後味の悪い話

【後味の悪い話】パーヴェル・ヴェージノフ『消えたドロテア』

413:消えたドロテア 2018/08/19(日) 23:24:36.54ID:OVIHJWeY0
パーヴェル・ヴェージノフ『消えたドロテア』

孤独な作曲家マネフは、いつもと同じように独りで夜を過ごしていると、ドロテアという名の不思議な若い娘と出会った
ドロテアは心を病んでおり、普段は精神病院で暮らしているらしいのだが、時おり無性に人恋しくなり、こうして病院を抜け出して街に出てしまうらしい
マネフはドロテアにシンパシーを感じた。そして、若い娘に一人で夜道を帰らせる歩ことを快く思わず、「あなたの部屋に行きたい」と彼女からせがまれたのもあって、彼女を自分の部屋へと連れ帰った
決して誘惑されたのではない。孤独に耐えられなかったのだ

そこでマネフは、ドロテアが不思議な力を持っていることを知る。彼女はまるでテレパシーのように他人の心を読み取ることが出来るのだ
マネフが作曲したばかりの新曲を演奏して披露すると、ドロテアは「カスティリアの夜」という未発表の曲名を言い当てたのである
マネフはドロテアに興味を持ち、ドロテアの世話を焼き、やがて後見人のような立場になっていくことになる

マネフはドロテアの担当医と話し合い、ドロテアに音楽の仕事を手伝わせることにした
担当医によると、「ドロテアは感受性が豊かで、芸術に向いているかもしれない。それが彼女の心の治療に繋がるかもしれない」とのことだった
やがてドロテアは音楽に興味を持ち始め、マネフに教えを乞うようになる
マネフが音楽の教鞭を振るうと、ドロテアは本当に音楽の才能を開花させて急激に成長し始める
マネフはそんなドロテアにますます夢中になっていく

414:消えたドロテア 2018/08/19(日) 23:26:11.32ID:OVIHJWeY0
いつしか二人は同じ部屋で暮らすようになった
肉体関係の無いプラトニックな関係であったが、世間からは「心を病んでいて子供のように小柄な若い娘を、都合の良い愛人にしている」と後ろ指をさされた
それでもマネフはまるで意に介さなかった

時には二人は遠出をして、自然豊かな池の畔で戯れ、様々なことを語り合った
ドロテアは身の上を少しずつ語り始める
ドロテアは母から全く愛されず、冷遇された末に、幼くして叔父の所に養子に出されてしまった
ドロテア「そんな寂しい日々の中で、私は空を飛べるようになったの」
マネフは、空を飛ぶなど流石に妄想だ、と内心で思いながら話を聞いていた
それでもドロテアは「空を飛ぶことこそが人間の本当の幸福だ」と熱く語った

そしてある日、いつものようにマネフがドロテアに音楽のレッスンしていると、ドロテアがふと叔父のことを語り始める
ドロテアの里親となった叔父は優しい人だった
だが、ドロテアは叔父のことが苦手だった
叔父はまるで子犬を扱うかのようにドロテアを撫で、名を呼んだ
ドロテアはそんな叔父に対していつも言い知れない嫌悪感を感じていたのだが、まだ幼かった彼女にはそれがなんなのかわからなかった
そしてある日、ドロテアは叔父によって人気の無い物陰に連れ込まれると、そこで抱き締められて唇を奪われ、服を脱がされ・・・

そこでマネフは「もう語らなくていい」と言って話を遮り、ドロテアを抱き締めた
いつの間にかマネフの目からは涙が溢れていた
そんなマネフを見て、ドロテアは「やっぱりあなたは良い人だった」「あなたには、幸せになる資格がある」と言った
そしてドロテアは窓辺に立つと、「私を信じて」と言ってマネフに手を差し伸べた
マネフの部屋は15階建ての高層マンションであり、窓の外は奈落だ
マネフが彼女の手を握ると、ドロテアは窓の外へと躍り出た

そしてマネフは本当に空を飛んだ

415:消えたドロテア 2018/08/19(日) 23:29:57.90ID:OVIHJWeY0
ドロテアはマネフを連れて自由に大空を飛び回った
二人で地上を眺めた。大きく静かで美しい山脈を、黒く帯のように流れる川を
マネフはこれまでの人生で感じたことの無いような興奮を覚えた
「幸せ?」と問うドロテア。マネフは「幸せだ」と答えた
しかし、やがてマネフの手を握るドロテアの手は冷たくなり始め、ドロテアの顔は青ざめていく
どうやらドロテアは長時間は空を飛び続けることは出来ないらしい
二人は元の部屋へと戻った

そしてマネフは興奮が冷めると急に怖くなり、ドロテアの担当医に会いに行き、空を飛んだことをありのまま報告する
ドロテアの読心能力については認めている担当医ですら、空を飛ぶことについては流石に眉唾といった様子で信じてくれず、
「彼女は人の心を読み取る能力がある。それなら逆に、彼女の方から他人の心に干渉する能力があるのではないか?」
「彼女はあなたに幻を見せたのかもしれない」とまで言った
マネフはドロテアに恐怖した。「このまま彼女と一緒にいたら、私はおかしくなってしまうかもしれない。もしかして、私は既にこの病院の患者達と同じように・・・」
担当医はマネフを落ち着かせると、「今後、ドロテアから空を飛ぼうと誘われても断るように」と忠告した

マネフは部屋へ戻ると、ドロテアに「遠方でのコンサートに一人で行く」と言って出掛けようとする
ドロテアは何かを感じ取ったらしく、「私と一緒に空を飛んだことを後悔しているの?」と必死にマネフに問う

416:本当にあった怖い名無し 2018/08/19(日) 23:34:11.61ID:OVIHJWeY0
マネフはそんなドロテアを宥めると、「すぐに帰る」と約束して出掛けた

マネフはそのまま宛もなく車を走らせ、見知らぬ田舎の町へと辿り着いた
そこで宿を借り、朝から晩まで酒場で酒を飲むという日々を送り、そのまま何週間も経った

ある日、酒場の演奏で「カスティリアの夜」が流れ始めた
マネフはドロテアのことを思い出した。そして、彼女と共に過ごした幸福な日々、彼女の示してくれた信頼と愛情を思い出した
「ドロテア!」
いてもたってもいられなくなったマネフは、荷物も持たずにドロテアのもとへと駆け出した

マネフが自室に戻ると、そこにドロテアの姿は無かった
室内に彼女の靴は有るのだが、窓が開いているだけだった
マネフは、ただ呆然と窓から空を眺め続けた。まるで、そうしていればドロテアが小鳥のように帰ってきてくると信じているかのように

そこへ緊急の知らせが入る
街から離れた野原で若い娘の死体が発見され、その姿がドロテアに似ているとのことだった

マネフは現場へと駆け付けた
広大な野原の中心に、無惨に変わり果てたドロテアの亡骸が有った

警察がやって来て、マネフを連行していく
警察は「彼女は誰かに殺された」と主張する。彼女の骨は折れ、内臓はめちゃくちゃだったのだ
マネフはドロテア殺害の容疑者として尋問を受け、アリバイは無かったが、最終的に証拠不十分として解放された

再び自室へと戻ったマネフは、また呆然と窓から空を眺めた
きっとドロテアは、帰ってこないマネフを探し求めて空を飛び続けたのだろう
そしてマネフの心の闇、裏切りを知った時、彼女は自ら翼を閉じ、あの野原へと落ちていったのかもしれない・・・
マネフは静かに涙を流した
もうそんなことを考えたって仕方がない。もう彼女は戻ってこないのだ
そして、自分には翼が無い。もう二度と、あの空を飛ぶことは無いのだ・・・

417:本当にあった怖い名無し 2018/08/19(日) 23:54:52.39ID:A13XS3gX0
変な名前

419:本当にあった怖い名無し 2018/08/20(月) 18:52:29.33ID:YjzDfXSt0
ドイツ語の人名くらい知っとこうぜ…

423:本当にあった怖い名無し 2018/08/21(火) 01:09:04.27ID:pAmsLORJ0
>>413
長っ!と思ったけど読みやすくて面白かったよ
マネフはどうして怖くなったんだろう?
私は空をとべるなら狂人になってたって良しとするよ

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