後味の悪い話

【後味の悪い話】ミステリという勿れ「家の壁に火の象形文字」

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797: ↓1/2:21/01/09(土) 19:37:25 ID:oxs
「ミステリという勿れ」から   田村由美

最近火事が多発していた。
火事にあった家はどこも小さな子供がいて、両親は死ぬが子供は無傷で助かる。
家の壁に、火の象形文字のようなものが書いてある。
数年前、同じような放火が何件も行われた。
犯人の少年Aは、そろそろ少年院から出てきているはずだ。
警察はAを探した。

火事を起こしているのはAと、Aの協力者のBだった。
Aは子供のころ毒親に虐待されていたが、火事で両親が死んで、解放された。
だから同じように両親から虐待されている子供を救うために、火事を起こしている。
まず虐待されている子供を見つけ、
「毒親を殺してあげるよ。実行してほしかったら、家の壁に火の象形文字を書いて」
子供が火の象形文字を書いたら、深夜に子供の手引きで家に入り、両親を
縛り上げて逃げられないようにしてから、火を放った。
Bも数年前、Aに毒親から解放してもらった。だからAに心酔している。

主人公は男子大学生。
女友達から遠回しに火事の調査を頼まれて、火事現場を回っている。
Bは主人公に気づいて、
「あいつ、火事のことを嗅ぎまわってる。次の火事で一緒に焼こう」
と決めた。

798: ↓2/2:21/01/09(土) 19:37:41 ID:oxs
Bは主人公をだまして捕まえようとするが、逆に取り押さえられる。
主人公はBから火事のこと、Aのことを聞き出すと、自分をAのところに連れて行くようにと言った。
Bはしぶしぶ主人公をAのマンションに連れて行った。

Aは穏やかに、
「僕とBは虐待されている子供を助けるボランティアをしてるんだよ」
などと、火事を起こした理由を丁寧に説明する。
Bは「その通りだ、Aさんは正しい」と盲目的にAを支持した。
主人公はBに
「ここには僕とあなたしかいません。Aさんの台詞は、あなたが言っています。」
愕然とするB。
次の瞬間、Aの姿が消えた。

Aは少年院から出た後、Bと一緒に自分が虐待から助けた人(以下M)に会いに行った。
Mは養護施設や親せきの家をたらいまわしにされ、今は遠縁の老人の介護を押し付けられていた。
「親がいないって、すごいハンデなんだよ。めちゃくちゃ苦労した。
養護施設で会ったあんたが『助けた』やつらも、同じことを言っていた」
冷ややかに言うMに、Aは
「それは僕も同じだ」
「全然違う。あんた、親を殺してないじゃないか。俺は親殺しだ。後悔してる。
でも、それならどうすればよかったんだろうな。黙って殴られてればよかったのか」
M以外にも何人か会ったが、幸福になっている人は少なかった。
それ以来、Aは考え込むようになった。
ある時、ちょっとして行き違いから、BはAが自分を切り捨てようとしていると誤解して、ナイフで刺し殺す。
死体は予備の冷蔵庫に隠した。
そしてAはまだ生きてると思い込んで、自分でAを演じるようになった。

主人公は警察を呼んだ。
女友達が部屋に入ってきて、Aの死体に
「私はあなたに救われて、幸せになれた。ありがとう」
と静かに語りかけた。
女友達はすぐに出ていき、主人公は涙ながらに幼いころの虐待経験を語るBを
慰めながら、警察を待った。

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