名作・神スレ

【名作SS】勇者「世界崩壊待ったなし」

393 :◆TRhdaykzHI 2014/06/23(月) 20:58:47.23 ID:m9/jnbfBo

勇者「勘弁しろよ……ハァ」

魔王「……しかし、どうやって冥府に?」

勇者「どうやってって…… け、剣だよ」

勇者「剣でこう腹をぐさっとな。ハラキリだ。ハラキリ……痛かったぜ」

スタスタ

鍵守「えっ……剣でしんじゃったの?」

鍵守「どくの方が、いろいろよかったんだけどな……」

勇者「だれだ?」

鍵守「冥府の番人だよ……。あなたが勇者」

鍵守「もし世界崩壊を止めることができたら、ボクがせきにんもってふたりを元のところにかえします」

鍵守「そのとき、毒の方がつごうよかったんだけど……」

魔王「それは困ったな。どうしよう……勇者くんが剣で死亡してしまったのだが」

勇者「えっと、いや……剣という名の毒死かもしれない」

魔王「剣で死んだ場合、どうなる……?生き返ることは無理なのか?どうしよう……」

勇者「あのさ、もしかして剣じゃなくて毒だったかも……」

魔王「でも毒は私が飲みほしたのだ。それはあり得ないではないか」

鍵守「剣などの外傷でしんだばあい、いきかえったさいに
   のたうちまわるほどの痛みをともないます」

394 :◆TRhdaykzHI 2014/06/23(月) 20:59:48.19 ID:m9/jnbfBo

鍵守「いきじごくといっていい痛みを経験することになります……
    もういっそころしてくれと言いたくなるような いたみが」

魔王「…………」

勇者「そ、そんな青ざめなくても、俺は大丈夫だ。
    いや、剣でやればよかったなと今思うが、あのときは咄嗟に……」

勇者「まあそんなことは創世主をどうにかしてから考えようぜ!!
    で鍵守、俺たちは何をすればいい?早く話してくれ!!」

鍵守「月へ」

鍵守「月にのぼって」

魔王「月?」

鍵守「あそこにみえるでしょう」

鍵守「ここには、いつも月がありません……それは月がセカイをつなぐトビラだから」

鍵守「いつかくるかもしれなかった日のための……今日のためのトビラ」

鍵守「ほんものの、トビラです……」

鍵守「彼に会いにいってね」

395 :◆TRhdaykzHI 2014/06/23(月) 21:00:36.68 ID:m9/jnbfBo

鍵守「カギは、これ」

鍵守「このセカイでボクだけがもっている、あちらのセカイのもの」

勇者「……これ、おもちゃの鍵じゃないのか?」

鍵守「そうでしゅ……かんだ。そうですよ」

鍵守「……このセカイをすくってください……さあトビラをあけて」

鍵守「勇者。魔王」

カチャ……。

バタン。

396 :◆TRhdaykzHI 2014/06/23(月) 21:01:06.26 ID:m9/jnbfBo

お兄ちゃんなんかだいきらい。

397 :◆TRhdaykzHI 2014/06/23(月) 21:01:36.57 ID:m9/jnbfBo

『創世記』

今日は雨が降っていた。
空がどんよりと曇っているのはいつもだけど、雨が降るのは久しぶりだ。

家に帰ると汚れた窓に妹が張り付いて、外の雨を見ていた。
体が冷えるから窓から離れろと言ったのに聞かない。
結露して曇ったガラスに指で書いた自分の名前を得意げに見せてきたが
綴りが2か所も間違っている。

固いパンを二人で食べた後は、いつも通り妹に読み書きを教える。
僕も学校に行ったことはないからそんなにうまい方ではない。
街の外れにあるボロい教会のイカレシスターに教えてもらったんだ。

だけど病気で滅多に外に出れない妹は、歩いてほんの少しの教会にだって気軽に行くことはできない。
だから僕が教えてやる。

398 :◆TRhdaykzHI 2014/06/23(月) 21:02:17.59 ID:m9/jnbfBo

もうすぐ妹の誕生日だ。
かと言ってケーキやおもちゃを買ってやれるわけではない。
そんな風に余分に使える金などないに等しい。

でもできれば妹の欲しいものをあげたい。
家から出られず、ポンコツの体をもって生まれてしまった妹の願いを叶えてやりたい。

訊くと本がほしいと言った。教会にあるような本。
僕が仕事に行っている間に、それで読み書きの練習をしたいってさ。

本なら教会にたくさんあった。
みんなが「不必要なもの」と考える本だ。
みんなは経済の本とか、数字の本とか、そういうのが「必要な本」で、
それ以外の「不必要なもの」や「ゴミ」をあのシスターは教会に集めている。

でも教会にあるのは、ページが抜けおちていたり、汚いシミがあるようなのばっかりだったから
できればきれいな新品の本をあげたい。

明日仕事帰りに本屋に行ってみよう。

399 :◆TRhdaykzHI 2014/06/23(月) 21:03:06.41 ID:m9/jnbfBo

― ― ― ― ―

本はどれも高価だった。
一番値段が安いのでも、買ったら今月の薬に使う金がなくなってしまう。

仕方なくノートとインクを買った。
白いノートと黒いインク。二つあわせても本の半分の半分の値段。

帰り道、ゴミ置き場に、誰かが捨てたオモチャの箱があった。
まだそんなに汚れてもいないし、壊れてもいない。
小さな鍵も中に入っていた。
僕はそれも持ち帰ることにした。

妹の、7歳の誕生日。

オモチャの箱も鍵も、一生懸命掃除をするとなかなかきれいになった。
でもこんなものしかあげられなくて悲しくなる。

そんなことをしている間に妹が目を覚ました。
おめでとうと言うと、ありがとうと笑った。

本が高くて買えなかったと言うと、謝られた。
「べつにいいよ。ごめんね」
代わりにいっしょに物語をつくって、それを僕が本にすると言うと
そっちの方がおもしろそうだと言ってくれた。

400 :◆TRhdaykzHI 2014/06/23(月) 21:04:15.53 ID:m9/jnbfBo

― ― ― ― ― 

どんな世界がいいだろうか。
きれいな空があるといい。

この街は僕たちが生まれるずっと前から灰色の雲に覆われている。
でも本当は、雲の向こうには青い空があるそうだ。
雲がなければ、夜には宇宙の色がそのまま見えるそうだ。

空気がもっときれいなら、雲も消えるだろうし、妹ももっと楽に息をできるはずなんだけどな。

それから海。
この惑星の半分以上を覆っていた塩水。
写真でしか、見たことない。

「いつか行ってみたいな。きっと街の外の砂漠を抜ければ、海があるのかもしれない」

「いきたいね……」

「そこにおかあさんとおとうさんもいるかもね」

青い空の下、青い海の中、家族4人でいる様子を思い浮かべた。
幸せな光景だった。

401 :◆TRhdaykzHI 2014/06/23(月) 21:11:35.41 ID:m9/jnbfBo

― ― ― ― ― 

それから太陽と星と雪をつくったよ。
全部見たことないから想像。

太陽がでてれば今よりずっと暖かくなるそうだ。
そしたら上着もマフラーも必要ないな。
妹も風邪をたくさんひかなくなるかも。

星は宇宙にある別の惑星らしい。
あんまり遠く離れてるから小さく見えるんだって。
昔の人は星座なんてものもつくってたって聞く。
夜空に穴を開けたみたいにきれいなんだろう。

雪もいつか見てみたい。
たまに降る濁ったネズミ色のべちゃっとした霙じゃなくて
真っ白な雪が積もるところを見てみたい。
妹ははしゃぐだろうな。

太陽の国と、星の国と、雪の国を今日は考えた。
僕たちの理想の国。海に浮かぶ小さな大陸。

街にある偽物の植物なんかじゃなくて、本物の花や木や草があるところ。
車も走ってないから排気ガスもない。灰色の雲に覆われてない世界。
たぶんいまは、惑星のどこを探したって存在しない、夢の大陸。

402 :◆TRhdaykzHI 2014/06/23(月) 21:13:53.17 ID:m9/jnbfBo

― ― ― ― ― 

それから月もその世界にはあることにしたよ。
暗い夜が怖いって妹が言うから。

さて本だから主人公がいなくちゃいけない。
やっぱり正義の味方が悪い奴をやっつけるのがいいと思った。

主人公、勇者。
悪役、魔王。

勇者が悪い魔王を倒しに行く本にしよう。
立ちふさがる悪の手下たちをバッタバッタをなぎ倒し、勇者は進む――。

「3日間にわたるたたかいの末、勇者はついに悪い魔女を倒したよ。
 魔女はつくった毒薬で村の人々を苦しめていたんだ」

「魔女の次は竜の谷へ勇者は向かった。
 そこに住んでるドラゴンに、王国の姫がさらわれてしまったんだ」

「勇者は聖なる山のてっぺんにあるドラゴンスレイヤーを引き抜いて、
 それを引っ提げて竜の谷へ……」

403 :◆TRhdaykzHI 2014/06/23(月) 21:14:53.99 ID:m9/jnbfBo

「ねえ、お兄ちゃん。シスターさんのところにある本って」

「どうしていつも魔女と竜はわるものなの?」

「どうしていつも魔王は勇者のてきなの?」

「どうしてって……悪い奴がいないと盛り上がらないだろ」

「でも、やだな。みんななかよしがいいな……」

「お兄ちゃん。せっかくきれいな空と海があるセカイなんだから、みんななかよくしようよ」

「……それも、そうか」

妹の誕生日プレゼントだし、妹がすきそうな話にしたかった。
勇者は剣を持ってるけどあんまり使わない。ちょっと抜けてて、でも明るい。よくしゃべる。
魔王は角が生えてて青色の肌をした怖いおじさんじゃなくて、妹と同じ年くらいの女の子にした。

めったに外にでれないから、妹には同じ年の友だちがいない。
僕くらいしか喋る相手がいない。
だからせめてあっちのセカイに妹の友だちをつくってやりたかったんだ。

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404 :◆TRhdaykzHI 2014/06/23(月) 21:16:13.32 ID:m9/jnbfBo

それから夜寝る前に僕は思いつくまま妹に勇者と魔王の話をして
空いた時間にそれをノートに書いてった。

どこかで聞いた物語のストーリーや展開のつぎはぎ。
ご都合主義だらけの変な話。

それでもそれを話すと、妹が楽しそうだったから
まあ、いっかって。

こんなの読むよりもっと役に立つ実用書を読むべきだってみんな言ってる。
現実にはハッピーエンドなんて存在しないから。
夢を見てる暇があるなら、金を稼いだり、そのための勉強をするべきだって。

僕もそう思う。
金がないと何もできない。金はあればあるだけいい。
金があれば、妹の病気も治せるし、毎日お腹いっぱい食べれる。
金があったらお母さんとお父さんも出て行かなかっただろう。

でも妹が嬉しそうに僕が書いたノートをめくっているときだけ……
ちょっとだけ、本当にそうなのかなって思うよ。

405 :◆TRhdaykzHI 2014/06/23(月) 21:16:54.12 ID:m9/jnbfBo

― ― ― ― ― 

最近、少しだけ妹の咳が多くなっている気がする。
夜ずっと咳が止まらず明け方まで続くこともある。

やっぱりこの薬だけではだめなんだろうか。
もっと効き目のある薬も売ってるけど……高い。

入院させたいけど、保険に入ってないし、そもそもそんな金もない。

でも明日には……明後日には、遅くても来週までには
きっと妹も以前のような体調に戻るはずだ。今、ちょっと調子が悪いだけ。
きっとそうだ。

406 :◆TRhdaykzHI 2014/06/23(月) 21:17:44.58 ID:m9/jnbfBo

― ― ― ― ― 

妹が熱をだした。38度を超える高熱だった。
ずっとそばにいてやりたかったけど、仕事は休めなかった。

仕事を終えて、工場長の怒鳴り声を無視して走って帰った。
妹は眠ってただけだったけど、一瞬死んじゃってるように見えて
足に力が入らなくなって膝をついてしまった。

「ゆめみてたよ……。森があって……きれいな空で」

「太陽がきらきらしててあったかかった……お兄ちゃんが丘にいて」

「勇者と魔王もそこにいて、お父さんとお母さんもいて、みんなであそんだよ」

熱は数日後下がった。けれど咳をする頻度は減らなかった。
重たい咳が増えた。夜通し咳をするようになった。
苦しそうだった。
何もできなかった。

407 :◆TRhdaykzHI 2014/06/23(月) 21:18:48.30 ID:m9/jnbfBo

― ― ― ― ― 

シスターみたいに神様を信じたことはなかったけれど
いつも気づけば手を握りしめて神様に祈っていた。
どうか妹が死んでしまわないようにって。

せっかくノートに書いたのに、夜寝る前に決まって
妹は僕に話をしてくれと頼んできた。

一応、僕がいない間にノートは見てるみたいで
ちょっとは読み書きも上手になっていた。
たまに字の書き間違いがあるけれど。

いつかちゃんと学校に行かせてやりたいな。
僕の分もいっぱい勉強して、いろんなことを知ってほしい。

でも、そんな日は本当に来るのかな。
枕をしきりに隠すので見てみると赤黒いシミがあった。
咳をしていて血を吐いたらしい。

次の日、仕事中にうっかり泣くと工場長に怒鳴られた。
妹じゃなくてこいつが死ねばいいのに。

なんで僕の妹なんだ?

408 :◆TRhdaykzHI 2014/06/23(月) 21:19:25.01 ID:m9/jnbfBo

― ― ― ― ―

仕事から帰ると妹が、あの誕生日にあげたオモチャの鍵をもてあそんでいた。
箱に何かをいれて、鍵をかけたらしい。

何をしまったのかと聞くと、秘密だと言って教えてくれなかった。
気になったけど追及はしなかった。

最近、ふと気付くと妹が遠くを見つめていることが多い気がする。
その瞳がぞっとするほど澄んでいて
僕は妹がどこか遠いところに行ってしまうんじゃないかと怖かった。

声をかけるといつもみたいにちょっと笑った。
食欲が落ちて、腕が枯れ木みたいに細くなってしまった僕の妹。
まだ手も足も小さくて、これから大きくなるはずなのに。

409 :◆TRhdaykzHI 2014/06/23(月) 21:20:10.90 ID:m9/jnbfBo

― ― ― ― ―

神様に祈ることより、別のものに祈ることが多くなった。

今日は僕の誕生日だった。
食堂の○○がこっそり高いパンや食べ物をくれた。嬉しかった。

でも帰り道、奪われてしまった。
殴られた頬がぱんぱんに腫れて、蹴られた腹はドス黒い痣になった。
口の中は鉄の味でいっぱいになった。鼻血を出したのなんて久しぶりだった。

――もし勇者がここにいたらやり返してくれただろう。
奪われたパンも取り返してくれただろう。

妹はどんどん顔色が悪くなった。
咳も止まらなくなった。
もういつも買っていた薬はあんまり効き目がないみたいだった。

パンひとつすら全部食べられなくなった。
元から小さい体が、どんどん小さくなっていく。

――もし魔王がいたら、魔法で妹の病気なんてすぐ治るに違いないのに。
魔法があったら、こんな苦しい思いさせずに済むだろう。

魔法があったら
妹は死なないのに。

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410 :◆TRhdaykzHI 2014/06/23(月) 21:20:48.55 ID:m9/jnbfBo

― ― ― ― ―

僕はずっと頑張っていた。
たくさん金を稼ぎたかったから仕事を頑張った。
いつか戦争で使うための武器をつくる工場で
怒鳴られながら、踏みつけられながら、ずっと頑張っていた。

妹を死なせないように必死に頑張っていた。
貧困区の隅の小さなアパート。
隙間風の通る灰色の部屋で、妹といっしょに夢を見ることだけが幸せだった。

「ただいま」と言って扉を開けると
「おかえり」と言って迎えてくれることだけが嬉しかった。

僕はいつか報われるはずだってずっと思っていた。

411 :◆TRhdaykzHI 2014/06/23(月) 21:22:15.12 ID:m9/jnbfBo

― ― ― ― ―

妹がしんた゛

8さいのたんし゛ょうひ゛

412 :◆TRhdaykzHI 2014/06/23(月) 21:23:03.71 ID:m9/jnbfBo

『終末記』

頑張ったって報われることなどない。
魔法なんてものはない。奇跡もない。

「勇者」も、「魔王」も、僕たちを救ってくれるものは何もないんだった。
そんなことは分かっていたはずなのに。

ノートの最後のページの「ハッピーエンド」をインクで塗りつぶした。
全部ぐちゃぐちゃにした。
こんなもの、なんにもならなかった。

もういらない。見たくもない。

あいつが大事にしていたオモチャの箱にそれを入れて鍵をかける。
鍵は、墓にいっしょにいれた。
ずっと大切そうに首からぶらさげていたから、そのまま。

生きる意味はなくなった。
それからずっと、亡霊みたいに暮らしてる。
多分これから一生。

413 :◆TRhdaykzHI 2014/06/23(月) 21:26:33.63 ID:m9/jnbfBo
今日はここまでです
こういうストーリーにしちゃうとなんかアレなんですが
一応言っとくと>>1≠僕 です。これは完全にフィクションです

414 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/06/23(月) 21:40:22.06 ID:sR29cZ93o

そこと繋がるのか

415 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/06/23(月) 23:44:25.89 ID:yVVhvNLXo
SSの続きもゲームも楽しみだ
乙!

418 :◆TRhdaykzHI 2014/06/27(金) 21:08:29.01 ID:UmxEe4WZo

シスター「アブラカタブラ、アバダケダブラ、チチンプイプイ」

シスター「さあ悪魔よ、我が呼び声に応え今こそ来られたし!!」

シスター「チッ……こねーな」

シスター「やっぱ本物の血じゃないとだめなのか?さすがにさわりたくねーなぁ」

シスター「とりあえずこの魔法陣は消すか……」

シスター「雑巾雑巾……」

ドサッ

   「ぐぁっ」

シスター「あぁん?」クル

勇者「いてて……ここは? あんた誰だ?」

シスター「…………」

シスター「……た……」

勇者「え?」

シスター「……ほんとにきた……」

シスター「……悪魔はいたのか……」

勇者「は?」

419 :◆TRhdaykzHI 2014/06/27(金) 21:09:45.28 ID:UmxEe4WZo

―――――――――――――――――
―――――――――――
―――――――

勇者「だから!何度も言うが俺は悪魔じゃなくて人間だ」

シスター「いやいや、じゃどっからお前現れたわけ?さっきまでこの部屋には私しかいなかったのに
     振り向いたら悪魔召喚の魔法陣の上にお前が立ってたんだぜ」

シスター「悪魔しかいねーだろ」

勇者「えっあれ魔法陣だったのか?ぐちゃぐちゃだったからただの落書きかと」

シスター「失礼な悪魔だな」

勇者「だから違うっつの。俺の姿かたちを見ろよ。どこに悪魔要素がある」

シスター「でも変な格好してる。とても一般人には見えんな。
      そんな馬鹿でかい剣なんて腰にぶらさげてんのは、役者か悪魔くらいのもんだろ」

勇者「変な格好……?普通だろ。俺は役者でも悪魔でもないよ。
   悪魔と似たような知り合いはいるが、俺は勇者だ」

シスター「で悪魔に頼みがあるんだけど」

勇者「人の話きけよ」

シスター「命と引き換えに何でも願い叶えてくれんだろ?」

シスター「ある会社を潰してほしいんだよね」

勇者「カイシャ? なんだそれ……?」

シスター「んー……。お金を稼ぐために存在してる組織。営利団体。かな?
     まあ見せた方が早いか。外いこーぜ」

420 :◆TRhdaykzHI 2014/06/27(金) 21:10:36.93 ID:UmxEe4WZo

ブロロロロロ ……
  パッパー ゴトンゴトン……

勇者「……………………………………」

勇者「な……なんだここ……?」

勇者「……変な馬が走ってる……すげえ速い……」

シスター「あれ車っていうんだよ。悪魔にはカルチャーショックでかいんかな」

勇者「なんでみんな変な格好してんだ」

シスター「私的にはお前の方が変な格好だけど」

勇者「ごちゃごちゃしててうるさいな……それに、空気が……なんか臭い。ゲホッ」

シスター「もう慣れちまったから何も感じないよ。
     気になる奴はマスクしてるけどあんなもんじゃどうにもならねーな」

勇者「あとなんであんなにたくさん立て札が?見てて目が痛くなる」

シスター「ありゃ広告と看板だよ。そろそろ質問責めやめてくれる?自分で考えな」

勇者「うう……なんだここ。俺は確か魔王と扉を抜けて」

勇者「確か鍵守は彼に会えって言ってたな」

勇者「ここは俺たちの世界とはまた別の世界……なんだろうな。
   創世主が住んでる世界、なのか」

勇者「……ここにいるのか、あいつが」

勇者「……つーか魔王は?どこいった」

勇者「なあ、俺といっしょに女の子がいたはずなんだが知らないか?」

シスター「ふうん?しらね―けど。 魔法陣の上に立ってたのはお前一人だけだった」

421 :◆TRhdaykzHI 2014/06/27(金) 21:11:40.86 ID:UmxEe4WZo

シスター「お、ここ止まって。これ見ろ悪魔。この会社を潰せ」

勇者「箱……? なんだこれ!?中にどんだけ小さい人間が入ってんだよ!?」

勇者「魔法か?」

シスター「魔法じゃあない。詳しい仕組みは私にも分からん。テレビっつーんだよ」

シスター「いま映ってる大企業潰してくれ。てっぺんに飾ってある緑色のえらそうな旗を焼いてくれ」

シスター「むかつくんだよ、ここのボス。きたね―商売しやがって」

勇者「これが魔法じゃないだと? じゃあ何だって言うんだよ……すげえ動いてるけど……」

勇者「頭痛くなってきた……もうわけわからん」

シスター「おい聞いてるか?この会社だぞ、間違えんなよ」

シスター「この会社はな、この街の外、砂漠を越えた先の都市にある」

勇者「はあ……そっすか。じゃあここはどこなんだ?」

シスター「ここは街の一番隅っこにある貧困区。ゴミ捨て場みたいなもんだ」

シスター「あっちにある大きな橋の向こうが一般区。豊かな連中が住んでるよ」

シスター「一般区が中央区をぐるっと囲んでるから、一般区を超えると中央区。
     私が想像もつかないくらい豪華な暮らしをしてる連中がいる」

シスター「都市に行くには中央区の駅へ行って列車に乗るしかないんだけど、
     この切符代が馬鹿だかい。貧困区の連中にゃとても買えない」

シスター「だからお前に頼んでる。あの会社を潰してこい」

422 :◆TRhdaykzHI 2014/06/27(金) 21:12:11.10 ID:UmxEe4WZo

* * *

工場長「またヘマしたのか!!なんでお前はそう覚えが悪いんだ!?」

少年「すみません」

工場長「謝りゃいいと思ってんじゃねえだろうな!クビにするぞ!」

少年「すみません」

工場長「1時間で全部仕上げろと俺が言ったら何があろうと仕上げるんだよ!!」

少年「すみません」

工場長「てめーのせいで工場全体が不利益を被るんだ、わかってんだろうな」

少年「すみません」

工場長「今月の給料は減らす。文句はねーだろうなクソガキ」

少年「すみません」

423 :◆TRhdaykzHI 2014/06/27(金) 21:13:05.39 ID:UmxEe4WZo

○○「……よっ。今日はなに食べる」

   「おう坊主。こっち来いよ」

   「俺も今日あのジジイに怒られちまったぜ、やんなるよな」

少年「……ああ」

少年「うん。別に」

少年「どうでもいいよ」

○○「……」

○○「妹さん亡くなって、もう1年……か?」

少年「そんな経ったっけ」

○○「まあ、なんだ、その……元気だせよ。 な?」

少年「元気だよ」

○○「……そうか? ならいいんだけどよ」

  「なあおい聞いたか今のラジオ?」

  「あの連続殺人犯が南に護送中に逃げたってよぉ。せっかく捕まったのにな」

  「それ結構前の話じゃねーか? こええなぁ。物騒な世の中だぜ」

  「ま、殺人犯がいてもいなくっても、クソみたいな街ってことは変わんないけどな」

○○「殺人犯ねぇ……。こええな」

少年「……ごちそうさま」

○○「もう行くのか? ああ、じゃあな……」

424 :◆TRhdaykzHI 2014/06/27(金) 21:13:55.70 ID:UmxEe4WZo

スタスタ

少年「……」

少年「……」

キキーッ!!

警官「ちっ! おいあぶねーぞ坊主!!ふらふら歩いてっと引かれちまう!!」

後輩「や、先輩の運転も荒すぎますから」

警官「バッキャロー荒くもなるっつーの!!ちくしょう!なんで俺がこんな貧困区のパトロールなんかせにゃならんのだ!!」

後輩「先輩が、ずっと追っていてやっと捕まえた護送中の連続殺人犯を南で取り逃がしたからです」

後輩「そのヘマのせいで殺人課の刑事やめさせられて、ここの交番に配属されたからです」

後輩「中央区勤務でエリートだったのにも関わらず貧困区に配属になって、奥さんや子供に逃げられたのもそのせいです」

警官「うるせーっ!!いちいち冷静に返すんじゃねーよ!!!」

後輩「先輩が訊いたんじゃないですか」

警官「うるせーっ!!この童貞!!殴るぞテメーッ!!」

後輩「童貞じゃありません。警官がそんな言葉づかいやめてください。だから奥さんと子どもに逃げられるんですよ」

警官「そのことはもう言うな馬鹿野郎!!絶対復縁してやるクソが!!」

425 :◆TRhdaykzHI 2014/06/27(金) 21:15:22.65 ID:UmxEe4WZo

警官「あいつは俺が絶対捕まえてやる。あいつは俺にしか捕まえられねーんだ」

後輩「一度都落ちした先輩にそんなことできるんですかね」

警官「できるに決まってんだろドチキショウ!!」

警官「おらおらどけガキども!!!車道に飛び出すんじゃねー邪魔だオラァ!あぶねーぞ!!」

426 :◆TRhdaykzHI 2014/06/27(金) 21:15:57.65 ID:UmxEe4WZo

少年「……」

少年「……」

  
   「はい、これ」

少年「……?」

花屋の女「あげるよ。間違って切っちゃったんです」

少年「……別にいらないよ」

女「偽物の花でも、誰かにプレゼントされると嬉しいって、人間は思うものでしょ?」

女「そう思うはず」

女「なんだか君が暗い顔をしていたし、私も間違って切っちゃったことばれたら怒られるから、ちょうどいいじゃない」

女「受け取って」

少年「……じゃあ」

少年「……どうも」

女「いえいえ」

427 :◆TRhdaykzHI 2014/06/27(金) 21:16:39.25 ID:UmxEe4WZo

アパート

少年「こんなのもらっても……な」

少年「飾ってもしょうがないし」

少年「捨てるか」

ドンドンドン!!

男「おい。いるのは分かってる。出て来い」

少年「……!」

少年「……帰れ!何度言われても僕はどこにも行かない」

男「立ち退いてもらわないと困るんですよ。こっちも遊びでやってるんじゃないんでね」

少年「急に現れて家から出て行けなんて勝手なことを言っておいて……」

少年「ここは僕の家だ。……僕たちの家だ」

男「もうここら一帯のほとんどの連中が立ち退いたんだぜ。あとはお前さんと少しだけだ。もう諦めろよ」

男「工事ももうすぐはじまる予定だ。そろそろ本格的に立ち退いてくれねーと困るよ」

男「はぁ。ここらへんで言うこと聞かないと、俺より怖い奴らが来るぜ。俺はまだ優しい方だ。
  うちのボスはそりゃあ金のためなら何でもやるからな。ガキでも容赦しねえぜ」

男「……また次は誰かが来る。そんときまでにどっか行っとけ」

少年「……」

少年「ここを出たっていくところなんかない……」

少年「この家だけは……」

428 :◆TRhdaykzHI 2014/06/27(金) 21:18:22.05 ID:UmxEe4WZo

* * *

魔王「…………」

魔王「…………」

魔王「……ふう……いったん落ち着こう」

魔王(見慣れぬものばかりだ。どう考えても別世界……ここに創世主がいるのか)

魔王(人が多いな。どうやら魔族はこの世界に存在しないようだ。もしくはここが人だけの街なのか……)

がやがや がやがや

魔王(言葉は分かる。意志疎通は問題なさそうだ)

魔王(だが服装……かなり私はここで浮いているな。仕方ない)

ジロジロ……

魔王(視線をものすごく感じる。立ち止まっているより歩き続けていた方がよさそうだ)スタスタ

魔王(勇者くん……どこにいるのだろう)

魔王「わっ……?」

ビュン

魔王「なんだ、あの箱は? 馬車ではない。人が中にいた」

魔王「それに、こ、この中から人の声がする小さな箱は……?」

   「ちょっと!うちの店のラジオに勝手に触んないでおいとくれ!」

魔王「らじお?」

魔王(魔族はいないのに魔法はあるのか……。しかし一体どんな呪文の魔法なのだろう)

魔王(見たところこの街には魔法が溢れかえっているようだが、どれも全然仕組みが分からないものばかり。
    この世界はかなり魔法が発展しているようだ)

魔王(すごい……。落ち着いたら色々ここで魔法を学びたいな。こんな街があったなんて……)

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429 :◆TRhdaykzHI 2014/06/27(金) 21:18:56.54 ID:UmxEe4WZo

魔王(……でも)

魔王(魔法が発展している割には……街の様子がどうも変だな。
   皆貧しい身なりをしているし、道のいたるところにゴミが落ちているし)

男「……へへ」

女「ひそひそ……」

魔王(なんだか嫌な感じだ)

魔王(治安はよくないようだな。これほど魔法が発展しているのならもっと治安が良くてもよさそうなものだが)

ドゴッ

「おい……持ってんだろ?出せよ、金」

「持ってない……」

魔王「……ん?」

430 :◆TRhdaykzHI 2014/06/27(金) 21:24:34.75 ID:UmxEe4WZo

男A「ウソつくのはやめろよ。今持ってる金全部わたしゃいいんだよ。
  お前、あっちの工場で働いてるんだろ」

少年「……金が欲しけりゃ自分で働けよ。盗みばっかしてないで」

男B「お前だってここらにいるって時点で、俺らと同じようなもんだろ!はは!」

少年「僕はお前らとは違う……」

男A「あんだと?生意気言うじゃねーか。スラム街の小僧が」

少年「それに本当に今は金がない。殴りたきゃ殴れよ」

男B「……ふん。じゃあお望み通り」

魔王「待て。何をしているのだ」スタスタ

魔王「大の男が子どもに寄ってたかって、恥を知れ」

男A「あぁ?誰だてめえ。邪魔すんじゃねぇよ」

少年「……?」

魔王「……君……どこかで私を会ったことがないか?」

少年「はあ……? ねえよ」

少年「誰だよアンタ。どっか行けよ」

男B「お前、そのガキの知り合いか?だったらそのガキの代わりに金出せよ」

少年「いや、知り合いじゃない。誰だよほんと」

魔王「……これを持って行け」ジャリッ

少年「おい!?」

431 :◆TRhdaykzHI 2014/06/27(金) 21:27:04.49 ID:UmxEe4WZo

少年「なに余計なことしてんだよ!」

男A「ん?なんじゃこりゃ。おいこれどこの国の金だよ?こんなんじゃ使えねーな」

魔王「……あ、そうか。では私も金などない」

魔王「貴様らと同じ一文なしだ。この少年も金を持っていないと言っている。
    私たちからは金を巻き上げることはできんぞ。大人しくどこぞへ行け」

魔王「こんな真似をしていないできちんとした方法で金を稼ぐことだ」

男A「金がないくせにやたらと偉そうだぞ、この女……」

男B「俺らと同類のくせして……」

少年「おい、変なこと言ってないでどっか行けよ」

少年「こいつらは殴ってれば気がすむんだよ。余計なこと言うな」

魔王「彼らは気がすむかもしれないが、君は気がすまないだろう。殴られれば痛いはずだ。何故許容する」

少年「別に……死にはしない。ずっと我慢してればこいつらも飽きてどっか行くんだ。
   だから早くどっか行けよ。余計な世話だ」

少年「僕を助けたつもりなのかもしれないけど、僕はどうだっていいんだ こんなの」

少年「どうでもいい」

432 :◆TRhdaykzHI 2014/06/27(金) 21:28:29.86 ID:UmxEe4WZo

魔王「どうでもよくない」

魔王「どうでもいいことなんて何一つないだろう」

少年「……アンタに何ができるんだよ。早く行かないとアンタが」

男A「ん?そういえばお前、高そうな服着てるな……中央区のお嬢様か?
   なんでそんな奴がここにいるのか知らないが、金持ってないってのはうそだろ」

魔王「先ほど渡したもので全てだ。一文なしだ。路頭に迷う予定だ」

魔王「悪いか?」

男A「だからなんでそんな自信満々に……!?」

男B「おい、こいつの服を売ればそれなりに儲けそうじゃあないか」

男A「確かにな」

少年「ほら、だから言っただろ。さっさとどっか行けよ、頭いってんのかアンタ」

魔王「ふざけたことを。後悔するのはそちらの方だぞ」

魔王「そこから一歩でも動いてみろ。泣いて許しを乞いたくなっても知らんぞ」

男A「なに……!?」

少年「え……?」

少年(まさか……銃とか?それとも武術?)

少年(全然強そうに見えなかったけど、何か奥の手があるのか……?こいつ何者だ?)

男B「ふん……ハッタリだろ!」

魔王「早合点はよくないぞ。後で自分の首を絞めることになる」

男A「こいつのこの様子……何かあるみたいだぜ……慎重にいかねえとな」

433 :◆TRhdaykzHI 2014/06/27(金) 21:29:20.17 ID:UmxEe4WZo

魔王(……あ、杖を持っていなかったな)

魔王(まあいい。多少手加減ができなくなるだけだ。彼らに少々灸を据えねばな)

魔王(…………あれ?)

魔王(……あ。いま魔法が使えないのだった)

少年(何がはじまるんだ……?)

魔王「少年」

少年「えっ……?」

魔王「逃げるぞ」

少年「………………………………は?」

男A「おい逃げたぞあいつら!!!」

男B「やっぱりハッタリだったんじゃねえか!!コケにしやがって!!」

男A「捕まえたらタダじゃおかねえ!!ガキの方もぶっ殺してやる!!」

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434 :◆TRhdaykzHI 2014/06/27(金) 21:31:00.93 ID:UmxEe4WZo

ダッダッダッダ……

少年「……なんなの?お前馬鹿なの?」

少年「……結局煽るだけ煽っただけかよ?何もできないなら余計なことほんとにすんなよ。
   殴られるだけならまだしも、あいつらに捕まったら僕ぶっ殺されるそうなんだけど?」

少年「完全に状況が悪化してるんだけど?」

魔王「すまない。でも本当は何かできるはずだったのだ。
    今は魔力がなくて魔法が使えないだけで」

少年「……はぁ?魔法?」

少年(まずい…… 本当の本当に頭がいかれてる奴だった……妙な奴に絡まれた……)

魔王「それに、君が捕まることはないから安心してくれ」

魔王「君はそこを右に曲がれ。私は左に行く」

少年(よかった、これでこいつと離れられる)

少年「分かった」

少年「はあ、はあ……!」

少年「ってこっちに来たらどうするんだよ……!」

ドガシャーン!

男A「左だ!!追うぞ!!」

男B「分かってる!!」

少年「……!?」

少年「……あいつ……わざとやったのか?」

少年「……別に僕には関係ないことだ」

少年「……僕はあのとき、どっか行けって言ったのに、あいつが首つっこんできたから」

少年(自業自得だろ)

少年(変なこと言う奴だし、あんまり関わり合いたくない)

少年(……明日も仕事だ。早く帰ろう)

435 :◆TRhdaykzHI 2014/06/27(金) 21:32:59.65 ID:UmxEe4WZo

* * *

魔王「……」

男A「っへへ追い詰めたぜ。行き止まりだ。おいあのガキはどこ行った?」

魔王「さあな」

男B「まあいい。お前の服もらうぜ。そうすりゃ一月は不自由しないで暮らせそうだ」

魔王「いまここで裸になれと言うのか?この私に、痴女になれと?」

魔王「私に、こんな屋外で猥褻物を陳列しろと? ふざけるのも大概にしろ」

魔王「私の服を売る前に、自分の服を売ればよいではないか?それとも自分が服を着ていることに気付いていないのか?
   下を見てみろ、シャツをズボンとブーツがある。それを売れ」

男A「こ、こいつ馬鹿にしやがって……中央区の連中はこれだから腹立つぜ」

男B「俺たちのこといつもそうやって見下しやがる。思い知らせてやるよ、世間知らずのお嬢さんによぉ!!」

魔王「いいだろう、かかってこいっ! こちらとて今まで伊達に生き伸びてきていない。
    みくびったこと必ず後悔させてやる!」

ザバァァァァン!!

男A「ぶっ!?」

男B「なんだっ!?」

魔王「? 水? 空から……」

少年「逃げろ!」

魔王「さっきの少年。何故……」

少年「早くしろよっ! 横の建物に入れ」

436 :◆TRhdaykzHI 2014/06/27(金) 21:35:01.48 ID:UmxEe4WZo

男A「あっくそ!女が逃げたぞ!」

男B「ビルの屋上から水ぶっかけやがったのはさっきのガキか……!あいつらもうただじゃおかねえ!
   俺はガキをとっちめてくる、お前は女を追え」

男A「ああ!」

魔王(横の建物、横の建物……これか!変な建造物だな……レンガでも石でもない)ガチャ

男A「どこ行った、うおおおおおお!」

魔王「通り過ぎたか。馬鹿で助かった。後もう一人……」

少年「一人こっち来たか……」

男B「へっ 馬鹿め。屋上なんてこの階段しか逃げ場がねえんだ。もう逃がさないぜ」カンカン

男B「大人しくまってやがれ……!」カンカン

少年「そろそろか」

シュルッ シュルルルル

男B「なっ パイプを伝って下りるだと!?てめえ、そんなアクション映画みたいなことしてんじゃねえよ!」

少年「ひぃぃっ 怖っ……!! くそもう二度とこんなことしないっ」スタッ

タッタッタ……

魔王「そのまま直進しろ。そこ1.5mほどジャンプして」

少年「なっ!!お前なにまだここにいるんだよ馬鹿かよ」

魔王「いいから」サッ

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437 :◆TRhdaykzHI 2014/06/27(金) 21:36:25.36 ID:UmxEe4WZo

男B「待てクソガキ!!!」ダダダ

魔王「……」クイ

ピン

男B「のわっ!? なっ、な、……」

男B「な!?」

 バキッ ドンガラガッシャーン

 ギャァァァァ……

少年「はあっ はあ…… え? あの男は? なにこの穴」

魔王「さあ。開いていたのだ。そこの建物にあった薄い板を上にかぶせて落とし穴にした」

少年「ああ、確かここ工事中だったな」

魔王「助かった。ありがとう」

少年「……いや……まあ……」

少年「……今回は無事に済んだけど、もうああいうのやめた方がいいと思うよ。じゃ、ここで」

魔王「待ってくれ」

魔王「君に妹はいないか?」

少年「…………!」

少年「なんで……」

魔王「私も何故だか分からないのだが、君のことをどこかで見た気がするのだ」

少年「……いないよ」

少年「いない。人違いだろ」

438 :◆TRhdaykzHI 2014/06/27(金) 21:37:47.02 ID:UmxEe4WZo

魔王「……そうか」

少年「じゃあ、さよなら」

魔王「あっ 待ってくれないか。ここに来たのは初めてで、連れともはぐれてしまって……
   できればここのことを教えてほしいのだが」

少年「え……いやだよ」

少年「どうせアンタ中央区からきたいいとこのお嬢様なんだろ……こんなとこにいないでさっさと家に帰れば」

魔王「中央区?いや違う。その……記憶喪失で。どこから来たのか分からない」

少年「記憶喪失なのに連れがいたことは覚えてるのか?」

魔王「部分的記憶喪失なのだ」

少年(怪しい……)

魔王「頼む。この街である人物を探さないと、私の……街が危ないような気がする。だからこの街の知識がほしい」

少年(…………)

少年「まあ、少しの間だけ……なら」

少年「……名前は? アンタの名前」

魔王「私は魔王だ」

少年「は?」

魔王「魔王だ」

少年(……………うわ………………………)

少年「やっぱさっきのなしということで……じゃあ、ここで解散」

魔王「待ってくれっ、嘘ではない。本当のことなのだ」

少年「ついてくんな……」

439 :◆TRhdaykzHI 2014/06/27(金) 21:39:14.78 ID:UmxEe4WZo

* * *

少年「ついてくんなって言ってんだろ!!」

魔王「ここが君の住んでいるところなのか?建物はたくさんあるが、人気が全くないな……。まるでゴーストタウンだ」

少年「聞けよ! 家までついてくるつもりかよ。絶対家には上げないからな」

魔王「家族がいるのか?」

少年「……いねーよ。わりーかよ。どうせお前には待ってる家族がいるんだろ、早く帰れよ。どっか行け」

魔王「いや、こちらでやらねばならんことがある。それに私も血の繋がっている家族はもういない」

少年「え?」

魔王「ところで、この街は夜でもとても明るい。火ではないな、何故あんなにも明るいのだ」

少年「あれは……電気だけど。火なんて街灯に使うのは何百年も前のことだよ」

魔王「でんき……」

少年(電気もしらねーのかよ……まじでこいつなんなんだ……早く縁を切りたい……)

魔王「でも、君の住んでるこの地区は全然灯りがないな」

少年「……もうほとんど誰も住んでないから」

少年「……!! 家の前に……あいつ……」

440 :◆TRhdaykzHI 2014/06/27(金) 21:44:54.17 ID:UmxEe4WZo

黒服「やっとお帰りですか」

少年「……また来たのかよ。帰れよ!僕は立ち退かないぞ!!」

黒服「そんなに強情を張られると、こちらも強硬手段にでるしかなくなりますが」

少年「何をされようとこの家を渡すつもりはない。ほかのみんなが立ち退いたって僕は……」

少年「っ……!早く帰れ!!」ガチャ

黒服「社長のご命令ですので。早くこの書類にサインを頂きたいのです。
    家に上がらせてもらいますよ」ガッ

少年「なっ やめろ!勝手に入るな、この野郎!出て行け!!」

黒服「汚い家ですね。 で、お父様とお母様は?会わせて頂くまでここに居座り続けますよ」

少年「お父さんもお母さんもいねーよ!この家には僕一人だけだ……
    だから、この家だけが家族の思い出なんだよっ!壊されてたまるか!」

黒服「じゃお前がこれにサインすれば全部終わるわけだ。どうする、死ぬかサインするか?」チャッ

少年「……け……拳銃?」ゴク

黒服「……」

魔王「けんじゅう、とはなんだ?」

少年「……んなっ…… なんでお前まで入ってきてんだよ!!!っも帰れよ、お前ら帰れ!!」

黒服「ん……?家族はいないってさっき言わなかったか?誰だ」

少年「僕が訊きてえよ。誰だよこいつ」

黒服「部外者ならとっとと出てくんだな。拳銃っていうのは、引き金引いただけで人を殺せる便利な道具だよ」

魔王「では何故その危険な道具を少年に向ける?やめろ」

黒服「フン。……ん?よく見ればなかなかかわいい面してるお嬢さんじゃないか。こりゃいい拾いもん……」

魔王「さわるな。薄汚い豚め」

黒服「ぶ……豚!?」ゾクッ

441 :◆TRhdaykzHI 2014/06/27(金) 21:47:59.84 ID:UmxEe4WZo

黒服「この鍛え上げた体脂肪4%の肉体を持つ俺に……言うに事欠いて豚だと?」

魔王「貴様の内面が贅肉だらけの気色悪い豚だと言ったのだ。武器を子どもに向けるな」

魔王「こちらへ来い。4足歩行でな。首輪も必要か?しつけのなってない駄犬だ」

黒服「く、首輪!? だ……駄犬!?!?」ゾクゾク

黒服「な……なんたる屈辱……この俺に」スタスタ

魔王「犬は2足歩行しないだろう。私の話を聞いていたのか。とっとと屈め」

黒服「な、なんだとぉ……!?」ペタン

魔王「そうだ、いい子だ。さあそのまま外の手すりまで来い。……遅い。駆け足」

黒服「く、くそう……こんな娘に……」ゾクゾク

魔王「手すりから身を乗り出せ。もっとだ。もっと」

黒服「落ちてしまうじゃないか!」

魔王「犬ってどうやってなくんだっけ」

黒服「ワン!ワン! ワ……」

魔王「よくできたな」ドン

アーーーーーーーーー…

少年「馬鹿で助かった……」

魔王「馬鹿で助かったな」

442 :◆TRhdaykzHI 2014/06/27(金) 21:51:30.63 ID:UmxEe4WZo
今日はここまでです
443 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/06/28(土) 00:00:33.60 ID:l0kiLHIXo
ただのドMじゃないですかやったー
魔王もなかなか肝が座ってるな
444 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/06/28(土) 03:19:22.46 ID:WDueQ7ZYO
ザワザワ馬鹿だったの
おつ
445 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/06/29(日) 00:36:53.58 ID:19Ap4Oh00
これは馬鹿 乙

446 :◆TRhdaykzHI 2014/07/02(水) 20:59:40.28 ID:hfpVOjiho

魔王「彼は?知り合いではなさそうだな」

少年「当たり前だろ。……あいつは……どっかの会社から派遣されてきた奴だよ。この間は違う奴がきてた」

少年「……このあたりは貧困区でも一番貧しいところなんだ。
   さっき僕たちがいたところは、その中で最も治安が悪いところ」

少年「お偉いさんたちは、掃きためを壊してここら一帯に楽しい楽しいテーマパークをつくるんだってさ」

少年「治安が悪くて、貧乏人ばっかり住んでる汚らしいところを壊して有効活用しようってわけだ」

魔王「てえまぱあく……?」

少年「……遊園地」

魔王「ゆうえんち……?」

少年「疲れる……とにかく、客がいっぱい来て金儲けできるところだよっ」

少年「もうこのあたりに人が住んでないの見たろ。あいつらが脅してここの住人を追いやったんだ」

少年「……」

魔王「そうか……。それはひどいな。家を奪うなんて。 では取引をしないか?」

魔王「またあのような者が来たら私が追い払う。そのかわり、私にこの世界のことを教えてくれ」

少年「……ハァ?次来る奴もさっきみたいな変態ドマゾ野郎とは限らないだろ」

魔王「大丈夫だ。自信がある」

少年「……なんの?」

447 :◆TRhdaykzHI 2014/07/02(水) 21:00:41.11 ID:hfpVOjiho

魔王「だから明日も来ていいだろうか?頼む。君しか今頼れる人がいない」

少年「……いやだ。首つっこんでくんな。それに僕は明日仕事だから」

魔王「仕事をしているのか?君はいまいくつだ」

少年「……11。……」

魔王「……そうなのか。えらいな君は。よしよし」

少年「なんだよっ!やめろ。……お前みたいな金持ちにこんなことされたくない」

魔王「金持ちではないのだが、気に障ったのならすまん。でも明日また会いにきてもいいだろうか」

少年「……………………じゃ明日だけ……」

魔王「ありがとう。恩に着る。ではまた明日」ガチャ

少年「……どっか泊まるアテあるんだろうな」

魔王「ないが、別に外で寝ることには慣れている。昔はよくそうしたものだ」

少年「ないって……ここらへん特に夜は治安悪いって言っただろ。……どうするんだよ」

魔王「何とかなるはずだ。君は明日の仕事のため早く寝た方がいい」スタスタ

少年「……~~身ぐるみ剥がされるぞ!………………分かったよ、あがれよ!」

少年「黒服追っ払ってくれた礼だ。ただし今日だけだぞ。今日だけだからな」

魔王「いいのか?ありがとう。悪いな」

少年「ただこのベッドには触るな。戸棚も開けるな。クローゼットも開けるな」

魔王「分かった」

448 :◆TRhdaykzHI 2014/07/02(水) 21:04:10.71 ID:hfpVOjiho

* * *

教会

勇者「そのカイシャ?っていうのを潰せって言われたって、どうすりゃいいんだよ」

シスター「文字通り悪魔のすごい力で物理的にぶっ潰してくれ」

勇者「いや、でも俺にはほかにやることがあって……そんな暇はない。都市って遠いんだろ?」

シスター「列車で数百キロ走るからまあ遠い。さらにこっから中央区の駅まで行かないといけないからもっとかかる」

勇者「れっしゃ?えき? はあ……」

勇者「とにかく無理だ。俺は今日街を歩いてくる。魔王と創世主探さないといけないんだ」

スタスタ

シスター「魔王……?創世主? そっちの方が強そうだな……」

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449 :◆TRhdaykzHI 2014/07/02(水) 21:07:09.88 ID:hfpVOjiho

勇者「妙な世界に来ちまった……」

勇者「どうするか。ま、適当に歩くか。しっかし治安の悪いところだなぁ。魔王大丈夫かな……」

キキーーーーッ!!

勇者「!?」

警官「おう兄ちゃん。なんだお前、変な格好してんな。旅行者か?こんな貧乏地区に」

警官「その腰にぶら下げてるもん見しちゃくれねえか?」

勇者「剣か?いいよ。はい」

警官「ほほう。本物か……かなりよく斬れそうだねい」

勇者「まあな、けっこう名のある剣なんだ」

警官「そうかそうか。で、両手を上げてくれるか?そう。揃えてな」

勇者「?」

警官「はい逮捕」ガチャ

勇者「あーーーーーーーーーーーーっ!?」

勇者「て、手枷!?おいなにするんだよ!!俺が罪人だって言うのか!?」

警官「バリバリ罪人だろうが!!こんな大型刃物、ぶらぶらぶら下げて歩きやがって!!銃刀法違反だバカヤロー!!
    おらパトカーに乗れ!!署に来い!!てめーみたいな不良犯罪者を捕まえて俺は地道に点数稼ぎしてんだよ!!」

後輩「こすいですね先輩」

勇者「剣持ってて何が悪い!?普通だろ!」

警官「あー?開き直んのか?さっさと乗れドアホ!!」

勇者「どわっ」ヒョイ

勇者「剣返せ!!」サッ

警官「あっ オイ待て犯罪者!!! くそ逃げやがった。追え後輩。車を出せ!!」

後輩「へいへい」

ギャリリリリリリリリ

勇者「うわーっ 何だアレはえーっ!!国王より速い!!」

450 :◆TRhdaykzHI 2014/07/02(水) 21:10:32.09 ID:hfpVOjiho

警官「チッ! 逃げ足の速い野郎だ。次見たらタダじゃおかねえ」

後輩「そういえば先輩。聞きました?このあたりでまた行方不明者が出たって」

警官「あ?どうせ家出かなんか喧嘩に自分から首突っ込んだんだろ。ここじゃそんなんしょっちゅうだ」

後輩「さあ……どうですかね。でも最近いつもより数が多いんですよ」

警官「じゃ元から悪かった治安がもっと悪くなったってこった」

後輩「先輩鈍いですね。もしかしたら連続殺人犯、先輩がずっと追って、さらに捕まえたと思ったら逃がしたあいつが
   このあたりに潜伏してるかもしれないってことですよ。チャンスじゃないですか」

警官「へっ。んなわけあっかよ。そんな出来すぎた話そうそうないだろ」

451 :◆TRhdaykzHI 2014/07/02(水) 21:12:03.14 ID:hfpVOjiho

教会

シスター「なんだ。もう帰ってきたんだ?」

勇者「はあはあ……なあ、これ外してくれ」

シスター「は?手錠なんて外せるわけねーだろ。なめてんのか」

勇者「くそっ! 邪魔だ!!」ガチャンガチャン

シスター「ああ、そりゃ剣とか銃は大っぴらに見せて歩いちゃだめだ。法律違反。ま、隠し持ってる奴も多いけど」

勇者「……剣持ってることが違反!?どうなってんだこの国は……」

勇者「……この国のこと、もっと教えてくれないか」

シスター「ここは国が持ってるいくつかある街のひとつ。ぐるっと囲んでる街壁の外には砂漠が広がってて、
     滅多なことじゃ外に行く奴も外から来る奴もいないよ」

シスター「金持ちと金なしがいる街。中央区はこの世の天国みたいに整っててきれいだが、ここら一帯は掃きためみたいなもん」

シスター「人が暦を数えだしてから1927年。
      惑星全域を巻き込んで勃発した第5次世界大戦後、いまは休戦中」

シスター「でもいつかはじまるWW6のためにどこの国も兵器を大量生産中だ」

シスター「なんか質問ある?」

452 :◆TRhdaykzHI 2014/07/02(水) 21:13:46.46 ID:hfpVOjiho

勇者「世界大戦?戦争、だよな……」

勇者「この世界に魔族はいるのか?」

シスター「魔族はいない。私がお前を召喚したようにやらない限りね。
      まさかいるとは私も思ってなかったけど、世の中なにがあるかわかんねーな」

勇者「魔族がいない……人間だけの世界なのに、どうして戦争なんか?理由は?」

シスター「いや、普通に資源の取り合い合戦」

シスター「みんなが豊かな暮らしをするためにゃ高エネルギー物質が必要不可欠。
      まあそれも戦争でほぼ使っちゃって、この惑星からはそういうのどんどん干からびてってる」

シスター「資源を得るための戦争で資源を失っちゃうんだ、馬鹿だろ」

シスター「あと環境問題も深刻だね」

シスター「この間、お前森はないのかって聞いたけど、森なんてもう惑星どこ探してもないんじゃない。
     植物はかろうじて残ってるかもしれないけど中央区くらいかな、あるの」

シスター「めちゃくちゃ高いらしいよ。私は本物の花とか木見たことないね。大昔にもう全部枯れちゃったんだ」
 
勇者「え。でもそこらへんにあるじゃないか」

シスター「ありゃ偽物。外観用」

シスター「最初にこっち来たとき、空気がくさいって言ったな。大気汚染も進んでるよ。
      中央区や一般区は大気洗浄機できれいな酸素つくってるけど」

シスター「あっちもいつまで続くかね……いつかまかなえなくなっちまうだろーよ。植物も森もないんだから」

シスター「この街はいつも灰色だよ。ずっと何十年も前からあの灰色の雲が空を覆ってて、
      私は青い空や黒い夜を見たことがない。ずっと曇りの灰色だ」

シスター「太陽もね」

シスター「ここは少しずつ死んでいってる世界なんだ。近いうちに多分全部終わっちまうよ。もうほとんどなにも残ってない」

シスター「でも、みんなそのことに気付いてない。あんまり気にしてないみたいね」

シスター「私が大切じゃないのかなって思うものと、みんなが思うものはちがうみたい」

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453 :◆TRhdaykzHI 2014/07/02(水) 21:16:48.39 ID:hfpVOjiho

勇者「……正直難しくてよく分かんないんだが」

シスター「おいおい頑張って説明した私の身にもなれよ」

シスター「あとお前が魔法だって思ってるのは全部科学技術だから。魔法とか使える奴いねーから」

勇者「カガク……だと?また分からん単語が……意味分からん……」

勇者「じゃああといっこ聞いてきいか。あんたはシスターで、ここって教会なんだよな」

シスター「そだけど」

勇者「……ここに来てる人間、俺しかいなくねえか。本当に教会なのか……。シスターこんなだし」

シスター「教会だっつの。人が来ないのは仕方ない。もう今の時代、誰も神や信仰になんて時間をかけないんだよ」

シスター「近代化して、真っ先に切り捨てられたのが信仰だよ。今はみんな目に見えるものしか信じない。
     全員 物質主義者になっちまったのさ」

シスター「見返りのあるものにだけ時間をかける。まあ、合理的だ。無駄のない賢い生き方だよ」

勇者「……。もっと5歳児くらいにでも理解できるように話してくれないか」

シスター「お前それ自分で言ってて悲しくなんないの」

勇者「誰もこないのに、みんな信じてないのに、じゃあなんであんたはシスターになったんだ」

シスター「私はあまのじゃくだからさ。みんなが信じてないものを信じてみたくなったのさ」

勇者「……つーか今思うとシスターが悪魔召喚とかしていいのか?俺悪魔じゃないけど」

シスター「神様なんていないって言うから、じゃあ悪魔ならいるのかなって思って」

シスター「結果、神様はいないけど悪魔はいるらしいね」

シスター「いい世の中だ」

454 :◆TRhdaykzHI 2014/07/02(水) 21:19:29.32 ID:hfpVOjiho

* * *

パラパラ……

勇者「なあ、なんで教会に本棚がある。礼拝堂におくか普通」

シスター「別にいいだろ誰もこねーんだから。読んでもいいけど」

シスター「読み終わったらそろそろ中央区の会社ぶっ潰しに行けよ。ちんたらしてんなよ」

勇者「だから俺は……大体あんなへたくそな魔法陣で召喚に成功するわけないだろ……」

シスター「あん?私が一生懸命書いた陣を馬鹿にするんだ?」ゴリ

勇者「お前ほんとシスターの鑑だよ。いてーよ」

勇者「えーなになに。英雄譚、冒険記、年代記……ふーん、神話なんてのもあるんだ」

シスター「この教会の宗教とは別のも混じってるよ」

勇者「それ、いいのか?異教って言うんじゃ」

シスター「別にいいんだ。どうせどの神様も信じられてない。だからここに置いといてやるの」

勇者「……」パラパラ

勇者「ふうん。全然俺たちの世界と違うな、やっぱ」

勇者「…………ん?」

455 :◆TRhdaykzHI 2014/07/02(水) 21:20:18.34 ID:hfpVOjiho

シスター「いまは誰もほんとに来ないけどさ、前はちょくちょく来てた子どもがいたんだ」

シスター「兄と、たまに妹。妹の方は体が弱くて、あんまり来れなかったんだけどね」

シスター「兄の方は、今お前がいる席でよくそのボロッちい本たちを読んでたよ。
      暗記して家で妹に聞かせてやってたんだってよ」

シスター「貸してやるって言ったんだけど、全部持ち帰ると重いからって、ほとんど暗記してた。
      学校に行ってたら結構成績よかったんだろーな」

勇者「……俺と、この世界にいっしょに来た連れの名前がある」

シスター「ん? それは遠い昔の異国の神話だよ。どれ?」

勇者「これと、これ」

シスター「お前の名は太陽の神様、連れの名は月の女神様だね」

シスター「なにお前、悪魔じゃねーの。詐欺かオイ」

勇者「それは最初から言ってる。だけど人間だからな」

勇者「よく来てたっていうその子どもに会いたいんだけど、会えるかな」

シスター「1年前くらいからパッタリ来なくなったよ……
      まあ、家は知ってるから、案内してやることはできる」

勇者「案内してくれ」

勇者「多分そいつが俺の探してた奴だ」

456 :◆TRhdaykzHI 2014/07/02(水) 21:22:07.76 ID:hfpVOjiho

* * *

騎士「ま、魔女さん。泣きやんでください」

魔女「無理だよぉ…… うううぅぅっ なんで黙って自殺なんかするの!なんなのも~~~……
   死んじゃったらもう二度と会えないんだよ……ひぐ」

姫「……」

竜人「……」

騎士「…………泣きやんでください魔女さん!」

騎士「僕はあの二人が、こんな時に何の理由もなく毒を飲んで死んだりしないと思います!!」

騎士「絶対何か理由があったんだって思います。そうしなければならなかった理由が!」

騎士「毒薬はまだつくれますか!?」

魔女「えっ…… うん……材料を集めれば……二晩もあればできるけど」

騎士「じゃあお願いします!僕が毒を飲んで、二人を連れ戻してきます!」

魔女「へっ……!? な、なに言ってんの!?」

魔女「死ぬっていうの……?」

騎士「……はい。でも、何とかなりそうな気がするんです。勇者さんと魔王さんがなんで毒を飲んだのか分からないけど
   ……でももし二人が死の先にある何かを探しに行ったなら、僕も手伝ってきます」

騎士「あの二人に比べたら非力な僕かもしれませんが、必ず二人を連れ戻してきます。
   だから、泣かないでください!大丈夫です!!」

魔女「……、……」

騎士「僕の名前は騎士です!」

魔女「騎士……本気?」

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457 :◆TRhdaykzHI 2014/07/02(水) 21:23:21.07 ID:hfpVOjiho

竜人「……私も毒を飲みます。そうですね、騎士さんの仰る通りです。
   これには何か理由があるはず。お二人を手助けせねば」

姫「私も……飲みますわ」

騎士「え゛っ……姫様は、さすがに……。やめた方が……」

姫「いいえ。私も勇者と魔王さんを信じます」

魔女「……だったらあたしだって信じるよ。ずっと信じてきたもん。 あたしも飲む」

忍「集団自殺か何かですか?」

妖使い「おもしろそうだね。俺らも飲むよ。できれば美味しい毒薬がいいんだけど」

忍「えっ、ちょっと勝手に」

竜人「魔女の薬である限り、その望みは捨てた方がよいでしょう」

魔女「うるさいな。美味しい毒なんてつくれるわけないじゃん!
   ま、いいや。今日からつくるから、みんな材料とるの手伝ってくれる?」

458 :◆TRhdaykzHI 2014/07/02(水) 21:24:14.02 ID:hfpVOjiho

姫「……ふー……」

騎士「うわあ、すごい色……。あっいえとっても美味しそうですね魔女さん!」

魔女「でしょ? じゃあみんな……かんぱい」

竜人「……では一気に」

ゴク

妖使い「おえーっ まずっ!!!うわあこれはひどい」バタッ

魔女「でも効果は抜群でしょ?ほら、妖使いすぐ死んだ」バタッ

竜人「死ぬ間際までふざけてあなたたちは全く! うぐっ」バタッ

姫「そんな皆さんコントみたいに死ななくても…… ああ」バタッ

騎士「吐きそう……」バタッ

忍「ちょっと皆さん早いですよ、待ってくださいよーっ!!」

459 :◆TRhdaykzHI 2014/07/02(水) 21:30:10.61 ID:hfpVOjiho

冥府

鍵守「……あれ」

鍵守「また」

竜人「ハッ!ここは!? 魔王様は!?」

魔女「……うう~ここはどこあたしはだれ」

姫「あんなコロッと死ぬなんて……風情も何もなかったわね」

鍵守「ええと……おおいな。ちょっとみなさんここにあつまって……」

鍵守「というわけで、勇者と魔王は月にあるトビラを開けて、あっちのセカイにいきました」

騎士「よかった!やっぱりあの二人がああしたことには意味があったんだ」

鍵守「あと4人なら、ボクもトビラの向こうにおくれます……さあ、いそいで。カギはあいています」

鍵守「彼に……会いに」

魔女「え?4人じゃないよー。あと二人いるんだよ。妖使いと忍はどこいったんだろ?」

姫「そう言えば……」

鍵守「えっ?あと2人……?」

    「……なるほど!」

妖使い「トビラは冥府の月にあったのか。どうりで見つからないはずだ!」

忍「前、彼が来たときには月が出てませんでしたもんね」

妖使い「そうか、君が隠し持ってたのか。ぬかったなぁ、ハッハッハ」

忍「ぬかりましたねー若。ははは」

460 :◆TRhdaykzHI 2014/07/02(水) 21:31:28.62 ID:hfpVOjiho

騎士「……?なに言ってるんですか?」

鍵守「え…… え?あなたたちは……  ふわっ!」

忍「あなたはちょっと邪魔なので、とりあえずおとなしくしててくださいね!」

忍「こんなことなら、冥府から先に取りかかればよかったですね」

妖使い「全くだ。勇者と魔王が一緒に行動するのはできるだけ避けたかったんだけどな」

妖使い「そのために色々してきたってのに……つまらないな」

妖使い「おまけに扉を開けられてしまった」

妖使い「どうせ、無駄だと思うけどね。万が一ということもある……」

妖使い「ま、とにかく、過ぎてしまったことを嘆くより今できることをしよう。
     君たちは扉の向こうに渡さないよ」

忍「いずれこの冥府ももう少しで消えます。ここでその崩壊を待ってもらいますから!」

竜人「どういうことか、説明して頂けるんでしょうね」

魔女「君たち何者?」

461 :◆TRhdaykzHI 2014/07/02(水) 21:34:25.70 ID:hfpVOjiho

妖使い「俺たちは道化役だ」

忍「もしくは観客?」

妖使い「邪魔者で」

忍「傍観者」

妖使い「トリックスター」

忍「悪役かも」

妖使い「あるいは、創世主の記憶を受け継ぐ写し身」

忍「彼がこの世界に覚醒したと同時につくられた、役割を持たない無干渉者です」

姫「創世主!?あなたたちは人間ではないの?」

騎士「東国からやってきたっていうのは、嘘だったんですか!?
   ずっと、僕たちを騙していたんですか」

妖使い「東国なんてこの世界には存在しない……
     いや、君たちにとっては在るものなのかな?」

妖使い「在ってもなくても、この世界の東国なんて俺は知らないね」

魔女「……敵なんだね。邪魔するつもりなら、押し通るよ」

竜人「そこをどいてください。私たちは扉の先に行きます」

忍「だから無理ですって。行かせないって言ってるじゃないですか?」

騎士「……どかねば斬ります」

妖使い「どうぞ」

騎士「……っ! はああああっ!」

ズバッ

騎士「!? なに!?」

妖使い「俺たち自身に君たちを消す力はない。消すのは影の専売特許だ」

妖使い「でも君たちの攻撃が俺たちを傷つけることは絶対あり得ない。そういう設定だからさ、ごめんよ」

妖使い「よいしょっと!」パッ

騎士「ぐ……っ!?」

ズダンッ!!

姫「騎士!」

騎士「ぐは……!」

462 :◆TRhdaykzHI 2014/07/02(水) 21:37:48.52 ID:hfpVOjiho

魔女「騎士が死んだ!仇をとるからね!妖使いめ、この野郎!」

騎士「じんでないでず魔女ざん……!!」

竜人「魔女と姫様は下がっててください! このっ……!」

ザシュッ ザク

竜人「くっ 何故だ……あたってはいるのにすり抜ける」

忍「だから、無駄ですって。勝てません。
  大人しくここで待っててくれれば、冥府に来てまで痛い思いしなくて済むんですよ」ゴキッ

竜人「っが……!  くそっ!」

忍「消す力はありませんが、再起不能にまで痛めつけるくらいの力はありますテヘヘ」ググッ

竜人「!! ぐあぁぁ…………っ」

姫「やめなさい!! 待って……訊きたいことがあるわ」

姫「……どうして東国からの使者だなんて嘘をついてまで、私たちと共にいたの?
  そんなに強い力を持っていながら、何故」

妖使い「勇者と魔王が結託して彼に歯向かうようなことは……少し避けたかった。
     崩壊は止められないとは思うけど、彼には僅かに不安があった」

妖使い「俺たちはあの二人の絆を壊すためにつくられた」

忍「二人は人と魔族であることをちょっと教えてあげれば、すぐ崩れてましたね」

姫「でも、そんなにあの二人を危惧していたなら、どうしてまず最初にあの二人を物理的にどうにかしなかったの?」

姫「心理的に二人を引き離すのは確実な方法とは言えないわ」

忍「……確かに。なんででしょうね? 若」

妖使い「その方法があったか。しくじったな!」

姫「……え。気づいてなかっただけですか」

魔女「とぼけないでよ。君たち二人ともさ、ほんとは……もしかして」

魔女「!! ぅ……」ドサ

騎士「き、貴様!」

妖使い「君たちは誤解してるよ」

463 :◆TRhdaykzHI 2014/07/02(水) 21:40:47.51 ID:hfpVOjiho

妖使い「彼が大昔を起点に世界をつくったと思ってるかもしれないけど違う。
     世界の起点は今から数年前」

妖使い「あの和平の日がまずあって、そこから過去がつくられた」

妖使い「あの日まで、過去から未来がつくられたんじゃない、未来から過去がつくられていたんだよ」

妖使い「はぁ……それにしても、君たちに彼の気持ちが分かるかな」

妖使い「あの子のためにつくった戦いのない美しい世界だったのに
     蓋を開けてみれば……何だ?あの凄惨な百年前の戦争は?」

妖使い「彼はあんなことまでつくってなかった。あんなの望んじゃいなかったよ」

妖使い「たった一言「戦争が100年前にあった」ってことを書いただけで、あんな風になっちゃうなんて思いもしなかったさ」

妖使い「世界はとっくに創世主の手を離れてたんだ」

鍵守「でも……ボクは……」

妖使い「君は黙っててくれよ」

妖使い「そこの子どもがあの子の死をきっかけにこっちの世界で目が覚めたように」

妖使い「彼もあることをきっかけにこっちの世界で目が覚めたんだ」

竜人「さっきから彼と言いますが……彼って誰ですか。創世主?」

忍「ほんとの創世主は扉の向こうにいますよ」

忍「彼は、創世主の『この世界を拒絶する感情』」

妖使い「だから、ほんとのほんとにこの世界はもう捨てられたんだ。君たちの役目はもう終わった。
     劇はもう閉幕だ。役者はもう帰ってくれ。さっさと消えてくれよ」

姫「創世主が拒絶したって関係ないわ!私たちは私たちのために生きてるんだもの、そんな……」

忍「はいはい。もういいです」トン

姫「うっ……!」

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