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午前3時、日暮美和(夏菜)は、アシスタントの苅谷(宮田俊哉)と共に作業に追われていた。
美和は映像編集スタジオの職員で、中でも美和が担うのは、映像に特殊効果(CG)を施す仕事だ。
何もない風景に未来風のビルを合成したり、一人の役者を二人にしたり…。
作業をしていた美和は、思わず声を上げる。
主演女優が旧家の町並みを歩いているカットの、旧家の軒と軒の境。
路地にもなっていない様な、暗く狭い狭間に、女が立っている。
スタッフかエキストラが映り込んでいる。最初はそう考えた。しかし、何か変だ。
その女の顔を拡大してみる美和。その女は、目と口を大きく開いて叫んでいたのだ。
建物の隙間に、赤いワンピースを着た髪の長い女が、こちらを見て何やら口を開けている……。
それだけではない。1つ前のフレームに戻しても、次のフレームに送っても、そこに女の姿は無かった。
その女は0.03フレーム(苅谷のセリフによると1000分の1秒)しか映り込んでいない。
アシスタントの苅谷くんは気味悪がるものの、美和はこの「0.03フレームの女」をいたく気に入る。
いたずらを思いついた美和は、キーボードをカタカタさせ、その女が映るフレーム数を増やし、叫んでる感じを強調する。
これで専門の技師じゃなくても、その女が視認できる。アシスタントの苅谷くんは「消すべきモノを見やすくしてどうするんですか!」と呆れるが、美和は笑う。
「誰も気にしないよ。いつもムチャな納期を押しつけられてる仕返しだって!」
翌朝、その映像(ビデオテープ)は納品されますが、美和は主演女優も同席する試写会に立ち会えと言われてビビる。
「な、なんで私みたいなペーペーが?」
「上からのたっての希望だよ。あの女優はCGにまで口出しするからな」
内心ヒヤヒヤしながら、最前列に主演女優が座る試写に立ち会う美和。彼女はイタズラした映像が、予想以上の話題作と知ってさらにビビることに。
案の定、例のシーンで主演女優が「?」と眉をひそめる。試写が終わり、プロデューサーにテープを渡された美和は「あの赤い服の女を消せ」と言われる。
幸いにも、故意のイタズラとはバレなかった。何となく気が抜けた美和は職場に戻り、「悪いコトはするもんじゃないわ」と呟きながらあの女を消去しようとする。その時、パソコンがフリーズした。治そうとしていると横のTV番組からニュースが流れる。あの主演女優がキャスターと映画について話していた。
主演女優「この作品は、私の女優人生の集大成になります」
にこやかに出演ドラマへの思い入れを語る女優さんは、インタビューの最中にふっと口をつぐむ。
そして視線を宙に泳がせ、司会者が戸惑うのも気にせずフラリと席を立ち、スタジオを出て行ってしまう。
何なの? とテレビを見つめる美和と苅谷。その後街に出た美和は、かかってきた携帯から、信じられない知らせを聞く。
「落ち着いて聞いてね、あなたの勤め先の上司が電車に飛び込んで亡くなったって……」
それは勤め先の上司で、最初にあのテープをチェックした人だった。ほんの少し前まで、何かに悩んでいるような様子はなかったのに……。
カンカンカンと鐘の音を響かせる踏切に、吸い寄せられるように歩いていく上司の姿が映る。
携帯を持ったまま茫然とする美和は、商店街のショーウィンドウの向こうのテレビに視線を移し、さらに愕然とする。
「女優の〇〇さんが病院に搬送され、死亡が確認されました……」
収録中のスタジオから立ち去った主演女優は、どうやら自宅で自殺をはかった様子。
彼女も収録中、途中まではおかしな様子はなかったのに。
美和は慌ててアシスタントの苅谷に電話をかけ、「あの映像を見た人が次々と死んでる」と伝えるが、
ドラマの関係者が集まる場所にいた苅谷の目の前には、天井からぶら下がる首吊りのロープが………。
「美和さん、ドラマの監督が……」
苅谷の目の前では、関係者たちが首を吊った監督さんを床に下ろしていた。
監督の首には黒いアザができていて、もう手遅れの様子。
あの映像。美和が見つけ、加工してロングバージョンにした「0.03フレームの女」を見た人々が、次々と死んでいる。
そして勤め先に戻った美和は、暗い部屋に佇む女上司を見ておののきます。
「あの映像、よく出来てたわねぇ」「えっ!?……見たんですか?」
不気味ににこやかな女上司は、おののく美和に「そりゃあ見るわよ、納品前だもの」と言いながら、
窓辺に歩いていって振り返る。
「あの女……何て叫んでたの?」
不気味な笑顔がすうっと真顔になった瞬間、女上司は窓から身を乗り出して
頭から落ちていく。美和が叫ぶ暇もない、一瞬の出来事だった。
理由は分からない。
それでも、あのテープを見た人が次々と死んでいる。
感覚的にそう悟った美和は、テープを納品したテレビ局に急ぐ。
苅谷と一緒にテレビ局に向かった美和は、
あのテープが明日、亡くなった主演女優の追悼作品として全国放送されると知る。
アレを全国に流してはいけない!しかしプロデューサーは相手にしない。
プロデューサー「テープの祟りとか呪い? アレを見た人間が死ぬって、俺やお前らはこうして生きてるじゃないか!」
それなりにお金も手間暇もかかった映像は、主演女優や監督が急死したからと言って無駄にはできない。
追悼作品としてでも流し、元を取らなきゃならない…。
美和と苅谷は諦めず、勝手にテープの保管庫に行って担当のお姉さんに
「ノイズが入ってるから処理する」と告げ、強引にテープを借り出す。
しかし不審に思った保管係のお姉さんがプロデューサーに問い合わせ、
すぐに怒り狂ったプロデューサーが追って来る。
「……俺たち、これで完全に業界から消されますね」
「そんなコト言ってられないわよ!」
テレビ局の廊下を駆ける2人を見つけ、「明日オンエアのテープに何すんだゴルアアアア!!」と
爆走してくるプロデューサー。
非常階段の踊り場で立ち塞がるプロデューサーに、苅谷がタックルして美和を逃がす。
「美和さん、早く!!」
その隙に逃げようとする美和。しかし彼女は、背後でドサッという音を聞く。
非常階段の手すりに手をかけ、眼下に目をやって愕然とする美和。
苅谷とプロデューサーは転落し、地面に叩きつけられて死んでいた………。
あの映像を見た人間がまた死んだ。
美和はひたすら走って勤め先に戻り、
テレビ局から連絡を受けて咎めようとする上司を振り切って編集室に駆け込み鍵をかける。
「おい!! 何やってんだお前!!」
上司がドアをガンガン叩くのを無視し、テープを編集用のデッキに入れる美和。
じりじりしながら再生された映像を早送りして、ようやくあの女が映し出される。
「……なんで!?」
カタカタカタとパソコンのキーボードを叩きつつ、狼狽の声をあげる美和。
「なんで……なんで消えないの!?」
画像処理ができない。
いくらカーソルを合わせて操作しても、マスターテープからあの女を消去する事ができない。
消えない。どんなにやっても消えない。
やがて大映しになった女の顔が、暗い穴のような目と口が、グワアとこちらに向かう。
「消すなあああああ」
※女の画像
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恐怖にこわばる美和のアップ―――――(暗転)