「BLACK ROOM」(2001年)
世にも奇妙な物語、木村拓哉主演の神回。圧倒的なシュールさでボケ倒すというコメディを、おそらく日本で初めてメジャーでやった記念碑的傑作。当時は新しすぎて未知の爆笑を体験した。樹木さん志賀さんのボケ夫婦も最高。今観ても衝撃的な伝説の傑作
(主演/木村拓哉、脚本・演出/石井克人)
あらすじ
南極AM11:12 日本19:12
ナオキ(木村拓哉)は3年ぶりに留学先のアメリカから家に帰ってきた。
そしたら、様子がおかしい。家がない?まっくら?
宇宙船のハッチのようなドアを開けて下からはい上がってくる
ナオキの目の前に確かに両親はいた。食卓で会話する3人。
沈黙のあと
ナオキ「なんなのよ、ここ。」
母「お父さん仕事やめたのよ。」
ナ「それ手紙もらったから知ってるよ。」
母「家も少し改築したのよ。」
ナ「少しじゃねぇじゃん。」
父「ワタクシ、予想以上に退職金が少なくて・・。」
事情が飲み込めないナオキは、
駅前からここら辺にくると真っ暗になってて、
家も真っ暗でどっか迷い込んじゃったって思ったら、
こうやって二人いるし、どうなってんのって説明を求める。
ナ「どうなってんの、オレんちは。」
母「おれんちじゃなくて名義上はお父さんと私の家なの。」
ナ「わかってるよ。」
父「ワタクシ、予想以上に退職金が・・」
ナ「聞いたよ、それ。なんでそう退職金がらみの話になるとワタクシって言うの。」
母「いいじゃない、そういう人なんだから。」
ナ「そういう人なの?」
母「それより、大学の方はどうなの?」
ナ「『それより、大学の方はどうなの』じゃなくてさぁ
どうなっちゃってるの、この家は。」
父「ワタクシ、予想・・」
ナ「聞いたよ、それ。もうしつこいなぁ。何度も何度も、ボケたんじゃないの。」
ハッとして息をのむ両親。
ナ「え?」
父「驚いた?」
ナ「何なの?」
母「何が?」
ナ「何がじゃなくて。何、それ。
ぼけたの知られてドキッとする夫婦の芝居、何でするの。」
母「喜ぶと思って。」
ナ「は?オレ今までにそういうことされて喜んだことあったっけ?」
母「ないけど。」
ナ「ないよね。じゃあそういうことしないでよ。何なの二人とも。怖えぇよ、マジで。」
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バン!と立ちあがる両親。ゆーっくり椅子が倒れ、ペンギンの手を一瞬する両親。
母「驚いた?」
ナ「驚くよ!」
母「☆◆×÷▲#」
ナ「何?」
母「おどろくよを逆回しっぽくしゃべると『☆◆×÷▲#』になるのよ。」
ナオキ、無言・・・。ゆっくりすわった両親、またバッと立ち上がる。
ナ「や、もうやめてよ。ねえ。」
母「驚いた?」
ナ「や、もう、普通にして。普通に。」
いきなり、駅前の云々と世間話を始める両親。
ナ「ねぇ、ちょっと、シカトすんなよ、シカト。 普通にするのはいいんだけどさ、なんで無視すんの。」
母「それよりアメリカの大学の方はどうなの。」
ナ「今春休み。」
父「Summer Vacation」
ナ「英語使わなくていいよ、しかも間違ってるじゃんかよ。」
母「連絡してくれればよかったのに。」
父「急に帰ってきたりして。」
ナ「ビックリさせようと思ってさ。」
母「びっくりしたわー。」
父「びっくりした。」
ナ「てゆうか、あんたら顔が全然びっくりしてねぇじゃねぇかよ。」
父「親に向かってその口のききかたはなんなんだ!」
母「謝りなさいよ、ナオキ」
ナ「ごめん・・・。ってゆうか、どうしちゃったのこの家は。オレの部屋はどこ?」
母「そのことについてはゆっくり話したいのよ。」
ナ「なんで。」
父「アメリカ人のガールフレンドとかできたか?」
ナ「何なの。」
母「アメリカ人のガールフレンドはできたの?」
ナ「何で」
父「言いづらいか?」
ナ「いや。」
母「アメーリカ人のガールフレンドはできたの?!!」(強調)
ナ「まぁ。」
母「あぁ。」
父「美人か?」
ナ「・・・・・」
両親「はぁーー。」
ナ「ため息つくなよ。別にいいよ、今すぐ結婚するワケじゃないんだから。」
母「そうよね、結婚するワケじゃないんだからね。」
父「ブスでもあきらめがつく。」
ナ「ブスって言うなよ。」
父「でもブスなんだろ?」
ナ「いや。」
母「美人なの?」
父「男?」
ナ「男なわけねぇだろ!」
父「じゃぁ・・・ブスか。」
ナ「深刻な顔してブスブスって言うなよ。」
母「美人でもないわけでしょ。」
ナ「いや、ちょっと待ってよ。世の中にはさ、美人とブスと男しかいないわけ?」
父「じゃあ・・・・まんなかぐらいか?」
ナ「・・・・・性格はいいよ。」
両親「はぁ・・・・。」
ナ「がっかりすんなよ。」
母「写真とかないの?」
ナ「あるよ。」
母「じゃ、見せなさい!!」手がナオキの目の前に伸びてくる!
すごい効果音で!
ナ「いや、今度、こんど。」
まだまだブスか美人かの話をひっぱる両親。
ここら辺が真ん中でここが美人としてここがとしたらどの辺かって。
ナ「しつけぇよ!美人とかブスとかは個人的な好みの問題だろ!」
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コンピューターを打っているのは誰?
ちょっとづつ聞いていっていいかと、整理して聞こうとするナオキ。
「ここってなんなの?ここにくるまですっげぇ苦労したのよ。」
トンネルとか階段とか通ってやっと来れたんです。
ナ「ここって何なの?」
母「キッチンよ。」
ナ「なんでじゃぁこんなに暗いの?」
父「なあお茶でも飲もうか。」
母「そうねぇ。」
ナ「お茶はいいから、ねぇ、ねぇ、ちょっと、お袋!」
母はバタバタバタバタバタバタバタバタ・・・・・と闇の中に消えていった。
果てしなく続く足音。そして音を響かせて戻ってきた母は疲れ切っている。
ぜーぜー。
ナ「広いの?広いよね!ねぇ広いよね!」
母「そんなに広くないわよ。」
ナ「ハ、ハ。」
どれくらい広いのか確かめようと席を立った、ナオキの腕を掴む父。
父「ダメだ!」
母「工事中のところとかあるのよ。」
ナ「工事中?」
父「あぶないから、穴とかに落ちると。」
ナ「穴?穴って何?ねぇ。」
父「いいから!すわりなさい!」
母「座りなさい!ナオキ!」
すごいに剣幕に驚いて座ると、ブーーーーっとおならの音マネする父。
くくくくって笑う母。
ナ「それがやりたかったの?」
父「何?」
ナ「おならの音をブーってやりたいから、それでオレのこと座らせたの?」
父「いや。」
母「違うわよ。」
ナ「違うの?」
ナ「なんだそれ。ふざけやがって!」立ちあがるがまた父に手をつかまれる。
ナ「いて、イテテテ!」
父「座りなさい、ナオキ。」
母「落ち着いて話しましょう。」
父「落ち着いて話そう、ナオキ」
イテーと手をぐりぐりしながら仕方なく座るとまた、
ビーーーーーっと音が。クククククっと両親。
ナオキも愛想笑い「何がおかしいの?」
母「おならしたじゃない。」
ナ「おならしてないよ。」
父「まぁいいじゃないかぁ(誰か風)」
ナ「誰だよ。」
父「うるせぇ。」
ナ「うるせぇじゃねぇよ、この野郎!」
父怒ってテーブルを叩いて立ち上がる。
「父親に向かってこの野郎とはなーんだぁー!ナオキーー!」
母「あなたぁ。」
父「わかってる。ひとつ約束をして欲しい。ひとつ約束をしてほしいのよ。」
ナ「何、約束って。」
バン、バン、バンと効果音!いったい何?と思わせて、クククククっと笑い出す両親。
ナ「何なの。」
母「ナオキのおならを思い出して。」
ナ「オレのおならじゃねぇよ!」
父「わかったよナオキ」
母「ごめんなさい。」
ナオキため息。
父「ごめんんさいって言ってるじゃないか。なんだい。
甘えん坊みたいに、少しむくれたりして。」甘えん坊・・・・
ナ「何なの、その約束して欲しいことって。」
父「家のことについては聞かないで欲しい。
君はアメリカ留学中だから、日本では今は私とカズコとマサコの家だか ら。」
ナ「マサコって誰?」
プライベートなことだからと口ごもる両親。
ナ「プライベートって家族だろ!」
母「マサコはあなたの妹よ。」
ナ「妹いんの?オレ。」
父「言わなかったっけ?」
ナ「聞いてないよ。」
母「記憶力が弱いのね。」
ナ「『記憶力が弱いのね』じゃなくてさ。しかもサッと流すように言ったろ。オレマサコなんて初耳だよ、いつ生まれたの。何黙ってんの?」
母「恥ずかしいのよ。」
ナ「息子にはずかしがってどうすんだよ。何で手紙とか電話で教えてくんないの。」
父「びっくりさせようと思って。」
ナ「びっくりさせてどうすんだよ。」
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母「それより、あなた。」
ナ「ちょっ、話題変えんな!この野郎。」
父、またテーブルを叩いて立ち上がり「この野郎って言うな、この野郎。この野郎って言ったやつがこの野郎だぞ!」
母「あなた、ワケがわかないこといわないでよ。まあ妹のことについてはおいおい話すから」
ナ「いや、おいおいじゃなくて今話せよ、何歳とか、どこにいんの、そういう。」
父「今言うことはできないんだ。いろいろ理由があって。」
母「それも今度ナオキが日本に来たとき話すわ。」
ナ「なんだ、そりゃ。」
しくしく泣いてしまう両親。今は聞かないでくれって。
無言のナオキ。
ナ「でも、いつ生まれたの? オレがアメリカ行ってすぐだったら、2,3歳?」
父「10歳」
ナ「じゅっさい?!」
母「いちいち驚かないでよ、お父さんも余計なこと言わないで」
ナ「余計なことじゃないじゃん。オレの妹の話なんだから。」
棚の写真に目が行くナオキ。
身よりのない子供の施設にボランティアに行った写真?
ナ「養女?」
父「いや。」
その時両親を見つめるナオキの脳裏には幼い頃の様子が蘇る。
うちはナオキが生まれただけでも神様に感謝しなければ
と話している両親の姿をふすまの影から見ていた自分・・・・。
ナ「ん、わかった。マサコだっけ?今度聞かせてもらうわ。」
父「悪いな。」
ナ「いやいや、いろいろあるだろうし。」
母「ごめんね、ナオキ。」
ナ「いや、大人げなかったから、おれも。」
父「とりあえず今度帰ってくるまで
家のことについては聞いたり調べたりしないでくれ。」
母「そのかわりナオキがアメリカでどんなブスとつきあっても文句いわないから。」
ナ「マジで?」
父「マジで。」母「マジで」父「マジで。」母「マジで」父「マジで。」母「マジで」
ナ「でも、この部屋の広さは気になるよね。」
母「じゃぁ写真見せなさいよ。」
父「じゃぁ写真見せなさいよ。」
ナ「わかった。もう聞かないって約束すっから。」
ホッとする両親。
父「あ、母さん、ビールあったっけ?」
母「あるわよ。こないだお父さんが200本ぐらい衝動買いしたやつ。」
ナ「200本?!」
母の話だと、父は最近一日50本飲んでいる?
ナ「死ぬよ!」
母「だいじょぶよ普通の人じゃないから」
ナ「???」
父はビールを取りに出ていくと、家の中からバイクの音が!
いぶかしげなナオキ。
父「いやいやいや、お待ちどう・・・。」
ナ「・・・・・広いじゃん!!何でそんなに広いの?」
母「聞かないって約束でしょ。」
ナ「でもさ、おやじ、今バイク乗ってこれ行ったでしょ。ね」
父「聞かないって約束!」
ナ「確かにそう言ったけど。」
父「それじゃぁナオキの帰宅祝いで、と言っても、
もうかあさん飲んじゃってんのね。」
母「くわーーー!おかわり。」
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その時両親の奇妙な態度の原因に気づいたナオキ。
1日に50本のビールを飲む人が世間でなんて言われているか。「人間失格」。
今夜はそっとしておいて、あした病院に連れて行こう。
10歳の妹というのも作り話だろうが、
そう聞いたとき驚きの反面喜びの感情も浮かんでしまったことが
今となっては悔やまれる。
可憐な女の子が『おにいちゃん、マサコもアメリカに行きたいな』と言う姿を想像するナオキ。
万が一マサコが実在していたら、この二人にマサコを任せていいものだろうか?と思ったときその事件は起こった!
(ナレーションの声に変な宇宙人の声がかぶさって2重に聞こえてくる・・・。)
突然非常サイレンのようなものが鳴り響き、
テーブルからは無線のようなものが飛び出してくる。
父「え?南極にガストン出現?直ちに特別非常事態宣言出します!はい!」
ナ「ガストン?何?何?」
無線機がテーブルの中に収まって、その無線機が出てきた所をなでるナオキ。
母「湯ノ本カズコ、脈拍指数正常。」
父「湯ノ本カズオ、正常より5%上昇!」
母「戦闘状況可能指数とみなします!GO!」
母は突然イスごと、後ろにジェット噴射状態で下がって行き、
イスの周りにマシンが次々に現れる。
「こちら国際特務機関湯ノ本!南極及びその周辺の同士につぐ!・・・・・・」
混乱状態のナオキ。おふくろ!何!おやじ!
突然床からモニターが現れ、そこに映っている謎の生物。
ナ「何これ、ガストン?」
その時上から、何やら戦闘服を着た、不気味な人影がテーブルに降り立つ!
ナ「誰だお前?」
マサコ「私は国際特務機関湯ノ本、非常勤戦闘員、湯ノ本マサコよ!」
ナ「男じゃねぇかよ!」
マサコ「心は10歳の乙女!そしてあなたの妹!」
ナ「どう見たって男だろ。しかもどう見たってうちのオヤジより年上に見えんだろ。」
その時戦闘服に身を包んだ父が出てくる。
「何だ?」
マサコはナオキの頭を叩いて側転して行ってしまい、父は「でやー!」と叫んでマサコの後を追うように行ってしまう。
ナ「おやじ・・・おやじー!!ちょっ、おふくろ、どうなってんの?これ!」
母「国際特務機関湯ノ本、戦闘体制に移行します!」
ガシャンガシャンとマシンが続々と露わになってくる!
母「父さん、マサコ、用意はいい?」
父「もちろんさ!」
ナ「何がもちろんなの?」
マサコ「させるかよー!」
ナ「ね、これ誰!?」声が裏返ってる!
母「ロック解除!」
ナ「ロック?」その手は何だ?
母「湯ノ本カズオ戦闘機、発進!」
父「いきまーす!」
母「湯ノ本マサコ戦闘機、発進!」
マサコ「行きまぁぁぁぁーーすぅ!」
ガンダムのような戦闘機2機が轟音とともに発進していく!
「ひゃーぁぁぁ!!うわーーー!す、すげぇ・・・・・」
ナオキの表情が、驚きの中にふっと嬉しさを匂わせている。
そして母さんが、しゅるしゅるっと戻ってきて元のテーブルで平然とお茶を飲んでいる。
ナ「おふくろ、ちょっと、聞きたいんだけどさ。」
母「聞かない約束よ、ナオキ。」
(チャカチャカチャーン!とコンバットのような曲のバックミュージック)
ナ「うん」
母「時期がくれば、あなたも忙しくなるわよ。」
ナオキ、帽子を取り、胸の前に持ち、思わず敬礼のポーズ。
(終わり)