後味の悪い話

【後味の悪い話】レイ・ブラッドベリ『雷のとどろくような音』

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640: 本当にあった怖い名無し:2007/12/04(火) 14:35:11 ID:TQTpfz/x0
流れを読まずに投下

レイ・ブラッドベリ『雷のとどろくような声』(1/3)

タイムトラベルが実用化された近未来
「太古の世界を訪れて恐竜を狩るツアー」が実現している

歴史を変えるわけにはいかないので
事故などで絶命する予定の恐竜をターゲットに選び
絶命予定時刻の直前に行ってハンティングする
獲物は当然持ち帰れない(それを喰う予定の生物に影響するから)
記念写真を撮るだけ 使った弾丸も回収する
空中に浮いた状態でセットされている足場から
踏み出すことも許されていない

全て あるべき歴史と現在の世界を護るための措置
例えば現地でネズミのような生物をうっかり殺したとする
それがやがて哺乳類となり 人間へとつながってゆく系譜に
身を置く個体だった場合 その道筋の人間は全て消滅して
しまうことになる
ナポレオンやアインシュタイン コロンブスやキリストが
存在しなくなってしまう可能性すらある

何がどう影響するかわからないため
このような厳しい規制が掛けられている

641: 本当にあった怖い名無し:2007/12/04(火) 14:36:15 ID:TQTpfz/x0
(2/3)
あるハンティング好きの金持ちがこのツアーに参加する
おりしも大統領選の翌日
交戦的なタカ派候補が落選し 穏健路線の候補が当選したことで皆安心してる
「タカ派候補が当選していたら世界がとんでもないことになってた
あんな危険な男 落選してよかった」と 受付の男は言う

そして恐竜時代へ
しかし 金持ちはターゲットのティラノサウルスの凶暴な姿を目にして
その咆哮を耳にした途端に怖気づいて戦意喪失
獲物は他のツアー客 及びツアコンの手で仕留められる

そのハンティングに恐怖し 錯乱した金持ちは
足場から踏み出し 太古の大地を土足で踏みにじって逃げる

ツアコンは激怒する
「そのおろかな行為のせいでどんな影響が生じるか分からない
少なくとも会社は莫大な違約金を払わされる可能性がある」と
金持ちは弁解する
「ほんのちょっと足を踏み出しただけじゃないか 大丈夫だよ」と

一行は現代に戻って来る

642: 本当にあった怖い名無し:2007/12/04(火) 14:38:15 ID:TQTpfz/x0
(3/3)
違和感がある 何かが決定的に違う
空気が 雰囲気が 案内板の文字が違う
ツアコンは恐る恐る受付の男に聞く
「大統領選は誰が勝ったんだっけ?」と
受付の男はにこやかに答える
「タカ派候補が勝ちましたよ 当たり前じゃないですか
あんな弱虫野郎じゃない ガッツのある鉄人が勝ったんです」と

呆然とする一同
床に崩れ落ちた金持ちは自分の靴底の泥を指でほじくっていたが・・・
やがてガタガタと震え出す
「こんなはずはない こんな小さなものが原因のはずがない」と呟きながら

泥の中に埋まっていたのは キラキラ輝く一匹の小さな蝶
その蝶が失われたことで その蝶につながる蝶が全て滅んだ
その中には 偉大な詩人にインスピレーションを与えた個体がいたかもしれない
この小さな蝶から少しずつ狂いが大きくなって行って・・・

金持ちは蝶を掌に乗せ 震えながらツアーの面々に懇願する
「何とかならないか? 何とかこれを元に戻せないか?」と
誰も 何も答えない
ツアコンが進み出て 銃の撃鉄を起こし 金持ちの頭に突きつける

雷のとどろくような音が響き渡る

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