『恋の記憶、止まらないで』(2019年)
比較的新しいエピソードながら、SNSを中心に「本気で怖い」「トラウマ級」と話題を呼んだ、“令和の奇妙”を代表する一本。
都市伝説的モチーフと呪いの連鎖が巧みに絡み合い、「奇妙」が描き続けてきた「日常のすぐ隣にある恐怖」を、90年代Jホラーの要素に現代の感性を抱え合わせて再提示。
主演・斉藤由貴の鬼気迫る演技が物語の不穏さを加速させ、そして、見終えた後も“あの声”と“あの歌”が頭から離れない――2010年代以降で人気の傑作。
(主演:斉藤由貴/演出:岩田和行)
あらすじ
シンガーソングライターの村瀬志保(斉藤由貴)は、昔のように曲を作る事が出来ず焦りを感じていた。ライブレストランで歌っても、誰も耳を傾けることはなく、SNSには辛辣なコメントが並ぶ。さらに夫の中居賢治(利重剛)は、そんな志保を応援しながらも、少しあきれた様子。
ある日、志保は曲作りをしながらうたた寝をして、不思議な夢を見た。その夢の中に流れていたメロディーが気になり、記憶をたどりながら新曲を作る。
その曲をライブレストランで披露したところ、急に客たちが食事の手を止め、歌に聞き惚れ、志保に注目が集まった。配信ランキング4位にランクイン。SNSにも好意的なコメントが並び始めた。久々の大ヒット。
そんなある夜。自宅で、志保は「津軽ちびっこのど自慢大会」のビデオテープが気になって再生してみた。すると、小学3年の志保が歌った後、CMに入る。すると志保が作った歌とそっくりで、知らないうちに盗作をしてしまった事に気づいてしまう…。
志保が「地酒琴條 CM 青森」の検索ワードで調べると。「最怖都市伝説」のサイトへ。「呪いのCMソング」という項目に、青森県で一度だけ放送されたという「地酒琴條」のCMの説明書きが。出演した歌手が急死して放送中止したという。CMには歌・宮島素子とあった。
志保は宮島を調べたが、死因は不明、新聞社に問い合わせても分からない。ただ誰かに謝りながら亡くなったというが…。
ライブレストランで女性の影や笑い声も志保だけ聞こえ始めたが、エステのCMや歌番組も決まって、引き返せない。「恋の記憶は私の曲、私の曲」と自分に言い聞かせ、ビデオテープを引きちぎる。
CM撮影にて。モニターを確認中、志保だけ宮島素子が見える。批判の目の中。撮影スタジオの奥に髪の長い白い服の少女が3人いた。廊下に逃げた志保、すると奥に少女がひとり立つ。
逃げ惑う志保。とある部屋から歌が聞こえる…。錯乱した志保に襲い掛かる少女はマネージャーだった。
自宅にて。テレビ画面にあの呪いのCMが映る。
酷く音声が乱れており「こ…の…きぉく…と…らーないで(この曲とらないで)」と聞こえる。同時に宮島が「ごめんなさいごめんなさい」と呟き続ける声も聞こえてきた。まさに彼女が死んだ時の状況を再現しているかのように。
「この女も誰の曲を盗んだ」
そう、彼女も誰かから盗んでいたのだ。
すると、うしろに少女(笹野鈴々音)がいた…
「この曲、とらないで。私の曲よ。フフフ」
おそらく自分も宮島と、そしてその前からもずっとこのようなことが繰り返されてきたのであろう「その曲」に関わった者たちと同じ末路を辿るのだろう、そう悟った志保は独り暗い部屋でもはや逃れることもかなわない運命にただ笑うしかなく…。
それから何があったのかは明かされていないが、完成したCMはたった一回の放送でお蔵入りとなったという。
それもかつてと同じく「出演した歌手の不審死」という不可解な爪痕を遺して…………
エピローグ
志保の新曲「恋の記憶、止まらないで」のMVを観ているタモリ。
「出演者である歌手の死亡によって、たった一度の放送でお蔵入りとなってしまいました」
ソファから立ち上がるタモリ
「誰もが忘れ去ったころもしかしたら、あなたはこの曲をうっかり盗んでしまうかもしれません。ですが、責任は取れませんのでくれぐれもご注意を」
(終わり)