201: 本当にあった怖い名無し 2019/07/12(金) 11:42:20.67ID:PkTLYBYq0
森村誠一「お停まり地蔵」
彼は子供の頃から、疑り深く慎重な性格だった。
お菓子を貰えば「毒入りじゃないの?」
下校時雨に振られて、近所のおじさんが車で送ってくれようとしても「事故が怖いからいいです」
彼は数十回のお見合いを経てやっと結婚した。
お見合いでは毎回、挨拶もそこそこに家系に精神病や犯罪者はないかと詰問。あとは若い者同士で…となっても、喫茶店に入ればシュガーポットを念入りに点検し、青酸カリが入ってないとどうして言い切れるのか、と詰問。
第一子が生まれるなり、彼は言った。
「本当に俺の子か」「ちっとも似てないじゃないか」
寛大な妻も、さすがに実家に帰った。仲人の尽力で、離婚は阻止された。
パラコート事件が起き、模倣事件が起き、グリコ森永事件が起きた。
「そら見ろ、みんなが僕ほど用心深かったらなあ」
出世のかかったアメリカ出張が首尾よく終わり、現地の小さな空港で見送られて。
見送りの駐在員がうっかり、物にぶつかり落としてしまった。
「やっべ落ちちまった」
独り言を聞いた彼は挙動不審になり、急な体調不良でごまかした。
便を遅らせても日をずらしても「体調不良」が治らないので、会社は温情で臨時駐在員にしてくれた。
日米貿易摩擦のせいでアメリカ支社の閉鎖が決まり、帰国命令が下った。
飛行機は落ちるものだし船は沈むものだと、彼は帰国を拒んだ。
妻と上司が渡米して説得したが、無駄だった。彼はクビになり、妻は彼による悪意の放棄を申し立てて離婚した。
その小さな地方空港のあたりで東洋人浮浪者がうろつくようになり、どうも彼に似ているがまさかね…と在留邦人の間で噂になった。
その後、身元不明の東洋人浮浪者が行き倒れて死んだ。
憐れんだ在留邦人グループが、空港の敷地内に小さな地蔵尊を建立し、いつしか「お停まり地蔵」と呼ばれるようになった。
今では地蔵は苔むし、由来を知る人も少なくなった。終。