》
 ゾディアックの言葉に、スコーピアスは、「ほう」と言って、お手並み拝見、とばかり椅子に深く腰掛けた。
《では、はじめます》
 ゾディアックが両手を広げた瞬間、店のなかの明かりがいっせいに消えた。

『毒 中編』3/3 『もう死んでる』に続く

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