名作・神スレ

【名作SS】勇者「世界崩壊待ったなし」

646 :◆TRhdaykzHI 2014/09/07(日) 21:52:25.37 ID:hezoarQQo

* * *

姫「あらかた敵は(おおむね魔女さんが)排除したけれど、なんだか列車の進路がおかしくないかしら……」

姫「窓から様子を見…………」

グラッ!!

姫「きゃあああっ!?」ガシッ

姫「な……なにっ!?お、落ちるぅ……!!」

姫「列車が浮いてる……!!まさか……これって!」

魔女「姫様ー!!大丈夫!?」ガッ

姫「ま、魔女さん! その姿……!」

魔女「うん! ……戻ったよ!魔力!」

魔女「これでもう、黒服の人間なんて敵じゃ……」

ガクンッ

魔女「わっ……?」フワ

姫「あっ、ちょっと。魔女さん、窓から投げ出されてしまいましたよ」

魔女「姫様もだね」

姫「私たち、宙に浮いてますよ」

魔女「ていうか落ちてるね! 死ぬね!」

姫「イヤーー!」

647 :◆TRhdaykzHI 2014/09/07(日) 21:54:02.42 ID:hezoarQQo

ゴオオオオオ……

姫「あっあっ、でもっ魔女さん魔力が戻ったのなら、魔法で飛べるのではありませんこと!?」

魔女「うん、そうなんだけどね、箒がないと無理なんだよねー、ごめんねー」

姫「打つ手なし! あぁぁぁぁぁぁーーーっ!!」

ボスッ

姫「っう……うう……え?」

竜「よかった。姫様も魔女も無事でしたか」

姫「…………ドラゴン……? ……竜人さん……ですよね」

姫「……」

竜「すみませんね。こうするしかなかったもので。見て楽しいものでもないでしょうが、しばし御辛抱を」

姫「……い……いえ」

魔女「いてー」

騎士「ままま魔女さん大丈夫ですかっ!!」

魔女「うーん……?」

騎士「……」ドキドキ

魔女「誰だっけ」

騎士「その反応分かってた!僕は騎士です!!」

竜「魔力が戻りましたね。列車を動かしているのも魔王様でしょう」

魔女「勇者と魔王様のところに行こう!」

騎士「はい!」

姫「……やっと皆揃いますね」

648 :◆TRhdaykzHI 2014/09/07(日) 21:56:05.05 ID:hezoarQQo

* * *

頭領「あー……くそ、戦闘機はいきなり真っ二つになるし列車は浮くし、もう何が何やら……」

頭領「おまけに恐竜の化石は粉々になっちまったしなぁ……ついてねえ」

頭領「思えばこの件、最初からなんか変だったよな」

頭領「そろそろズラかるかね。おい、逃走経路の確保だ」

強盗団「はい!」

頭領「はあ……」チラ

竜「ところで魔女と姫様、その格好は一体?」バッサバサ

魔女「あーこれ? あたしたち実は強盗団n……」

姫「なんでもありません!!!」パ

騎士(強盗……?)

バサーーー……

頭領「………………」

頭領「ほんもの……?」ポカーン

頭領「恐竜……!?!?」

強盗団「お頭! 逃走経路についてですが……」

頭領「ばかやろう……やっとこれから面白くなるところじゃねーか!!」

強盗団「へっ!?」

頭領「行くぞ!野郎ども!!」

649 :◆TRhdaykzHI 2014/09/07(日) 21:58:01.56 ID:hezoarQQo

* * *

車掌室

バターン

勇者「魔王!!少年!!」

魔王「勇者くんっ」

魔王「魔力が戻った!私はまた魔法が使えるようになったぞっ」

魔王「ほら、君の怪我だって一瞬で治せる!久しぶりに使うから加減が難しいが、もうこれで私もっ」

勇者「お、おう」

魔王「……」

魔王「……ゴホン……とにかくこれで私も戦力となったわけだ。安心してくれ。もう転ぶだけの置物魔王とは言わせないぞ」

少年「魔法が使えるようになって相当嬉しかったんだな」

勇者「らしいな」

魔王「別に……そういうわけでは……もごもご」

バターン

姫「勇者!魔王さん!」

騎士「よかった……合流できて」

魔女「魔力復活おめでとー!かんぱーい!」

竜人「……!? 魔王様……なんて格好をなさってるんですか!」

勇者「お前ら!来たか」

魔王「こ、この服は私が選んだものではないぞ誤解するな」

650 :◆TRhdaykzHI 2014/09/07(日) 22:00:48.73 ID:hezoarQQo

わっちゃわちゃ

魔女「おー!少年やっとあたしたちのこと思い出してくれたんだー!」バシバシ

騎士「彼が創世主……ですか?」

魔王「だだだだからこれはパンツとあるが似て非なるものであって私たちの世界との文化的差異を鑑みれば決して破廉恥な履き物ではないのだ」

竜人「魔王様いけませんよ、そんなはしたない格好なさっては!ほらこの上着を羽織っていてください」

魔王「とても助かる」

竜人「なに残念そうな顔してるんですか勇者様……列車から落としますよ」

勇者「してねーよ!! つーかお前だろ!あの警官に俺のこと下着泥棒だとか何とか吹き込んだの!!なにしてくれてんだよ!」

姫「ちょっと皆さん、一旦落ち着きましょう?やっと全員そろったのですから」

―――――――――――――
―――――――――
―――――

落ち着いた

少年「じゃあ、みんな本当に本の中から来たんだ……」

少年「……」

騎士「なんか微妙な反応ですね……」

魔女「普通さー、君くらいの年の子ならさー、もっと興奮して嬉しそうなリアクションとるんじゃないの?」

少年「いや、十分驚いてるんだけど、なんかな……想像と違ってたっていうか」

少年「もっと真面目な連中の設定だったんだけど」

勇者「俺たちのどこらへんが不真面目だっていうんだ!?」

姫「全部じゃないかしら」

魔王「でも仕方あるまい。君の創造物であると同時に私たちは確固たる自我を持っているのだから」

魔王「全部が全部君の想像通りではないのも道理だ」

少年「うん、そうかもな。そっか。あんたらは別の世界で生きてたんだ」

少年「……僕に会いにこっちへ?」

竜人「はい。あなたに会いに」

勇者「よーしそろそろ都市につくな。全員そろえば警察だろうが戦闘機だろうが敵じゃない」

勇者「ガンガンいくぞ」

魔王「では速度を上げよう」スイ

651 :◆TRhdaykzHI 2014/09/07(日) 22:04:24.17 ID:hezoarQQo

都市

「ママー電車飛んでるー」

「はいはい、馬鹿なこと言ってないで行くわよ」

「うそじゃないもんー」

ズガーーーーーーーーーーー

魔王「ついたぞ」

勇者「よっしゃ行くぞ!!!」

魔女「おー!!……ってなにするんだっけ?」

騎士「確かに、僕たち何をするんですか?」

勇者「今更?」

勇者「カイシャに行くんだよ、カイシャ。直談判しにな。だろ、少年」

少年「……うん。そうだ。抗議しに行くんだ」

少年「みんないっしょに来てくれよ」

姫「もちろんですわ」

竜人「ええ、行きましょう」

魔王「それにしても変わった街だな。やけに縦長の鏡面じみた建物をところせましと乱立させるのがこの世界の伝統なのだろうか」

竜人「こんなに空がせまいと私も飛べませんねえ……」

勇者「移動手段どうするか……、 ……ん!?なんだあれ」

少年「うわ、駅の周り……パトカーだらけだ!警察だよ。
   多分列車強盗を逮捕するためにいるんだと思うけど」

魔王「私たちもこのまま出ていったら確実に拘束させるだろうな」

姫「時間ロスしている場合ではないのでしょう?どうしますか」

魔女「そんなの考えなくても分かることじゃん!!」

魔女「押し通ろうよ」

652 :◆TRhdaykzHI 2014/09/07(日) 22:06:48.59 ID:hezoarQQo

ギャリリリリリリイイイイイイイイッ

パトカー「!? そこの車、止まれ!!ここはいま封鎖中だ!!」

パトカー「……。……おい止まりなさい!!警告を無視するなら発砲するぞ!!」

魔女「八宝菜だかなんだか分かんないけど……どかないならぺちゃんこにしちゃうよ!」

魔女「アクセル全開!!!!」グイ

ゴシャアアアアアアアアアアアアアッ

   ウワーーー
       ギャーーー

魔女「口ほどにもないねー」

勇者「魔女……うぷっ、ちょっと待て、操縦変われ……俺がやる」

少年「おええええ」

魔女「は、何言ってんの。勇者は追手撃退して。私の魔法は障害物があると効かないからさ、車の中からやっても意味ないしー」

魔女「ほら、パトカーやら黒服やら色々追っかけてきてるから。
   私も運転頑張るけどさ、もし追いつかれそうになったらよろしく!」ギュイイイン

勇者「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ」

少年「死ぬーーーーーーーーーーー」

―――――――――――

ブイーーン

騎士「ひ、ひ、姫様、ほんとに運転大丈夫なんですか!?」

姫「大丈夫よ。強盗団にいたときやり方は一通り習ったわ」

竜人「強盗団?」

姫「ハッ!! い、いや、違いますわ。聴き間違えていらっしゃいます竜人さん」

姫「ご……ご……ゴートゥーヘルです」

竜人「……?」

魔王「どういうことだ?」

653 :◆TRhdaykzHI 2014/09/07(日) 22:09:36.41 ID:hezoarQQo

ブロロロロロ

騎士「そ、それにしても先に行ってる魔女さんたちの車が、だいたいほかの車を蹴散らしてくれてるので、進むのが楽ですね」

姫「ええ。……ですが、すごい運転ね……中にいる人間が遠心分離されそうだわ」

竜人(あちらに乗らなくてよかった……)

魔王「ん? 道の先に何か見えないか。大きな岩?」

騎士「本当ですね。なんでしょう」

魔女「ん?おやおや? ねー勇者。なんか向こうに変なの見えるんだけどなんだと思う、あれ」

勇者「なんじゃありゃ?でかいが……車の一種か?」

少年「あ……あ、あれ……もしかして」

魔女「知ってんの?」

少年「えっと……もしかしてだけど……戦車っていうやつかも」

「「せんしゃ??」」

勇者「ただでかいだけの車だろ?魔女、そのまま突っ込め!お前の超絶操縦テクで振り切るんだ!俺たちの三半規管は気にするな!!」

少年「待てって!!ただのでかい車じゃない!なんかほら……筒みたいなのが前方に突き出てんだろ!!」

少年「あそこから、鉄の塊が多分飛んでくる。ここは一本道だから、砲丸が直撃しなくても車に衝撃が来て、きっと運転が難しくなるよ」

少年「なんで戦車なんて……!あんなの出動するのは本当に緊急事態だけで、例えばテロを制圧するためとか……」

少年「……」

少年(テロみたいなこと今してるんだった)

ガガガガ……ガコン

魔女「げっ!!なんか飛んできたけど!!」

勇者「分かった俺が斬る!おい窓開けてくれ!!」

魔女「えっ窓? え~~っとどこ押せば窓だっけ??これかな?」ウィーン

魔女「ぎゃーー!なにこれなんか動いた!!前見えない!邪魔!!」

少年「なにやってんの!?」

魔女「きゃーーそんなことやってる間にあたしたちぺちゃんこになっちゃうーーー!!」

勇者「だから早く窓開けろって!!!」

ヒュゥゥゥゥゥゥ…………

少年「うわああああああ……っ」

……パッ

少年「あああぁぁ……え?」

少年「消えた……?」

654 :◆TRhdaykzHI 2014/09/07(日) 22:12:20.20 ID:hezoarQQo

ブロロロロロロ……

魔王「ふふ。他愛ない」

騎士「い、いまの魔王さんが?」

魔王「造作もなきことだ。今の私には魔力があるのだからな」

魔王「ところで……」

魔王「どこの誰が戦力外で、むしろマイナス要因で、足手まといだったか?竜人」

竜人「……あ、結構根に持ってます?魔王様」

魔王「ほら!ほらぁっ!私のどこが役立たずだと言うのだっ、いまの活躍を見ろ!」ズガーン

竜人「いや、ですからあれは魔力0の魔王様のことを言ったのであってですね……」

姫「魔王さん!またあれが来ますわ!魔法で…… きゃっ!」

ボガーーーン

騎士「なに!?道がいきなり爆発した!?」

竜人「どうやらトラップのようですね。近くを通ると爆発するんでしょう。爆発物は複数仕掛けられてると見てまず間違いないでしょうね」

姫「なんですって!そ、そんな道を運転するなんて私には無理です……!」

騎士「姫様頑張ってください!!」

姫「だってどこに爆弾があるか分からないのよ、そんなの……!!」

魔王「それなら私がまたこの車を浮かしてしまえば……」

655 :◆TRhdaykzHI 2014/09/07(日) 22:15:49.87 ID:hezoarQQo

ボガンッ!!

騎士「あっ!また……!! 危ない!!」

姫「……!!!」ギラ

姫「あら危ないわ」ギャリリッッ

騎士「ほぁっ!?!?」

竜人「いっ!?!?」

魔王「ん?」グラ

ゴチーーン

魔王「ぎゅっ!!」

魔王「」

竜人「魔王様----------!!」

騎士「いてて……姫様いきなり乱暴な運転やめてくださいよ……
   あっ!!またあの砲丸が飛んできます、魔王さんお願いしま……あれ?魔王さん!?」

竜人「魔王様しっかりーーーー!!!ああ、こうなったら私がなんとかしてみせます。騎士さん援護を宜しくお願いします」ジャキ

姫「まあ小賢しい爆弾ですこと」ギャリリリリ

竜人「さあ、行きます…………よっ!?!?」グラ

ゴチーーーーン

竜人「」

騎士「いやーーーーー主戦力2名逝ったーーーーーーーーーーーーーーっっ」

騎士「魔王さーーーん!!竜人さーーーん!!!起きてくださいよーー!!」

姫「なにを騒いでいるの騎士?一体何が……」チラ

姫「本当に何があったの!?竜人さんと魔王さんに一体なにが!?……まさか敵の攻撃を受けて……!?」

騎士「いや……えっと……敵というか……まあ……」

656 :◆TRhdaykzHI 2014/09/07(日) 22:18:22.08 ID:hezoarQQo

―――――――――――――――

魔女「おーー!砲丸消えたー!多分魔王様が魔法でやってくれたんだよ。さっすが魔王様」

勇者「よし、このまま先へ一気に進むぞ!」

少年「これなら……!」

少年「……あれ?」

勇者「次の砲丸なかなか消えないな」

魔女「なんか……おかしくない?」

少年「うんおかしい」

勇者「……まずいな」

魔女「うーん。まずいねー あははは」

少年「笑ってる場合じゃねーよっ!!」

少年「わーーーーーーーーーーーーーっ!!」

657 :◆TRhdaykzHI 2014/09/07(日) 22:20:31.15 ID:hezoarQQo

戦車の猛攻を何とか凌ぎつつ、コンクリートの地雷原を駆け抜ける二つの車
目的地である「会社」までの道のりは、それはそれは長いものだった
失った尊いふたつの戦力源――彼らの犠牲は無駄にしない!
胃袋の中身をぶちまけそうになりつつも勇者たちは都市の中心部にやっと辿りついたのだった!

少年「つ、ついた……こ……ここが会社、だ」

勇者「よ……よし。社長はどこにいるか、探すぞ……!」

魔女「オッケーー!!このまま車でいっちゃおー!!」

少年「ちょっ……」

悪夢は終わらない――

天空を仰ぎ見るかのように聳え立つ魔天楼
そのガラス張りの正面入り口は車が突っ込むと同時に粉々に砕け散った
プリズムの中、ガラスの破片が突然の闖入者に驚き逃げ去っていく様を、勇者と少年は眺めていた
重く前方からのしかかるGに耐える二人の目は暗かった
魔女だけが楽しそうだった

鳴り響く固定電話
駆ける背広服
発光する赤い「エマージェンシー」のランプ

オフィスの机から舞い上がった書類がひらひらと宙をたゆたった後、やがて床に着地する頃には、
暴走車は階段を強引に上がってその2階上のフロアに到着していた
そして今まさに、死屍累々を新たに積み重ねようとしているところであった

658 :◆TRhdaykzHI 2014/09/07(日) 22:23:54.53 ID:hezoarQQo
今日はここまでです

659 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/09/07(日) 22:30:50.47 ID:RqjA4oamO
おつ

660 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/09/07(日) 22:45:46.87 ID:cBwo141S0
きてたあー!おつおつ!!!

661 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/09/07(日) 23:01:06.39 ID:2bTU9+ZDo
どの登場人物もたのしそうでなによりだな

662 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/09/08(月) 20:56:16.13 ID:JOly/LVgo
乙!

車すげーなwwww

663 :◆TRhdaykzHI 2014/09/14(日) 01:49:44.62 ID:NxApZR39o

さてもう一方の車はというと、何とか会社の中に侵入できたはいいが、敵に囲まれて大ピンチ中だった
なんとガソリンがなくなってしまったのである

徐々に車がスピードを落とすのを見るや否や、武装部隊がじりじりと距離を詰めてくる。
車体で強行突破も不可能になったので、ではもう外に飛び出て交戦するしかあるまいよ、と半ばやけくその状況の姫と騎士だった

姫「でもあなた一応我が国の騎士団所属よね?国の最後の砦たる精鋭部隊の一員よね?」

姫「騎士団の中じゃ結構優秀な期待の星って噂よね?」

騎士「や、やめてください!褒められるのは嬉しいですけど勇者さんや竜人さんと同じ次元だと思わないでください!!
   僕はあんな化け物じみたことできませんからね!」

姫「銃から放たれた弾丸を剣で二分するなんて芸当、余裕よね」

騎士「だから無理です!!」

騎士「……無理ですが、これでも騎士団のはしくれです。なんとしてでも姫様のお命は守ります!!」

姫「騎士!」

意を決して車の外に出る騎士

その瞬間彼はぶっ倒れた

何故か?それはこのフロア全体に不可視の睡眠ガスが充満させられていたからである
謎のテロ集団を制圧するための手段として尤も確実なものだろう
見るといつの間にか武装部隊はガスマスクも武装済みであった

車内で姫はハンドルにもたれかかった
後部座席では魔王と竜人が気絶している
車のすぐ横では騎士が熟睡している
今この場で戦えるのは自分のみ……!

664 :◆TRhdaykzHI 2014/09/14(日) 01:54:57.01 ID:NxApZR39o

姫「……私がやるしかないわ」

いままで誰かに守られてばかりで、こうして誰かを守る立場になったことなんてなかった
彼女は追憶した。これまでの王女としての人生を。
いっとき目を閉じた。そしてすぐに開くj。
守る立場に立つことに少しの恐怖と、そして恐怖よりほんのわずかに多く高揚を感じていた

銃を握り締めた。まだ弾は残っている。

姫(……息を吸わなきゃいいのよ。呼吸を止めたまま戦えば……!)

姫(かかってきなさいっ!)

とはいえ……土台無理な話だった
かたや対人制圧に慣れた武装集団、一方銃を握って数日かそこらの娘っこ一人では勝負は見えていた

10秒とたたずに彼女は地に伏せさせられていたことだろう
この場に新たな侵入者たちが突っ込んでこなければ。

665 :◆TRhdaykzHI 2014/09/14(日) 09:37:37.78 ID:NxApZR39o

バリーーーン

頭領「おう、がんがんかませ」

強盗団「おっしゃーーー!!」

そう、こいつら強盗団も車でそのまま会社の中に入って来ていた
監視カメラを通して侵入者たちの様子を見ていた社員たちは思った。
こいつらは会社を一体何だと考えているのだろう?サーキットだとでも?

強盗団たちは流石に現代の戦い方に慣れていた
まず全員ガスマスクを装着すると、閃光弾や催涙弾、ロケットランチャーにマシンガン、アサルトライフルもろもろ取り出し始める。
姫が呆然としている間にあれよあれよと形勢逆転、お見事と言いたいくらいの手並みとチームワークだった

……だから知らず知らずのうちに呼吸を再開しそうになってしまった
ひとつだけ息を吸い込んで、姫は気づく

姫(あ)

姫(息吸っちゃった!!)

そういう問題ではないと知りつつ、息を吐きだしてみたが、やっぱり解決しない。
当たり前である

そして次の瞬間にはもう強烈な睡魔に襲われて、瞼が緞帳みたいになっていた
さらに次の瞬間には、立ってることすら困難になった

666 :◆TRhdaykzHI 2014/09/14(日) 09:40:38.79 ID:NxApZR39o

仰向けに倒れそうになった姫を誰かの腕が支える
夜霧のような視界の中、その誰かの背中に生えてる大きな翼が一度だけ羽ばたくのを……
そして彼が少し申し訳なさそうに眉尻を下げたのを見た

姫は言いたかった
そんな顔をする必要はないと

姫「わたし……竜人さんのことが好きなのですけど……」

姫「……だめでしょうか……」

―――――――――――――――――――
――――――――――――――――
――――――――――

強盗団「うおおおおおっ!!すっげえ風だ!!」

頭領「一体何だ……?ここは屋内だろ」

A「でもこれで睡眠ガスが霧散したぜ。やっとガスマスク外せる」

B「こっちの制圧は終わったよ」

竜人「えーと、あなたたちは?」

頭領「俺たちは強盗団。かくかくしかじかで勇者と名乗る男を追ってる」

頭領「あいつに恐竜の化石を壊されたんでな、代わりに竜の骨をもらう約束をしてるんだ」

竜人「……」

竜人「なるほど。手に入るといいですね!」

竜人「実は私たちも彼を追ってるのですよ。できればそちらの車に乗せてくれませんか?こちらの車はどうやらもう動かないようで」

頭領「かまわんぜ」

667 :◆TRhdaykzHI 2014/09/14(日) 09:51:01.72 ID:NxApZR39o

――――――――――――――――――
――――――――――――――
――――――――――

屋上

ドガッシャーーーン

魔女「ここが最上階ーーっ!」

少年「」

勇者「おえぇ……。……ん?待て最上階?というかここもう屋上じゃないか。社長はどこだ?」

少年「あ……。あれ、見て」

少年が遙か彼方の砂色の空を指差す
勇者と魔女の目には、それは最初羽ばたかずに飛ぶ、気味の悪い鳥の姿に映った

勇者「いや……違うか。あれ、列車に乗ってたときに見たな。ひこうきってやつか」

少年「あいつ、逃げたんだ。飛行機に乗って、どっか行くつもりなんだ」

魔女「じゃあ追いかけよ……」

勇者「地の果てまでな……」

少年「お前ほんとに勇者かよ。こええよ」

勇者「移動手段が問題だな」

ガシャーーーーーーーー

竜人「それなら問題ありませんよ。私がいます」

魔女「あー竜人、それにお頭!お頭たちも来たんだ?」

頭領「よう」

竜人「おや顔見知りでしたか。でも、せっかくなんですが、魔女。睡眠魔法を」ヒソヒソ

勇者「え?なんでだ?」

竜人「あれ?勇者様が竜の骨を彼らに渡すと、勝手に約束したのではありませんでしたっけ?私の了承も得ず?
    いま私が彼らの前で竜の姿に戻ったら、またひと悶着になりますよね?」

勇者「わ、悪かったよ!勝手に言ったことは謝るからそんな怒るな!」

668 :◆TRhdaykzHI 2014/09/14(日) 09:56:42.33 ID:NxApZR39o

空の上

魔王「…………」

魔王「……いたた……」

少年「あ。起きた」

魔女「姫様と騎士はまだ起きないなー」

勇者「で、結局なんでそっちの車、ほぼ全滅状態だったんだよ?」

竜「いやー……それがですねー……うーん……」バッサバッサ

魔王「こうして上空から見てみると、つくづく私たちの国とは違うのだな」

少年「……ごちゃごちゃしてて汚い眺めだな。でも、僕こんなに空の近くに来たの、はじめてだ」

少年「ちょっと楽しいよ」

魔女「空飛ぶって楽しいよねー。分かる分かる」

少年「なあ、あんたらって僕の考えた世界に住んでたんだよな?じゃあさ、空って青かった?」

魔王「昼は青かった。朝は白くて、夕方は赤くて、夜は黒かった」

少年「そっかー。いいなー。僕も見てみたかった」

勇者「じゃあ見るか」

少年「え?」

勇者「雲に覆われてるだけで、ちゃんとその向こうにはまだあるんだろ?」

少年「え。あ。うん……そう……らしい……けど」

少年「……え、ほんとに?」

ヒュッ

――――パッ……

669 :◆TRhdaykzHI 2014/09/14(日) 09:57:29.24 ID:NxApZR39o

少年「……わ……っ!!ほ……ほんとに青いっ」

少年「これが……本当の空の色……」

魔女「わーなんか久々に見た気がするや」

少年「きれいだなぁ」

少年「僕、生きててよかった」

少年「妹にも見せたかった。……見たかな?」

魔王「ああ。見てた」

勇者「今も見てるだろうな」

竜「さ、そろそろ追いつきますよ。皆さん準備を」

670 :◆TRhdaykzHI 2014/09/14(日) 09:59:38.81 ID:NxApZR39o

* * *

社長「全く……なにがどうなっている」

秘書「さあ……」

社長「あーあー。この映像を見てみろ、会社が滅茶苦茶だ。一体何が目的なのやら」

秘書「今頃捕えて目的を吐かせているころかと思いますが」

秘書「それより社長、3時間後にA社とB社との共同会議です。いま一度資料のご確認を」

社長「はいはいっと」

社長「……? おい、なんか変な音が聞こえるな。空調を確認してきてくれないか」

秘書「……は」

秘書「い……?」

ギコギコ……

ギコギコ…………

社長「ん……? なんだ? 上から」

ガパッ

勇者「おっ、やっと切れた」

騎士「剣ってそういう風に使うもんじゃないと思うんですが……!」

魔女「さむーい!!早く中入ろうよー!」

秘書「…………は……?」

671 :◆TRhdaykzHI 2014/09/14(日) 10:01:03.83 ID:NxApZR39o

社長「な、お前らは……!!まさか……いや、どうやってここに……!!」

ダンッ

勇者「やーーーっと見つけたぜおっさん!!おうこらもう逃げ場はないぞ観念しろ!!話を聞け!!」

社長「話だと……!?お前ら、ここまで損害を出しておいて……!」

魔王「元はと言えば、そちらが手を出してきたのだろう」

魔女「そーだそーーーだ!なんならこの場で縛り上げて、その肥えた腹ピンヒールで踏みつけてブヒブヒ鳴かせたげてもいいんだよ!?」

姫「おやめなさい……はしたないわ」

竜人「騎士さんも赤面しないでください」

騎士「んなっ!?ししししてませんよ!!」

少年「……」スッ

少年「あの家は……あんたが金のために壊そうとしたあの家は、僕の大切な場所なんだ」

少年「今日はそれだけ言いにここまで来たんだ」

社長「貧困区のガキ……」

社長「……お前みたいな汚いガキが俺に話しかけてるって思うだけで反吐が出るな」

社長「お伴連れて今すぐ消えろ」

少年「……」

魔女「ちょっとー言わせておけば言いたい放題じゃん!」

少年「いや、僕は平気だよ」

少年「なんだか、本当に全然大丈夫になったんだ。
   ……魔王が言ったんだよな」

少年「自分の価値は自分で決めろってさ……」ズイ

社長「……」

少年「僕、お前のことが大っ嫌いだ。お前なんかに何を言われたって全然気にしないし、どうだっていい」

少年「お前の存在なんて僕にとっては取るに足らないものなんだ」

社長「……この…… 犬の糞ほどの価値もないガキが……一代で会社を世界トップクラスにまでのしあげた私に向かって……!!」

社長「身の程を知れ」ツカツカ

672 :◆TRhdaykzHI 2014/09/14(日) 10:02:41.92 ID:NxApZR39o

勇者「……」スッ

少年「どいて勇者」

勇者「ん?」

少年「これはやっぱり僕の問題だから、最後は僕がちゃんと決着をつけたいんだ」

少年「殴られてもいい。でも絶対倍返しにして殴り返してやる!!」

少年「僕はもう逃げない、ごまかさない。ちゃんと戦うんだ!」

勇者「お前……」

少年「こい……っ!!」

社長「クソガキ……!!」ブンッ

少年「……ッ」

ガチッ!!

社長「マ゛ッ!?!? 固っ!?!?」

社長「てめえ、本当に人間か……!?!?」

少年(あれ……?痛くない?)

少年(そうか……これが火事場の馬鹿力ということか!脳内麻薬で痛覚が麻痺しているんだ!しめた!)

少年「…………この野郎!!覚悟しろ!!」ギロッ

社長「ちょっと待……」

少年「歯ぁ食いしばれーーーーーーーーー!!」

673 :◆TRhdaykzHI 2014/09/14(日) 10:05:29.02 ID:NxApZR39o

勇者「……」

勇者「なんかした?」

魔王「特に何も」

魔王「ただ、やっぱり大人と子どもでは体格差が違いすぎるだろう」

魔王「なので少年の方に少しだけ防御力と攻撃力増加の魔法をかけただけだ」

姫「それって……増加率はどれくらいなんですの?」

魔王「ほんの少しだ」

竜人「魔王様。具体的に」

魔王「だから、微量だと言っている」

勇者「おい……嫌な予感がするぞ」

魔王「ちょっとだけだ。心ばかりのエールのつもりで……500倍ほど」

騎士「え」

 「ちょっと待……」

     「歯ぁ食いしばれーーーーーーーーーっ」

ドカーーーーーーーン

竜人「…………」

騎士「……飛んでいきましたね……」

魔女「きたねー花火だぜ」

674 :◆TRhdaykzHI 2014/09/14(日) 10:07:28.97 ID:NxApZR39o

* * *

こうして少年の長きに渡る一瞬の大冒険は幕を閉じたのだった

さて、再び照明が灯された劇場をあらためて見渡してみると
帰り支度をはじめる者、欠伸をする者、顔見知り同士で何やら囁き合ってる者……
均等に並べられたシートにまばらに点在する人の影が、冬眠明けの熊みたいに動き出した頃だった

あるいはその中の一人か二人くらいは、不思議に思いつつ閉じた緞帳を見つめた者がいたかもしれない
少年が、勇者たちが、警官が、強盗団が、社長が、この後どうしたのか?

だけどもやっぱり、エンディングを迎えた物語にあれやこれやと付け加えるのも無粋だろうから
彼らのその後については、事実のみ簡潔に述べるくらいがちょうどよかろう

テロ組織とも暴走団ともつかないとある集団が、雲の下立ち並ぶビル群のひとつに突っ込んで屋上を目指す頃には
喜々面々、興味津津、戦々恐々、カメラマンと記者たちがハイエナのように群がって、騒動の様子は全世界中に放映されていた

そんな折、社長が空から降ってきた
観客諸君ご存じのとおり魔法で超強化された少年に殴り飛ばされたためである

社長の鼻血がつくことも気にとめずに押し寄せるマイクの波、その中心でただただ彼は混乱していた。
あるいはただ脳震盪を起こしていただけかもしれないが……

675 :◆TRhdaykzHI 2014/09/14(日) 10:09:19.11 ID:NxApZR39o

何とか理性を取り戻した彼が、この一連の騒動について、会社の正当性を主張しつつ弁解をはじめようと口を開いたときだった
記者の一人がわあ、と叫んだ
何か空から降ってきた、と。

そう、空から降り立ったのは社長だけではなかった
一体どこからばらまかれたのか、人為的なものなのか偶然だったのか、原因は全く不明だったが
とにかく空から書類が、まるで初雪のように舞い散って、やがて記者やカメラマン、それから野次馬たちの手に捕まった
雪と違うところは手に触れても溶けない点である。社長にとっては都合が悪いことに。

その書類の数々は、社長が今まで会社を大きくするためにしてきた諸々の不正の証拠だった

今後彼の会社が倒産するか、はたまたすんでのところで命綱をつなぐかは今のところ不明である
彼と社員たちの努力しだいだろう

「ああ……やっちまったぜ……」
「こればっかりは結果オーライだ。たまには勧善懲悪ものの役者になってみるのも悪かねえ」
「いや、俺たちもどっちかっつーと悪側なんスよね」

大騒ぎを通り越して一世一代の祭りみたいになってる下界を見下ろして
強盗団一味は高みの見物といったところだった
暇なので会社の上から下まで適当に調べていたとき、AとBがまたやらかし、その結果がこの有様である

「そろそろ帰るか」
「おう」
そしてそろそろ帰るところであり、またどこかに流れていく

676 :◆TRhdaykzHI 2014/09/14(日) 10:11:13.62 ID:NxApZR39o

事件から数日がたった後も、新聞の紙面や町角に据えられたテレビの画面から社長の鼻血まみれの顔と、
そしてボロボロになった会社のビルが消える兆しはなかった……

「やー、すごい騒ぎですね、先輩」

ここにもひとり、テレビの中のコメンテーターの顰め面を見ながら煙草をくわえる若者がいた
今日目が覚めてから同じ画面を5度は見た。いい加減興味も薄れてテレビのスイッチを切る

「あれ、先輩どこに行くんですか」
「ちょっとな」
「なに手に持ってんですか」
「なんでもねえよ」

彼は、だらしなく腰かけていた椅子から、弾かれたように立ち上がると上司に詰め寄った
そしてその手に握られていた辞表をびりびりと裂いてしまう

「俺、先輩のこと実は尊敬してるんですけど」

上司はしたり顔で頷く。「お前はいい警官になる」

「またいつか会おうぜ。お前が立派な一人前になったらな」

煙草の煙が去って行く彼を引きとめようと無駄な努力をしている。
後輩はぐっと言葉を飲んだ
そして沈黙のまま、米粒ほどの大きさになった上司の背中にようやく敬礼をした

677 :◆TRhdaykzHI 2014/09/14(日) 10:13:15.83 ID:NxApZR39o

* * *

ニュースの話題になったのは有名会社の不正だけではない
街と都市をつなぐ列車が空を飛んだとか、遙か古代に絶滅したはずの恐竜らしきものが飛んでいくのを見たとか
または、灰いろの重たい雲に覆われていたはずの空が一時だけ本来の青を見せたとか

そんな都市伝説みたいな噂が流れ、実際その空飛ぶ列車やドラゴンをカメラに収めた者もいたが
不思議なことに記録には残っていなかった。データからその部分だけすっぽり抜けているのである

やがて脳みその片隅、海馬に焼きつけられた記憶も、目まぐるしく変化する社会の中で次第に風化していった
この世界の人々は忘却する能力に長けている

――少年以外。

「きれいだったけど、すぐにまた戻っちゃったなぁ」

またいつも通り鈍色の曇天を、彼は仰ぎ見た
夕暮れ時の路地に人はまばらである
彼が立ち止まって上空を見上げていても、誰も文句は言わない

「でも、いつかまた、もう一度」

678 :◆TRhdaykzHI 2014/09/14(日) 10:16:50.74 ID:NxApZR39o

少年の家

魔女「えー? せっかくこの家、壊されなくてすむようになったのに、結局出て行っちゃうんだ?」

姫「ですが、どちらへ? もしかしてお母様とお父様が……?」

少年「ううん。ちがうんだ」

少年「せっかく僕のために頑張ってくれたのに、ごめんよ」

少年「でもちゃんと分かったから。僕がどこにいたって、妹のことを覚えてる限り、思い出はそのまんまなんだ」

少年「あと、いますぐ出て行くわけじゃない。いつかの話だよ」

勇者「どうするつもりなんだ?」

少年「この街の隣の隣……砂漠を渡った先に学問都市がある。そこでいつかちゃんと勉強したいんだ」

少年「それで学者になる。あんたが見せてくれたあの青空と太陽を、この世界にもう一度取り戻して見せるよ」

竜人「……そうですか」

少年「ま、学校に入学するだけの金も学力も今はまだ全然ないから、当分また働いて金をためるさ」

魔王「金なら、」

ガチャ

頭領「話は聞いたぜ……ロマンだな。俺はお前の夢を応援する」

魔女「あー、お頭じゃん。久しぶりー。元気だった?」

姫「お頭さん!なんでここに……」

頭領「お前らこんな小さい部屋によく7人もいられるな。せますぎるだろ」

頭領「まあ……んなこたぁどうでもいいんだよ。ガキよ。この金を使って学校に入学するといい」ポイ

少年「うわっ! おもっ……」

頭領「俺は女とガキには優しいからな……遠慮なく使えよ」

勇者「自分で言うなよ」

少年「いや、いらない。盗んだ金で勉強なんてしたくないんだ。
   ちゃんと自分で稼いだ金で行くよ」

頭領「あぁ……?」カチン

頭領「せっかくの俺の好意を無下にするたぁいい度胸だな、子ども」

少年「うわあああっ!?な、なにするんだよっ!離せよ!」

勇者「おい!子どもに優しい設定どこいった!やめろ!」

679 :◆TRhdaykzHI 2014/09/14(日) 10:18:24.98 ID:NxApZR39o

頭領は帰った

魔王「……だが、また働くと言っても、君は……」

少年「うん。クビになった。でも、今日もう一回頭下げてくる」

少年「子どもの僕を雇ってくれるの、あそこくらいしかないからね」

姫「そ、それなら私たちも手伝いますわ。私も働きます」

魔女「ていうか、あたしたちなら大通りで魔法見せてあげればお金ガッポガッポ稼げるんじゃない?」

少年「大丈夫。僕はもうやりたいこと見つけたから、どんなことも耐えられるよ」

少年「土下座だってなんだってやってやるね!!朝飯前だ!!」

竜人「なんか変な方向に開き直ってませんかね」

少年「それにさ……」

魔王「ん?」

少年「なんとなく、勘だけど。あんたたち、今日の夜に自分の世界に帰る気がするんだ」

勇者「え?そうなのか?」

少年「多分な。……じゃ、僕は工場に行ってくるよ。またな」

ガチャ

騎士「……そういえば僕たち、どうやって帰るんでしょうね」

勇者「……そこだよな」

680 :◆TRhdaykzHI 2014/09/14(日) 10:20:15.10 ID:NxApZR39o

工場

少年「……なんかすごい久々に来た気がする」

少年「……よし、いくk……」

○○「よう」ポン

少年「うおあっ!!」

少年「あ……あんたか。食堂から出てくるなんて……珍しいな」

○○「俺のことよりお前さ。みんな心配してたんだ。……生きててよかった」

○○「今日はどうしたんだ?」

少年「あ、うん。また、ここで働かせてもらおうと思って。
   お金貯めて学校に行きたいんだ」

○○「そうか。じゃこれ使えよ」

少年「あ、うん。……うん? え? なにこれ」

少年「なにこれ……!?」

○○「俺一人だけじゃない、みんなからだ。大した額じゃないが、とりあえずこの街を出るのには十分だろ」

○○「学費は、ほらよ。これを自分で勝ち取れよ」ペラ

少年「このチラシ……奨学金? こ、こんなの無理だって」

○○「ばか、自信持てよ。工場で武器つくる時間を勉強にまわせば、お前なら余裕だって。 なあ、みんな」

コツコツ

「頑張れよな。応援してるぜ」

「たまにはこっちにも顔出せよな!」

「期待してるぞ」

「いろいろ勉強してこいよ~」

少年「みんな……」

○○「……頑張ってこいよ。お前はまだまだ若いんだから、なんだってできるさ」

○○「今日発てよ。出発は早い方がいい」

少年「……」

少年「ありがとう……」

681 :◆TRhdaykzHI 2014/09/14(日) 10:21:30.84 ID:NxApZR39o

* * *

―――夜―――

街 正面ゲート

少年「そろそろか……」

魔王「出発するにしては荷物が少ないのだな」

少年「元々あんまり物も服も持ってないし。これで十分なんだ」

少年「そういえばさ。あんたら、どうやって帰るの?」

魔王「……」

勇者「……」

「「「…………」」」

少年「え…… まさか……まじ?」

勇者「いやまあ大丈夫だろう。なんとかなるって」

少年「適当だなぁ……相変わらず」

魔王「私たちのことは気にしなくていい。君は自分のこれからのことだけ考えていればよいのだ」

魔女「頑張ってねー」

姫「あなたなら、今後何があっても乗り越えられますよ。なんて言っても私たちの創世主様なのですからね」

少年「……うん」

少年「ありがとう。僕を……僕たちを助けに来てくれて」

少年「もうみんなのこと忘れたりしないよ。ずっと、ちゃんと覚えてるから」

竜人「どうぞ達者で……」

騎士「創世主がこんな子どもだったとは、……驚きましたけど、会えて光栄でした」

少年「僕が大人になって、夢を叶えたら……またいつか会おう」

682 :◆TRhdaykzHI 2014/09/14(日) 10:25:27.58 ID:NxApZR39o

少年「魔王っ」

魔王「ん……?」

少年「あんたの名前は妹が決めたんだ。昔の月の神様の名前だよ」

魔王「……そうなのか。じゃあ後で礼を言わなければ」

少年「……」

少年「僕とあんたはけっこう似てる」

魔王「そうだろうか」

少年「顔じゃないよ。中身。未来を心配しすぎるところとか、怖がりなところとか、たくさんね」

少年「怖がらなくても大丈夫だよ。大丈夫にできてるんだ、みんな。
   僕たちは自分で思ってるよりずっと強いんだ」

少年「死は怖くない。友だちなんだって……妹が」

魔王「……」

魔王「ありがとう」

少年「こっちこそ、ありがと。あんたに会えてよかったよ。
   最初は頭おかしー奴かと思って悪かった」

683 :◆TRhdaykzHI 2014/09/14(日) 10:32:30.39 ID:NxApZR39o

スタスタ……

シスター「おー……まだ出発してなかったか。間に合った間に合った」

少年「シスター」

勇者「ああ、あんたか。久しぶりだな。こっちでは世話になった」

シスター「やあ悪魔。願い叶えてくれたんだな。ありがとよ」

勇者「だから、俺は悪魔じゃ……」

シスター「代償に命でも何でも持っていけ。なんだ、遠慮をするな。血でも何でもいいぜ、ほら首筋がぶっとな」

勇者「ばか、いらねえよ!脱ぐな!!悪魔じゃないって言ってんだろ!!」

シスター「くっくっく……なに照れてんの?つくづくからかい甲斐のある奴だなぁ」

グイッ

勇者「えっ……?」

魔王「……あっ」

シスター「ん……?」

魔王「……こ、ここ。勇者くんの服に埃がついてたから、とっただけだ」

シスター「おやおやおやおや……まあまあまあまあ」

少年「はあ……シスター、そのへんにしてよ。あんたも見送りに来てるんだろ?」

シスター「くっくっく……」

シスター「まあ、悪魔でも何でもいいよ。とにかく色々礼を言いにね。
     あと少年も元気でな。たまには帰って顔を見せに来いよ」

少年「もちろん」

684 :◆TRhdaykzHI 2014/09/14(日) 10:34:01.38 ID:NxApZR39o

騎士「あ。そろそろ本当に時間ですよ」

少年「うん、もう行かなくちゃ」

少年「……勇者。あんたの名前も妹がつけた。あんたのは、昔の太陽の神様の名前だ」

シスター「そうそう……」

少年「僕もいつかあんたみたいに強くなれたらいいな」

勇者「はっはっは。よせ、照れるぜ」

少年「ひょっとしたら」

少年「10年後……いや、1年後、もしかしたら明日にでも」

少年「また戦争が始まって、この土地はもっとボロボロになって、全員死んじゃうのかもしれない」

少年「戦争になったら、僕も徴兵されるだろうし……学校どころじゃないね」

勇者「……」

少年「でも、たとえどんな未来が待ってようとも、僕は僕の夢から逃げないことにしたよ」

少年「勇者も応援してくれるだろ?」

勇者「……もちろん」

勇者「頑張れよ、少年!」

少年「……うん!」

685 :◆TRhdaykzHI 2014/09/14(日) 10:56:29.10 ID:NxApZR39o

少年「じゃあ、さようなら。みんな!」

少年「あいつによろしく」

シスター「元気でな」

騎士「気をつけて行くんだよ」

姫「さようなら……!」

魔女「ばいばーい!まったねー!」

竜人「ご飯ちゃんと食べるんですよ!」

魔王「さようなら、少年」

勇者「じゃあな!」

―――――――――――――
――――――――――
――――――

シスター「………………行ったか……」

シスター「……」

シスター「なあ、そういえば勇者。お前の剣、それって聖女の……」

シスター「葡萄十字…… あれっ?」

シスター「いない……?」

686 :◆TRhdaykzHI 2014/09/14(日) 10:58:11.98 ID:NxApZR39o

* * *

冥府

勇者「…………」

勇者「う……お?あれ、ここは冥府か」

鍵守「そうです」ニョキ

勇者「わっ お、お前いたのか」

鍵守「いました」ニコ

鍵守「彼にあってきてくれてありがとう。これでもうこのセカイはだいじょうぶ……」

勇者「そっか……よかった。戻ってこれたのか」

ザ……

魔王「勇者くん……と鍵守」

鍵守「魔王もありがとう……もうだいじょうぶ」

鍵守「いま、セカイを全部再編中だから……冥府の外にいくのはちょっとじかんがかかるけど……」

勇者「じゃあ、全部元通りになるのか?影に食われて消えた人間も魔族も、全員?」

鍵守「そのはずです……」

魔王「……」

魔王「私たちは彼に会ってきたが、君は会わなくてよかったのか?」

鍵守「……え……?」

魔王「彼は君の兄なのだろう」

鍵守「……」

勇者「え? ……?? ん?」

勇者「なに言ってんだ?あいつに弟はいないだろ。いるのは妹……」

魔王「勇者くん、気づいてなかったのか? 鍵守が彼の妹だ」

勇者「……へ……!? お……お前女の子だったのか!?」

鍵守「ボクはたしかにおんなのこですが……」

勇者「ええええええっ」

687 :◆TRhdaykzHI 2014/09/14(日) 11:00:21.28 ID:NxApZR39o
ここまでです
次くらいで終わらせられそうです!!!
ここまで読んでくれた方々どうもありがとうございます

688 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/09/14(日) 11:00:57.66 ID:cBe0OMcFo
がんばれ

689 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/09/14(日) 17:55:25.94 ID:/HT+fuCvO
おつ!

690 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/09/14(日) 22:38:19.11 ID:NYDbf4ofO
な!鍵守が妹だったなんて??
全く想像つかなかった。乙。

691 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/09/16(火) 01:58:50.14 ID:Wy4iJpGRO
大作やなぁ
期待してるおつ!

692 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/09/16(火) 09:25:51.17 ID:caOQO+EFo

* * *

冥府

勇者「…………」

勇者「う……お?あれ、ここは冥府か」

鍵守「そうです」ニョキ

勇者「わっ お、お前いたのか」

鍵守「いました」ニコ

鍵守「彼にあってきてくれてありがとう。これでもうこのセカイはだいじょうぶ……」

勇者「そっか……よかった。戻ってこれたのか」

ザ……

魔王「勇者くん……と鍵守」

鍵守「魔王もありがとう……もうだいじょうぶ」

鍵守「いま、セカイを全部再編中だから……冥府の外にいくのはちょっとじかんがかかるけど……」

勇者「じゃあ、全部元通りになるのか?影に食われて消えた人間も魔族も、全員?」

鍵守「そのはずです……」

魔王「……」

魔王「私たちは彼に会ってきたが、君は会わなくてよかったのか?」

鍵守「……え……?」

魔王「彼は君の兄なのだろう」

鍵守「……」

勇者「え? ……?? ん?」

勇者「なに言ってんだ?あいつに弟はいないだろ。いるのは妹……」

魔王「勇者くん、気づいてなかったのか? 鍵守が彼の妹だ」

勇者「……へ……!? お……お前女の子だったのか!?」

鍵守「ボクはたしかにおんなのこですが……」

勇者「ええええええっ」

693 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/09/16(火) 21:04:50.98 ID:SXYnGqUl0
おつ!
とうとう終わってしまうのか…寂しいな
694 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/09/18(木) 21:49:58.91 ID:tAvJf3dNO
おつ
695 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/10/11(土) 22:16:30.62 ID:BZKj1A09O
待ってる。
696 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/10/27(月) 06:11:09.37 ID:TCYIOmwQO

――――――――――――――――――――――――――

鍵守「でもにせものなので……ほんものじゃない」

勇者「偽物?」

鍵守「あちらの世界も、こちらのセカイみたいな生と死のしすてむだったら……

   ほんもののボクもあちらの世界で りんねてんせいしてるはず」

鍵守「ボクはほんもののあの子の かけらです……」

鍵守「きおくだけうけついだにせものなんです」

鍵守「あの子がこのセカイを『すきだった気持ち』、それが……ボクです」

鍵守「きっかけは、あの子の死でした」

???「僕と同じようにね」スタスタ

魔王「!」

勇者「あれ……お前、少年じゃないか。なんでここに!」

???「だから僕もそいつといっしょなんだって。本物じゃない。偽物だ」

???「そういえば、こうして姿を見せるのは初めてだっけ」

魔王「君は」

???「君たち、やってくれたなぁ。そう、僕がこの世界を崩壊させようとしてた創世主だよ」

勇者「お、お前……!」

???「……心配しなくても、僕にもう力はない」

???「そいつが本物のあの子の気持ちから生まれたように、僕もそうだったからさ。

    生まれたきっかけも同じ」

???「ただひとつ違うのは、僕は彼がこのセカイを『忘れようとする気持ち』から生まれたことだ。

    ……で、今既に僕にもう力は残ってない。多分もうすぐ消滅してしまうかな」

???「まあ……つまりそういうことだね」

???「君たちの世界は救われたよ」

???「僕が言うべき言葉じゃないと思うけど……おめでとう。じゃあね」

鍵守「……あ……」

勇者「おい、待てよ!」

――――――――――――――――――――――――――

魔王「行ってしまったな……」

鍵守「……」

鍵守「……ボク……」

スタスタ

妖使い「追い掛けなよ。勇者と魔王には俺たちからいろいろ説明しとくから」

忍「もうすぐ消えちゃいますよ。急いだ方がいいです」

勇者「あ、お前ら。そうか、こっちに……そうだよな」

魔王「きさまーっ あのときはよくもっ」ブンブン

妖使い「あっはっはっはっは。届いてないよ魔王あっはっはっはっはチビあっはっは」

魔王「チビって言った!今小声でチビと言っただろう貴様!」

妖使い「ほら行きなよ妹ちゃん。もう当分……もしかしたら二度と会えないかもしれないんだからさ」

鍵守「……うん……いってきます」

鍵守「またあとで、あいましょう。ごゆっくり……」

タッタッタッタ……

妖使い「鍵守に変わって説明するけど、世界の再編にはしばらくかかるから、それが終わるまで冥府にいてもらうほかないよ」

忍「私たちも利用してるんですけど、家とかあるしけっこう快適っすよ~」

勇者「それは別にいいけどさ、それよりお前らのこと説明しろよ」

魔王「そうだぞっ。一体どういうことだっ」

忍「もう分かってると思いますけど、私たちは人でも魔族でもありません」

妖使い「創世主が世界を滅ぼすためにつくったアシスタントだ。まあ、失敗しちゃったけどね」

妖使い「結果的には……これでよかったのかもしれない」

魔王「ひとつ聞きたいのだが……」

魔王「創世主は少年の『この世界を忘れようとする気持ち』から生まれたのだろう。だったら」

魔王「そもそも何故この世界は生まれたんだ。そして、崩壊までのタイムラグは一体何だったのだ」

魔王「……まるで躊躇ってたみたいじゃないか」

妖使い「だから、つまり、そういうことなんじゃないかな」

妖使い「だから彼につくられた俺たちも、君たちのこと結局殺せなかったし……」

忍「あー若、だめですよ。それ。負惜しみに聞こえちゃいます!」

妖使い「いや、ちげーってマジ。俺が本気出せば君たちなんて一秒でのせるからね」

忍「ますます負惜しみですよ~!!」

妖使い「で、ほかに質問は?」

勇者「……あいつ、本当に消滅してしまうのか。あの創世主は」

妖使い「そりゃあ消える。しょうがないことだ。君たちが悲しむことじゃないよ」

勇者「……そうか。せっかく会えたのにな」

――――――――――――――――――――――――――

忍「ほかに質問がないなら、今度は私たちの話、聞いてくださいね」

魔王「話?」

妖使い「……それが俺たちの存在意義だったとはいえ、いろいろ迷惑をかけたな」

妖使い「償いってわけじゃないけど、残った力を君たちのために使おうと思ってさ」

勇者「なんだよ、いきなりしおらしくなって」

妖使い「ただし!叶えられるのはひとつだけ、一人だけ……君たちが冥府を去る時までに決めてくれよ」

妖使い「なあ魔王。前、俺が君に言ったことがあるよね。

    種族を変えられる秘術が俺の国にあるってさ」

妖使い「人を魔族に、魔族を人に。一回きりだけど使ってあげるよ」

魔王「……!」

勇者「……それって」

妖使い「じゃあ、よく考えるんだよ。二度は使えない魔法だからね」

忍「さー、ほかの人たちも探しに行きましょっか。多分どっかに落ちてると思うんで」

妖使い「まったねー二人とも」

――――――――――――――――――――――――――

魔王「……」

勇者「……」

魔王「また、変なことを言っている。もう妖使いの言うことは真に受けない方がいい」

勇者「そうだな……」

勇者「でも、もし本当だったら。魔王はどうするつもりだったんだ」

魔王「…………魔法が再び使えるようになったあの時、私はとても嬉しかった。

   自分が元の姿に戻ったとき、少年が言ってくれた言葉がすごく嬉しかった」

魔王「私は魔族として生き続ける。人にはならない」

魔王「勇者くんもそうだろう」

勇者「……」

勇者「………………俺は」

魔王「あ、あの、勇者くん」

勇者「ん?」

魔王「みんなを見つけたら、あとで、あの……ええと……」

魔王「……話がある……」

勇者「話?」

魔王「うん……」

勇者「何だ?気になるな。いま聞かせてくれよ」

バキッ!!

勇者「いったっ!!!」

忍「勇者様、空気読んで下さいよ勇者様」

妖使い「だからモテないんだよ勇者はさ~」

勇者「お前らまだいたのかよ!!」

――――――――――――――――――――――――――

* * *

騎士「前来たときにはゆっくり周りを見たり考えたりする余裕なかったんですが、

   こうしてあらためて見てみるときれいなところですね」

騎士「でも、ここ死後の世界なんですよね……。そう考えるとちょっと薄ら怖いな」

騎士「……。一件落着してよかったですね、姫様」

騎士「もうすぐ再編が終わると言いますし。国王様にもまた会えますよ」

騎士「…………あの。さっきから僕ばっか喋ってるんですが。

   いつものじゃじゃ馬っぷりはどこにいったんです?」

姫「…………」

姫「だれがじゃじゃ馬よ」

姫「……私、とんでもないことを言ってしまった気がするの」

騎士「とんでもないこと?」

姫「あのときよ……あなたが一瞬で眠ってしまったあのとき」

姫「どうしましょう騎士ーーーーーーーーーーっ!!わわわわ私なんてことをイヤーーーーーーーーっっ!!」

騎士「どうしたんですか姫様!い、一体何を言ったんです……!?」

姫「ちがうのちがうの、寝ぼけてて!!私寝ぼけてたのよーーっ」

――――――――――――――――――――――――――

* * *

ザカザカ……

魔女「あーあ、やっぱ惜しかったよねー」

竜人「何がです?」

魔女「銃とか、車とか、いろいろこっちに持ってきたかった。あれ、すごい便利」

竜人「そんなことをしたらどうなるかくらい想像がつくでしょうに」

魔女「分かってるってば。だから持ってこなかったんじゃん」

魔女「あ。ねー、あれ姫様とモブ君じゃん。ちょー偶然。いこーよ!」

竜人「ああ、本当ですね。行きま…… え!?ちょっと待ってください。モブ君!?」

竜人「魔女、それは酷すぎますよ。いい加減彼の名前を覚えなさい!全く!!」

魔女「だって覚えらんないんだもーん」スタスタ

魔女「お~~い、姫様、モブくー……」

――――――――――――――――――――――――――

* * *

姫「私……、竜人さんに……い、言っちゃった」

姫「好きですって……言っちゃった……」

騎士「ええっ!!ええええええええええええええ~~~~!?」

姫「どうしましょう……ああ……」

騎士「ひ、姫様!!忠告ですが、竜人さんは本当にやめた方がいいです!!本当に!!」

姫「な、なぜよ。その反応はちょっと予想外だったわ」

騎士「いや、あの人少し……ってか大分人格的におかしいところありますから!とにかく色々アレなんです!!!」

騎士「ですから…………、あ…………ぁ……」

姫「?」クルッ

姫「!?!?!?」

騎士「ま、魔女さん……と竜人さん…………あ、こんばんは……」

姫「ぁ……ぁ……」

魔女「こんばんはー」

竜人「……こんばんは」

騎士「いつからそこに……?」

姫「イヤーーーーーーーーーーーーーごめんなさいーーーーーーーーーーっっ!!!」ダッ

騎士「あっ姫様!!」

――――――――――――――――――――――――――

タッタッタッタ……

騎士「ああ……相変わらず足が速い」

魔女「ちょっと……なにしてんの。さっさと追いかけなさいよ」バチーン

竜人「痛っ!」

竜人「……私が行ったところで何にもなりません」

魔女「ぐだぐだ言ってると……帰って即効あんたの部屋を熱帯触手アイランドにするよ」

竜人「やめてくださいよ!おぞましい!」

魔女「じゃあさっさと行く!!!」

魔女「ったく世話が焼ける連中だー」

騎士「…………あ、あの!!魔女さん……!便乗するわけではないのですが」

騎士「僕もあなたに伝えたいことが……っ」

魔女「よし、あたしたちも行こう」ピャッ

騎士「えっ、ど、どこに?」

魔女「決まってんでしょ、隠れて二人の様子を見に行くの!!」

騎士「ええっ?」

――――――――――――――――――――――――――

* * *

勇者「なんつーか……きれいだけど寂しいところだな」

勇者「四六時中、夜だっていうのも気が滅入る」

魔王「勇者くんはそうだろうな。私はけっこう居心地がいいぞ。夜だけど、明るいし」

勇者「魔族だから夜型なのか?」

魔王「夜には魔力25%アップ……」

勇者「でもお前9時には寝てるよな。朝までぐっすりだよな」

魔王「そうだが」

魔王「眠いし」

勇者「あ、うん。それは寝た方がいいな、うん……」

勇者「で?話ってなんだ」

魔王「ああ。大したことではないのだが」

魔王「……さっそく本題に入るぞ」

勇者「ああ」

魔王「……えーっと……あの…… あ……」

魔王「…………いい夜だな。勇者くん」

勇者「それはそうだが、本題は一体どこにいったんだ」

魔王「……う……あ……ああ、うむ」

魔王(あ、あれ?変だな……私は緊張しているのか?こんな……)

魔王「そのぉ……うむ。いつも助けてくれて感謝しているぞ」

魔王「いろいろ迷惑ばかりかけてしまってすまんな」

勇者「はは……なんだよそれ。お互い様だろ?俺だってお前に感謝してるよ」

魔王「…………君に会えて本当によかったと思っている」

勇者「えぇっ?」

魔王「私の……は、初恋は、実は勇者くんだったのだ」

魔王「早く大人になりたくて、勇者くんと同じ時間に生きたくて、ずっと苦しかった」

魔王「君の一番大切な人に……なりたかったんだ」

魔王「……突然こんなことを言われても戸惑うだろうな。

   でも、私にとってのけじめなのだ」

魔王「私はこれでやっと前に進めr

勇者「いやちょっと待て」

勇者「なに勝手に終わりにしてんだ!?」

魔王「……? きょとん」

勇者「きょとんじゃねーよ!なんで過去形なんだよ!? もう俺のこと好きじゃないのか!?」

魔王「ああ」

勇者「えええええ……っ!?なにそれ……!? 俺泣きそうなんだが」

魔王「勇者くんのことなんか」

魔王「もう、全然」ジワ

魔王「好きじゃないのだ。ごめんなさい」ポロ

魔王「……ふふ……」

勇者「……」

勇者「俺はまだ好きなんだけどな」

魔王「え」

勇者「お前が魔族のままでいたいなら、俺が人をやめて魔族になるよ」

魔王「は……!?」

勇者「それでずっと同じ時間を生きていけるだろ」

魔王「な……ば……」

勇者「ちゃんと色々考えたさ。……まぁそれぐらい、なんだ。魔王のこと……えぇー……上記のとおり思っている」

魔王「……………………」

勇者「俺じゃだめか?」

魔王「……だめじゃない……」

魔王「勇者くんがいい……っ!」

――――――――――――――――――――――――――

* * *

タッタッタッタ……シュバ

姫「いやあああああああもういやああああああ私の人生ってなにいいいい」

竜人「姫様!」

姫「あああああああああなんで竜人さん追ってきてあああああああああああああ」

姫「はあ……はあ……はあ……もう走れない……」

竜人「大丈夫ですか」

姫「なんで!追って!きているんですか!もう!!泣きます!!わああああん!」

竜人「ご安心ください。何も聞いてません。姫様が勘違いしただけですよ」

姫「えっ……! 本当に……?」

竜人「ええ」

姫「……じゃ、じゃあ、あちらの世界で、私が眠ってしまう前に何か言ったことは……」

竜人「さあ……存じ上げません。何も仰ってませんでしたよ」

姫「そう、ですか。そう……。何か思い違いをしていたようですね。お恥ずかしいわ」

竜人「お気になさらず。戻りましょう」

姫「はい……」

姫「……」

姫「…………」

竜人「姫様?」

姫「…………っうそですよね」

姫「どうして聞かなかったフリをするのですか?」

竜人「……」

姫「じゃあもう一度!今言いますわ」

姫「……言いますから、ちゃんと……き、聞いててください!」

竜人「え……」

――――――――――――――――――――――――――

姫「私は……私はですね……!」

姫「あなたのこと、」

竜人「姫様」

竜人「もう戻りましょう。騎士さんも魔女もきっと心配してますよ」

姫「……」

姫「……言わせてもくれないなんてひどいです。そんなに……やっぱり迷惑ですか」

ガサガサ

魔女「あのスカポンタン……まじでなにやってんのアイツ。早くOKしなよ、だらしないなぁ」

騎士「魔女さん、やっぱり盗み聞きはまずいですって……もう行きましょう」

魔女「なに言ってんの。これからがおもしろいところじゃん!!!」

騎士「おもしろがるような点が皆無のシリアスムードなんですが……」

竜人「……」

竜人「騎士さんが先ほど仰ってたように、私はあなたが考えているような人ではありません」チラ

騎士「ひっ……やばい聞かれてた」

魔女「……あ」

姫「そんなこと……」

竜人「あ、ちょっと待ってください。なんだかさっきからあそこの茂みに誰か潜んでいるような気がするんですよ。見てきますね」

魔女「やべ。ばれてた。逃げよ」

騎士「ええっ」

シュッ

竜人「……」

――――――――――――――――――――――――――

* * *

魔女「ちぃっ 耳ざとい男だなーもう。まあいっか……後で直接聞けば」

魔女「じゃ、あたしたちは先にもどろっか、モブ君」

騎士「もうモブでいいです……。モブでいいので、僕の話も聞いてくれませんか」

魔女「はえ~?」

騎士「魔女さん!!」ガシ

魔女「うお 何」

騎士「驚くかもしれませんが……僕はあなたのことが好きです。ひ……一目ぼれでした!!」

魔女「わーお。まあ、あたしの魅力にひかれちゃうのはしょうがないってことだよね。大自然の摂理だよ」

騎士「僕と付き合ってください!!」

魔女「へっ……?」

騎士「えっ」

魔女「付き合う……?って、なにそれ。なんかそれ……ガチじゃん。重いよー 遊びでしょ?」

騎士「遊びじゃありません……僕は本気です。魔女さんのいつも明るいところとか、意外と真面目なところとか……

   最初は一目ぼれでしたが、今はそれだけじゃありません。好きなんです!」

魔女「…………え……、は……はぁ?」

魔女「なにそれ……ば、馬鹿じゃないの意味わかんないしっ!あたし全然真面目じゃないもん!」

騎士「いや、そんなことないですよ。いつも……」

魔女「あたし騎士くんみたいな優男あんまり好きじゃないから無理!絶対無理あり得ない!

   お金持ちでダンディな人が好きなんだもん!じゃあねバイバイ!」ダッ

騎士「えええっ!!」ガーン

騎士「……あれ……いま僕の名前……? 魔女さん!」

魔女「知らない知らない、モブなんか知らない!!」

騎士「待ってくださいよ!」

――――――――――――――――――――――――――

* * *

竜人「私はあなたが思っているような人ではありません。こんなの、うわべだけなんですよ」

姫「私はちゃんと見えてます」

竜人「物を盗んだこともありますし、人を殺したこともありますよ」

姫「……」

竜人「あと人間は全員死ねって思ってました」

姫「あなた方魔族のおかれていた境遇を考えれば、それも仕方のないことです」

竜人「この国の幼い王女様を拉致して、国王との交渉材料にしようとしたこともあったんですよ」

姫「それも仕方の……、……えっ」

姫「えっ!!それって、私のことですか!?」

竜人「はい。まあ、結局計画倒れになってしまったんですけどね」

竜人「人間を根絶やしにするためなら何でもするつもりでした。

   王女も必要に駆られれば殺すつもりでしたよ」

姫「……!」

竜人「これで分かったでしょう。さあ、帰りましょう」スタスタ

姫「でも……、殺さなかったじゃないですかっ」

姫「昔がどうであれ、今のあなたを好きな私の気持ちは変わりません!!」

竜人「ですから……」

姫「竜人さんが好きなんです!!」

姫「どうしてそんな不思議そうな顔をしているのですか。

  何故竜の姿になる度少し申し訳なさそうな顔をするのです」

姫「私、別に怖くありません!!どうして怖がる必要があるの!

  どんな姿だってあなたはあなたでしょう!!」

姫「私は甘やかされて育ちましたが、そんなことも分からない馬鹿な女ではありません」ツカツカ

――――――――――――――――――――――――――

竜人「ちょ、ちょっと……姫様、困ります」

姫「知りません!」

竜人「………………私が今年でいくつになるかご存じですか?」

姫「私と同じくらいよ」

竜人「倍近く」

姫「……嘘でしょう?」

竜人「それに、あなたはこの国の王族だ。軽率な行為はやめた方がいい」

姫「……」

竜人「姫様は王族で、私は竜族の末裔です。この意味、分かりますよね。

   お気持ちだけ、有り難く受け取ります……とても嬉しかったですよ」

姫「……」

竜人「……すみません」

――――――――――――――――――――――――――

* * *

タッタッタ……

鍵守「ええと……」キョロキョロ

鍵守「あっ」

鍵守「お……、お、 お兄ちゃんっ」

???「……ん」

???「誰がお兄ちゃんだよ。お前は本物の妹じゃないし、僕も本物の兄じゃない」

鍵守「ご……ごめんなさい」

鍵守「でも、ボクもあなたも、にせものだから……おなじだから……

   よんでもいいかなって……おもっ……も、も」

???「……まあ、呼び方なんてどうでもいいよ。好きにしろよ」

鍵守「……! うん!」

???「ここ……お前がつくったんだよな」

鍵守「うん。あのね、こっちで目が覚めてね、いろいろ分かったんだ……」

鍵守「『本の中のおはなし』だけなら、そこだけ切り取って存在できるけど、

   それが『ひとつのせかい』として存在するためには……」

鍵守「その『おはなし』の土台になるものも生まれなくちゃいけないんだね……」

???「僕が、『百年前の戦争』なんて書いたから」

???「あんなことが……」

鍵守「お兄ちゃんがわるいわけじゃないとおもうよ」

???「……だからお前は冥府をつくったのか。先代の勇者たちや魔王たちのために。

   悲しい運命を持って生まれたあの時代の者たちのために」

???「話の犠牲になったあいつらのために……」

鍵守「けつまつだけでも、かえたかったから。ボクにできるのはそれくらいだったけど……」

鍵守「みんな……がんばってたんだよ。いっしょうけんめい」

???「ああ……」

鍵守「でもね、やっぱり戦争ってかなしいよ。もうみたくない……」

???「うん……」

――――――――――――――――――――――――――

???「…… わるかったな」

鍵守「……ううん」

鍵守「……お兄ちゃん。ボク、ずっとお兄ちゃんが目をさますの待ってたんだよ」

鍵守「あうの楽しみにしてたんだよ」

鍵守「これからは、いっしょにいてくれるよね……」

???「それは無理だって言っただろ。僕はもうすぐ消える」

???「ただ、またこっちに来るだろうさ。今度はきっと、お前と同じものから生まれてくる」

???「あっちの世界の本物の僕が……ちゃんとこのセカイを好きになったみたいだからな」

鍵守「………………」

???「……また会えるって言ってるじゃないか。なんで泣くんだよ」

鍵守「だって……また会えるっていったって……今ここにいるお兄ちゃんとはもう会えない……」

???「大丈夫だって。きっと全部大丈夫だから」

「いろいろ迷惑かけてごめんな。また会いに来る。絶対な」

「……うん……」

「またな」

「さようなら。お兄ちゃん……」

――――――――――――――――――――――――――

――――――――――――――――――

―――――――――――――――

――――――――――

王都 喫茶店

元神官「えーと。つまり……」

元神官「私たちは世界崩壊に巻き込まれて一回消滅したけれど、

   勇者様たちが別世界の創世主に会いに行って」

戦士「創世主が俺たちのこの世界を忘れようとしなくなったから、世界再生で俺たちは甦った?」

勇者「そういうことだ」

戦士「悪いがさっぱりわからん」

勇者「なんでだよ。半日かけて説明してやったろうが」

戦士「クルマやらデンキやらシャチョウやら……もう何が何やら。

   まず異世界が存在するということすら信じがたいな」

元神官「……もうこのさい理解できるできないは問題じゃありません。

   というか、異世界のことを勇者様が満足に口頭で説明できるなんて期待していませんしね」

勇者「おい。さらっと馬鹿にすんな」

元神官「問題なのは……私たちの出番がなさすぎることです!!

    私と戦士さんは一応元勇者様のパーティじゃないですか!!」

元神官「それなのに何です?この扱い。目が覚めたら全部終わってたって何ですか、これ、ほんと」

勇者「仕方ないだろ!」

仮面「それに関しちゃ俺も元神官に賛成だな」

仮面「なんでお前が異世界に行って俺が留守番なんだよ、ええ?

   今すぐ俺も別世界に連れてけ、興味がある」

勇者「無茶言うなよ。それに、なんかお前に似た奴あっちにいたから。

   お前はこっちで我慢しとけって」

仮面「んだよその理屈」

――――――――――――――――――――――――――

仮面「なんつーか、俺らからすりゃいつの間にか色々終わってたって感じだな」

戦士「まあ、全然実感がないが、感謝するぞ勇者」

元神官「覚えてませんがありがとうございます勇者様。命を救ってくれて」

勇者「全く、気楽なもんだよな。こっちは色々大変だったんだぞ」

勇者「……おっと、もうこんな時間か。用事あるから俺はもう行くな。じゃ、また」

――――――

魔女「っでっさー銃ってやつが超サイコーで滅茶苦茶爽快だったんだよねー。キマイラ頭いいからこっちでも作れない?」

キマイラ「そう言われましてもね……」

魔女「火薬がボーンってなってバーンってなる武器だよ。できるでしょ?」

キマイラ「無茶を言いなさるな」

魚人「俺もそのジュウって奴に興味があらぁ!!魚類でも使えるヤツつくっちまってくれよ!!濡れてもOKなヤツね!!!!」

グリフォン「僕は武器よりその異世界の人々の方が気になりますけれどねぇ。

      こっちの人間と同じ体組織なんですかねぇ? 見てみたいなぁ」

魔女「見た目は一緒だったけど?」

騎士「……あっ」

魔女「げっ!!」

騎士「魔女さ~~~~ん!!」ダッ

魔女「キマイラ魚人グリフォンまたね!」ビュン

騎士「このあと一緒にご飯でも……って あ~~~っ!!箒に乗って逃げるのはずるいですよ!」

魚人「なになに若人、猛アタック中?」

グリフォン「彼女があんなに逃げるなんて珍しいなぁ」

キマイラ「青年よ。彼女に好かれたいのなら……」

騎士「え!? は、はい! アドバイスですか!?」

キマイラ「まず金持ちになることですね。話はそれからですよ」

魚人「いやいやいや先生……」

――――――――――

王立図書室 特別資料室

竜人「…………」パラパラ

竜人「…………」

竜人「……はぁっ どうにも捗りませんね。早いところ仕上げて魔王様に提出したいのですが」

竜人(最近なんだか妙に思考がまとまらず、魔王様にもご心配をおかけしてしまう始末で)

竜人「だめですね……」パタン

姫「何がですか?」

竜人「うわ!!」ガタッ

姫「うふふ。あら、本当にだめですわね竜人さん。私の入室に気づかないほどだなんて」

竜人「ひ、ひ姫様……」

姫「こんにちは」

竜人「あなたがここに来るなんて珍しいですね……あ、じゃあ私は失礼します」

姫「あら、どうして?」

竜人「これから用事が

姫「あなたが私を避けてるようだから、わざわざここに会いに来たのに」

竜人「さささ避けてなんて滅相もございませんよ」

姫「気まずいですか?あなたが私をフッたから。そんなこと気になさらなくていいのに。うふふ」

竜人「…………」ダラダラ

姫「私が小さかった頃……本棚にこんな本がありました」

姫「悪いドラゴンがお姫様を攫って塔に閉じ込めちゃうの」

竜人「」ギク

姫「でも私思うのよね。逆の話はないのかしら……悪いお姫様がドラゴンを攫っちゃうお話。おもしろそうじゃなくて?」

竜人「ははは……どうでし

姫「話があります。私の部屋まで来てくれますね?」ニコ

竜人「……も、もちろん」

姫「どうぞおかけくださいな。お話しましょう、竜人さん」

竜人「どうも……」

姫「ところで、私が王族ではなかったら、この間の告白も受け入れてもらえたのでしょうか?」

竜人「はいっ!?」

姫「そこまでは至らないかもしれませんが、まあ、可能性は上がりますよね、やっぱり」

姫「色々考えたのですけど……世の中どうなるか予測なんて全くできないと思いませんこと?」

姫「創世主の彼が生きているあの世界に君臨していた王族は、随分昔に罪人よろしくギロチンで首を落とされたそうよ」

姫「その革命によって王政から民主政治へと切り替わったのですって」

竜人「圧政をしいていたせいでしょう。姫様がたがそのような憂き目にあうことはありませんよ」

姫「いえ、どうなるか分かりませんわ。雪の国や星の国で革命が起きたらきっと我々の国にも少なからず影響があるでしょうし」

姫「私が言いたいのは、『絶対』なんて存在しないということです」

姫「地位も気持ちも不変なものなんてきっとどこにもないのね」

竜人「はぁ……」

姫「ですから、私、あなたのことが好きでなくなるまで、あなたのことをお慕い申し上げますわね!」

竜人「なんでそうなるんですか!?」

姫「私だって諦めようとしました、あなたに完膚なきまでにフラれた後」

竜人「ぐっ……」

姫「でもやっぱりそう簡単に踏ん切りがつきません。しばらく好きでいさせてくださいな。

  勝手に片思いをしている分には構わないのでしょう?竜人さん」

竜人「構いますよ!なんですか、それ。困ります」

竜人「…………」

竜人「大体どうしてこんな……私なんかを、そこまで」

姫「どうしてでしょうね」

竜人「あーもう、なんでそんなにのほほんとしているんですか!」

竜人「いいですか、はっきり申し上げます、姫様のお気持ちは迷惑です!」

姫「ごめんなさい。うふふふ」

竜人「何がそんなにおかしいんですかっ」

姫「だって、竜人さん。お顔が真っ赤なんですもの……あははっ」

竜人「これは怒っているんです!!」

竜人「全く……こんな老いぼれをからかって何が楽しいんですか……」

姫「全部楽しいです」

――――――――――――

大樹の村(勇者の故郷)

墓場

勇者「…………」

勇者「…………」

勇者「……チッ」キョロキョロ

妖使い「うおーーい!お待たせ勇者!」

勇者「おっせーよ!呼び出したのはお前だろうが!大体なんで待ち合わせが墓場なんだよ」

妖使い「おやおや~?まだ午後2時で全然明るいというのに勇者様はお化けが怖いというのですかな~?」

勇者「ううううるせえ、んなわけないだろうが!それより早く用件を話せよ」

妖使い「そんなに急がなくてもいいのにさ。いくらこの後の魔王とのデートが待ち遠しいからって、あ~~やだやだ」

勇者「そろそろ本気で斬っていいか?」

妖使い「照れるな照れるな」

妖使い「その剣さー あっちで手に入れたものだろ?」

勇者「ん?あぁ、これね。何にもないところからいきなり出てきたんだ」

妖使い「できればそれ、返してやってくんないかなって思って、君を呼んだんだ」

勇者「返すって、だれに」

妖使い「その墓へ」

勇者「……?」

妖使い「君の前の代の勇者へ」

勇者「俺の前の…………って、えぇっ!?」

勇者「そうだったのか!?いやでも……えっ!?待て待て、てことはこの墓が先代のものってことなんだよな」

勇者(幼い頃にここで会った幽霊が、あの墓のところにいつもいたような気がするんだが……まさか)

勇者「まさかな。つーか女だったし……」

妖使い「あははは。君はもうその子に二度も助けられているんだから、ちゃんと感謝した方がいいよ」

妖使い「あと先代は女の子だ。君が何を勘違いしてるか知らないけどね」

勇者「ちょっと待て!次から次へと俺を驚かすな!」

勇者「と、とりあえず今日はこの剣を返す」

ドスッ

勇者「……剣、ありがとよ。知らないうちにあんたには二度も助けられてたらしいな」

勇者「そうか。……あんただったんだなぁ」

妖使い「じゃ、俺の用件はそれだけさ。じゃあな」

勇者「そういやお前らこれからどうするんだ?行くあてあるのかよ」

妖使い「生まれてきた意味もなくなっちゃったからね、行くあてはないけど、まあ適当にブラブラするさ。そのうち『東の国』とやらも、本当に発見できるかもしれないし……ね」

勇者「この国にいりゃいいのに」

妖使い「真っ平御免だ」

妖使い「…………は~~~あ。全く、こんなの生き恥晒しだな。本当なら、君たちの願いを叶えるために、残った命を全部捨てるつもりだったのに」

妖使い「人の親切を無駄にしやがって」ジロ

勇者「お前、そんなこと企んでたのかよ。やめろよ目覚めが悪いだろ」

妖使い「本当によかったのかい。魔王が魔族のまま、君が人のままで?」

妖使い「それじゃ一緒に生きることができない」

勇者「俺は別に魔族になったってよかったんだけどな。魔王が……人のままでいてくれって言うから」

勇者「一緒に生きられないなんてことはないさ。同じ種族にならなくたって、何も心配いらないんだ、本当は」

勇者「俺が先に死ぬことになっても、あいつが先に死ぬことになっても、今一緒にいるってことは確かだからな」

勇者「それだけで、十分すぎるほどに幸せなんだ」

妖使い「そうか。お幸せにな。ペッ」

勇者「おい。唾吐くなよ。なんなんだお前」

妖使い「あーあーなんかイライラしてきた、俺たちの介添えなんてまるきり必要なかったってわけだな、オーケーオーケーじゃあなアディオス!二度と会うことはないだろう!」

勇者「妖使い!」

妖使い「何だよ」

勇者「お前さ、歴史を全部見てきたんだろ?また今度、先代勇者の話を聞かせてくれよ」

勇者「俺ちゃんと知りたいんだ。昔何が起こったのか、みんなどんな思いで戦ってたのか……それから、魔王にも話してあげたい。あいつの親のこと」

妖使い「二度と来ねーっつってんだろーが!!」

勇者「きっと長い話になるだろうから、1日じゃ全部話しきらないだろ。だから、何回もまた来いよ。な!」

妖使い「人の話聞けっつの!来ねーよバーカ!じゃあな!」

勇者「ああ、またな」

妖使い「………………またな。ペッ」

――――――――――――――――――――――――――

正午を過ぎて急に気温が上がったように感じる。

勇者は上着を脱いで、片方の肩にかけた。春の陽気に誘われて、油断すると生あくびが出てしまう。呑気なものだ。つい最近までこの世界は消滅しそうになっていたのに。

原っぱを歩いていると、やがて魔王の後ろ姿が見えてきた。珍しいことに、薄い桃色のカーディガンを肩に羽織っている。いつも彼女は公私問わず黒色系の服を好んで着ていた。譲って灰色。形から入るタイプなのだ。意外に短絡的思考。

こんないい天気の日には、さすがにあいつも浮かれるのかな。

ただ振り返った顔はいつも通りの仏頂面だった。

「ここの穴も消えている。もう完全に脅威は去ったと見ていいだろうな」

「影も消えてるし、全部……本当に全部、何から何まで、元通りだ」

勇者は頷いた。

「消された人も魔族も全員生存している」

ようやく確認がとれた、と魔王は疲労と安堵の混じったため息を吐いた。

「終わっちまうとあっけないな。なんだか全部、夢みたいだ」

「夢にしては長すぎる」

彼方に連なる稜線を、柔らかい日差しで照らしだす太陽に、おのずと彼のことを思い出した。華奢な肩に不相応なほど大きく真ん丸い頭が乗っかっていて、胴体には小枝みたいに細い手足がくっついている。その体のどこを見ても、嫌というほど「子ども」を主張してくるのに、目元だけは死にかけの老人みたいに暗く翳っていたあの少年。

でも別れ際には笑ってくれた。

勇者は生まれて初めて神に祈った。祈りを捧げたというより、エールを送ったという方が正しいかもしれない。

頑張って下さいよ、創世主様。俺たちずっとここで応援してますから。

隣にいる魔王もまた、遙か彼方を見るともなく眺めて、物思いにふけっている。

と、そのときどこからか風に乗ってきた白い花弁が、魔王の前髪に止まった。寄り目になっている彼女の代わりに、それを右手でとってやると、ちょっと恥ずかしそうに俯いた後、控えめににっこりした。

そうしたいと思ったので、勇者は魔王の肩を抱き寄せた。

途端に彼女は、勇者の第三ボタンから目が離せなくなったようで、頑として顔を上げない。髪から覗いている尖がった耳が、見ているこちらまで照れてしまうくらい、あっという間に赤く染まったので、勇者はなんというか、参ってしまった。不慣れではないが、かろうじてと言える程で、慣れているわけではない。

しかし十分幸福を感じる瞬間だった。二人はぎこちなくお互いの体温と鼓動を分け合った。

こんな時、詩人だったら、こう言うだろう。

『このまま時が止まればいいのに』。

彼らはそうは思わなかった。

そんなことは、ちっとも思わなかった。

参照元:https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1399715089/、https://septetgame.wixsite.com/ssoitokutoko/ss-3

ふつつかな悪女ではございますが ~雛宮蝶鼠とりかえ伝~: 1

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