名作・神スレ

【名作SS】勇者「世界崩壊待ったなし」

464 :◆TRhdaykzHI 2014/07/02(水) 21:43:13.12 ID:hfpVOjiho

忍「もう喋るの疲れちゃいましたよ」

魔女「うう 魔法が使えたら……」

忍「魔法なんて最初からなかった。みんな夢を見ていただけです」

妖使い「ドラゴンなんていない。魔女なんていない。姫なんていない。騎士なんていない」

妖使い「空なんてない。海なんてない。太陽なんてない。星なんてない。雪なんてない。森なんてない。月なんてない」

妖使い「勇者なんていない。魔王なんていない」

妖使い「剣なんてない。魔法なんてない」

妖使い「ハッピーエンドなんてない」

妖使い「全部、さいしょからなかった。こんなもの、なんにもならなかったよ」

鍵守「そんなことない……!!」

バリッ……

忍「……? あれ」

妖使い「体が……。へえ、何したんだ? 偽物のくせに……」

鍵守「ボクは確かに偽物だけど……でも、こんなのあの子がのぞんでないってことだけはわかる」

鍵守「みんなたって!はやく……月のトビラへ……」

鍵守「ボクも……ながくはこのふたりを、とめてられない……」

騎士「……! は、はい。魔女さん、姫様!しっかりしてください!」

竜人「鍵守さん……あなたは一体?」

鍵守「……はやくいって……」

465 :◆TRhdaykzHI 2014/07/02(水) 21:44:09.55 ID:hfpVOjiho

ギィィ…… バタン

鍵守「はあ……はあ……」

忍「うげげ、どうしよう若。みんな行っちゃいましたけど」

妖使い「行っちゃったね……やべーよ」

妖使い「でも驚いたな。君がわずかな時間だけでも俺たちの動きを止められたなんて」

鍵守「トビラのカギはもうかけたよ。もう、彼らのじゃまはさせない」

鍵守「もうやめようよ……こんなのだれものぞんでないよ……」

鍵守「かなしいよ……」

妖使い「でもそれが俺たちの存在意義だから」

忍「鍵ですか。ふーん。時間をかければ解錠できそうですね」

妖使い「すぐ取りかかろう」

妖使い「全く厄介なことしてくれるなぁ。妖孤、ちょっと出て来い」

妖孤「はい?」

妖使い「お前、ちょっと鍵穴に突っ込まれろ」

妖孤「久々にかける言葉がそれですか!?無理言わないでくださいよ~~~」

466 :◆TRhdaykzHI 2014/07/02(水) 21:46:03.33 ID:hfpVOjiho

* * *

少年「暇なら、その服どうにかしなよ。それ着てるだけでここらへんじゃ目立つ」

少年「それ売って、適当に服屋で買えば。じゃ僕は仕事に行くから……」

魔王(と言われて来てみたが……困った……)

魔王「頼む、私の服を返してくれ」

服屋「もうこの服は買い取ったんだ、返せないわ。
   銀のボタンがついた服なんて初めて見た。こりゃいい品だ」

服屋「金は渡したし、あなたが選んだ服はもう着てるじゃない。似合ってるけど?」

魔王「選んでない。君が勝手に押しつけて着せたんじゃないか……」

魔王「上はいいとして、なんだこれは。こんなものを着て外を歩けるか。これは服ではない。下着というものだ」

服屋「下着じゃないよ。ショートパンツっていうものだよ」

魔王「パンツじゃないか!」

服屋「ああもう面倒くさい。帰ってくれ。あざーした」

ペイッ

少年「ふう……やっと仕事が終わった……」スタスタ

少年「あれ?偶然だな。 ……ああ、服。そっちの方がやっぱ目立たなくていいよ」

魔王「よくない……」

少年「?」

少年「……で、あとこの街の何が聞きたいわけ。もうほとんど昨晩話したと思うけど」

魔王「そうだな…… む、このチラシは?」

467 :◆TRhdaykzHI 2014/07/02(水) 21:51:41.68 ID:hfpVOjiho

魔王「そういえばここらへんでたくさん見かける」

少年「ああ、これは最近噂になってる連続殺人犯の指名手配書。
    中央区で何人も残虐な方法で殺した殺人犯だ」

少年「警察に一度捕まったのに、護送中に逃げたんだって」

魔王「ここでは、警察というものが秩序維持組織なのだったな」

少年「そ。 にしても警察知らないって…… まあいいや」

少年「いろいろ教えるのも今日までだからな。終わったらどっか行けよ」

魔王「分かった」

少年「とりあえず、家に……」

ガシ

少年「……え?」

魔王「!」

男A「よォ~~~~お二人さん。この間はどうも」

男B「やぁっと見つけたぜ……」

少年「……おっ……お前ら」

男A「お前たちのおかげでえらい目にあったぜ……今日はその借り、返そうと思ってさ」

男B「ちょっと来いよ」グイ

魔王「離せ」

少年「やめろよ、離せよ」

468 :◆TRhdaykzHI 2014/07/02(水) 21:53:24.25 ID:hfpVOjiho

男A「なめた真似しやがって。今日はそうはいかねえぞ」

魔王「痛いぞ。離せ」

男A「そう言われて離す奴がいるかよ」

少年「……ん?」

少年「……お、おい。なんか、車が」

男B「ハッ、もうハッタリには騙されないぜ。パトカーが来たって注意を引くつもりなんだろ?
   ばーか、んな子ども騙しにひっかかハギュッ」

―――ドンッ!!!

男A「」

男B「」

少年「……!? だ、だれだ……?」

女「こんにちは」

少年「……ほんとにだれだ!?」

女「ああ、あなたはこの間店の前を通った子じゃない。私はあっちで花屋の売り子やってる者よ」

女「なんか……今轢いた? まあいいや。乗る?」

男A「ぐ、ぐぐ……て、てめえ……なにしやがる!」

女「どっちでもいいけど。大変そうなら乗せてあげてもいいよ」

469 :◆TRhdaykzHI 2014/07/02(水) 21:54:54.62 ID:hfpVOjiho

* * *

女「ここが私の家」

少年「随分店から離れてるんだな……」

女「うん、まあね。ここらへん、隣の家とも数キロ離れてるから寂しいよ。じゃ入れば」

魔王「広いな」

女「お茶いれるよ。ええっと、カップあるかな」

女「……見つからないや。グラスしかないみたい。水でいい?」

魔王「……?」

少年「別に、いいです。……その、すぐ帰ります」

女「さっきも言ったけど、またあの男二人組はあなたたちのこと狙うと思うよ。
  この家、広いし。しばらくここにいた方が賢明じゃない」

少年「でも僕は明日も仕事だし、帰らないと……」

女「命と仕事なら、命の方が大事なんじゃないのかな。分からないけど」

女「とにかくしばらく泊まっていけば? 私は構わないから」

470 :◆TRhdaykzHI 2014/07/02(水) 21:56:45.11 ID:hfpVOjiho

翌日

女「じゃ、私は出かけるから」

少年「ちょっと待ってってば……花屋に行くんだろ?僕も連れてってくれ。
   仕事に行かないと……クビになったらまずい……」

女「だめだよ。危ないでしょ。じゃあね」

ブロロロロ……

少年「なんて強引な人なんだ……」

魔王「でも、一日くらいなら仕事は休んでも平気なのではないか?」

少年「平気なわけないだろ……あのハゲジジイがなんて言うか……。
   僕みたいな子どもが働ける場所なんてそうそうないのに」

少年「クビになったらどうしよう……」

魔王「……この街では、君のような子どもが多いのか?」

少年「そりゃいるだろうさ。こんな街なんだから」

少年「あーもう……それに、家のことも心配だ。僕がいない間にまたあいつらが来たら」

魔王「確かにそうだな。私もずっとここにいるわけにもいかない。
    彼女が帰ってきたらもう一度頼みこんでみよう」

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471 :◆TRhdaykzHI 2014/07/02(水) 21:58:10.29 ID:hfpVOjiho

バシャバシャ

少年「はーっ……もう、なんなんだよ」

少年「このごろ変な奴ばっかり会うな……」

少年「あの男二人組にも目つけられたし……最悪だ……」

少年「ん?」

少年(これ……シェービングクリーム?あの女の人だけで住んでるんじゃなかったのか)

魔王「少年、これは一体なんだろう。鳴き声がするし、ぶるぶる震えているが、生き物なのか?」

少年「ハァ? そりゃ冷蔵庫だよ。生き物なわけないだろ……機械だ」

魔王「れいぞうこ? 象の仲間か?それにしては小さいが」

少年「だから生き物じゃないって。電気で中の物を冷やしてるんだ」

魔王「電気……雷で冷気をつくりだしているのか?それは一体どういう仕組みなのだ。
   こういったものは全て魔法ではなくカガクギジュツだと君は言ったが」

魔王「魔法なしでどうやってそんなことを実現させている?よく調べたいな……」

少年「だめだよ、あの人が冷蔵庫は開けるなって言ってただろ。
    それに人の家の冷蔵庫勝手に開けるのは失礼だ」

少年「あの人がテーブルの上に食べ物置いてってくれたから、食事はそれで済むし」

魔王「……でも開けたいな……」

少年「でもじゃねえよ。だめだってば」

472 :◆TRhdaykzHI 2014/07/02(水) 21:59:50.47 ID:hfpVOjiho

少年(……こんな具の入ったスープなんて初めて飲むな)

少年(うまい……じゃなくて)

少年「なあ、明日こそあっちに車で送ってってくれよ。帰りたいんだ」

女「うん。いいですよ」

女「あなたたちは姉弟? あんまり似てないのね」

魔王「君はここに一人で住んでいるのか?」

女「そうだよ」

少年(……?あれ? じゃあ昼見たあれは別れた恋人のとかかな)

魔王「昼に庭を見させてもらったのだが、かなり凝っているのだな。
    花屋で働いていると聞いたし、植物が好きなのか?」

女「別に好きじゃないよ。たまたまね」

女「スープおかわりする?まだあるよ。少年くん、いる?」

少年「あ……はい、じゃあ」

女「よそってくるね」

473 :◆TRhdaykzHI 2014/07/02(水) 22:00:54.02 ID:hfpVOjiho

キッチン

女「……?何、どうしたの?」

魔王「その……頼みがあるのだが」スタスタ

魔王「れいぞうこを見させてもらってもよいだろうか」

女「冷蔵庫?そんなもの見てどうするの?」

魔王「仕組みが気になる。中を見てみたいのだ」

女「仕組み……? うーん、よくわかんないけれど、中ごちゃごちゃしてるから
  見られるの恥ずかしいと思うの。だからだめ」

魔王「だ、だめか……どうしても?」

女「どうしてもよ」

魔王「………………どうしても?」

女「こんなに冷蔵庫に興味示す子初めてだな」

女「でも、だぁめ。絶対だよ。分かった?」

魔王「……ああ」シュン

474 :◆TRhdaykzHI 2014/07/02(水) 22:05:39.17 ID:hfpVOjiho

―――――――――――――
――――――――――
――――――

少年「……」スースー

魔王(……)パチ

魔王「ふ、ふわぁ……お手洗いはどこだっただろうか」

魔王「慣れない家だから迷ってしまった。うっかりキッチンに来てしまった」

ブゥゥゥゥン……

魔王「あっ……れいぞうこがまた鳴いてる。触ると暖かいし、本当にこれは生き物ではないのか?」

魔王「寝ぼけてて、自分が何をしているのか、わ、わからないな」

魔王「しまった。寝ぼけてれいぞうこを開けてしまった。でも寝ぼけてるから仕方ない……」

魔王(本当に冷たいだと……?どうなっている。食材が色々入っているな。……どこから冷気が?
    雷を冷気に変換しているのは一体どこなのだ?どんな方法で?魔法なしでどうやって?)

魔王(もっと奥を見たら何か分かるかな?)ゴソ

魔王(………………………………ん?)

魔王(え? これ……え?)

魔王(……ひとの…………うで……?)

女「なにをしているの?」

魔王「!!」ビク

475 :◆TRhdaykzHI 2014/07/02(水) 22:08:25.76 ID:hfpVOjiho

女「そんなに冷蔵庫が気になるの?変わった子ね」

魔王「す、すまない。寝ぼけて……どうやらトイレの扉と冷蔵庫の扉を間違えてしまったようだ」

女「どんな寝ぼけ方なの」

魔王「悪かった。もう寝ることにする、おやすみ」

女「ねえ」

女「なにか見た?」

魔王「寝ぼけていたので何も見えなかった。私は寝ぼけると一切何も見えなくなることで巷で有名なのだ」

女「そう。すごいね」

スタスタ

……バタン

女「………………」

476 :◆TRhdaykzHI 2014/07/02(水) 22:11:25.23 ID:hfpVOjiho
今日はここまでです
ショートパンツっていい名前ですよね

477 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/07/02(水) 23:14:36.76 ID:aFENF+IPo
女の子のパンツいいよね!

478 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/07/02(水) 23:49:30.83 ID:vYKJT7+20

479 :◆TRhdaykzHI 2014/07/12(土) 19:35:22.87 ID:D37hExuxo

魔王「少年少年少年少年少年っ 起きろ、起きろ起きろ」

少年「ん~~…… なんだよぉ……」

魔王「起きろ、今すぐここから逃げるぞ!」

少年「はぁ~~? 意味わかんねえよ……まだ夜だろ……」

魔王「いいから早くしろ!」

タッタッタッタ……

魔王「彼女は人殺しだ」

少年「お前、まぁた変なこと言って…… うぅっ寒い。夜は冷える……
    なあ戻ろうよ。こっから僕の住んでる家までどれだけあると思ってるんだよ」

少年「徒歩じゃ数時間かかるって……」

魔王「だめだ。とにかく、人のいるところまで行かないと」

少年「だから、それも遠いって。来る時見ただろ?ここらへんは店も家も何もない」

魔王「建物はあるではないか」

少年「でも人はいないよ。テーマパークの建設予定地だからさ……
   もうみんなどっか行った後。もうすぐ取り壊される予定の空き家だけしかない……」

少年「……寝ぼけて夢でも見たんだろ……どうせ」

魔王「夢ではない、確かに見た。れいぞうこの中に人の腕があったっ!
   男性の腕だった。多分、ほかの部位も奥に入っていたと思う。見れなかったが……」

少年「男性……? そういえば、あの人、一人で住んでるって言ってたけど、
   洗面台に髭剃り用のクリームが置いてあったんだ」

少年「何か事情があるのかなって思ったんだけど、もしかして……その男性があの家に元々住んでた?
   で、あの女の人が彼を殺して、成り変わったのか?」

少年「……でもなんで……そんなことを?」

魔王「少年、ひとつ聞きたい」

480 :◆TRhdaykzHI 2014/07/12(土) 19:36:13.62 ID:D37hExuxo

魔王「花屋であの女性が働き出したのは、いつなんだ」

少年「……え……いつって、はっきりわかんないけど……」

少年「……さ、最近だよ、たぶん。その前は……男の人が店員だった。
    すごい毛深くて、背が高い人……」

魔王「…………」

魔王「私が冷蔵庫で見た腕も、とても毛深かったな」

魔王「……彼女が逃亡したという連続殺人犯だろう。あそこに隠れ住んでいたのだ。
   しかし、手配書と顔が違うが、それは一体……?」

少年「……整形……とか?」

魔王「んん? それはつまり変身術みたいなものか?」

タッタッタッタ……

魔王「とにかく、警察に行こう。警察に……ハァ……ハア」

魔王「あとどれくらいだ……? 随分……走ったが」

少年「まだ半分くらいだ。でも、多分朝まで僕たちがいないことには気づかないんじゃないか」

少年「夜明けまで時間はまだまだある。余裕で警察署に……」

ブロロロロロ……

少年「けいさつ、しょに……いけるかなっておもったんだけど」

少年「車の音が後ろから聞こえるのは気のせいかな……気のせいだといいんだけど」

魔王「……残念ながら空耳ではない」

キキッ バタン

女「別れのあいさつもなく、ひどいじゃない」

女「そういうの、悲しいと思うよ。わかんないけど」

ゴトン

少年「な、なんだよそれ?」

481 :◆TRhdaykzHI 2014/07/12(土) 19:42:06.72 ID:D37hExuxo

女「……これ? チェーンソーって言う機械よ」

女「昔、木を切るのに使われてたの。でも、それ以外にも用途はあるのよ」

少年「……だ、誰にも言わないから……頼む」

女「死ぬのが怖いの? 生きてるのが楽しいの?」

女「いいね、感情があるって。私、分からないの。そういうの」

魔王「……人殺しなんて……何故そんなことをする?君が連続殺人犯か?」

女「そうでしょうね」

魔王「こんなことをして楽しいか」

女「楽しいわけないでしょ」

女「でも人を殺すときだけ私は人として何か感じられるんだ。
  ずっと静かだった水面に、その時だけ波紋が広がるの」

女「なんだろうね。罪悪感かな」

女「人をひどい方法で殺せば殺すほど、感じられるのも大きくなる」

女「だから、まず人の腕一本これで切るわ。そうすればほとんどの人は抵抗をやめるの。
  それからもう一本の腕は薄く輪切りにスライスしていきます」

女「足は桂剥きよ。皮膚はこっちのナイフで薄く切り取っていくの。筋肉は筋が切りづらいから専用のはさみで。
  そうやって肉全部切り落としたら骨はトンカチで砕くわ」

女「胴体は腹を開けて中をぐちゃぐちゃに混ぜてしまうわね。頭は……」

魔王「やめろ!! そういうことを言うのは本当にやめろ」ペタン

少年「な、なに座りこんでるんだよ……!逃げないと……っ」

魔王「体に力が入らないだと? 状態異常の魔法か?」

少年「お前の腰が抜けただけだろ!!」

カチッ ギャリリリリリリリ

女「チェーンソーって、四肢を切断できるのもいいけど、この大きさと喧しさがいいと思うわ。
  見た人全員、いまのあなたたちのような顔をするんだから」

魔王「…………上等だ。貴様ごときに私が殺せると思っているのか?めでたい頭だな。
   返り討ちにしてくれる。かかってこい!!」

少年「だからなんでお前はそういうこと言っちゃうの馬鹿なの?勝算ゼロだよ、絶望的だよ」

魔王「……こういうのは……どんなに勝ち目がなくても心意気で負けてはいかんのだ!」

魔王「少年。逃げろ。走れ。ここで私があいつを引きとめる」

少年「はあ!?無理に決まってんだろ、うすうす気づいてたけどお前全然運動能力ないし……」

魔王「う、うるさい!逃げろと言っているのが聞こえないのか、さっさとしろ」

少年「でも……」

魔王「早くしろ!!私にまかせろと言っている!!イエスかはいで返事しろ!!」

少年「うっ……は……はい……っ」タッ

482 :◆TRhdaykzHI 2014/07/12(土) 19:44:14.90 ID:D37hExuxo

女「逃げたわ。まあ、どっちでもいいのよ」

女「じゃあ殺されてね。これが私の生きがいだから仕方ないの」

女「できるだけ悪く思って。憎んで悲しんで。それが大きければ大きいほど……私も辛いわ」

女「辛い、苦しいっていう感情をその時だけ持てるの。自分が無機物じゃない、人だって実感できるんだ」

スタスタ

魔王「……狂ってる」

魔王「貴様の感情のために差しだせる命など、一つたりとも持ち合わせていない!」

* * *

シスター「……ん?おかしいな。この時間、少年は仕事を終えて帰宅しているはずなんだがな」

勇者「ここがその少年の家? でかいな」

シスター「全部が全部そうじゃない。この扉がその少年の家。アパートっつーんだ」

シスター「どこかに出かけてるのかもしれねー。また明日来よう」

勇者「仕方ないか」

シスター「ここらへんには、近いうちに遊園地ができるそうだ」

シスター「お前に潰すよう頼んだ会社の社長がそれを企画した」

勇者「家を壊して遊園地? ……俺にはあんまりこの街の考え方は理解できないな」

シスター「あの少年の家もそのうち壊されてしまう」

シスター「……一度ね……たまたま会ったときに、教会に来ればって彼に言ったんだけど断られたんだ」

シスター「……彼には妹がいた。病気だった。
     その女の子のために彼は必死に働いて薬を買ってたんだけど」

シスター「その子は……薬で治る病気じゃなかったよ」

シスター「私は昔からそういうの分かるんだ」

483 :◆TRhdaykzHI 2014/07/12(土) 19:45:08.66 ID:D37hExuxo

シスター「兄の方にも妹の方にも言えなかった……」

シスター「言えなかったよ」

シスター「全くさぁ……。ところでお前は少年の知り合いか?探してる人物が少年だって言ってたけど」

勇者「まぁ、知り合いというかそうじゃないと言うか……」

勇者「とにかく会いたいんだ」

シスター「ふうん。まあいいけど」

勇者「それにしてもこっちの服は動きづらいな。なんかギシギシする」

シスター「与えてやったんだから四の五の言わない。つーか動きづらいのは手錠のせいじゃねーのか」

勇者「一理ある。くそっ!いつまでこれつけてりゃいいんだよ!!」

ファンファンファンファン

勇者「はっ……!?」

警官「見つけたぞ!!この間の銃刀法違反野郎!!今日は逃がさねえからな!!!」

シスター「まずいな。私はサツに見つかると色々いやだ。逃げさせてもらう」

シスター「囮になれ」ドン

勇者「おいっ!!!」

484 :◆TRhdaykzHI 2014/07/12(土) 19:49:26.81 ID:D37hExuxo

強盗団A「おい……見たか今の?あのボロアパートから去ってった男」

強盗団B「見た見た。すっごい宝石埋め込まれた剣持ってた」

A「ありゃ相当な値打ちものだ。服装は金持ちにゃ見えないが、
  何らかの事情があって身を隠してるんだろうさ」

B「あそこがあの男の家なのかな?行ってみようよ。いいのが見つかるかも」

A「鍵かかってるが、開けられそうか?」

B「こんなの、ちょろいちょろい」ガチャ

A「んん……?中もボロいな。ベッドとテーブルと……必要最低限のもんしかない」

B「お宝は隠されてるものだよ。戸棚とかクローゼットとか開けよう」

A「……うーん。しばらく探してみたが、僅かばかりの金しかないぞ」

B「大金は自分で持ち歩いてるのかもね。 あれ?この箱なんだろ。オモチャの箱」

A「なんじゃこりゃ、俺のピッキングスキルをもってしても開かねえぞ」

B「も、もしかして、オモチャの箱に入れることでカモフラージュしてるのかな。
  中に入ってる宝石とか宝石とか宝石とかを……!?」

A「おう、その可能性は大いにあるな!この箱だけ持ってこうぜ、アジトの専門の器具使えば開けられるだろ。
  こんなはした金は置いてっちまおう。とったって仕方ねーや」

B「FOOOOO 宝石宝石!お頭もびっくらどんだ!驚くぞー!」

485 :◆TRhdaykzHI 2014/07/12(土) 19:50:44.66 ID:D37hExuxo

強盗団アジト

A「あ? なんだこの女?アジトの前に倒れてるが何者だ?」

B「気絶してるみたい……とにかくお頭に伝えてこよう」

―――――――――――――――――
―――――――――――――
――――――――

姫「うぅ~~ん…… ん?どこかしら、ここ?」

姫「確か妖使いさんと忍さんが創世主側で……でもなんとか扉を抜けたのよね」

がやがや がやがや がはははは

姫(……お店?私が横になっていたのはソファだわ。知り合いは……誰もいないわね)

頭領「ああ、目が覚めたか?」

姫「あ、あなた誰ですか?」

頭領「それはこっちが聞きたいね。でも先に聞かれたからにゃ答えよう。
   俺はこの強盗団のリーダーだ」

姫「ご……ご、強盗団!?」

頭領「ここは俺たちがアジトにしてる地下の店だ。あんたは店の入り口に倒れてた。
   随分いい身なりをしているようだが何者だ?」

頭領「答えようによっちゃあ、ここからあんたをお家に帰してやることもできなくなってしまうわけだが」

姫「わ、私は何も知らないわ。店の入り口で倒れていたというのも偶然よ」

頭領「ふーん……。お家は中央区か?」

姫「?? どこ?それ。知らないわ」

頭領「しらばっくれるか。そんな高そうなドレス着れる奴が中央区以外にいるかよ」

頭領「まあいいさ。あんたにはこの強盗団の一員になってもらうぜ。
   アジトの場所も、俺たちの正体も知られちまったからな」

姫「な……なんですって!?嫌よ!!私に犯罪の片棒をかつげというの!?ふざけないでちょうだい。
  アジトの場所も、正体も、あなたがベラベラ勝手にしゃべったんじゃないの!!」

頭領「あんたが聞いたんだろ?」

姫「聞かれたからって正直に答える犯罪者がどこにいるの!ごまかしなさいよ!
  とにかく私は絶対に強盗だなんて卑劣な真似はしないわ!!出て行きます」

頭領「待て待て」チャ

姫「何です?それは。 随分堅そうなチョコレートね」

頭領「銃をチョコだなんて言うなんて、肝の据わったお嬢ちゃんだ。
   気の強い女は嫌いじゃない」

486 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/07/12(土) 19:54:44.53 ID:wvMxAxSR0
おいついた。原作版ループみたいだな

487 :◆TRhdaykzHI 2014/07/12(土) 19:56:19.32 ID:D37hExuxo

頭領「一歩でも動けば頭に風穴が開いちまうかもしれないな」

姫「……!? 武器?」

頭領「銃も見たことないのか。こりゃ筋金箱入り娘だ。とにかく俺たちの仲間になれ」

頭領「むさい男が多くてな、前々から俺はもっと女を仲間に入れたかった。歓迎するぜ。
   とくにあんたみたいないい体してる女をな」

姫「じろじろ見ないで。気色悪いわ」

頭領「やっぱり女は出るとこ出てないと魅力半減だな。あんたはその点目の保養になる。
   この間、あんたみたいに仲間になった女がいるが、俺からするとあんなまな板……」

ガシ

頭領「ん?」

ドゴッ!!!!!!

魔女「まな板?あの調理道具がどうしたの?何の話?」

魔女「ところで話は変わるけどさー、女の子の魅力を胸とかで判断する男ってさー、
   じゃあてめえの股についてるもんはどんだけ立派なのか見せてみろって感じだよね」

魔女「ていうか最低だし、万死に値するし、私刑に処せられても文句言える立場じゃないよねー」

姫「あ、ええ!? 魔女さん!?どうしてここに!?」

魔女「姫様久しぶり!強盗団のリーダーの魔女ちゃんだよ!」

頭領「お前、躊躇なく俺の頭をテーブルに叩きつけた上に、ちゃっかりリーダーの座を奪うんじゃないよ」

魔女「お頭の頭をテーブルに……ってちょっと洒落みたいでおもしろいね」

頭領「この俺の血まみれの頭部を見ても、おもしろいって思えんのか? 悪魔か お前は」

488 :◆TRhdaykzHI 2014/07/12(土) 20:03:00.61 ID:D37hExuxo

A「ひえ~ お頭大丈夫か?魔女ちゃん相変わらず過激だな」

B「お頭の頭部なんてどうでもいいから、早くこの箱の鍵開けましょ。よそ見しないで」

頭領「オイ。てめーらも聞かない奴だな」ゴッ

A「いたーっ!!」

頭領「そりゃ貧困区のボロアパートから盗んできたって言ったよな。ふざけんな。返してこい。
   俺たちが盗るのは金持ちからだけだ。忘れたのか?死ぬか? ええ?」

B「違うんだってお頭!絶対あそこに住んでるあの男、金持ちだもん!訳ありであそこにいるだけ!」

B「しっかし、あれからずっと頑張ってるのに全然開かないわね、これ。
  オモチャだから簡単な仕組みのはずなのに変だなぁ」

姫「魔女さん、あなたどうして強盗団のメンバーになってしまったの!?」

魔女「だって姫様と同じようにメンバーになるよう脅されたんだもん。
    それになんか……楽しそうじゃん!」

姫「た、楽しそうって……ああ私あなたみたいに一度生きてみたいわ」

魔女「大丈夫、強盗って言ってもこの人たちそんなに悪い奴らじゃないよ。
   この街はどうやら私たちのいた世界と全然違うみたいなんだ」

魔女「下手に動くよりこっちの方が都合よくない?寄らば大樹の陰ってね」

魔女「強盗にいいも悪いもないです!犯罪よ!」

魔女「お金持ちからだけ盗むと言ったわね…… 義賊のつもりなのかしら?」

頭領「違うね。俺たちは貧乏人のためにやってるのでも、金のためにやってるのでもない」

頭領「ロマンのためだ」

姫「……」

魔女「ね?ほら、楽しそうでしょ?馬鹿みたいで」

姫「ええ、そうね……馬鹿みたいだわ」

強盗団「お頭ー、馬鹿みたいって言われてますよ ハハハ」

頭領「言われてるな。ハハハ」カチ

――ダァン!!

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489 :◆TRhdaykzHI 2014/07/12(土) 20:04:34.24 ID:D37hExuxo

姫「……? ええっ? か、壁に穴が……!!一体なんなのそのジュウシマツとか言うのは?」

頭領「ジュウシマツはかわいいよな。俺も飼いたいとは思ってる。
   でもやっぱまずはオカメインコからかなって……」

強盗団「お頭、話ずれてます。ジュウシマツじゃなくて、銃だぜ。お嬢ちゃん」

頭領「そう、これが銃。あんたにも扱いを覚えてもらうよ」

頭領「馬鹿みたいって言うが、馬鹿でいいんだ。俺たちは馬鹿やりたいだけなんだ」

頭領「この世界には夢がない。ロマンがない。
   なあ知ってるか、昔はどこぞの大陸に黄金が埋まってるとか、だれだれが残した財宝があるとか」

頭領「そんな情報ひとつで大勢の人間が身一つで動いたんだ。
   今はない海を渡って遠く離れた地へ、全てを捨てて、あるかどうかも分からん宝を求めてな」

頭領「昔は科学技術なんてなくて、医療も全然発達してなくて、それに比べりゃ今の世の中は天国なのかもしれない。
   でも、昔はそのかわり夢があった」

頭領「ないかもしれない宝を追い求められる、馬鹿やれるパワーがあった」

頭領「俺たちはそれをやりたいだけだ。
    目死んだまま手近にある金のために働いて生きるなら、夢追ってどこかでぽっくり死にたいね」

姫「……」

頭領「で、どうだいお嬢ちゃん。あんたはどうする。今だけ出口の扉を開いてやろう」

頭領「出て行きたいなら今しかない。俺たちに加わるってんなら、名乗りな」

姫「…………」

姫「……私は犯罪を肯定するわけではないわ」

姫「姫よ」

頭領「歓迎しよう」

490 :◆TRhdaykzHI 2014/07/12(土) 20:08:51.42 ID:D37hExuxo

―――――――――――――――――
――――――――――――
――――――

姫「でも、早く勇者と魔王さんを探さなければね。魔女さん、手がかりは見つけた?」

魔女「ううん。外でて探してみてるけど、全然」

姫「困ったわね」

魔女「でも、私と同じところに姫様が現れたってことは、きっとみんな近くにいるんじゃないかなー」

強盗団「魔女はその子のことヒメ様って呼ぶけど、変わった名前だな」

強盗団「馬鹿、ヒメっていうのは昔いた偉い人だよ。オウサマの娘さんだろ」

姫「昔、いた……? どういうことですの。今はもういないのですか?」

魔女「今はいないんだってさ。びっくりだよね」

姫「いない!? じゃ、じゃあ……王族が国を治めないで、どなたが政治を行うの!?」

魔女「国民から人気投票で選ばれた人が、だいとーりょーになって政治やるんだってさー」

頭領「王政なんて何百年も昔に終わった。今じゃどこの国も共和制だが」

姫「きょうわ制って何!?だいとーりょーって何!!どういうこと!?」

頭領「落ち着け。こわい」

頭領「……というわけだ。政治の主役は国民。国民主権だ。
   大統領とは別に、国民から選ばれた代表者もいて、そいつらが議会つくって会議で法律やら何やら整備してる」

姫「……」フラッ

魔女「姫様はねー、本当の姫様だから、ちょっとショッキングだろうね」

頭領「本当の姫様って……んなわけないだろ。そういうごっこ遊びか?」

姫「し、信じられないわ。つまり、誰でも政治を行うことができると?
  王家に生まれた者ではなく、というかもう王家そのものが存在しない?」

姫「王制の次に来る共和制……議会……国民主権……いずれ私たちの世界もそうなるのかしら」

姫「私が王族ではなく、普通の人間……に」

491 :◆TRhdaykzHI 2014/07/12(土) 20:13:11.49 ID:D37hExuxo

姫「……」

魔女「姫様ー、灯り消すよ? もう寝ようよ、ねむーい」

姫「……あ、はい」

パチ

魔女「どうしたの?昼から何か考えてるけど。やっぱ王家なくなるのショック?
   別にさ、あたしたちの世界までそうなるとは限らないじゃん。気にすることないよ」

姫「……あ、ええ……そうですね。……でも、私が考えていたのは……少し違うの」

姫「……も、もし……もしですよ?もし私が王族でなかったら……その~、
  魔族の男性の方とも、お、お付き合いできるのかな~って……」

魔女「別に今のまま、姫のままでも遊びならいいんじゃない?付き合うのは無理かもしれないけど。姫様かわいいし」

姫「あ、遊びって何です。そんなのできません。ややややっぱり正式にお付き合いしませんとそういうものはっ」

魔女「えーー、ごめん、そんな本気だったんだ。じゃあやめた方がいいよ。
   あいつの性格からして王家の女の子とは絶対付き合わないよ。駆け落ちなんて絶対しない」

魔女「ていうかマジ!? あんなののどこがいいの? 姫様……あいつ5枚くらい猫かぶってるんだよ?
    けっこう昔は荒んでたよ!?元ヤンだよ、あれ!!騙されちゃだめだよ!!」

姫「それは見ててうすうす分かりますね」

姫「で、でもでもお優しいですし……仕事熱心ですし、色々できてすごいなって思うし」

魔女「……姫様はさ~、せっかく王族っていうすごい一族に生まれたんだから、
   今持ってるものを大事にした方がいいよー。ずっと不自由なく暮らしてきたんでしょ?」

魔女「魔族の男なんかと噂が流れたら色々とマズイんじゃないの?
   ちゃんと人間の貴族を好きになって結婚した方がいいって。それでずっと幸せだから」

姫「な……確かに私は衣食住に困ることなく暮らしてきましたが……!
  でも、私にとって幸せが何なのかは私が決めることです」

姫「そんな風に王家の者全て、何も悩むことなく幸せだなんて決めつけられるのは、少々心外ですわ」

魔女「むかっ。あたしは姫様のためを思って言ったんだけど!」

492 :◆TRhdaykzHI 2014/07/12(土) 20:18:24.58 ID:D37hExuxo

姫「ずっとずっと、父の期待や国民の期待通りに生きてきたのよ。
  枠から外れることなく、きちんとした一国の姫として」

姫「……い、一度くらい、私だって……私の思い通りにしてみたいって考えるのはいけないことなの?」

魔女「ていうか国王はなんて言ってるわけ?」

姫「お兄様は……好きにしたらいいと仰ってたわ。
  自分が昔やりたい放題やったから、とやかく言える立場ではないと」

魔女「だからって一時の、たかが恋ひとつで全部捨てるつもり?……はあーあ、ばっかじゃないの?」

姫「な!なんですって!」

魔女「姫様って誰にも嫌われたことないでしょ。国の王女として誰からも好かれて、
   いつもあったかい部屋で寝られて、おいしいご飯が食べられて……」

魔女「家族がいて、かわいい洋服着れて、何でも欲しいもの手に入れられて」

魔女「あたしが持ってないもの全部姫様は持ってたのに、それを捨てるなんてあり得ない」

魔女「ずっと羨ましかったなー。苦労しないで、何もしなくても好かれてさ。
    みんなの期待通りに生きてきたって言うけど、生きられるだけマシじゃん!」

姫「な、なによ!それなら私だって魔女さんのことが羨ましかったわ!
  いつも好きなことやって、誰にも縛られずに楽しそうで!何にも気にしないで……!」

魔女「なにそれ!姫様にあたしの何が分かるの!?」

姫「魔女さんに私の何が分かると言うの!?」

魔女「はああ? もう怒った!怒っちゃったもんね!じゃあ言っちゃうもんね!」

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493 :◆TRhdaykzHI 2014/07/12(土) 20:21:03.21 ID:D37hExuxo

魔女「どうせ姫様一目ぼれなんでしょ?」

魔女「優しいって言ってたけど、それって本当だったのかな?」

魔女「君は姫なんだよ。魔族にとってその立場が大事だったの」

姫「……!」

魔女「敵だった国王の娘で、探さなくちゃいけない王子の妹で、王族で、重要人物だったんだから」

姫「……」

魔女「……私もからかったりして悪かったよ。
   でも姫様が王族の立場まで悩みだすほど本気だなんて思ってなかったから」

魔女「まあ、人間にいい男いっぱいいるじゃん!お金持ちで優しくてイケメンよりどりみどりだよ」

魔女「ね、だから元気だしなよ」

494 :◆TRhdaykzHI 2014/07/12(土) 20:22:03.55 ID:D37hExuxo

姫「…………~~もう寝ます!おやすみなさい!!」プイ

魔女「ちょっと、話はまだ」

姫「寝ます!」

魔女「……なによっ!あたしは君のために言ったのに!ばか!
   姫様のばーかばーか!ばーか!もう知らないもんねーだ!」

姫「私だって魔女さんのことなんかもう知りません!魔女さんのばかっ!」

翌日

姫「……」プイ

魔女「……」プイ

B「……?」

A「なになに?喧嘩?」

頭領「おいおい、昨日まであんなに仲良かったのにどうした?」

姫「仲良くなんてありません」

魔女「お頭の目って昨日まで節穴だったんじゃないの?」

頭領「まじかよ……眼科行かなくちゃな」

頭領「とまあ冗談はここらへんにして。喧嘩はいいが計画に支障は来たすなよ。
   チームの連携が大事なんだからな」

姫「……一体何をするつもりですの?」

頭領「次はかなりの大仕事だぜ」

頭領「……列車強盗だ」

495 :◆TRhdaykzHI 2014/07/12(土) 20:22:45.12 ID:D37hExuxo

* * *

騎士「はぁ~……」

騎士「どこだ、ここ……」

騎士「ずっと歩いてるけど、勇者さんと魔王さんどころか、
   一緒に扉を抜けたはずの3人も見つからない」

騎士「おまけに……」

ヒソヒソ……ヒソヒソ

騎士(めちゃくちゃ見られてる……あああ……)

騎士(さすがに目立ちすぎたから、甲冑は脱いでどっかのベンチに置いてきたんだけど……
    それでも色々やっぱりほかの人たちと違うな)

騎士(剣も捨てられないし、ていうか捨てたら騎士として何かが終わりそうな気がするし)

騎士(困ったな……)

騎士(……ん?あれって…… もしかして竜人さん!?)

496 :◆TRhdaykzHI 2014/07/12(土) 20:26:32.64 ID:D37hExuxo

ドン

竜人「あ、すみません」

チンピラ1「おうおういてーな兄ちゃん。骨折れちまったよ」

チンピラ2「新聞なんて読んで歩いてっからだよ、あぶねーだろーが!!
       どうすんだオイ、親分の腕が折れちまっただろーが、治療費払えよ!」

チンピラ1「治療費3000万払えよ」

竜人「え……!?この街の人は少しぶつかっただけで骨折してしまうのですか!?
    骨密度大丈夫ですか? ちょっと失礼」グイ

竜人「……?骨折したにしては腫れもないし……というか掴んでも痛がりませんね。本当に骨折ですか?」

チンピラ3「ごちゃごちゃうるっせぇんだよ!お前、この方を誰と心得る?
       ここら一帯を仕切るマッフィーアのそれなりの地位にいる方だぜ?」

チンピラ4「この方怒らせると怖いぜぇ。痛い目見たくなけりゃ治療費払いやがれ」

竜人「生憎金は持ち合わせていないのですが。そもそも骨折してませんよね……」

チンピラ5「げははは、中央区と一般区どっちから来たのか知らねえが、ここらへんのルールを教えてやるよ」

チンピラ1「俺が骨折したと言えばしてるんだ。どうやら、お前さんは頭の回転が悪いようだな。
       おい、お前ら。そこの路地に兄ちゃんを案内してやれ。サツに見つかると面倒だからな」

チンピラ1「最近こっちに来たあの警官、やたらと仕事熱心で困るぜ」

チンピラ2「おらっ こっち来い!!」

竜人「ちょっ……なんですか、金なら無いと…… やめっ……」

ドカッ! バキッ! ドスッ! ゴキッ!! ボグッ ボキギッ!! ドゴッ!

497 :◆TRhdaykzHI 2014/07/12(土) 20:29:20.37 ID:D37hExuxo

路地裏

竜人「火」

チンピラ3「はいっ!!!」シュボ

竜人「…………」スパー

チンピラ1「あ、あのう……」

竜人「服」

チンピラ1「へっ……ふ、服…………?」

竜人「お前の服よこせ」

チンピラ1「はい!!今脱ぎます!! ではここに置いておきますので!」

チンピラ5「……俺たちは、じゃあ、ここで……し、失礼しても……」

竜人「有り金全部置いてけ」

チンピラ3「では、さ、財布をここに…………」

竜人「……」

竜人「ふざけてんのか?」ガッ

チンピラ4「ヒィィ!」

竜人「誰がこんな紙切れよこせと言った」

チンピラ4「えっ で、でもっ それが持ってる金全部だ!本当だ!嘘じゃない!!」

チンピラ1「もう許してくれ!悪かった!!金なら全部渡した……!」

竜人「本当だろうな」

チンピラ1「本当だ、信じてくれぇ」

竜人「……チッ……行け」

チンピラ1「ありがとうございますっ!!」ダッ

竜人(こんな紙が金……?)

竜人「……変わった世界だな」

竜人「…………」スパー

騎士「…………」ガクガク

竜人「ふぉあッ!?!?」

498 :◆TRhdaykzHI 2014/07/12(土) 20:35:45.20 ID:D37hExuxo

竜人「き、き、騎士さん!? あ、あれっ偶然ですね!よかった、探していたんですよ」

竜人「いやですね、いたのなら声をかけてくれればよかったのに!
   いつからいらっしゃったんですか?」

騎士「す、すみません……助太刀に参ろうとすぐ駈けつけたのですが……」ガクガク

騎士「……お、お煙草……吸われるんですね……」

竜人「ああいえ、違います!昔ちょっとやってたので、懐かしいなぁと思っただけで!
   すみません今消すので。ハハハハ」ザリザリ

竜人「あ……!騎士さんの分の服も頂けばよかったですね。
   私たちの格好だと、こちらでは目立ちますから」

騎士「だ、大丈夫です。お気づかいなく……」ブルブル

竜人「……しかし、騎士さんに会えたのは幸運でしたが、
   一体ほかの方はどちらにいらっしゃるのでしょうかね」

竜人「魔王様はともかく、あの勇者様なら、どこかで大騒ぎを起こしているだろうと思って
    新聞を見ていたのですが記事になっていないようです。とても意外です」

騎士「確かに……勇者さん調子悪いんですかね。あんないつもトラブルの中心にいるような人が」

竜人「まあ、地道に探すしかないようですね。
   もう夜になりますし、どこかに宿をとりましょう。金ならさきほど頂きました」

騎士「そ、そうですね。しごく穏便に、平和的手段で頂いていましたね。では行きましょう」

騎士(ヤベーーーーーーーこっえーーーーーーーーーー)

騎士(早く誰かと合流してえーーーーーーーー誰でもいいから合流してえーーーーーー)

499 :◆TRhdaykzHI 2014/07/12(土) 20:43:25.72 ID:D37hExuxo

* * *

勇者「ハァ……はあ……やっと撒いたか……」

勇者「くっそー なんで今日は剣持ってないのに追いかけまわされなきゃなんないんだ。
   完全に顔覚えられた、厄介だ」

勇者「まあいいや、また見つからないうちにかえろ」

勇者「……」

勇者「どこだ、ここ!!」

勇者「あ、あれっ!? そういえば全然人がいない。なんだここ……」

勇者「まずい帰り道が分からん!!教会どこだっけ!うおおおおお!」

少年「はあ……はあ……はあっ  だ、誰か……!」

勇者「あ、おーい!そこの子ども!道に迷っちゃってさ、ここどこか教えてくれないか」

勇者「教会に帰りたいんだけど」

少年「……助けて……!」ガシ

勇者「お、おい?どうした?」

少年「向こうに!あっちに殺人鬼が……!いっしょにいた変な奴が逃げろって!
   でもあいつも逃げなくちゃいけないからっ!た、頼む助けて……」

少年「……たすけてやってくれよ……!!」

500 :◆TRhdaykzHI 2014/07/12(土) 20:45:12.84 ID:D37hExuxo

* * *

空き家

ズガッ!!

魔王「っ……!」

女「あれ。もう終わり?もういいの?諦めついた?」

魔王「貴様は、本当に何人も殺してきたのか」

女「そうだよ」

女「じゃあ、腕抑えるよ。右からもらう」

魔王「……何故?何故こんなことをするんだ」

魔王「君は人間で……私も人間なのに」

魔王「魔族ではないのに……」

女「……?そりゃそうでしょ。人間でしょうね」

女「別に何だっていいの。生きてればなんでも」

女「人間だろうが悪魔だろうが神だろうが、なんだっていいのよ」

魔王「……あ……はは」

女「? こんな状況で笑ったの、あなたが初めて。
  どうして?普通、こういうときには怖いって思うものじゃないの」

女「殺されるのが嬉しいの?死にたかったの?」

魔王「そんなわけ、あるかっ」タッ

女「逃げないで。教えて」グイ

ダンッ!!

魔王「っう……!」

女「腕切ってからじっくり聞こうかな。そうした方が素直に教えてくれますよね」スッ

勇者「!」

勇者「いたっ! おいお前っやめろ!!」

女「ん?」

勇者「おりゃああああ!」

バキッ

女「あ……あのチェーンソー高いのに。吹っ飛ばしてくれちゃって」

501 :◆TRhdaykzHI 2014/07/12(土) 20:47:26.25 ID:D37hExuxo

勇者「……!? 魔王!? な……なにしてんだ!」

魔王「勇者くん……。見てのとおり殺されかけていた」

勇者「そりゃ見れば分かる!なんでお前が殺されかけてるんだ!」

女「ねえ、どいてくれる?私はその子に聞きたいことがあるの」

勇者「それはできない。お前は何者だ?」

女「何者か?私が聞きたい。私は何なの?人間なの?」

女「どきなさい」チャキ

勇者「できないっつったろ」

女「なめないことね」

ヒュッ…… ガキン!

女「手錠で戦うつもり?」

勇者「今お前が断ち切ってくれたらよかったんだけど、なっ!」ブン

女「そうだね、これならそれもできるかもよ」ビッ

ギュイィィィィン

勇者「あっ また…… つーか何だそれ!うるせえ」

女「いいでしょ」

―――バキバキバキバキッ!!

勇者「あぁっ!? 女なのになんて破壊力だ」

勇者「だが隙が多いっ!なめんなオラァァ」ガッ

女「!」グルッ

ガッシャーン!!

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502 :◆TRhdaykzHI 2014/07/12(土) 20:49:57.28 ID:D37hExuxo

魔王「やったか……?」

勇者「身柄を拘束してくる。下がっとけ」

魔王「勇者くん、彼女は何人も殺してきた殺人鬼だ。男性も殺している。油断はしない方がいい」

勇者「分かってる」

女「……」ムク

女「……ん」フラッ

女「……」

勇者「大人しくしてろ。今…… ん?」

勇者「……この音……もしや、クルマとかいう」

―――ドォン!! バキャァッ!

魔王「わっ!」

勇者「何だ何だ!? クルマが壁突き破ってきやがった……ってこれは!!」

警官「……後輩よ。俺はあの銃刀法違反野郎を追えと言ったが、壁をぶち破れとは言ってない。
   エアバック作動しちまったじゃねえかよ」

後輩「うっかり」

警官「まあいい!!そこのお前、手を上げろ!!両手を上げたまま跪け!!抵抗すれば撃ーつ!!!」

勇者「やっぱりお前らかよ!俺捕えるよりそこの連続殺人犯を捕えろ!!その女――あっ逃げやがったアイツ」

警官「ん!?彼女が連続殺人犯なわけねえだろ、顔が違う!怪我をしていたじゃないか、傷害罪も追加だああ!!
   後輩、彼女を追え!保護しろ!!」

後輩「いえっさ」

勇者「ちがーう!いや……たしかにあいつ手配書と顔が違うけど!でもこいつが殺されかけたんだ!」

警官「詳しい話は署で聞く!!パトカーに乗れーい!!」

503 :◆TRhdaykzHI 2014/07/12(土) 20:52:34.37 ID:D37hExuxo

* * *

プルルルル ガチャ

社長「なに?ガキが不在だと?探せ。もう工事の着工は目前だぞ」

社長「まあ不在なら不在で、家の権利を捨ててどっかに行ったのかもしれん。
   それならそれで構わない」

社長「もし工事が始まってから、ガキが現れたら……不慮の事故ってことで」

社長「どうせ貧困区のスラム街に住むガキ一人、もみ消すのは容易い。ああ、やれ」

* * *

警察署

後輩「というわけで家からは切断された遺体と凶器が見つかりました。
   さらにあの俺が半壊させた空き家に残っていた血液と、連続殺人犯の血液が検査の結果一致しました」

後輩「ここいらに潜伏していると見て間違いないということで、すぐ捜査本部が設置されるそうです」

勇者「じゃお前らも早く捜査に加われよ、俺なんかに関わってないで。
   俺はいつまでここにいればいいんだ?もう3日になるぞ!」

後輩「それはですね、先輩が捜査員に入れてもらえなかったからです。
    だから君の取り調べしかすることないんです」

警官「そうなんだ、俺が前にヘマしたから捜査に加えてもらえず、妻と子にも逃げられたんだ……ってやかましいわボケ!!
    つーかテメエ何だ?あの怪しげなイカレシスターの元にいたらしいじゃねえか?」

警官「大体身分証明書がないってどういうこった!!」

警官「絶対余罪あるだろ!!あんな大きい剣持ってたくらいだからなぁ、何やらかそうとしてたんだ!?ええ!?」

勇者「あーあーうるせー!余罪なんかねえよ!魔王と少年はどうした?どこにいる?」

警官「マオウ?ああ あのお嬢ちゃんか?変わった名前だな。少年もお嬢ちゃんも家に帰したが」

勇者「じゃあ俺も帰せよ!!!??」

警官「お前は犯罪者だろうが。身分証明もできてねーし帰せねえよ」

ガチャン

勇者「くっそがあ! ハッ、俺が何もせずここで捕えられてるとでも思ったか。
   こちとら牢屋に入れられるのも二度目だ 馬鹿め!!慣れてんだよ!!」

勇者「絶対プリズンブレイクしてやるからな見とけ!妻子に逃げられた不甲斐ないオッサンめ!!」ガチャガチャ

警官「聞こえてんだよ、死ぬかテメー」

504 :◆TRhdaykzHI 2014/07/12(土) 20:54:24.69 ID:D37hExuxo
今日はここまでです お久しぶりでした

>>486
「ループ」ていう作品があるってことですか?読んでみたい
505 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/07/12(土) 22:28:01.96 ID:+92uJ2wz0

506 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/07/12(土) 22:40:57.23 ID:FBpGcYcyO
乙です

507 :◆TRhdaykzHI 2014/07/13(日) 23:43:29.90 ID:+xuj9T1xo

* * *

少年「……」ボー

魔王「はい」

少年「……?」

魔王「そこで買ってきた。疲れた顔をしているぞ、飲むといい」

少年「あんた、金……」

魔王「服を売ったと言っただろう。価値が分からなかったが、結構いい値段で売れたみたいだな。
   紙幣とやらをたくさん頂いた」

魔王「……これを全部君に受け取ってほしいんだ」

少年「え……? うわっ、こんな…… なんでだよ?」

魔王「世話になったからな。これで……君の生活はどうにかならないのか?
    君のような子どもが一人きりで働きながら暮らすというのは……その……」

魔王「この国のことは知らないが、あまりいいことではないと思う」

少年「僕みたいなのはたくさんいるよ。僕だけが特別悲惨な状況にいるわけじゃない」

少年「……。この金、いらないよ。あんた、誰か探してるって言ってただろ。そのために使えよ」

少年「食っていけるだけの金は……ある。仕事クビになりさえしなければ……」

少年「そんなに豪華じゃないけど毎食食べれるし。
   一人分なら、十分稼げるんだ……」

少年「……あの男あんたの知り合いだったの?」

魔王「ああ、そうだ。君があのとき彼を呼んでくれたんだな。ありがとう」

少年「別に……僕はなんもしてない」

少年「でもまさか、あの女の人が本当に殺人犯だったなんてな。
   やっぱり無償の優しさは警戒するべきだ」

少年「あんたも何か企んでたりしないだろうな」

魔王「……私は何も」

少年「……あの人、感情が分からないって言ってたけど、それ本当なのかな」

魔王「……」

508 :◆TRhdaykzHI 2014/07/13(日) 23:45:24.22 ID:+xuj9T1xo

少年「感情がないってどんな気分なんだろう。悲しいのも苦しいのも分からなくなるなら……」

少年「ちょっとだけ、羨ましいって思うよ……」

魔王「でも、嬉しいのも楽しいのも分からなくなってしまうのだぞ。
   現に彼女も、それが原因で殺人行為を繰り返して……」

少年「これ、ごちそうさま。そろそろ僕行くよ。じゃ」

魔王「どこに?」

少年「工場」

魔王「警察から帰してもらったばかりだぞ。それにまだ君は顔色が悪い。今日は休んだらどうだ」

少年「休めるわけないだろ……」

魔王「……」

魔王「少年。ここを離れて、孤児院かどこかに保護してもらうことはできないのか?」

魔王「この国に王はなく、大統領という者や国会議員という者らが政治を行っていると聞いたが。
   教育制度や社会福祉は一体どうなっている?」

魔王「何故君のような子どもがそんな生活を続けることを強いられなくてはならないのだ。
   この国も街も、経済的に困窮しているわけではないのだろう」

少年「教育制度も福祉も、貧困区にはない言葉だよ。そういうのは対価を払った連中に振る舞われる」

魔王「それでは社会福祉にならない。上の者が弱き者を助けることを拒んでいるのか?そんなのは……」

少年「ほかの街はどうだか知らないけどさ……少なくともこの街は、平等なんだよ」

魔王「平等……? 馬鹿な。正反対だろう」

少年「身分や地位、年齢、人種に関わらず、金を払えば払うだけ恩恵が得られる。人はみな金の下に平等なんだ」

魔王「……」

少年「自由とは金で、金は労働の対価だ。だから貧乏は怠慢の代償なんだってよ」

少年「貧乏な奴は憐れな救済すべき人種じゃない。蔑まれるだけの罪人なんだ」

少年「ちゃんと働いてない奴が悪いんだからな……」

509 :◆TRhdaykzHI 2014/07/13(日) 23:49:46.51 ID:+xuj9T1xo

少年「でもさ……そんなの言われたって、スタートラインが違っていたらどうにもならないよ」

少年「なんていうのもいいわけになっちゃうんだろうけどさ」

魔王「……私はこの世界に来たばかりだ。そのような制度や考えが形成されるまでの過程も歴史も知らないし
   もしかしたらそれは、なるべくしてなった結果なのかもしれない」

魔王「でもそんなのが平等だと言うのなら、私はその言葉を否定する」

魔王「君は怠慢などではない。十分頑張っている。
   それは言い訳ではなく、声を張って主張すべきことだ」

少年「……はは。僕みたいな子どもが何言ったって、結局なんも変わんないって」

少年「それに、今、金がほしいわけじゃないんだ。別にもう金なんてどうでもいいんだよ」

少年「今もらってもしょうがないんだ……」

少年「……じゃあ、本当にそろそろ行かなくちゃ」

* * *

少年(……やっぱクビかな……)

少年「……それならそれで、いっか。惰性で続けてただけなんだ」

工場長「! お前……!!」

工場長「どういうつもりだ?3日も無断欠勤しやがって」

少年「すみませんでした……」

少年「でも、事件に巻き込まれてて……警察が……」

工場長「つまんねー嘘つくんじゃねえ!!クソガキめ!!」

工場長「テメーはクビだ、クビ!!役立たずの上、雇ってやった恩を忘れるような奴はいらん!」

少年「……」

少年「……」

工場長「まあテメーが土下座して、どうしてもクビが嫌だって言うなら、
     また雇ってやってもいい。ただ給料は半分になるがな」

少年「……」

少年「じゃあ、クビで」スタスタ

工場長「……ああ!? ふざけんな、てめーみたいなガキ雇うところなんてここしかねえんだぞ!!」

少年「いいです」

工場長「おいっ 本気か!? じゃあ給料はマイナス25%にしてやる!これでいいだろうが!!」

少年「もういいです」

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510 :◆TRhdaykzHI 2014/07/13(日) 23:50:15.01 ID:+xuj9T1xo

スタスタ

魔王「少年……大丈夫か?」

少年「……」

少年「……もういいんだ」

少年「ま、こうなるだろうと思ってたし」

少年「これで食いぶちもなくなった。この間、助けてくれてありがとな」

少年「……なんで僕みたいなの助けたのか分かんないけど……」

少年「……じゃ。もう構わないで」

魔王「……」

―――――――――――――――――――
――――――――――――――――
――――――――――

ゴゴゴ……ゴトンゴトン バキャベキ
  ガガガガガ……ガガガガ

少年「……は」

少年「……あ」

少年「ああ……」

少年「工事が……はじまってる……」タッ

少年「……………………」

少年「……家が消える……」

少年「……僕たちの家が……」

少年「…………ちょうど、よかったのかもしれないな」

少年「これで僕も、いっしょにいける」

511 :◆TRhdaykzHI 2014/07/13(日) 23:52:04.64 ID:+xuj9T1xo

黒服1「あー?子どもが家の前に?」

黒服2「ほら、最後まで立ち退かなかったあそこです」

黒服1「ああ。どっか行ったって聞いてたんだけどな」

黒服2「どうします?今日あそこの先まで進めないと予定が狂います」

黒服1「いい、いい。社長から言われてる。ガキが来たら、事故にしとけってさ」

黒服3「まじっすか。うわあ……俺がやるんすか」

黒服2「お前がショベルカー担当だろうが。頼むわ」

黒服3「グロイの苦手なんすけど。分かりました」

ガガガガガ……

黒服3「はあ……悪く思うなよ……命令だ」

512 :◆TRhdaykzHI 2014/07/13(日) 23:53:02.33 ID:+xuj9T1xo

少年(家が残ってれば、妹もお母さんもお父さんも……いつか帰ってくるんじゃないかって思ってたんだ……)

少年(馬鹿だなあ……)

少年(ずっと、この家で妹と過ごしたな)

少年(……お前が死んだあの日……僕も……いなくなってればよかった)

少年「死ぬ勇気が……なかっただけ……」

少年「惰性で続けていた仕事もなくなった。生きる術を失った」

少年「生きる意味は……1年前にとっくになくしてた……」

少年「もう、いいよな……」

魔王「――少年!なにしてる、ここは危ないぞ。逃げないと」

少年「あんたまだいたのかよ……ほっとけっつったろ……。もう、いいんだ」

少年「僕はこの家と一緒に死ぬ。やっと決心がついた」

魔王「何を言って……。……止まれっ!ここに子どもがいる!それ以上動くな!」

ガガガガガガ……

魔王「……死んではだめだ!少年、頼む。ここから離れよう」

少年「この世界でもう生きる意味がない。僕はずっと……妹のために頑張ってきたんだ……。
   全部あいつのためだった……」

少年「でも、もういない」

少年「この先、一人きりで生きて、何になる?僕みたいなのが生きてたって、いいことなんかひとつもない」

少年「金もない。家族もいない。目的もない。何にも僕にはない」

少年「あいつはもう死んだんだ。僕も……あいつのところにいきたいんだ。
    もう…………つかれた…………」

少年「らくになりたい……」

魔王「……っ……でも……死んじゃだめなんだっ……!!」

魔王「大切な人が……死んで……生きる、のが、どんなに辛くても……」

魔王「……それでも、死んではいけない……」

魔王「い……生きていれば……必ず……きっと……いい、こと、が」

513 :◆TRhdaykzHI 2014/07/13(日) 23:55:22.17 ID:+xuj9T1xo

ガガガガガガ

少年「……本当にそう思ってる?」

魔王「……!」

少年「自分が大切な人を亡くしたとき、本当にそう言える?」

魔王「……、……」

少年「ここにいればあんたまで巻き添えくらう……どっか行って」

少年「……さよなら」

魔王「…………っ」ギュッ

少年「……何だよ……」

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514 :◆TRhdaykzHI 2014/07/13(日) 23:56:56.31 ID:+xuj9T1xo

魔王「魔法を使ってアレを止めることもできない」

魔王「言葉で君を説得することも、救ってやることもできない」

ガガガガガガ……メシャッ

魔王「私はなんて無力なんだろう……」

魔王「……ごめん……」

魔王「君はずっと頑張ってきたのだな」

魔王「私は君のこと、やっぱり知っていた。君が妹のためにずっと頑張ってきたことを知っている」

魔王「疲れてしまったのだな……うん……。うん。そうだな」

魔王「でも、君が私たちをつくってくれたんだ……」

少年「……? はぁ……?」

魔王「君は一人じゃない。ずっと私たちは君たちのそばにいたんだ」

魔王「私も、彼も――君に会いに、世界を越えてきたんだ」

ミシッ バキバキ ベキンッ

515 :◆TRhdaykzHI 2014/07/14(月) 00:18:58.88 ID:sWebTHduo

黒服3「うわぁ~ 女と子どもごと家を潰すところなんて見たくねえよ。どんなグロ映像よ」

黒服3「社長もえげつないこと考えるぜ」

バリンッ!!

黒服3「……あ?」

黒服3「…………手?」

黒服3「……なにこれ……うおっ!?!?」グンッ

ガガガ……ガ……ガ

少年「……え……止まった?」

魔王「……」

黒服3「……おわぁぁ!? な、何だ!?一体……」 ズルッ

黒服3「て、てめえ!何しやがる!!離せ!」

勇者「……」バキッ

黒服3「ブッ!?」

勇者「見えてたよな?」バキッ

勇者「子どもと女があそこにいるの分かってたよな?」ガッ

黒服3「ちょ……やめ……」

勇者「なんで止めなかった?」ドスッ

黒服3「……ちが……俺は……めいれいされて……」

勇者「責任者どいつだ」

516 :◆TRhdaykzHI 2014/07/14(月) 00:20:44.38 ID:sWebTHduo

勇者「お前か」

黒服1「オイオイ、工事の邪魔されると困るんだが。あんまなめた真似すると」バキボキ

黒服1「こうなるぜ……っと」バキッ

勇者「……」

勇者「どうなるって?」

黒服1「……」スッ

勇者「ケンジュウとやら出そうとしても無駄だ。今から両腕折る」

黒服1「は」

アギャーーー

黒服2「! 何事ですか? そこの男動くな!」チャ

黒服4「てめえ、俺たちに盾つくとどうなるか分かってんだろうな?
    お前みたいな貧乏人なんていつでも消せる。社会的にも、文字通りにもな」

勇者「撃ってみろ。こいつに当たってもいいんならな」

勇者「なるほどつまりお前らはあれか。
   ここに遊園地とかいうものを建てるためなら人を殺してもいいと」

勇者「貧乏人なら殺してもいいと」

勇者「貧乏人の家なら許可なく壊してしまってもいいって思ってんだな」バキッ

黒服1「ぐっ!! や、やめろ……社長がそう言ったんだ……俺たちが決めたわけじゃねえ」

勇者「あ?お前の服についてるその緑のマーク……そうか。
    あのシスターが俺に潰すよう頼んだ会社ってのはお前らのとこか」

勇者「オイ全員、この男がこれ以上痛い目に合わされたくなかったら武器を捨てて両手を後ろに組め」

勇者「で、歯ァ食いしばれ」

勇者「もう一度ここに来て同じことをしてみろ。次はどうなるか分からないぞ」

黒服2「わがっだ……」

勇者「あとお前。こっち来い。さっきのアレ操縦して、ここにあるキカイ全部壊せ」

黒服3「エ゛ッ!!ででででもこれ全部でいくらすると……」

勇者「しらねーーーよ。もう使わないんだから関係ないだろ。さっさとしろ」

517 :◆TRhdaykzHI 2014/07/14(月) 00:21:37.27 ID:sWebTHduo

勇者「無事か? ……!?子どもは!?どうした、怪我したのか?」

魔王「……いや、気を失っているだけみたいだ」

勇者「なんだ……。とりあえず寝かせるか」

勇者「少年の家勝手に上がらせてもらったけど、仕方ないよな……」

魔王「彼の家が壊れずに済んで本当によかった」

魔王「彼にとってここはとても大事なものなのだ。どうもありがとう。勇者くん」ペコ

勇者「えっ、そ、そんな改まらなくていいって。プリズンブレイクが間に合ってよかった」

魔王「でも私は何もできなかった。……勇者くん。この子が創世主だ」

勇者「ああ。みたいだな。なんだ、魔王も知っていたのか」

魔王「さっき思い出した。私たちは、彼に会いにきたのだ」

勇者「……そっか。そうだな」

518 :◆TRhdaykzHI 2014/07/14(月) 00:24:03.54 ID:sWebTHduo

翌日

少年「…………朝……。ハッ!!もうこんな時間だ、工場に行かないと!遅刻する……!」ガバ

少年「……じゃ、なかった。もうクビになったんだっけ」

勇者「よう、起きたか。邪魔してるぜ。おはよう」

魔王「おはよう少年」

少年「ファッ」

少年「な、なんだよお前ら……人ん家に勝手に! あんた誰だよ」

勇者「俺は勇者だ。よろしくな」

少年「ゆ、勇者? ……変なの増えた……最悪……」

少年「あ、あの殺人犯のときいた……あと、昨日ショベルカーを止めた奴……」

魔王「勇者くんが昨日助けてくれたのだぞ。
    パンとスープは食べられるか?私の服を売った金で買ったから遠慮せず」

少年「助けてくれたって……。…………余計なこと、しなくてよかったのに」

少年「もう、さ……どうしようもないんだって。どうせあいつらはまたここに来るよ……。
   ちょっと予定が狂っただけで、工事が中止されるなんてことはあり得ない」

少年「僕には仕事もない、金もない。家族もいない。行くところもない」

少年「生きたいとも……思わない……。もういいんだ」

魔王「……」

勇者「あのな」

勇者「俺たちは実はここの住人じゃない。だから、ずっとここにいることはできない。
    少年に仕事を紹介してやることもできないし、お前が大人になるまで代わりに稼いでやることもできない」

勇者「家族になってずっと守ってやることもできない。家を提供してやることもできない」

勇者「だけど一つだけできることがある」

少年「……?」

勇者「あの会社をぶっ潰して工事を止めてやる。お前と妹のこの家を、そのまま残す」

勇者「明後日、列車に乗って砂漠を越えよう。都市に行くぞ」

519 :◆TRhdaykzHI 2014/07/14(月) 00:30:18.72 ID:sWebTHduo

* * *

姫「列車強盗ですって?」

頭領「そうだ。中央区から都市に行く列車は一カ月に一度だけ」

頭領「乗るのは中央区の連中だけだ。切符が馬鹿高いからな。
    遠慮はいらねえ、なんかいいモンあったら奪い取れ」

わーーわーーー わーーーオカシラーーー

頭領「ただ、危害を加えるのはNGだ。警察は別だがな。あいつらは撃ってくるし別にいい」

姫「危害を加えないからと言って、国民から金品を奪うなんて……」

頭領「勘違いすんな、連中から奪うのはあくまでついでだ。本来の狙いはこれ」

魔女「なにこれ?……草?と花?水? 骨?」

頭領「都市から中央区の博物館に貸し出されてたものだ」

頭領「本物の生きてる植物に、海水一瓶と、恐竜の化石だ……。
   どれも値段のつけられないくらい希少なもんだ」

頭領「貧乏人にゃ見ることすら叶わない幻の宝だぜ。全部数日後には俺たちのもんだ。
    ま、植物だけはじっくり見たら返すがな。枯らしたら事だ」

強盗団「うっわ、本物の植物とか海水が見られるなんて、今からわくわくする!やべー!」

強盗団「恐竜の化石ってどんなのなんだろうな!」

魔女「植物に海水~~?そんなのどこにでもあるじゃん。本当に宝なの?」

頭領「ないから宝なんだよ。お前、異世界からやってきたのか?」

魔女「まあそうだけど」

頭領「とにかく列車が出る日まで各々準備しとけ。銃の点検を怠るなよ」

姫「えっ……本当にやるんですの?」
魔女「ええっ……本当にそれ盗むの?」

「「……」」

姫「……」プイ

魔女「……」プイ

頭領「お前ら仲直りしろよ……」

520 :◆TRhdaykzHI 2014/07/14(月) 00:31:49.22 ID:sWebTHduo

* * *

少年「……は、はあああ!?なに言ってんだよ?」

少年「会社潰すとか……無理に決まってるだろ!都市にだって行けるわけない!」

勇者「いや行くぞ。まあ、これは俺が別の奴から請け負った依頼でもあるし」

少年「……だから、余計なことするなよ。大体なんで初対面のあんたらがそこまでする?
   僕なんか……助けてくれなくていいよ」

勇者「悔しくないのか?あんな連中に大切な家を壊されて、命まで奪われそうになって」

少年「みんなにとって、僕の命には塵ほどの価値もないよ」

少年「……大体、会社を潰せたとしても、その先はどうなる?僕のゴミみたいな人生が続くのか?
   僕はもう諦めがついてちゃったんだ」

少年「こんなゴミみたいな世界で、ゴミみたいに思われてまで、必死に生きる気力がもう僕にはない」

少年「どうせ、ここから消えてなくなったって、誰も気には止めないよ……」

魔王「君をゴミみたいに思っているのは誰だ?
   塵ほどの価値もないと決めた『みんな』とは誰?」

少年「……みんなだよ」

魔王「少年。自分の価値は自分で決めろ。自分と、君の大事な人にのみ判断を委ねろ」

魔王「それ以外の有象無象が君に何を言っても、気にするな。所詮戯言だ!」

魔王「妹は君のことゴミだなんて思ってなかった。
   君の大事な人であるかは分からないが、私たちだってそんなことを思ってない」

魔王「君の人生は、本当にこれまでゴミのようだったのか……?」

魔王「……本当に? 本当に自分は消えてもいいと、思っているのか……?」

勇者「俺も魔王も、お前には消えてほしくない。だから、助けるよ」

少年「……あんたら本当に何なんだ?」

少年「会ったばかりなのになんでそこまでしてくれる?何が目当てなんだ? 金なら……分かってると思うが、ないよ」

勇者「金なんていらねーよ」

勇者「お前が俺たちの創世主だからだ。お前が俺たちをつくったんだろう」

少年「…………ふざけてんのか?」

魔王「ふざけてない。ノートに物語を書いたろう。私たちはその世界からやってきた」

少年「は……!?ノートって」

勇者「俺の名前は――。魔王の名前は、――。教会で見た異国の神話から名前をつけたんだろ?」

勇者「俺たちはお前が妹のためにつくった話の勇者と魔王だ」

521 :◆TRhdaykzHI 2014/07/14(月) 00:33:53.20 ID:sWebTHduo

少年「……その名前………………うそだろ……」

魔王「本当だ」

少年「……戸棚……開けるなって言ったのに……開けたんだな」

少年「僕が寝てる間に開けたんだな!!勝手に!!」

少年「……箱を壊して……ノートを見たんだなっ!!」

勇者「へっ? いや、違うけど。箱?」

少年「ここの戸棚に入ってる箱だよっ!!見たんだろ!!」

少年「……あれ!? な、ない。おいお前ら!箱をどこにやった!」

魔王「戸棚は開けていない。箱には触ってもいない」

少年「うそつけよ、じゃあ箱が勝手にどっか行くってのかよ!!」

少年「………………もう出て行けよ!!! 早く出て行け!!」グイグイ

少年「こんなガキ騙そうとして何になるってんだよ!!ふざけやがって!」

魔王「少年、違う、開けてなっ」

バタンッ!!!

勇者「……締め出されたな」

魔王「……ああ」

勇者「まあ急にあんなこと言われても普通信じられないだろうな。
   証明できるもの持ってないし、この世界にないっていう魔法は今使えないし」

魔王「大丈夫だ、きっといつか信じてくれるはずだ。彼は聡い子どもだから」

魔王「ここでしばらく待とう」ストン

勇者「……」

魔王「……? 何だ」

勇者「いや……そういえば、その格好どうした」

魔王「格好……ハッ」

魔王「違うぞ勇者くん。これは違うのだ、落ち着け。冷静になるのだ」

魔王「私は痴女ではないっ、痴女じゃないぞ、落ち着くんだ落ち着け」

勇者「落ち着くのはお前だ」

魔王「仕方のなかったことなんだ。だから暫しの間、お目汚し勘弁願い奉る」

勇者「落ち着け、深呼吸だ魔王。口調が変だ」

522 :◆TRhdaykzHI 2014/07/14(月) 00:47:15.46 ID:sWebTHduo

魔王「……ここの建物の端の方は抉れてしまったな。魔法が使えたら、あんなものすぐ防げたものを」

魔王「早く魔力を取り戻したい。魔族に戻りたい」

魔王「私はやはり人間ではだめだ。魔法がなければ何もできない。あんな子ども一人助けてやれない」

勇者「……何もできなくなんてないだろ」

勇者「あの殺人犯から少年を守ったのはお前だ。
   それに、さっきの言葉だって、あいつの心に届いてたよ。俺じゃああいうことは言えなかった」

魔王「でも、やっぱりいつも君に助けてもらってる」

魔王「殺人犯に殺されかけたときも、この家が潰されそうになったときも……
   本当は、少しだけ、勇者くんが助けに来てくれるのではないかと思ってた」

魔王「……情けないな。これではだめだ。だめなんだ」

勇者「なっ、なんでだめなんだよ。助けてやるよ。言っただろ、一人でなんとかしようとしないで頼れって」

勇者「俺にできないことが魔王にできて、魔王にできないことが俺にできる、それでいいじゃないか」

勇者「むしろ魔法が使えると、魔王にしかできないことが多すぎて、俺はちょっと心配だ。
   いつかまた大勢の人たちのために魔法を使い続けて……あんなことになるんじゃないかって」
    
勇者「だから……人のままで……いればいいんじゃないか」

勇者「お前が人間のまま……魔法が使えないままだったとしても…………」

魔王「ん?」

勇者「そうしたら、俺がお前のこと……ま、守るよ」

魔王「……」

魔王「有り難いが、そういう言葉は私にかけるべきものではないだろう」

魔王「心配をかけてすまないな。私は大丈夫だ。
   だから、そういうのはあの子に言ってあげてくれ」

勇者「……? あの子って誰だよ」

魔王「君の大事な人だ。照れずともよい。忍のことが好きなのだろう」

勇者「……え……っ?」

勇者「ああっ!そうか、ごたごたしてて何も言えてなかった!違うぞ魔王!
   俺とあいつはそういうんじゃないんだ、ほんとに!!」

勇者「王都でお前の研究室のときは、あれはあいつが邪魔したから転移魔法少し失敗して
   たまたまあんな風になっただけで……」

勇者「俺は忍のことが好きなんじゃない。あいつも、そうだ。じゃれてきてるだけっていうか。
   ……大体、あいつが俺に絡んでくるのも、魔王の前でだけだったし」

523 :◆TRhdaykzHI 2014/07/14(月) 00:49:43.35 ID:sWebTHduo

魔王「君たちは恋人同士では……?婚約も済ませていたろう」

勇者「済ませてねーよ!!恋人じゃあない!!好きでもない!」

魔王「ええっ そうだったのか? 勝手な勘違いをしてしまった」

魔王「……でも、いつか現れる。君にも大事な人ができる。人間の女の子が。 
   そのときまでその言葉は取っておくのだ」

勇者「……」

勇者「……いやっ今使うのであってる!!」

勇者「魔王聞いてくれ。俺はロリコンだったのかもしれない!変態クズ野郎なのかもしれない!」

魔王「突然のカミングアウトに驚きを隠せないわけだが」

勇者「一緒にいるうちに……お前も俺も成長して子どもじゃなくなって……」

勇者「お……俺は魔王のこと前と同じように見れなくなってた」

勇者「お前が人間でも、魔族でも、俺は……!」

魔王「……?」

524 :◆TRhdaykzHI 2014/07/14(月) 00:51:27.45 ID:sWebTHduo

勇者「だから、その……つまり」

勇者「魔王の……こ、ことが……だな」

勇者「お前のことが……っ」

魔王「……」

魔王「っくしゅ」

勇者「…………」

魔王「ん……、っくしゅ! ごめん……何だ?続けてくれ」

魔王「ゲホッ ゴホゴホッ う、変な風に息が……ケホッ」

勇者「…………だ、大丈

バターーーン!!

少年「……人んちの前でぎゃあぎゃあうるっせーんだよ」

少年「あといま咳したのどっちだよっっ!!!!!!!!!!!!!」

勇者「まっ魔王です」

少年「早く中入れよ!!!!夜に体冷やしたら風邪ひいちゃうかもしれないだろ!!!!
   マスクしろマスク!!早く寝て!!熱は?水飲む?」

魔王「いや、ちょっとむせただけだ、気にするな」

少年「馬鹿、咳なめんな!!!早く寝ろってば!!」

勇者「ちょっと!俺も入れろ!!おい!!」ガチャガチャ

525 :◆TRhdaykzHI 2014/07/14(月) 00:54:26.05 ID:sWebTHduo

少年「……本当にあんたらが箱どっかにやったんじゃないんだな」

魔王「違うぞ。なくなってしまったのか?一応外も探してこようか?」

少年「や……いいよ。別に……もういらなかったから。捨てられなかっただけ」

勇者「何が入ってたんだ?大事なものだったんじゃないのか」

少年「大事だったものだけど、もういい。なくなったんならそれでいい……」

少年「じゃ、なんであんたら……あの名前知ってたんだよ。
   あれは……妹が、神話から選んだ名前だったんだぞ」

少年「勇者とか魔王とかで呼び合ってるけど……何?」

勇者「でも俺ほんとに勇者だし」

魔王「私も魔王だ」

勇者「お前が俺たちをつくったんだろ」

少年「あーーーもーーー話が通じない奴らだな!
   ふざけてんだろ?そうじゃなきゃマジで頭沸いてんだろ」

少年「くそ、めでたい頭してていいよな。……分かった。もういいや」

少年「どうせ僕なんて仕事クビになったし、多分そのうち死ぬ。
   だから……死ぬ前にあんたらの遊びにちょっとだけ付き合ってやるよ……」

少年「……都市へ」

少年「どうせ死ぬなら、あいつらにひと泡ふかせてやるっ」

勇者「ああ、行こうぜ!」

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